悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
142 / 194
学園編 18歳

136 悪役令嬢は舞台から降りましょう

しおりを挟む
 怒涛の一か月を乗り越え、エリーナは久しぶりにローゼンディアナ家に戻っていた。荷造りの最終確認が終わり、サロンでクリスと出立前の休息を取っている。サリーがお茶の用意をしてくれ、一息ついていた。

「ほんと、徹底的に僕たちを会わせなかったよね。絶対身分隠して動いていたことへの嫌がらせだと思うんだけど」

 小さな丸テーブルを挟んだ向かいでお茶をすするクリスは、呆れ顔で溜息をつく。

「……逆にそれぐらいで許されたことに感謝するべきよ」

 他国の王族が伯爵代行として長く活動していたことは、下手すれば外交問題に発展しかねなかった。だが、西の国が不関与であり、後日正式な文章で謝罪と国に帰ったら灸をすえると書かれていたこと、クリスのラルフレア王国での功績の大きさを考慮してお咎め無しとなったのである。

「それで? なんで王子なのにウォード家やうちに養子に来たのよ」

 バタバタしていて有耶無耶になっていたことを、エリーナはやっと訊くことができた。クリスは「ん~」と不明瞭な声を漏らし、曖昧に微笑む。

「エリーに会ったからだよ」

「……どういうこと?」

「ディバルト様は基本的にエリーを屋敷から出したがらなかったけれど、時たま茶会に連れて来られてね。ウォード家でお世話になっていた時に見て、一目惚れしたんだよ」

 おそらくエリーナの中に入る前の出来事だろう。エリーナの記憶には無く、目を瞬かせた。

「そんな理由で?」

「まぁ、ちょっとその時、国にいるのが嫌になってたこともあってね……。今のところはこれぐらいで許してくれない?」

 あまり話したくないようなので、エリーナは「ふ~ん」と頷くだけにした。これから長く一緒にいるのだ。ゆっくり聞けばいい。
 そしてクリスは身を乗り出して、エリーナの手に自身の手を重ね金色の瞳を向けた。

「エリー……本当によかったんだよね。僕についてきて……ラルフレア王国で生きることもできたのに……」

 クリスはまだひっかかっているのか、不安げな表情をしていた。エリーナは呆れ顔になって、クリスの手を握り返す。

「私が決めたの。後悔なんてしないわ」

 そして強気な笑みを浮かべ、誇りを込めて言葉を続けた。

「それに、悪役令嬢は幕が下りたら舞台から降りるものよ。私のこの国での役割は終わったの。だから、これからはずっとクリスの側にいるわ」

「エリー……ありがとう。愛しているよ」

 クリスは花が綻ぶように破顔し、エリーナの心臓が跳ねる。好きな人が笑うだけで、エリーナまで幸せになる。エリーナは頬がにやけないようにするのが精一杯で、クリスは可愛いと思いながらエリーナの手を引き寄せて甲に口づけを落とした。

「エリー、一生離さないから」

 強い意思のこもった金色の瞳に見つめられ、エリーナの頬は紅く染まる。エリーナは照れ臭そうに少し顔を斜めにし、強気な口調で返す。

「私も、一生離さないわ」

 サロンを甘い空気が占め、幸せが二人を包んでいた。だが、見つめ合う二人をサリーの咳払いが現実に戻す。

「申し訳ございませんが、出立のお時間です」

 エリーナは部屋を見回し、名残惜しそうにクリスに手を引かれて玄関へと向かった。十年の思い出が詰まった場所だ。クリスに手を引かれて馬車に乗り、最初の目的地へと向かう。西の国へ行く前に、寄りたいところがあった。ほどなく小高い丘で馬車は止まり、エリーナは草を踏んで歩く。

 遠くにローゼンディアナ家が見える丘に、その石碑はあった。エリーナは前王の最期を刻んだ石碑の前に立ち、隣でクリスがしゃがみ込んで花を手向けている。国を出る前に、父親へ挨拶をしておきたかったのだ。
 エリーナは父へと想いを馳せて目を閉じる。

(お父様、今からアスタリア王国へ行ってきますわ。わたくしは今幸せです。今まで、ここから見守ってくださってありがとうございました)

 王宮に行くたびに肖像画を眺めた。前王をよく知る侍女は、目元が似ていると話していた。そして父の偉業を聞けば、父親とつながりのあるアメジスト色の瞳が誇らしくなったのだ。
 頬を撫でる風は冷たく、ことさら寂しさが増す。

「さぁ、行こうか」

 立ち上がったクリスが、エリーナに手を伸ばした。エリーナはその手を取り温かさを感じる。そしてもう一度石碑に、ローゼンディアナ家に視線を移した。あそこで物語が始まり、クリスに出会ったのだ。領地は王家直轄となるが、屋敷は二人のために手入れをして保管してくれるらしい。

「いってきます」

 エリーナはそう呟き、クリスに手を引かれて馬車へと向かうのだった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...