悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
139 / 194
学園編 18歳

133 モブキャラは可能性を秘めている

しおりを挟む
 さらに数々の乙女ゲームの世界を渡り、通算二十九回目のモブ、彼女が十九回目の悪役令嬢を終えた瞬間、目の前が真っ白になった。いつもならすぐに次のモブに意識が飛ぶのに、今回は白い世界で浮遊しているような感じだ。疑問に思っていると頭の中に声が響く。

「はじめまして。二十九回目のモブキャラ、お疲れさまです」

 柔らかい女性の声で、姿を探そうとしても視点は動かない。声も出ないだろうからどう答えようかと思っていると、再び声がした。

「声は出せますよ」

「え、あ、本当だ。へぇ、声ってこう出るんだね」

 喉の辺りが震えている気がする。今はなんだか気になるが、そのうち自然なことになるのだろう。

「あなたは二十九回モブの中で生き、モブを極められたので、今後の意向を聞きに来たのです」

「どういうこと?」

 唐突に言われても何のことか分からない。

「たまに、貴方のようにゲームキャラに自我のようなものが宿るんですよ。たいていはすぐに消えるんですけど、二十、三十と回数を重ねた方がいた場合は、外すようにしているんです」

「へぇ、じゃぁ僕と彼女以外にもいるってこと?」

「いえ……現在確認できるほど強い魂をお持ちなのはお二人だけですね」

「ふ~ん。で? 今後の意向ってどういうこと?」

 自分の頭で考え、思ったことを口にできる。それが素晴らしく、返答があることに感動する。

「次の世界を貴方の生きる場所にしませんか? そこでは自分の意思で動き、運命を選択することができます。貴方は男性ですし、ギャルゲーの主人公がおすすめですよ。女の子に囲まれて幸せになれます」

 女の声は楽しそうで、善意から出た言葉のようだったが全く響かなかった。それよりも、気がかりな点が出てくる。

「それは、僕だけ? 悪役令嬢の彼女は?」

「彼女はまだ十九回目なので、次の悪役令嬢に移ると思います。でも、二十九回目には貴方のように違う世界にお連れするつもりです」

 ないはずの胸が苦しくなる。一緒に生きたいと、強く思った。彼女に幸せになってほしい。彼女を幸せにしたい。そんな想いが溢れる。

「それなら断るよ。僕はずっとモブを繰り返してもいいから、彼女を自由にしてあげて欲しい。僕よりもずっと苦しんで、頑張っているから」

 そう返答すると、見えないはずの女が笑った気がした。

「お優しいですね。感動しました。では、彼女を自由にするとしてどんな世界を望みますか?」

 要求がすんなり通り、少し肩透かしをくらった気分になりながらも彼女に合いそうな世界を思い浮かべる。今まで乙女ゲームと一口にいっても多様な世界を渡ってきた。学園、後宮、軍事学校とどれも基本的には近世のヨーロッパに似た世界だ。

「幸せになれる貴族の世界かな。魔法はいらない争いを生むから無い方がいい。学園物が楽しそうだった」

「わかりました。では、その世界をご用意します。ヒロインでよろしいですね」

 悪役令嬢として振舞っていた彼女とヒロインが結びつかず、少し笑ってしまった。

(ヒロインになったと知ったら、どう思うかな)

 戸惑うだろうが、喜んでくれるだろうか。悪役令嬢では得られなかった幸せをつかんでほしい。そうまだ見ぬ幸せを願いながら、頷いた。

「うん、彼女には幸せになってほしいから」

 ふふふと優しい笑い声が響いて、女は話を続ける。

「では、特別に貴方もその世界に飛ばしましょう。それほど彼女を想っているなら、貴方が幸せにするべきです。それが、今まで頑張ってきた貴方への報いです」

 その言葉にパッと喜びが弾ける。きっと顔があれば満面の笑みだっただろう。彼女のために何かができる。それがとてつもなく嬉しく、全身から力が湧き出るようだった。

(学園の友人でも、使用人でも何でもいい。彼女の近くにいられて、彼女のために尽くせるなら)

 盲目的になるほど、彼女は絶望の底にいた時の助けになっていた。あのつまらない、虚しさだけがある世界に光をくれた。

「では、仲良く次の世界を楽しんでくださいね。そこで生き抜いてください」

 その言葉を最後に、少しずつ意識が薄れていく中、咄嗟に疑問に思ったことを問いかける。

「あ、最後に一つだけ訊かせてください。貴女は誰ですか?」

 その問いを聞いて、女は困ったように笑った気がした。

「私も貴方たちと似た存在です。乙女ゲームの意識ですよ。いつの頃からか、ゲームの世界を管理し、支援しています」

 徐々に意識が遠のき、女の声がかすれていく。そして最後に彼女は、何かを思い出しかのように呟いた。

「あ、次の世界は転生者もいるんだった……」

 その耳慣れない言葉を最後に、意識は途切れ暗転する。


 そしてゆっくりと意識が浮上し、目が開いた。目には何か布のようなものが映っており、遅れて天蓋付きのベッドで寝ていることに気が付く。体を起こし、動くことに驚いた。首を動かせば視界が変わる。全てが新鮮で、色々と試してみたくなってベッドから出ようとした。

「うわっ」

 体が前につんのめり、バランスを崩して床に落ちる。体を動かすイメージができず、生まれたての小鹿のようにフルフルと手足が震えている。なんとかベッドの縁に手をついて立ち、壁を伝って歩いてみた。

「すごい……歩いてる」

 遅れて声が出ることに気づき、聞こえた声に不思議な気持ちになる。姿見まで足を引きずるようにして歩き、新しいキャラの姿を見た。まだ子供で、7、8歳くらいだろうか。紅い髪はさらさらと綺麗で、金色の目はくりくりと丸い。

(モブの顔じゃないな……誰だ?)

 少し歩いただけで疲労を感じ、ずるずると壁を伝って座り込む。深呼吸をしてから頭の中にある本を思い浮かべた。キャラクター情報、世界観、シナリオ、分岐が全て載った本だ。それはこの世界にもあるようで、自分のキャラを確認する。

「クリス・ディン・アスタリア……西の国の第三王子か」

 モブの割には豪華だと思ったところから、クリスとしての人生が始まったのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...