悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
141 / 194
学園編 18歳

135 人々の支えに感謝をしましょう

しおりを挟む
 卒業パーティーの翌日。目を覚ましたエリーナは、見慣れた天井が目に映って安堵した。心のどこかで卒業パーティーが終われば、この世界も終わるのではないかと不安だったのだ。いつもと同じようにサリーに着替えを手伝ってもらい、朝食の席でクリスと顔を合わせる。

「おはよう、エリー」

「おはよう、クリス」

 何気ない会話。それを失いかけた恐怖は、まだぬぐい切れない。昨日までと二人の身分が変わっても、変わらない関係性がそこにあった。エリーナは安心して、静かに息を吐く。そこでようやく、緊張が解けていなかったことに気付いたのだ。
 朝食を終えれば、書斎でクリスと今後の予定について詳しく話した。一か月後をめどに西の国へ帰り、各方面に挨拶と説明をした後は領地でのんびり過ごすそうだ。王位継承権は放棄しており、早い隠居生活だとクリスは笑っていた。

 そして午後には王宮から早馬が来て、現王の退位と当面はジークが王の代わりを務め、国が落ち着いたら正式に即位することが伝えられた。王は軟禁状態であり、粛々と取り調べが進んでいるらしい。クーデターの全貌を明らかにし、罪状を吟味したうえで処罰されることになっている。
 国民には三日後に知らせるようで、現在は貴族間で調整が行われているそうだ。国民にはクーデターの真相と、エリーナの存在を知らせ、近く西の第三王子と婚姻すると喧伝する。
 クリスについては、貴族には知れ渡ったが国民には伝えないと決まったらしい。クリスも異存はなく、ローゼンディアナ領は王家直轄となり名だけを遺すことになった。
 同時に二大公爵家主導で不正を働いていた貴族を処罰するようで、王宮の勢力図が大きく変わることが予想されていた。

 政治にはあまり関心のない二人は、その知らせに適当に相槌を打っていたのだが次の事項に移ると目を剥いた。思わず声を上げる。

「え、オランドール家で王女教育を受けるんですか?」

「なんで? ここで受ければいいじゃないか」

 なんでもエリーナが王女と判明したため、婚礼に間に合うように王女としての素養を身に着けなくてはいけないらしい。伯爵令嬢として基礎的な部分はできているため、後は王族の伝統や風習に関する部分を学ぶそうだ。
 そして何より、クリスの下に嫁ぐならば一緒に暮らしているのは王家としては体裁が悪いとのことだった。普通の婚礼ならば、婚姻を結ぶまで二人が一緒に住むことはない。今回はかなり特殊なので、エリーナは馴染があるオランドール家に住まわせてもらうことになったのだ。

「……それ、つまりエリーの後ろ盾にオランドール家がつくってことだよね」

 苦々しい顔でクリスが問いかければ、伝令は重々しく頷いた。つまりエリーナにとって第二の実家とも言えるわけであり……

「何かあったら、ベロニカ様のところか王宮に駆け込めばいいのね」

 とても強力な「実家に帰らせていただきます」の切り札ができたため、クリスは大変だと苦笑した。

「そんな気が起こらないように、砂糖漬けにするから覚悟してね」

 相変わらずさらりと甘いセリフを口にするクリスを伝令は流し、先に進めた。すでにオランドール家ではエリーナを迎える準備ができており、荷物をまとめしだい向かってほしいそうだ。
 そのためエリーナはサリーとともに急ぎ支度をし、馬車でオランドール家へ向かったのだった。クリスが寂しそうにじぃっとエリーナを見ていたのが、印象的だった。
 オランドール家では手厚く迎え入れられ、ベロニカの先生でもある老婦人の下で王女教育を受ける。エリーナは今までの悪役令嬢として受けてきた王妃教育を思い出し、老婦人が目を見張る速さで身に着けていった。

 そして、エリーナがオランドール家に身を寄せている間に、ラウル、ジーク、ルドルフ、ミシェルがエリーナを訪ねてくれた。ラウル、ジーク、ルドルフは三人一緒に訪ねて来て、卒業パーティーのことについて詳しく話してくれた。改めてジークが頭を下げる。

「俺が謝ってすむ話ではないが、クーデターを起こし国に混乱を招いて申し訳なかった。これからは、正しい歴史の下でよい方向に進めるよう努力するつもりだ」

「殿下……殿下が謝る必要はありませんわ。わたくしは、殿下とベロニカ様が作る国を楽しみにしていますの。ずっと応援しますわ」

 詳しく話を聞けば、エリーナとベロニカが攫われた時、一方的に粛清する王の対応に疑念を抱いたのをきっかけに、ラウルの下でクーデターの情報を集めたらしい。もともとラウルはクーデターの真相を探っていたこともあって、二人は結託して歴史を正すことに決めたそうだ。そこにルドルフも加わり、入念に現王の罪を暴く準備を進めた。
 あの場で事を起こすとは決めていなかったが、エリーナに何か起これば動くつもりでいたらしい。そして、ラウルは胸元から二通の手紙をエリーナに差し出した。

「エリー様、この手紙は貴女が持っているべきです」

 ラウルは証拠として挙げていた二通の手紙をエリーナに渡して、読むように勧める。エリーナがそれらに目を通してみると、前王、前王妃の二人から母あてに、体調とお腹の子を気遣う文章が認められていた。
 子どもが生まれ、クーデターの予兆が静まったら正式に王家の子として認め、セレナを側妃に迎えるとも書かれていたのだ。文字から溢れる温かさに、エリーナは自分の存在を受け入れてもらえたように思えて、嬉しくなる。
 この手紙はエリーナに何かあった時のために、祖父ディバルトがクリスに託していたものであり、それをラウルが預かったらしい。手紙を丁寧に畳んでテーブルに置いたエリーナに、ラウルは過去を偲ぶ表情で言葉をかける。

「エリー様、夏休みに行った前王の石碑を覚えていらっしゃいますか」

「えぇ。屋敷が見えるところにあったものでしょう?」

 夕日の中で見た景色は強く印象に残っている。そして改めて、そこで父親が亡くなったのだと理解した。

「あのクーデターの日、王は王宮で妻子を殺され保養地に逃れようとされていました。他にも王宮から近い保養地があるのですが、あそこに向かったのは一目でもセレナ様を、お腹の中にいるエリー様を見たかったのではないかと思ってしまうのです。歴史家の邪推ですけどね」

 そう言ってラウルは寂しそうに微笑んだ。誰にも分からない前王の最期。エリーナは父親の最期に想いを寄せ、視線を落とした。

「そうだったら、嬉しいですね」

 手紙から温かな人柄と優しさが伝わってきた。今になって、一目でも会いたかったと思う。数日前に王宮の計らいで前王の墓前に参ったところだった。墓に花を供えても、父親の死を悼む感情は出てこなかったが、今なら寂しいと思えた。

「また、お墓参りをしたいと思います」

 そう静かに気持ちを零したエリーナに、ルドルフが微笑みかける。

「エリーナ嬢。あちらが嫌になればいつでも帰ってくればいい。俺たちが守る」

 ルドルフはジークの様子を怪しみ追究したところ、助力を乞われて協力したらしい。最初から話をしてくれていれば、もっと早く解決ができたと少し憤慨していた。三人の協力がなければ、成し遂げられなかっただろう。
 エリーナは彼らの想いと行動に深く感謝し、頭を下げる。今自分がクリスとの道を歩めるのは彼らのおかげだ。

「ジーク様、ラウル先生、ルドルフ様。ありがとうございます」

 そうエリーナが微笑んでお礼を口にすると、三人は「いつでもこちらへ帰ってくればいい」と笑った。


 そしてミシェルは王女教育を頑張っているエリーナのために、カフェ・アークのプリンを持ってきてくれた。そして、屈託のない笑顔で今まで通りに接してくれる。

「エリーナ様のために、西の国にカフェ・アークを進出させるからちょっと待っててね! ドルトン商会も一部移す予定だから、今まで通り快適な暮らしを届けるよ!」

「それは楽しみにしているわ! プリンが食べられなくなったらどうしようと思っていたの!」

 ロマンス小説も輸出してくれると約束してくれ、エリーナは心配事が一気に無くなったのだった。聞けば、卒業パーティーの時ミシェルはジークたちの指示で、エリーナに何かあった時のための逃走経路を用意していたらしい。改めて多くの人に守られていたことを感じたエリーナは、感謝で自然と頭が下がるのだった。

 そして王女教育を進める間に、王宮で正式に王族として迎え入れられる儀式が行われ、茶会に夜会とめまぐるしく予定が組まれた。国民へ顔を見せ、大歓声に迎えられた時は顔を引きつらせないようにするので精一杯だった。

 そんな怒涛の一か月を乗り越え、西の国へ旅立つ日がやってきたのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...