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アスタリア王国編
169 恋する人と向き合いましょう
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クリスが楽しげにほろ酔いで帰ってきた翌日。エリーナは、午後の自由時間をリズと共にベロニカに勧めるロマンス小説の選書をして過ごしていた。あと一週間もすれば、近隣三国の交流会のためにベロニカとジークがアスタリアに来るのだ。
そしてある程度終わったところで、隣で本を選んでいるリズに顔を向けた。
「ねぇ、朝食の時、クリスが今夜話があるって言ってたでしょ? 何だと思う?」
「へ?」
リズは突然訊かれたため、驚いて変な声を上げてしまった。その場にリズもおり、秘策が効いたなと思っていたのだ。だがそのことをエリーナには言えない。
「えっと……何でしょうね」
リズが表情を整えてからエリーナの方を向けば、思い悩んだ顔が目に入った。
「わたくし、何かしたかしら。よくない話なんじゃないかって、朝から気が重くて……」
「え、そんなことありませんよ。きっと、話したい大事なことがあるんです」
リズはこれでやっと前に進むと胸を撫で下ろしていた。なかなか言い出さない二人に焼きもきしていた上、エリーナに隠し事をしているようで心苦しかったのだ。
「大丈夫です。それに、これはチャンスですよ。二人っきりで話せるのですから、エリーナ様のこともお話しになったらいいんです。これ以上長引かせると、体に毒ですよ」
リズは我ながらいいアドバイスと得意げな笑みを浮かべるが、エリーナの表情は曇ったままだ。
「そんな……クリスの話が何なのかも分からないのに」
「なら、先に話せばいいんですよ。先手必勝です!」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫です。ダメだったら、カイルさんとベロニカ様を呼んで殴り込みに行きます」
シュッシュッとパンチを繰り出すリズを見れば、エリーナの不安は少し薄れる。明るいリズがいてくれることは、本当に助かっていた。
「わかったわ。頑張る」
「そのいきです!」
そしてその夜。エリーナはクリスの部屋のドアの前で大きく深呼吸をし、軽くノックをした。すぐに返事が聞こえ、静かにドアを開ける。
「エリー、こっちへおいで」
クリスはソファーに座っており、自分の隣を叩いた。ゆったりとしたシルクの部屋着を着ており、隣に座れば石鹸のいい香りがする。
エリーナは緊張で表情が固くなっており、クリスも普段より真面目な顔をしている。自然と場が緊張感に支配され、クリスは静かに息を吸ってエリーナに微笑みかける。
「エリー、わざわざごめんね。ゆっくり話したくて」
「ううん。私も話したかったから」
話したいと思っていても、なかなかその先に進めない。クリスより先に打ち明けてしまおうと心していても、いざとなれば嫌われないかと不安がまとわりついた。クリスはそっとエリーナの頭を撫で、髪へと指を滑らせる。その指先から緊張が伝わってくる。
真剣な金色の瞳を向け、クリスは口を開く。
「エリー……ごめん」
苦しみが滲んだ声で紡がれた言葉が謝罪だったため、エリーナは怯えた表情を浮かべて息を詰めた。最悪の結末が頭をよぎる。エリーナが何か言おうとするのをクリスは目で制し、決意が鈍らないうちに言葉を繋げた。前に踏み出すための、一歩。
「僕は、エリーにたくさん隠し事をしているんだ」
エリーナは一瞬戸惑った表情になったが、恐る恐る頷く。その先の話が読めない。
「知ってるわ。クリスは秘密が多いもの」
「もし、エリーが全てを知ったら、軽蔑するかもしれないけど……聞いてくれる?」
後戻りができないところまで、クリスは言い切った。
エリーナの胸の中は不安と心配で騒めく。その話を聞いて今までと同じでいられるのか、そして自分のことを話せるのか。見えない未来に足がすくむ。だが、もう後戻りも立ち止まりもしたくない。
(クリスを信じるわ。そして、自分を信じる)
時間がかかっても受け入れる。そして分かってもらう。エリーナは覚悟を決め、静かに深呼吸をして真剣な瞳でクリスを見つめ返した。
「聴くわ。それに、見くびらないで。私はクリスを信じているから」
「ありがとう……」
クリスはエリーナの手に自身の手を重ね、一息置いて話し出す。訴えかけるような、縋るような金の瞳を向けて。
「エリー、僕はずっと前から君を近くで見ていた。リリー・マリア。カローナ・ヴァロワ。そして、リリアンヌ・ドローズ……」
その名が出た途端、エリーナは目を見開きどういうことと、不安と期待をのぞかせる。クリスは飛び出しそうなほど高鳴る鼓動に息が苦しくなるが、何度も繰り返し考えた言葉を紡ぎ出した。
「多くのゲームで悪役令嬢を演じてきた“貴女”を、僕は近くで見ていたんだ。名もないモブとして。……僕も“貴女”と同じでゲームキャラの中にいた」
“貴女”。そこにはエリーナだけでなく、今までの悪役令嬢が込められているのが分かって胸が熱くなる。エリーナは信じられないと大口を開け、クリスが口にする真実にじっと耳を傾けた。
エリーナよりも多くのモブキャラの中にいて、完全オートだったこと。10回目でエリーナが現れ、孤独を和らげ生きる希望を与えてくれたこと。29回目で乙女ゲームの管理者に会い、エリーナが自分の人生を歩めるよう願ったこと。
「だから、もう他のゲームが始まることはないよ。ここが最後の世界なんだ。僕が勝手に決めてしまったけど……」
そうはっきりここで生きられると聞いて、エリーナは安心して肩の力が抜けた。
(よかった……これで、クリスとずっと一緒にいられる)
安堵と喜びがじわじわと広がってきて、表情が少し柔らかくなった。
一方のクリスは硬い表情で、その一つ一つを、騙していたと申し訳なさそうに話していた。触れている手は冷たく、不安が伝わってくる。
「それで、僕はシナリオをもとに動いたんだ……」
「シナリオを知った上で、動いてたって……何をしたの?」
サリーからふんわりとクリスがエリーナのために裏で色々頑張っていたとは聞いていた。その時はプリンやロマンス小説のことかと思ったが、シナリオを知っているとなれば話は変わる。
「えっと……」
クリスは気まずそうに顔を歪め、エリーナの真っ直ぐな目に耐えられず白状する。
エリーナのデッドエンドを回避したくてベロニカに婚約を申し込んだこと。エリーナが祖父を亡くした後家族がいなくなるのを防ぐために、ウォード家に養子入りし、さらにローゼンディアナ家に養子入りしたこと。
そして、クリス・ローゼンディアナとしてエリーナが好きな人生を選べるように障害になるものは排除し、選択肢を用意していたこと。
それらをクリスは淡々と、簡単そうに話しているが並大抵の努力と忍耐強さでできることではない。エリーナの知らなかったクリスの献身を聞くにつれ、エリーナの胸は締め付けられ、涙がこみ上げてきた。頬を伝った涙を見たクリスは慌てて、指で涙をぬぐい重ねる手に力をこめる。
「エリー、ごめんね。こんな、嫌だよね……怖い、よね」
クリスは自分の想いがもはや執着に近い、狂気じみたものであることを自覚している。もしこれでエリーナに嫌われ、距離を置かれたとしても彼女の幸せのために最善を尽くすと決めていた。
だがエリーナは小さく首を横に振り、重ねられた手にさらに空いている手を置き、軽く握った。この大きな手が今まで守ってくれていたと思うと、涙が溢れ多幸感に包まれる。
「ありがとう……嫌いになんか、ならないわ。もっと、早く言ってくれればよかったのに。もっと、自分のために生きてくれたらよかったのに」
「でも、エリーが幸せな人生を歩めるのが、僕の幸せだから……。だから、この世界で最後まで幸せに生きて欲しい。たとえ、僕の隣りじゃなくても」
どこまでも自己犠牲的なクリスに、エリーナは思い余ってクリスの首に手を回し抱きついた。言葉にできないほどの感謝と感動は、行動で表すしかない。
「そんなの嫌! これからは、クリスも一緒に幸せになるの。私が幸せにするんだから!」
耳元で聞こえる声。布越しに伝わる温かさ。エリーナが行動で示してくれた愛情に、クリスは感情が昂り、思わず抱きしめ返す。安堵、喜び、愛しさ、様々な感情が沸き起こり、体中を駆け巡った。
エリーナの言葉に、行動に自分の存在を認められた気がして、今までのことが報われたようで、クリスはエリーナの肩に顔を埋めた。体が震え、堰を切ったように涙が溢れてくる。
「エリー、愛している。エリーの全てを手に入れたいし、僕で満たしたい。本当はエリーが他の男といるだけで嫌だし、なんならずっと閉じ込めて一緒にいたい……こんな僕でも、好きでいてくれる?」
嫉妬深く、独占欲が強くて、狂気じみた愛。ロマンス小説なら、面倒な男だと書かれるだろう。だが、その強い想いをぶつけられ、エリーナは嬉しいと、愛しいと思ったのだ。自分だけを求められる。それは甘美な心地よさ。
「私を誰だと思ってるの? 好きになった人のためなら何だってする、プロの悪役令嬢よ? クリスに負けないくらい大切にするんだから!」
愛しているとはなんだか気恥ずかしくて言えなかった。
「ありがとう、エリー」
クリスは体を離し、涙に濡れる顔を笑顔に変える。
「絶対に、二人で幸せになろう」
クリスの顔が近づき、吐息を感じたと思えば頬に柔らかなものが触れた。チュッとリップ音が耳元で聞こえ、エリーナは頭から湯気が出るほど真っ赤になる。
「エリー、可愛い。愛してる」
「モ、モブのくせに……」
元モブに翻弄されているのがなんだか悔しく、強がった表情を見せるがもう一度頬にキスされればあっけなく崩れる。耐えられなくなったエリーナはクリスと距離を置き、ビシッと指をさす。
「絶対、いつかやり返して見せるんだから! 悪役令嬢のプロとして、必ずクリスを真っ赤にするんだから!」
悪役令嬢として目指す方向性がずいぶんズレているが、クリスは面白いから笑うだけで指摘しない。
「うん。楽しみにしてるよ」
そして、エリーナが落ち着いたところで二人で今までのゲームについて話し合った。記憶に残っているシーンや、面白かったこと、辛かったこと。今まで誰とも分かり合えなかったことが、二人の中で溶け合っていく。今までの虚無の時間が、この瞬間に繋がった。
「クリス……会えてよかったわ」
「僕もだよ。エリー」
二人は手を繋いだまま、昔話に花を咲かせたのだった。
そしてある程度終わったところで、隣で本を選んでいるリズに顔を向けた。
「ねぇ、朝食の時、クリスが今夜話があるって言ってたでしょ? 何だと思う?」
「へ?」
リズは突然訊かれたため、驚いて変な声を上げてしまった。その場にリズもおり、秘策が効いたなと思っていたのだ。だがそのことをエリーナには言えない。
「えっと……何でしょうね」
リズが表情を整えてからエリーナの方を向けば、思い悩んだ顔が目に入った。
「わたくし、何かしたかしら。よくない話なんじゃないかって、朝から気が重くて……」
「え、そんなことありませんよ。きっと、話したい大事なことがあるんです」
リズはこれでやっと前に進むと胸を撫で下ろしていた。なかなか言い出さない二人に焼きもきしていた上、エリーナに隠し事をしているようで心苦しかったのだ。
「大丈夫です。それに、これはチャンスですよ。二人っきりで話せるのですから、エリーナ様のこともお話しになったらいいんです。これ以上長引かせると、体に毒ですよ」
リズは我ながらいいアドバイスと得意げな笑みを浮かべるが、エリーナの表情は曇ったままだ。
「そんな……クリスの話が何なのかも分からないのに」
「なら、先に話せばいいんですよ。先手必勝です!」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫です。ダメだったら、カイルさんとベロニカ様を呼んで殴り込みに行きます」
シュッシュッとパンチを繰り出すリズを見れば、エリーナの不安は少し薄れる。明るいリズがいてくれることは、本当に助かっていた。
「わかったわ。頑張る」
「そのいきです!」
そしてその夜。エリーナはクリスの部屋のドアの前で大きく深呼吸をし、軽くノックをした。すぐに返事が聞こえ、静かにドアを開ける。
「エリー、こっちへおいで」
クリスはソファーに座っており、自分の隣を叩いた。ゆったりとしたシルクの部屋着を着ており、隣に座れば石鹸のいい香りがする。
エリーナは緊張で表情が固くなっており、クリスも普段より真面目な顔をしている。自然と場が緊張感に支配され、クリスは静かに息を吸ってエリーナに微笑みかける。
「エリー、わざわざごめんね。ゆっくり話したくて」
「ううん。私も話したかったから」
話したいと思っていても、なかなかその先に進めない。クリスより先に打ち明けてしまおうと心していても、いざとなれば嫌われないかと不安がまとわりついた。クリスはそっとエリーナの頭を撫で、髪へと指を滑らせる。その指先から緊張が伝わってくる。
真剣な金色の瞳を向け、クリスは口を開く。
「エリー……ごめん」
苦しみが滲んだ声で紡がれた言葉が謝罪だったため、エリーナは怯えた表情を浮かべて息を詰めた。最悪の結末が頭をよぎる。エリーナが何か言おうとするのをクリスは目で制し、決意が鈍らないうちに言葉を繋げた。前に踏み出すための、一歩。
「僕は、エリーにたくさん隠し事をしているんだ」
エリーナは一瞬戸惑った表情になったが、恐る恐る頷く。その先の話が読めない。
「知ってるわ。クリスは秘密が多いもの」
「もし、エリーが全てを知ったら、軽蔑するかもしれないけど……聞いてくれる?」
後戻りができないところまで、クリスは言い切った。
エリーナの胸の中は不安と心配で騒めく。その話を聞いて今までと同じでいられるのか、そして自分のことを話せるのか。見えない未来に足がすくむ。だが、もう後戻りも立ち止まりもしたくない。
(クリスを信じるわ。そして、自分を信じる)
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「ありがとう……」
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「多くのゲームで悪役令嬢を演じてきた“貴女”を、僕は近くで見ていたんだ。名もないモブとして。……僕も“貴女”と同じでゲームキャラの中にいた」
“貴女”。そこにはエリーナだけでなく、今までの悪役令嬢が込められているのが分かって胸が熱くなる。エリーナは信じられないと大口を開け、クリスが口にする真実にじっと耳を傾けた。
エリーナよりも多くのモブキャラの中にいて、完全オートだったこと。10回目でエリーナが現れ、孤独を和らげ生きる希望を与えてくれたこと。29回目で乙女ゲームの管理者に会い、エリーナが自分の人生を歩めるよう願ったこと。
「だから、もう他のゲームが始まることはないよ。ここが最後の世界なんだ。僕が勝手に決めてしまったけど……」
そうはっきりここで生きられると聞いて、エリーナは安心して肩の力が抜けた。
(よかった……これで、クリスとずっと一緒にいられる)
安堵と喜びがじわじわと広がってきて、表情が少し柔らかくなった。
一方のクリスは硬い表情で、その一つ一つを、騙していたと申し訳なさそうに話していた。触れている手は冷たく、不安が伝わってくる。
「それで、僕はシナリオをもとに動いたんだ……」
「シナリオを知った上で、動いてたって……何をしたの?」
サリーからふんわりとクリスがエリーナのために裏で色々頑張っていたとは聞いていた。その時はプリンやロマンス小説のことかと思ったが、シナリオを知っているとなれば話は変わる。
「えっと……」
クリスは気まずそうに顔を歪め、エリーナの真っ直ぐな目に耐えられず白状する。
エリーナのデッドエンドを回避したくてベロニカに婚約を申し込んだこと。エリーナが祖父を亡くした後家族がいなくなるのを防ぐために、ウォード家に養子入りし、さらにローゼンディアナ家に養子入りしたこと。
そして、クリス・ローゼンディアナとしてエリーナが好きな人生を選べるように障害になるものは排除し、選択肢を用意していたこと。
それらをクリスは淡々と、簡単そうに話しているが並大抵の努力と忍耐強さでできることではない。エリーナの知らなかったクリスの献身を聞くにつれ、エリーナの胸は締め付けられ、涙がこみ上げてきた。頬を伝った涙を見たクリスは慌てて、指で涙をぬぐい重ねる手に力をこめる。
「エリー、ごめんね。こんな、嫌だよね……怖い、よね」
クリスは自分の想いがもはや執着に近い、狂気じみたものであることを自覚している。もしこれでエリーナに嫌われ、距離を置かれたとしても彼女の幸せのために最善を尽くすと決めていた。
だがエリーナは小さく首を横に振り、重ねられた手にさらに空いている手を置き、軽く握った。この大きな手が今まで守ってくれていたと思うと、涙が溢れ多幸感に包まれる。
「ありがとう……嫌いになんか、ならないわ。もっと、早く言ってくれればよかったのに。もっと、自分のために生きてくれたらよかったのに」
「でも、エリーが幸せな人生を歩めるのが、僕の幸せだから……。だから、この世界で最後まで幸せに生きて欲しい。たとえ、僕の隣りじゃなくても」
どこまでも自己犠牲的なクリスに、エリーナは思い余ってクリスの首に手を回し抱きついた。言葉にできないほどの感謝と感動は、行動で表すしかない。
「そんなの嫌! これからは、クリスも一緒に幸せになるの。私が幸せにするんだから!」
耳元で聞こえる声。布越しに伝わる温かさ。エリーナが行動で示してくれた愛情に、クリスは感情が昂り、思わず抱きしめ返す。安堵、喜び、愛しさ、様々な感情が沸き起こり、体中を駆け巡った。
エリーナの言葉に、行動に自分の存在を認められた気がして、今までのことが報われたようで、クリスはエリーナの肩に顔を埋めた。体が震え、堰を切ったように涙が溢れてくる。
「エリー、愛している。エリーの全てを手に入れたいし、僕で満たしたい。本当はエリーが他の男といるだけで嫌だし、なんならずっと閉じ込めて一緒にいたい……こんな僕でも、好きでいてくれる?」
嫉妬深く、独占欲が強くて、狂気じみた愛。ロマンス小説なら、面倒な男だと書かれるだろう。だが、その強い想いをぶつけられ、エリーナは嬉しいと、愛しいと思ったのだ。自分だけを求められる。それは甘美な心地よさ。
「私を誰だと思ってるの? 好きになった人のためなら何だってする、プロの悪役令嬢よ? クリスに負けないくらい大切にするんだから!」
愛しているとはなんだか気恥ずかしくて言えなかった。
「ありがとう、エリー」
クリスは体を離し、涙に濡れる顔を笑顔に変える。
「絶対に、二人で幸せになろう」
クリスの顔が近づき、吐息を感じたと思えば頬に柔らかなものが触れた。チュッとリップ音が耳元で聞こえ、エリーナは頭から湯気が出るほど真っ赤になる。
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「絶対、いつかやり返して見せるんだから! 悪役令嬢のプロとして、必ずクリスを真っ赤にするんだから!」
悪役令嬢として目指す方向性がずいぶんズレているが、クリスは面白いから笑うだけで指摘しない。
「うん。楽しみにしてるよ」
そして、エリーナが落ち着いたところで二人で今までのゲームについて話し合った。記憶に残っているシーンや、面白かったこと、辛かったこと。今まで誰とも分かり合えなかったことが、二人の中で溶け合っていく。今までの虚無の時間が、この瞬間に繋がった。
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