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学園編 17歳
83 西の国の王子に挨拶をしましょう
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冬の寒さが和らいできた頃、西の国の第二王子が留学に来る日が迫り学園中が浮足立っていた。なにせ第二王子の美貌と人当たりのよさはこちらの国まで届いており、かつ婚約者もいないとなれば玉の輿を狙う令嬢たちは色めきだっている。
そしてリズも鼻息を荒くする一人であり、サロンで一人はしゃいでいた。
「え、イベントにないの?」
リズが淹れてくれたお茶を飲んだエリーナは、意外そうに目をパチクリとさせた。てっきり今回もイベントだと思っていたからだ。そしてそこが、リズが興奮する理由でもある。
「ないんですよ! だからこれは、絶対隠しキャラですって!」
念願の隠しキャラ登場の可能性に、リズは先ほどからにやけが止まっていなかった。ゲームに出てこなかった人物でしかも王族。隠しキャラの条件に当てはまっていた。
「ふ~ん……よかったわね」
「噂だと超絶美形で性格もいいみたいですし、おいしさしかありませんよね!」
「そうね……」
乗り気ではないエリーナに、リズはもうと唇を尖らせる。
「もっと喜びましょうよ。絶対いいルートですよ」
「私にはもう十分よ……できれば関わりたくないわ」
「ヒロインなんですから無理です」
そのかすかな望みをリズは容赦なく斬り捨てる。
「でも、王子は学術院に留学されるのだから、こちらとはあまり接点がないし……」
「何を甘いこと言ってるんですか。きっとこちらの授業をお取りになることもありますし、貴族は茶会や夜会があるでしょう。しっかりファーストコンタクトをもぎ取ってくださいよ!」
おせっかいなおばちゃんのようなテンションであり、エリーナは「がんばるわ」と返すがすでに疲れを感じていた。学園生活も半分が過ぎた。つまりタイムリミットが迫っているのであり、恋心に辿り着けなければベロニカからの怖い仕置きが待っている。
エリーナは憂鬱な気分になり、はぁと思い溜息をつくのだった。
そして一週間が過ぎ、第二王子が入国したと知らせが入り、エリーナはクリスと共に王宮で行われる歓迎の夜会に招かれた。断りたかったエリーナだが、思いのほかクリスが乗り気で一緒に行こうと言ってきたのだ。ベロニカとジーク、ルドルフからも誘いが来たので、がっちりと囲い込まれてしまった。
エリーナはすみれ色のチュールが重なった大人っぽいドレスに身を包み、アメジストを胸元と耳に飾っている。クリスは紺のタキシードに、エリーナが誕生日にあげたブローチを胸元につけていた。
王宮には馬車がずらりと並び、今日の夜会の大きさを物語っている。大広間に入れば管弦楽の音色と人の多さに圧倒され、エリーナは無意識にクリスに身を寄せた。大広間は豪奢の一言に尽きる。壁は全面鏡張りで、天井で光るシャンデリアの灯りを反射させている。どこまでも空間が広がっているような錯覚がした。
「すごいわね」
「僕から離れないでね」
そして見知った人たちに挨拶をして回っていると、大きく威勢のいいファンファーレが鳴り響き西の王子のご登場となった。王とジークに続いて入って来た人物に、ご令嬢の歓声が上がる。エリーナもつい目を奪われてしまった。
それほどの圧倒的な美。彼が壇上に立つと、後光がさしているかのように輝いていた。
「彼は我が国と親交の深い西の国、アスタリア王国の第二王子、シルヴィオ・ディン・アスタリア殿だ。一年間我が国に留学されることになった」
王から紹介を受け、シルヴィオが簡単に挨拶をすれば令嬢たちはその弦楽器のような美しい声に「ほぅ」と感嘆の声を漏らす。
「これから、宜しくお願いします」
最後に微笑で締めくくれば、ご令嬢方の好感度を軒並み攫っていった。エリーナは遠目で完璧すぎる王子の容姿をじっと見る。柔らかなオレンジの髪はやや長めで、体の線は細く中性的な印象を受けた。数多の美形攻略キャラを見て目が肥えているエリーナも、文句のつけようがない反則的な美しさだ。
そして王子が壇上から降りれば、高位の貴族が我先にと挨拶に赴く。
「ねぇ、エリー。ああいうのが好みなの?」
あまりにも見つめていたからか、横から拗ねたような声が降ってきた。表情には少しからかいが混じっている。
「違うわ……ただ、あまりにも整いすぎてびっくりしただけよ」
あれが隠しキャラというなら納得だ。隠しただけのインパクトがある。
上位の貴族たちの挨拶が終わったのを見計らって、クリスはエリーナをエスコートしていく。エリーナは挨拶より別室にあるスイーツが気になるが、こればかりは仕方がない。あちらこちらで「シルヴィオ殿下かっこいい」「美しい」と声があがっており、会場はシルヴィオ殿下一色だ。
クリスのおかげでローゼンディアナ家は一目置かれており、人々は脇へと下がって二人の前が開けていく。その輪の中心で歓談していたシルヴィオがこちらに視線を留めて、わずかに目を見開いた。クリスは優美な笑みを浮かべ悠然とエリーナを連れて歩み寄る。
シルヴィオの傍で世話役を務めているルドルフが、こちらを指して紹介した。
「こちらはローゼンディアナ家のクリス殿と、エリーナ嬢です」
紹介を受けてエリーナはドレスをつまんで正式な礼を取る。シルヴィオはクリスの顔をじっと見てから、エリーナに視線を移すともう一度クリスを見てニコリと笑った。その美しい笑顔に周りの貴婦人たちがほぅと声を漏らす。
「君がローゼンディアナ伯か、話は聞いていたよ。すまない、この国でその髪色は珍しいからつい見てしまった」
そう話す王子の髪色は西の国に多い赤ではない。
「いえ、母がアスタリア王国出身でよく驚かれます」
「そうか……会えて嬉しいよ」
微笑んで握手をしたシルヴィオの右耳がキラリと光る。光につられてそれに目を留めると、大小の金の輪が二つ繋がったピアスだった。こちらの国で男性がピアスをつけることはほとんどないため、物珍しく映る。
「エリーナ嬢も、またの機会にゆっくりお話をしたい」
そう当たり障りのない言葉をかけられただけなのに、強く惹きつけられる。エリーナはハッと我に返って、つつましい笑みを浮かべておいた。
(できれば、これっきりにしたいですわ)
あの美貌は目と心臓に悪い。
そして長居は迷惑になるため御前を辞し、スイーツ会場に向かおうとしたがクリスにダンスホールの方へ引っ張っていかれる。これも貴族の務め、致し方ないと心地よく踊る。クリスは上機嫌で、楽しそうに踊っていた。
「クリス、いつもより機嫌がいいわね。第二王子に会えたのが嬉しかったの?」
そうエリーナが問いかければ、クリスは驚いたように目をわずかに開いた。
「ちょっとね。西の国の人を見たのは久しぶりだったから、嬉しくなったんだよ。縁のある国だからね」
西の国のお土産を見て懐かしそうにしていたから、思い入れがあるのだろう。
そしてきっちり三曲を一緒に踊り、その後ジークとルドルフと一曲ずつ踊りクタクタになったところで、ベロニカの側に駆け込んだ。ベロニカはジークと一曲踊った後は別室で優雅に壁の花になっており、おいしいスイーツに舌鼓を打っていたのだ。
「あら、シルヴィオ殿下はどうだった? 劇薬みたいな美しさでしょう」
「もういいですわ……」
「そう、でも残念ね。明日にでもバレンティア公爵家主催で茶会の招待状が届くわよ」
意地悪そうな笑みを浮かべているベロニカに対し、絶句するエリーナ。隠しキャライベント(仮)は始まったばかりだ。
そしてリズも鼻息を荒くする一人であり、サロンで一人はしゃいでいた。
「え、イベントにないの?」
リズが淹れてくれたお茶を飲んだエリーナは、意外そうに目をパチクリとさせた。てっきり今回もイベントだと思っていたからだ。そしてそこが、リズが興奮する理由でもある。
「ないんですよ! だからこれは、絶対隠しキャラですって!」
念願の隠しキャラ登場の可能性に、リズは先ほどからにやけが止まっていなかった。ゲームに出てこなかった人物でしかも王族。隠しキャラの条件に当てはまっていた。
「ふ~ん……よかったわね」
「噂だと超絶美形で性格もいいみたいですし、おいしさしかありませんよね!」
「そうね……」
乗り気ではないエリーナに、リズはもうと唇を尖らせる。
「もっと喜びましょうよ。絶対いいルートですよ」
「私にはもう十分よ……できれば関わりたくないわ」
「ヒロインなんですから無理です」
そのかすかな望みをリズは容赦なく斬り捨てる。
「でも、王子は学術院に留学されるのだから、こちらとはあまり接点がないし……」
「何を甘いこと言ってるんですか。きっとこちらの授業をお取りになることもありますし、貴族は茶会や夜会があるでしょう。しっかりファーストコンタクトをもぎ取ってくださいよ!」
おせっかいなおばちゃんのようなテンションであり、エリーナは「がんばるわ」と返すがすでに疲れを感じていた。学園生活も半分が過ぎた。つまりタイムリミットが迫っているのであり、恋心に辿り着けなければベロニカからの怖い仕置きが待っている。
エリーナは憂鬱な気分になり、はぁと思い溜息をつくのだった。
そして一週間が過ぎ、第二王子が入国したと知らせが入り、エリーナはクリスと共に王宮で行われる歓迎の夜会に招かれた。断りたかったエリーナだが、思いのほかクリスが乗り気で一緒に行こうと言ってきたのだ。ベロニカとジーク、ルドルフからも誘いが来たので、がっちりと囲い込まれてしまった。
エリーナはすみれ色のチュールが重なった大人っぽいドレスに身を包み、アメジストを胸元と耳に飾っている。クリスは紺のタキシードに、エリーナが誕生日にあげたブローチを胸元につけていた。
王宮には馬車がずらりと並び、今日の夜会の大きさを物語っている。大広間に入れば管弦楽の音色と人の多さに圧倒され、エリーナは無意識にクリスに身を寄せた。大広間は豪奢の一言に尽きる。壁は全面鏡張りで、天井で光るシャンデリアの灯りを反射させている。どこまでも空間が広がっているような錯覚がした。
「すごいわね」
「僕から離れないでね」
そして見知った人たちに挨拶をして回っていると、大きく威勢のいいファンファーレが鳴り響き西の王子のご登場となった。王とジークに続いて入って来た人物に、ご令嬢の歓声が上がる。エリーナもつい目を奪われてしまった。
それほどの圧倒的な美。彼が壇上に立つと、後光がさしているかのように輝いていた。
「彼は我が国と親交の深い西の国、アスタリア王国の第二王子、シルヴィオ・ディン・アスタリア殿だ。一年間我が国に留学されることになった」
王から紹介を受け、シルヴィオが簡単に挨拶をすれば令嬢たちはその弦楽器のような美しい声に「ほぅ」と感嘆の声を漏らす。
「これから、宜しくお願いします」
最後に微笑で締めくくれば、ご令嬢方の好感度を軒並み攫っていった。エリーナは遠目で完璧すぎる王子の容姿をじっと見る。柔らかなオレンジの髪はやや長めで、体の線は細く中性的な印象を受けた。数多の美形攻略キャラを見て目が肥えているエリーナも、文句のつけようがない反則的な美しさだ。
そして王子が壇上から降りれば、高位の貴族が我先にと挨拶に赴く。
「ねぇ、エリー。ああいうのが好みなの?」
あまりにも見つめていたからか、横から拗ねたような声が降ってきた。表情には少しからかいが混じっている。
「違うわ……ただ、あまりにも整いすぎてびっくりしただけよ」
あれが隠しキャラというなら納得だ。隠しただけのインパクトがある。
上位の貴族たちの挨拶が終わったのを見計らって、クリスはエリーナをエスコートしていく。エリーナは挨拶より別室にあるスイーツが気になるが、こればかりは仕方がない。あちらこちらで「シルヴィオ殿下かっこいい」「美しい」と声があがっており、会場はシルヴィオ殿下一色だ。
クリスのおかげでローゼンディアナ家は一目置かれており、人々は脇へと下がって二人の前が開けていく。その輪の中心で歓談していたシルヴィオがこちらに視線を留めて、わずかに目を見開いた。クリスは優美な笑みを浮かべ悠然とエリーナを連れて歩み寄る。
シルヴィオの傍で世話役を務めているルドルフが、こちらを指して紹介した。
「こちらはローゼンディアナ家のクリス殿と、エリーナ嬢です」
紹介を受けてエリーナはドレスをつまんで正式な礼を取る。シルヴィオはクリスの顔をじっと見てから、エリーナに視線を移すともう一度クリスを見てニコリと笑った。その美しい笑顔に周りの貴婦人たちがほぅと声を漏らす。
「君がローゼンディアナ伯か、話は聞いていたよ。すまない、この国でその髪色は珍しいからつい見てしまった」
そう話す王子の髪色は西の国に多い赤ではない。
「いえ、母がアスタリア王国出身でよく驚かれます」
「そうか……会えて嬉しいよ」
微笑んで握手をしたシルヴィオの右耳がキラリと光る。光につられてそれに目を留めると、大小の金の輪が二つ繋がったピアスだった。こちらの国で男性がピアスをつけることはほとんどないため、物珍しく映る。
「エリーナ嬢も、またの機会にゆっくりお話をしたい」
そう当たり障りのない言葉をかけられただけなのに、強く惹きつけられる。エリーナはハッと我に返って、つつましい笑みを浮かべておいた。
(できれば、これっきりにしたいですわ)
あの美貌は目と心臓に悪い。
そして長居は迷惑になるため御前を辞し、スイーツ会場に向かおうとしたがクリスにダンスホールの方へ引っ張っていかれる。これも貴族の務め、致し方ないと心地よく踊る。クリスは上機嫌で、楽しそうに踊っていた。
「クリス、いつもより機嫌がいいわね。第二王子に会えたのが嬉しかったの?」
そうエリーナが問いかければ、クリスは驚いたように目をわずかに開いた。
「ちょっとね。西の国の人を見たのは久しぶりだったから、嬉しくなったんだよ。縁のある国だからね」
西の国のお土産を見て懐かしそうにしていたから、思い入れがあるのだろう。
そしてきっちり三曲を一緒に踊り、その後ジークとルドルフと一曲ずつ踊りクタクタになったところで、ベロニカの側に駆け込んだ。ベロニカはジークと一曲踊った後は別室で優雅に壁の花になっており、おいしいスイーツに舌鼓を打っていたのだ。
「あら、シルヴィオ殿下はどうだった? 劇薬みたいな美しさでしょう」
「もういいですわ……」
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