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学園編 18歳
134 彼女の幸せを願おうか
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その後、様子を見に来た侍女が目を剥いて「クリス様が目を覚まされました!」と叫び、どこかへ走っていった。すぐに主治医が飛んできて、診察が始まる。医者と周りの話から察するに、クリスは一週間ほど高熱に浮かされていたらしい。寝たきりだったことも体が上手くうごかない原因だったようだ。
そして家族がベッドの脇に揃い、頭の中にある情報と照らし合わせていく。赤髪金目の壮健な男が父であるアスタリア王であり、その隣に同じ赤髪金目の母親がいた。父親の反対側にはオレンジの髪と金目の女性がおり、正妃だった。クリスの顔の近くに正妃の子どもが二人いて、赤髪金目が長兄、オレンジ髪と金目が次兄だ。
次兄のシルヴィオはクリスと一歳違いであり、心配そうに可愛い顔を向けていた。家族全員から体調を気遣う言葉をもらい、クリスは困ったように微笑んだ。こんな時にどう振舞うのが子供らしく適切なのかがわからなかったからだ。
しばらくは安静にしているようにと言葉をもらい、クリスは軽く頭を下げる。その行動に少し家族が驚いたようだったが、微笑みを残して部屋から出て行った。念のため侍女が一人壁際で待機している。
クリスはベッドに横になり、時間があるのをいいことに頭の中にあるこのゲームの情報に目を通し始めた。まずは彼女がなっているはずのヒロインについて熟読すれば、中々数奇な人生ということがわかった。
(エリーナ……クーデターで亡くなった前王の娘か。僕より四つ下だから、今は七歳かな)
彼女が幸せになれることを願いつつ、自分のプロフィールを見つけたので読んでみる。ざっと流し読めば、気になる言葉が書かれていた。
(隠しキャラ?)
どうもクリスはモブキャラではなく、ルートが存在する隠しキャラのようだ。卒業パーティーで他の攻略キャラを選ばなかった場合、ルートが解放されるそうなので確率は低そうだ。エリーナが学園に入った二年目に留学するらしい。
ストーリーが気になってきたので、他のキャラのプロフィールを見るのは後にしてシナリオを読み込む。各キャラごとのシナリオは、自分も含めると5つあり、分岐も全て読んでいく。一つ読むだけでも時間がかかり、合間に食事と睡眠を挟み二日をかけて読み切った。どのルートもエリーナは幸せを掴んでおり、クリスは胸を撫でおろす。
だが、一つだけ気にかかるところがあった。
(王子のルートだけ、デッドエンドがあるな……)
エリーナがどのルートに入るかは分からないが、できるなら回避したい。ここはゲームの世界だが、ゲームではない。おそらく死ねば生き返ることはできないだろう。そう想像しただけで背筋が凍り、クリスは表情を曇らせた。
(どうにかしてこのルートを回避できないかな……)
王子のルートをもう一度読み直し、各キャラのプロフィールも細かく見て、なんとか打開できないかと考えを巡らせた。
(ベロニカが今作の悪役令嬢で、王子の婚約者になるのか……)
そしてクリスはニヤリと笑い、体の回復を待って各方面に将来のエリーナの憂いを払うために働きかけたのだった。
クリスとして生き始めて四か月が過ぎ、体も走り回れるほど元気になった頃にラルフレア王国のオランドール公爵家長女、ベロニカへ婚約の申し込みを行った。ちょうど王宮ではラルフレア王国と王族が婚姻する話題が上がっていたため、申し出たのだ。
(これで、僕とベロニカが婚約すれば、悪役令嬢になる前に手を打つことができる。それにもし断られるなら王家が動くだろうから、王子と早めに婚約する可能性もある。そうなれば、エリーナが王子のルートを選ぶ可能性は低くなるだろう)
重鎮の貴族たちは現在のラルフレア王国は公爵家が二つ潰れたため、公爵令嬢がベロニカ一人しかいないことを懸念していた。公爵令嬢は有効な外交の切り札ともなるため、国は手放したがらないと読んだのだ。
そしてその読みは当たり、婚約の申し出は断られベロニカはジークと七歳にして婚約を結ぶことになった。
(これで、二人が仲良くなってくれればエリーナの危険が減る……。エリーナは何をしてるんだろう……。シナリオに沿うなら、攻略対象の先生が家庭教師をしている頃かな)
その頃エリーナはラウルと街へ本を買いに行き、悪役令嬢になりきって啖呵を切っていたのだがそれはまた別の話。
そしてクリスはエリーナの幸せを願いながら、何かが起こった時に対応ができるように研鑽に励み、周りが目を見張る速さで知識を得ていった。シルヴィオには最近つまらなくなったとジト目を向けられたが、兄にかまっている暇はない。
そんな日々が続き、半年が過ぎた時。クリスはシナリオを読み返していてふと気づいた。
(あれ、エリーナは五人の誰かを選んで自分の理想に近い人生を得られるけど、誰とも結婚しないという選択肢はないよね……)
貴族であれば結婚は義務のようなものなので、その選択は滅多に無いのだが、実際アスタリア王国でも未婚の令嬢はいる。
(それに、おじいさんが亡くなって長く一人で過ごすのも心配だし……)
シナリオによると十五で祖父が亡くなり、身寄りがない彼女は誰かの下に嫁ぐか、婿に来てもらうかの選択に迫られるのだ。ストーリーとしては結構だが、人生と考えると幸福とは言い難い。
(せめて、もう一人くらい家族がいればいいのに……)
使用人たちがいたとしても、きっと寂しいだろう。長くモブキャラの中で孤独を感じていたクリスには、その苦痛がよくわかる。クリスはエリーナの祖父、ディバルトのプロフィールをよく読み、その人柄を読み取る。ラルフレア王国と関わりの深い貴族たちからも、ディバルトの評判を聞いた。
同時にアスタリア王国の現状、ラルフレア王国との関係性、家族のことも含めて熟考し決断する。
(僕が、エリーナの家族になろう)
自分の手で幸せにすると決めた。それならば、遠い異国の地にいるよりも傍で見守っていたい。この先の障害は、全て取り除いてあげたかった。そう決めると行動は早く、父親を説得して王位継承権を放棄し、領地をもらって有能な執事を雇い経営を任せる。月に一度報告と指示を手紙でおくることにした。
そしてもしもの時のために顔を繋いでいたウォード家に、無理を言って養子にいれてもらった。直接ローゼンディアナ家に養子を申し込んでも受けてもらえないと考えたのと、何かあった時に迷惑がかかると思ったからだ。
その点ウォード家はラルフレア王国に属しているが、その実アスタリア王国よりの家だ。表向きは領地に引きこもって中立の立場をとっていたが、アスタリア王家との繋がりは深い。ウォード家は古くよりアスタリアの王族に何かあった時の、避難場所になっていたのだ。
(僕が家族として、エリーナを守る)
強い決意を胸に秘め、クリスは単独ラルフレア王国に渡った。家族には見聞を広めるために諸国を旅するとだけ手紙を送った。もちろん居場所は知らせない。必ず手紙を送るので捜索隊は出さないように念を押した。
その後はウォード家の協力もあって、ディバルトとつないでもらい直談判した。最初は渋っていたが、何度も足を運び真摯な想いを伝えるクリスに折れ、契約を結ぶことにしたのだ。養子を迎えるか考えていたこともあったらしい。そしてエリーナを第一優先に動くこと、何があっても守り抜くこと、エリーナの選択を優先すること、エリーナが卒業するまでを契約期間とすることを約束した。
そして念願叶って養子として迎え入れられ、エリーナを目にした時の感動は一生忘れられないものとなった。彼女が自由を得て動き、生きている。それだけで涙が溢れそうになった。アメジスト色の瞳が可愛く、引き込まれる。目をまんまるに開いて驚いており、愛おしさが込み上げた。
(必ず僕が幸せにする。何でも選べるように、幸せを掴めるように)
それがクリスの行動理念であり、その後エリーナの願いを叶えるために奔走することになるのだった。すぐにエリーナがシナリオを知らず、悪役令嬢を目指していることに気づき頭を抱えるが、温かく見守ることにした。
エリーナへの想いをひた隠し、誰よりも傍で見守る。自分が選ばれるという考えはとうに捨てながらも、自分の手で幸せにしたいと願う矛盾を見ぬふりをした。
シナリオ通りに動かなかったため、エスコートの相手に、今後を共にする相手に選ばれた時は信じられず、今でも夢ではないかと疑っている。それが、クリスとしての今までだった。
クリスは肌寒さを感じてうっすらと目を開けた。卒業パーティーの騒動が終わり、一息ついた夜。体をソファーに沈めればいつの間にか眠っていたらしい。なんだか懐古的な想いを胸に抱きつつ、部屋を見回す。住み慣れたローゼンディアナ家の自室とも、もうすぐお別れだ。
「エリーは、僕が幸せにするから」
今は言えない秘密も、いつか打ち明けられたらと思う。そして、今までのゲームについて語りたい。同じ時を共有したもの同士にしかできないことだ。
クリスは充足感に満たされつつ、エリーナを思い浮かべて幸せそうに口角を上げるのだった。
そして家族がベッドの脇に揃い、頭の中にある情報と照らし合わせていく。赤髪金目の壮健な男が父であるアスタリア王であり、その隣に同じ赤髪金目の母親がいた。父親の反対側にはオレンジの髪と金目の女性がおり、正妃だった。クリスの顔の近くに正妃の子どもが二人いて、赤髪金目が長兄、オレンジ髪と金目が次兄だ。
次兄のシルヴィオはクリスと一歳違いであり、心配そうに可愛い顔を向けていた。家族全員から体調を気遣う言葉をもらい、クリスは困ったように微笑んだ。こんな時にどう振舞うのが子供らしく適切なのかがわからなかったからだ。
しばらくは安静にしているようにと言葉をもらい、クリスは軽く頭を下げる。その行動に少し家族が驚いたようだったが、微笑みを残して部屋から出て行った。念のため侍女が一人壁際で待機している。
クリスはベッドに横になり、時間があるのをいいことに頭の中にあるこのゲームの情報に目を通し始めた。まずは彼女がなっているはずのヒロインについて熟読すれば、中々数奇な人生ということがわかった。
(エリーナ……クーデターで亡くなった前王の娘か。僕より四つ下だから、今は七歳かな)
彼女が幸せになれることを願いつつ、自分のプロフィールを見つけたので読んでみる。ざっと流し読めば、気になる言葉が書かれていた。
(隠しキャラ?)
どうもクリスはモブキャラではなく、ルートが存在する隠しキャラのようだ。卒業パーティーで他の攻略キャラを選ばなかった場合、ルートが解放されるそうなので確率は低そうだ。エリーナが学園に入った二年目に留学するらしい。
ストーリーが気になってきたので、他のキャラのプロフィールを見るのは後にしてシナリオを読み込む。各キャラごとのシナリオは、自分も含めると5つあり、分岐も全て読んでいく。一つ読むだけでも時間がかかり、合間に食事と睡眠を挟み二日をかけて読み切った。どのルートもエリーナは幸せを掴んでおり、クリスは胸を撫でおろす。
だが、一つだけ気にかかるところがあった。
(王子のルートだけ、デッドエンドがあるな……)
エリーナがどのルートに入るかは分からないが、できるなら回避したい。ここはゲームの世界だが、ゲームではない。おそらく死ねば生き返ることはできないだろう。そう想像しただけで背筋が凍り、クリスは表情を曇らせた。
(どうにかしてこのルートを回避できないかな……)
王子のルートをもう一度読み直し、各キャラのプロフィールも細かく見て、なんとか打開できないかと考えを巡らせた。
(ベロニカが今作の悪役令嬢で、王子の婚約者になるのか……)
そしてクリスはニヤリと笑い、体の回復を待って各方面に将来のエリーナの憂いを払うために働きかけたのだった。
クリスとして生き始めて四か月が過ぎ、体も走り回れるほど元気になった頃にラルフレア王国のオランドール公爵家長女、ベロニカへ婚約の申し込みを行った。ちょうど王宮ではラルフレア王国と王族が婚姻する話題が上がっていたため、申し出たのだ。
(これで、僕とベロニカが婚約すれば、悪役令嬢になる前に手を打つことができる。それにもし断られるなら王家が動くだろうから、王子と早めに婚約する可能性もある。そうなれば、エリーナが王子のルートを選ぶ可能性は低くなるだろう)
重鎮の貴族たちは現在のラルフレア王国は公爵家が二つ潰れたため、公爵令嬢がベロニカ一人しかいないことを懸念していた。公爵令嬢は有効な外交の切り札ともなるため、国は手放したがらないと読んだのだ。
そしてその読みは当たり、婚約の申し出は断られベロニカはジークと七歳にして婚約を結ぶことになった。
(これで、二人が仲良くなってくれればエリーナの危険が減る……。エリーナは何をしてるんだろう……。シナリオに沿うなら、攻略対象の先生が家庭教師をしている頃かな)
その頃エリーナはラウルと街へ本を買いに行き、悪役令嬢になりきって啖呵を切っていたのだがそれはまた別の話。
そしてクリスはエリーナの幸せを願いながら、何かが起こった時に対応ができるように研鑽に励み、周りが目を見張る速さで知識を得ていった。シルヴィオには最近つまらなくなったとジト目を向けられたが、兄にかまっている暇はない。
そんな日々が続き、半年が過ぎた時。クリスはシナリオを読み返していてふと気づいた。
(あれ、エリーナは五人の誰かを選んで自分の理想に近い人生を得られるけど、誰とも結婚しないという選択肢はないよね……)
貴族であれば結婚は義務のようなものなので、その選択は滅多に無いのだが、実際アスタリア王国でも未婚の令嬢はいる。
(それに、おじいさんが亡くなって長く一人で過ごすのも心配だし……)
シナリオによると十五で祖父が亡くなり、身寄りがない彼女は誰かの下に嫁ぐか、婿に来てもらうかの選択に迫られるのだ。ストーリーとしては結構だが、人生と考えると幸福とは言い難い。
(せめて、もう一人くらい家族がいればいいのに……)
使用人たちがいたとしても、きっと寂しいだろう。長くモブキャラの中で孤独を感じていたクリスには、その苦痛がよくわかる。クリスはエリーナの祖父、ディバルトのプロフィールをよく読み、その人柄を読み取る。ラルフレア王国と関わりの深い貴族たちからも、ディバルトの評判を聞いた。
同時にアスタリア王国の現状、ラルフレア王国との関係性、家族のことも含めて熟考し決断する。
(僕が、エリーナの家族になろう)
自分の手で幸せにすると決めた。それならば、遠い異国の地にいるよりも傍で見守っていたい。この先の障害は、全て取り除いてあげたかった。そう決めると行動は早く、父親を説得して王位継承権を放棄し、領地をもらって有能な執事を雇い経営を任せる。月に一度報告と指示を手紙でおくることにした。
そしてもしもの時のために顔を繋いでいたウォード家に、無理を言って養子にいれてもらった。直接ローゼンディアナ家に養子を申し込んでも受けてもらえないと考えたのと、何かあった時に迷惑がかかると思ったからだ。
その点ウォード家はラルフレア王国に属しているが、その実アスタリア王国よりの家だ。表向きは領地に引きこもって中立の立場をとっていたが、アスタリア王家との繋がりは深い。ウォード家は古くよりアスタリアの王族に何かあった時の、避難場所になっていたのだ。
(僕が家族として、エリーナを守る)
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そして念願叶って養子として迎え入れられ、エリーナを目にした時の感動は一生忘れられないものとなった。彼女が自由を得て動き、生きている。それだけで涙が溢れそうになった。アメジスト色の瞳が可愛く、引き込まれる。目をまんまるに開いて驚いており、愛おしさが込み上げた。
(必ず僕が幸せにする。何でも選べるように、幸せを掴めるように)
それがクリスの行動理念であり、その後エリーナの願いを叶えるために奔走することになるのだった。すぐにエリーナがシナリオを知らず、悪役令嬢を目指していることに気づき頭を抱えるが、温かく見守ることにした。
エリーナへの想いをひた隠し、誰よりも傍で見守る。自分が選ばれるという考えはとうに捨てながらも、自分の手で幸せにしたいと願う矛盾を見ぬふりをした。
シナリオ通りに動かなかったため、エスコートの相手に、今後を共にする相手に選ばれた時は信じられず、今でも夢ではないかと疑っている。それが、クリスとしての今までだった。
クリスは肌寒さを感じてうっすらと目を開けた。卒業パーティーの騒動が終わり、一息ついた夜。体をソファーに沈めればいつの間にか眠っていたらしい。なんだか懐古的な想いを胸に抱きつつ、部屋を見回す。住み慣れたローゼンディアナ家の自室とも、もうすぐお別れだ。
「エリーは、僕が幸せにするから」
今は言えない秘密も、いつか打ち明けられたらと思う。そして、今までのゲームについて語りたい。同じ時を共有したもの同士にしかできないことだ。
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