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学園編 18歳
125 卒業パーティーに出席しましょう
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日が落ち始め、寒い風が窓に叩きつけられている。クリスは支度をしているエリーナのことを想いながら、自室で準備をしていた。紅い髪には艶があり、群青に少し紫がかったスーツは糊が効いていて、胸元にはエリーナの刺繍が入ったハンカチーフが飾られている。その近くにもらったブローチも輝いており、先ほどエリーナに姿を見せに行ったら「やりすぎよ」と嬉しそうに呆れられた。
だがクリスとしては、一つでもエリーナに関わるものを身に着けていたかったのだ。そして机の引き出しを開け、奥にしまっていた小箱を取り出し、鍵を開ける。カチカチとダイヤルを回せば、それはすぐに開いた。ローゼンディアナ家の当主の証である懐中時計を上着の内ポケットに入れ、小さな金の指輪を指でつまんで持ち上げた。
(お守りに持って行くか……)
クリスは別の引き出しからチェーンを取り出し、指輪を通して首にかける。西の国では子供の時の指輪をネックレスかピアスにする風習があった。お守りになると信じられているのだ。
クリスは服の上から指輪に触れ、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
(これを使わなければいいけど……)
その表情は戦場を心待ちにする戦士のようで、クリスはすっとそれを隠してエリーナが準備をしている部屋へと向かうのだった。
エリーナは自室でサリーたちに磨き上げられて、この日のために作ったドレスを身に纏っていた。卒業式はつつがなく終わり、最後はジークが入学式と同様学生代表の挨拶をして締めた。そして一度屋敷に戻り、夜のパーティーに向けて支度をしていたのだ。
ドレスの胸元はすっきりと開いており、エリーナの白磁器のような美しい素肌を見せつけている。上はワイン色で腰から下にいくにつれて紅へと色を変えていった。幾重にも重なったチュールは薄紫から薄紅へとグラデーションになっていて、人々の目を引く珍しいドレスになっている。
胸元には大きなアメジストが光を乱反射しており、吸い込まれそうな輝きを放つ。髪は編み込まれて結い上げられ、耳元にもアメジストが光る。サリーが「クリス様の最高傑作です」と賛辞を零し、クリスも幸せそうに顔を蕩けさせた。
そしてクリスとともに馬車に乗り、王宮を目指す。卒業パーティーは王宮で行われ、王も出席される。若い貴族にとっては大人と認められた初の社交の場となり、王に顔を覚えてもらえるチャンスでもある。さらにエスコートの相手と共に挨拶に伺うため、婚約のお披露目でもあり王の祝福を受けることができる。それが一生一緒にいられると言われる所以でもあるのだ。
「エリー、とてもきれいだよ」
馬車の向かいに座るクリスは、何度目かわからない賞賛の声を上げる。何度言っても言い足りないようだ。
「もう……わかったからその締まりの無い顔はやめてよね」
「わかってるよ」
そう調子よく返すが、顔はにやけきったままだ。
日が暮れてゆき街の明かりが目立ち始めた頃、王宮に到着した。卒業パーティーは卒業生とそのエスコート相手が貴族の位に関係なく参加できる。続々と着飾った学生たちが大広間へと入っていき、エリーナもクリスにエスコートをされながら人々の流れについて行った。
絢爛豪華な大広間に入れば、眩いドレスの数々に楽しそうな人々の顔が目に飛び込んでくる。若者ばかりだからか、夜会とはまた雰囲気が違い活気にあふれている。エリーナがきょろきょろと辺りを見回していると、侍女として壁際に控えているリズを見つけた。軽く手を振ると美しい会釈を返される。
すでにベロニカはジークと共に王座が誂えられた高座に座っており、王座の右側でジークと楽し気に談笑していた。そして王座の左側にはシルヴィオが座っており、彼はこの卒業パーティーが終われば西の国へ帰ることになっていた。
ラウルは教員として祝う側で参加しており、多くの学生に囲まれている。ルドルフとミシェルは友人たちと話をしているようだった。
「すごいわね」
「卒業パーティーだからね。みんな気合が入っているよ」
そして知り合いの令嬢方から口々に祝福をもらい、談笑していればファンファーレが鳴り響いて王が入場した。拍手で迎え、王が祝いの言葉を述べれば喝采の後にダンスの曲が流れ始めた。
高位の貴族たちが王へ挨拶に向かい、ジークとベロニカは手を取り合って壇上を降りて中央へ向かう。エリーナもクリスと一曲踊るために中央へと向かっていった。シャンデリアの光を受け、曲に乗ってステップを踏んでいく。不思議なぐらい気持ちよく踊れる。まっすぐ見つめてくるクリスに気恥ずかしくなって、エリーナは少し顔を赤らめた。
そこにベロニカの面白そうなからかい声が飛んでくる。
「あらエリーナ、可愛い顔をしているわね。今日のドレス、クリスさんとよく合っていて素敵よ」
ベロニカも踊りの上級者なので、ステップを踏みながら会話をすることなど造作もない。
「ありがとうございます」
次はジークが半ば呆れた顔で言葉をかけてくる。
「つくづくクリス殿の本気には敵わないな。その胸元を飾るアメジストも素晴らしい。あとで一曲お願いできるか?」
もちろんと答えようと思ったところに、ベロニカの意地悪な声が滑り込んだ。
「あら、エリーナのダンスは予約制でしてよ? まだたくさん待っている人がいるのだから、ジーク様まで回ってこないかもしれませんわ」
エリーナはくすくすと小さく笑い、ベロニカの話に乗っかる。
「そういうことですので、殿下は最後です。それまではベロニカ様がやきもちを焼かないように相手をしてあげてください」
背中にベロニカの「どういう意味よ」という言葉が飛んできたが、微笑んで受け流しくるくると踊っていく。クリスは始終楽しそうで、微笑んでいた。
そして一曲が終わり、エリーナはクリスと離れると視線を周りに飛ばした。クリスは「いってらっしゃい」と軽く手を振って自分はダンスの輪から抜け出す。
クリスと入れ代わるように近づいて来たのはラウルだった。
だがクリスとしては、一つでもエリーナに関わるものを身に着けていたかったのだ。そして机の引き出しを開け、奥にしまっていた小箱を取り出し、鍵を開ける。カチカチとダイヤルを回せば、それはすぐに開いた。ローゼンディアナ家の当主の証である懐中時計を上着の内ポケットに入れ、小さな金の指輪を指でつまんで持ち上げた。
(お守りに持って行くか……)
クリスは別の引き出しからチェーンを取り出し、指輪を通して首にかける。西の国では子供の時の指輪をネックレスかピアスにする風習があった。お守りになると信じられているのだ。
クリスは服の上から指輪に触れ、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
(これを使わなければいいけど……)
その表情は戦場を心待ちにする戦士のようで、クリスはすっとそれを隠してエリーナが準備をしている部屋へと向かうのだった。
エリーナは自室でサリーたちに磨き上げられて、この日のために作ったドレスを身に纏っていた。卒業式はつつがなく終わり、最後はジークが入学式と同様学生代表の挨拶をして締めた。そして一度屋敷に戻り、夜のパーティーに向けて支度をしていたのだ。
ドレスの胸元はすっきりと開いており、エリーナの白磁器のような美しい素肌を見せつけている。上はワイン色で腰から下にいくにつれて紅へと色を変えていった。幾重にも重なったチュールは薄紫から薄紅へとグラデーションになっていて、人々の目を引く珍しいドレスになっている。
胸元には大きなアメジストが光を乱反射しており、吸い込まれそうな輝きを放つ。髪は編み込まれて結い上げられ、耳元にもアメジストが光る。サリーが「クリス様の最高傑作です」と賛辞を零し、クリスも幸せそうに顔を蕩けさせた。
そしてクリスとともに馬車に乗り、王宮を目指す。卒業パーティーは王宮で行われ、王も出席される。若い貴族にとっては大人と認められた初の社交の場となり、王に顔を覚えてもらえるチャンスでもある。さらにエスコートの相手と共に挨拶に伺うため、婚約のお披露目でもあり王の祝福を受けることができる。それが一生一緒にいられると言われる所以でもあるのだ。
「エリー、とてもきれいだよ」
馬車の向かいに座るクリスは、何度目かわからない賞賛の声を上げる。何度言っても言い足りないようだ。
「もう……わかったからその締まりの無い顔はやめてよね」
「わかってるよ」
そう調子よく返すが、顔はにやけきったままだ。
日が暮れてゆき街の明かりが目立ち始めた頃、王宮に到着した。卒業パーティーは卒業生とそのエスコート相手が貴族の位に関係なく参加できる。続々と着飾った学生たちが大広間へと入っていき、エリーナもクリスにエスコートをされながら人々の流れについて行った。
絢爛豪華な大広間に入れば、眩いドレスの数々に楽しそうな人々の顔が目に飛び込んでくる。若者ばかりだからか、夜会とはまた雰囲気が違い活気にあふれている。エリーナがきょろきょろと辺りを見回していると、侍女として壁際に控えているリズを見つけた。軽く手を振ると美しい会釈を返される。
すでにベロニカはジークと共に王座が誂えられた高座に座っており、王座の右側でジークと楽し気に談笑していた。そして王座の左側にはシルヴィオが座っており、彼はこの卒業パーティーが終われば西の国へ帰ることになっていた。
ラウルは教員として祝う側で参加しており、多くの学生に囲まれている。ルドルフとミシェルは友人たちと話をしているようだった。
「すごいわね」
「卒業パーティーだからね。みんな気合が入っているよ」
そして知り合いの令嬢方から口々に祝福をもらい、談笑していればファンファーレが鳴り響いて王が入場した。拍手で迎え、王が祝いの言葉を述べれば喝采の後にダンスの曲が流れ始めた。
高位の貴族たちが王へ挨拶に向かい、ジークとベロニカは手を取り合って壇上を降りて中央へ向かう。エリーナもクリスと一曲踊るために中央へと向かっていった。シャンデリアの光を受け、曲に乗ってステップを踏んでいく。不思議なぐらい気持ちよく踊れる。まっすぐ見つめてくるクリスに気恥ずかしくなって、エリーナは少し顔を赤らめた。
そこにベロニカの面白そうなからかい声が飛んでくる。
「あらエリーナ、可愛い顔をしているわね。今日のドレス、クリスさんとよく合っていて素敵よ」
ベロニカも踊りの上級者なので、ステップを踏みながら会話をすることなど造作もない。
「ありがとうございます」
次はジークが半ば呆れた顔で言葉をかけてくる。
「つくづくクリス殿の本気には敵わないな。その胸元を飾るアメジストも素晴らしい。あとで一曲お願いできるか?」
もちろんと答えようと思ったところに、ベロニカの意地悪な声が滑り込んだ。
「あら、エリーナのダンスは予約制でしてよ? まだたくさん待っている人がいるのだから、ジーク様まで回ってこないかもしれませんわ」
エリーナはくすくすと小さく笑い、ベロニカの話に乗っかる。
「そういうことですので、殿下は最後です。それまではベロニカ様がやきもちを焼かないように相手をしてあげてください」
背中にベロニカの「どういう意味よ」という言葉が飛んできたが、微笑んで受け流しくるくると踊っていく。クリスは始終楽しそうで、微笑んでいた。
そして一曲が終わり、エリーナはクリスと離れると視線を周りに飛ばした。クリスは「いってらっしゃい」と軽く手を振って自分はダンスの輪から抜け出す。
クリスと入れ代わるように近づいて来たのはラウルだった。
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