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学園編 18歳
99 将来について訊きましょう
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夜会から一週間が経ち夏真っ盛りである。夏休みはいつもイベントがあるイメージだったが、三年目の夏休みはイベントよりは能力上げの期間らしい。この時期になると誰のルートで卒業式を迎えるのか確定しているようで、後は卒業後を順風満帆に送るための準備をするそうだ。
しかしエリーナはまだ結婚相手を決めていないため、リズもわかりませんとお手上げなのだった。そのためエリーナはクリスと領地を視察したり、プリンをさらにおいしくするためにパティシエと試行錯誤したりして過ごしていた。
そんな中、ミシェルがローゼンディアナ家に遊びに来た。今日は商品の紹介ではなく、純粋にお茶をしたいらしい。西の国のお菓子が手に入ったので、それを手土産にやって来たのだ。
クリスも少し顔を出し、懐かしそうにそのお菓子を見ていた。
「このお菓子はね、キャラメルっていうんだ。飴に似ているけど、ミルクが入っているんだよ」
可愛い包み紙を開けば、茶色いキャラメルが出てきた。香りがよく、口にいれるとすっとミルクの味わいと甘みが広がっていく。飴とはまた違うおいしさで、しかも少し柔らかい。
「おいしいわ」
「あぁ……子どもの時に食べたきりだ」
そう言ってクリスは懐かしそうにキャラメルを口の中で転がす。ミシェルもおいしそうに笑みを零しながら、キャラメルを舐めていた。
そして少し話をしてから、クリスは仕事があるからと席を立つ。
「ゆっくりしていってね」
優しい微笑を見た瞬間、エリーナの胸の奥がざわりと何かを訴える。だがエリーナはそれが何かわからず、クリスをただ目で追うだけだった。その瞳にはわずかに不安の色が映る。キャラメルが溶けるのは早い。エリーナは口直しに紅茶を飲み、プリンクッキーに手を伸ばした。
その様子をじっと見ていたミシェルは、キャラメルを噛んで飲み込むとお茶をすすった。
「ねぇ、エリーナ様。何かあったの?」
唐突に、真面目な声音でミシェルに訊かれエリーナは「えっ」と目を丸くする。ミシェルはじっと何かを見定めるようにエリーナを見ていた。
「何かエリーナ様、変わった気がする」
そう言われて心臓が飛び跳ねた。何も悪いことはしていないはずなのに、何かを見透かされたような気がする。
「そ、そう?」
「うん。僕は魔法使いじゃないから、何かは分からないけど。エリーナ様、また綺麗になっているよ」
にこりと笑うミシェルに、エリーナは曖昧な微笑を返した。そしてこれ以上深入りされると危ないと本能が察知し、話題を変える。
「えっと、ミシェルは最近どうなの?」
「僕はいつも通りだよ。部屋に籠って商品を作ってる。最近は他国の素材が手に入りやすくなったから、色々試しているんだ」
「そう。ミシェルは卒業したら商会で働くのよね」
今でも十分商会のために働いており、卒業後は正式に役職を与えられるのだろうと思っている。ミシェルはプリンクッキーを口に放りこむと、「うん」と頷いた。
「商品開発部門で働くんだ」
そう答えると、一瞬言おうか迷ってから言葉を続ける。
「それで、新しい商品を見つけるために卒業したら他国を渡り歩こうと思っているんだよ」
「他国に行くの?」
初めて聞く話であり、エリーナは目を丸くした。今から将来のことを考えて計画を立てているミシェルを尊敬する。
「うん。まずは多くの国と交易している西の国に行ってみようと思ってるんだ。まぁ、こっちにもちょくちょく戻るけどね」
そう照れたように将来の話をするミシェルは楽しそうで、希望に満ちた表情をしていた。
(将来か……羨ましいわ)
エリーナにその将来があるのかは分からない。
「エリーナ様は? 卒業したらどうするの?」
そう何気なく訊かれ、エリーナは困って眉尻を下げた。ミシェルに訊いたはいいものの、自分は考えたことがなかったのだ。当然次の悪役令嬢の役が始まると思っていた。
(もし私にこの世界で将来があったら、何をしているのかしら……)
エリーナは思案顔で紅茶を一口飲む。
「まだ分からないわね。誰かと結婚するかもしれないし、この家にいるかもしれないわ」
「そっか~。一緒にいて幸せになれる人と結婚できるといいね。もちろん、僕も頑張るけどね!」
ふふふと不敵に笑うミシェルに対し、エリーナは曖昧に頷くことしかできなかった。
(幸せね……私が幸せになれる人……)
ラウルの夜会以降、今まで考えなかったことに頭を使うようになった。なんだか胸の奥がもやもやする。分かるようで分からない苛立たしさがあり、エリーナはそこで考えを断ち切った。
(分からないものを考えてもしかたがないわ。止めましょう)
切り替えるのは得意であり、思考を止めたエリーナはプリンクッキーを齧った。先ほどからエリーナの様子を見ていたミシェルと目が合い、微笑みかけられる。
「エリーナ様。僕はそうやって真剣に考えてくれるエリーナ様が好きだよ。だから、幸せに、いつも笑っていて欲しいんだ。そのために僕はものを作るんだ」
「うん……ちゃんと向き合うわ。答えはすぐに出ないけど」
今言えるのはそれぐらいで、エリーナの頭に課題として留まり続ける。その後行商人が話していた各国のお菓子について話が変わり、エリーナは目を輝かせて聞き入った。お菓子は日持ちしないものが多いので、輸入できないのが残念だ。
そしてミシェルは、次は商品を持ってくると言い置いて帰っていった。自室に戻ったエリーナはキャラメルを口の中で転がし甘さに浸りながら、ぼんやりミシェルに言われたことを考える。
(最近変だわ……何だか胸の奥に何かがいるみたい……お医者様に診てもらわないといけないかしら)
エリーナはミシェルからもらったランプを眺めつつ、どういうことだろうと首を傾げるのだった。
しかしエリーナはまだ結婚相手を決めていないため、リズもわかりませんとお手上げなのだった。そのためエリーナはクリスと領地を視察したり、プリンをさらにおいしくするためにパティシエと試行錯誤したりして過ごしていた。
そんな中、ミシェルがローゼンディアナ家に遊びに来た。今日は商品の紹介ではなく、純粋にお茶をしたいらしい。西の国のお菓子が手に入ったので、それを手土産にやって来たのだ。
クリスも少し顔を出し、懐かしそうにそのお菓子を見ていた。
「このお菓子はね、キャラメルっていうんだ。飴に似ているけど、ミルクが入っているんだよ」
可愛い包み紙を開けば、茶色いキャラメルが出てきた。香りがよく、口にいれるとすっとミルクの味わいと甘みが広がっていく。飴とはまた違うおいしさで、しかも少し柔らかい。
「おいしいわ」
「あぁ……子どもの時に食べたきりだ」
そう言ってクリスは懐かしそうにキャラメルを口の中で転がす。ミシェルもおいしそうに笑みを零しながら、キャラメルを舐めていた。
そして少し話をしてから、クリスは仕事があるからと席を立つ。
「ゆっくりしていってね」
優しい微笑を見た瞬間、エリーナの胸の奥がざわりと何かを訴える。だがエリーナはそれが何かわからず、クリスをただ目で追うだけだった。その瞳にはわずかに不安の色が映る。キャラメルが溶けるのは早い。エリーナは口直しに紅茶を飲み、プリンクッキーに手を伸ばした。
その様子をじっと見ていたミシェルは、キャラメルを噛んで飲み込むとお茶をすすった。
「ねぇ、エリーナ様。何かあったの?」
唐突に、真面目な声音でミシェルに訊かれエリーナは「えっ」と目を丸くする。ミシェルはじっと何かを見定めるようにエリーナを見ていた。
「何かエリーナ様、変わった気がする」
そう言われて心臓が飛び跳ねた。何も悪いことはしていないはずなのに、何かを見透かされたような気がする。
「そ、そう?」
「うん。僕は魔法使いじゃないから、何かは分からないけど。エリーナ様、また綺麗になっているよ」
にこりと笑うミシェルに、エリーナは曖昧な微笑を返した。そしてこれ以上深入りされると危ないと本能が察知し、話題を変える。
「えっと、ミシェルは最近どうなの?」
「僕はいつも通りだよ。部屋に籠って商品を作ってる。最近は他国の素材が手に入りやすくなったから、色々試しているんだ」
「そう。ミシェルは卒業したら商会で働くのよね」
今でも十分商会のために働いており、卒業後は正式に役職を与えられるのだろうと思っている。ミシェルはプリンクッキーを口に放りこむと、「うん」と頷いた。
「商品開発部門で働くんだ」
そう答えると、一瞬言おうか迷ってから言葉を続ける。
「それで、新しい商品を見つけるために卒業したら他国を渡り歩こうと思っているんだよ」
「他国に行くの?」
初めて聞く話であり、エリーナは目を丸くした。今から将来のことを考えて計画を立てているミシェルを尊敬する。
「うん。まずは多くの国と交易している西の国に行ってみようと思ってるんだ。まぁ、こっちにもちょくちょく戻るけどね」
そう照れたように将来の話をするミシェルは楽しそうで、希望に満ちた表情をしていた。
(将来か……羨ましいわ)
エリーナにその将来があるのかは分からない。
「エリーナ様は? 卒業したらどうするの?」
そう何気なく訊かれ、エリーナは困って眉尻を下げた。ミシェルに訊いたはいいものの、自分は考えたことがなかったのだ。当然次の悪役令嬢の役が始まると思っていた。
(もし私にこの世界で将来があったら、何をしているのかしら……)
エリーナは思案顔で紅茶を一口飲む。
「まだ分からないわね。誰かと結婚するかもしれないし、この家にいるかもしれないわ」
「そっか~。一緒にいて幸せになれる人と結婚できるといいね。もちろん、僕も頑張るけどね!」
ふふふと不敵に笑うミシェルに対し、エリーナは曖昧に頷くことしかできなかった。
(幸せね……私が幸せになれる人……)
ラウルの夜会以降、今まで考えなかったことに頭を使うようになった。なんだか胸の奥がもやもやする。分かるようで分からない苛立たしさがあり、エリーナはそこで考えを断ち切った。
(分からないものを考えてもしかたがないわ。止めましょう)
切り替えるのは得意であり、思考を止めたエリーナはプリンクッキーを齧った。先ほどからエリーナの様子を見ていたミシェルと目が合い、微笑みかけられる。
「エリーナ様。僕はそうやって真剣に考えてくれるエリーナ様が好きだよ。だから、幸せに、いつも笑っていて欲しいんだ。そのために僕はものを作るんだ」
「うん……ちゃんと向き合うわ。答えはすぐに出ないけど」
今言えるのはそれぐらいで、エリーナの頭に課題として留まり続ける。その後行商人が話していた各国のお菓子について話が変わり、エリーナは目を輝かせて聞き入った。お菓子は日持ちしないものが多いので、輸入できないのが残念だ。
そしてミシェルは、次は商品を持ってくると言い置いて帰っていった。自室に戻ったエリーナはキャラメルを口の中で転がし甘さに浸りながら、ぼんやりミシェルに言われたことを考える。
(最近変だわ……何だか胸の奥に何かがいるみたい……お医者様に診てもらわないといけないかしら)
エリーナはミシェルからもらったランプを眺めつつ、どういうことだろうと首を傾げるのだった。
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