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アスタリア王国編
174 親友たちと恋の話で盛り上がりましょう
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翌日、今度は完全にプライベートでエリーナはベロニカに会っていた。自室に招き、リズがお茶の用意をしている。久しぶりの三人でのお茶会だ。リズがお茶を淹れ終わり、丸テーブルの空いた席に座れば、楽しい時間の始まりだ。
ギリリと巻かれた縦ロールを揺らし、ベロニカは一冊の本をテーブルの上に置いた。このほかにも大量のロマンス小説を持ってきており、昨日のうちにエリーナの本棚に追加されていた。それとは別に持ってきたということは、特別なものなのだろう。
エリーナは美しい表紙に目を奪われ、金文字で書かれたタイトルを読み上げる。
「プリン姫の甘くとろける恋」
ベロニカはいたずらを考えている子どものように面白そうな笑みを浮かべており、嫌な予感がする。エリーナは恐る恐る本を手に取り、あらすじに目を通した。既視感をごまかしつつ、中身にざっと目を通し、特にクライマックスを目を皿にして読む。隣でリズが興味津々で覗き込んでいた。
どのエピソードも少し脚色はされているが、身に覚えのあるものばかりで、エリーナは本を落とさないようにするのでやっとだった。
「ベロニカ様……これ、何ですか」
パタンと本を閉じれば、横からリズにひょいっと取られた。目を輝かせて読んでいく。そしてエリーナが恨みがましい瞳をベロニカに向ければ、悪びれた様子のない美しい微笑が返ってきた。
「どこかのプリン好きのお姫様を題材にしたロマンス小説よ」
おほほほと、ベロニカは口に手を当てて笑っており、当然ネタを提供し執筆を命じた本人である。流し読みをしたリズは「わぁ」と口を開ける。
「すごい。父親の分からない不憫な伯爵令嬢が、プリンとロマンス小説の道を極めつつ、魅力的な四人に迫られてます。皆さんとのデートが詳細に載ってますね。そして夜会で王女であることがバレ、窮地に陥ったところを西の王子が颯爽と救ってます。さすがに政治的に詳細を書くのはまずかったんですね」
「その辺りを詳細に書いたのは、伝記ものとしてあるもの。こちらはストーリーを重視しているのよ」
すでに伝記があるとは聞き捨てならないが、自分を題材にしたロマンス小説の存在にエリーナは羞恥心に苛まれ、深く訊くどころではない。
「これは、きゅんきゅんしますね」
「えぇ。プリン姫が誰かなんて一言も書いていないのに、ご令嬢の間で爆発的に広がっているわ。近いうちに劇化もされるでしょうね」
「……わたくし、ラルフレアに帰れなくなりましたわ」
令嬢たちのほとんどが自分の恋愛劇を知っているなんて、どんな地獄だ。茶会でも夜会でも質問攻めに合うこと間違いない。
「あら、逆に知られているから、余計な詮索をされないで済むのよ。諦めなさい」
かくいうベロニカを題材にした小説もすでにいくつか出版されており、南の国の王女との経緯は劇化もされていた。それを思い出したエリーナは明後日の方を見て、乾いた笑みを浮かべる。
「大好きなロマンス小説の題材になれたことを、幸せだと思うことにします……」
そしてそれぞれが近況報告をし、わいわいとお菓子を食べながら盛り上がる。そして話が恋愛について入ったところで、ベロニカが鋭い視線をリズに向けた。狩人の目だ。
「そうそうリズ。貴女、他にわたくしたちに報告することがあるんじゃないの?」
「……へ?」
唐突に話を振られて、リズは目を丸くして口を開ける。その間抜けな顔がリズらしい。
「報告書はエリーナについてはたくさん書いてあったけど、エリーナからの手紙には貴女の恋愛についても話があったのだけど?」
「ひぇ!? え、で、でも、あの報告書はエリーナ様の近況を……」
「御託はいいわ。ほら、さっさと最近あったことについて話しなさい。無理なら、エリーナに集めた情報を事細かに披露してもらうけど?」
涼やかな微笑を浮かべるベロニカの目は本気だ。リズは顔を引きつらせ、怯えた顔で助けを求めエリーナに顔を向ける。だがこちらもニマニマと意地悪な顔をして、状況を楽しんでいた。つまり、味方はいない。リズは二人から視線の圧力を受け、そうそうに白旗を上げたのだった。
「えっと……エリーナ様のプリン作りに協力してもらった人で、マルクさんと言うんですが……食の好みが同じで、作る料理もおいしくて、気さくで話しているとすごく楽しくて落ち着くんです」
頬を赤く染めて、カップを見つめながらぽつぽつ話すリズは可愛い。相手のいる二人は初々しさを感じて、頬を緩めていた。友人が恋をしている姿は、なんとも素敵なものだ。
「それで、これからも一緒にいられたらいいなぁって……」
「恋に落ちてるわね」
「落ちてますね」
二人にそう言われ、リズは顔を真っ赤にする。熱くなってきたのか、手で顔を仰いでいた。
「ふ~ん。なら、告白すればいいじゃない」
「へぇ!? む、無理ですよ! そんな、まだ、出会ったばかりですし!」
手を突き出してぶんぶん振っている。そんな恋する乙女のリズに二人はキュンとした。
「あら、でもうかうかしてたら、他の女に取られるわよ?」
「でもぉ、こういうのには、タイミングがぁ」
リズも告白したい。恋人になりたいとは思っているようで、もじもじしながらも、解決策を求めているようだ。皆の頼れるお姉様、ベロニカは扇子でビシッとリズを指す。
「そうね。恋にはタイミングが必要よ。でも、タイミングは作り出すの。待っていても転がってこないわ」
重みのある言葉に、エリーナは思わず拍手をする。小さく「師匠」と呟けば、ばっちり聞こえたようで、軽く扇子ではたかれる。リズも感銘を受けたようで、おぉと目をキラキラさせてベロニカを見つめていた。さすが王妃様。カリスマ性は抜群だ。
二人から尊敬の眼差しを受け、ベロニカは咳払いをして言葉を続ける。
「リズ。友達に恋人が出来たら、真っ先に祝いたいの。だから、わたくしがアスタリアにいる間に告白しなさい」
「え、えぇ!? あと一週間もないじゃないですか!」
「あら、ちょうど、三日後にマルクとデートでしょ? そこで決めればいいわ」
エリーナは思い出したように言い出して、リズの退路を断つ。ベロニカの口端が上がった。獲物は逃がさない。そんな顔だ。
「み、三日後だなんて、無理です!」
「無理じゃないわ。やるの」
有無を言わさないベロニカの威圧感に気圧されたリズは、「うぅっ……」と呻き、悩みに悩んだ後、「はい」と小さく返事をしたのだった。そして告白について少し意見を出し合い、茶会も終わりに差し掛かったところで、エリーナが一通の手紙をベロニカに差し出した。
「ベロニカ様。少しお願いしたいことがありまして……」
手紙を受け取り、中に目を通したベロニカは訝し気に視線をエリーナに戻す。
「何を企んでるの?」
「いえ、ちょっと二国間で交流をと思いまして」
エリーナの含み笑いは、裏があると言っているようなものだ。
「……まぁいいわ。趣旨は悪くないし、かけあってみるわ」
「ありがとうございます!」
そしてエリーナはその意図を簡単に話し、それはおもしろいわねとベロニカが乗って話を詰めた。そして三人がにんまりしたところで今日はお開きとなったのである。
ギリリと巻かれた縦ロールを揺らし、ベロニカは一冊の本をテーブルの上に置いた。このほかにも大量のロマンス小説を持ってきており、昨日のうちにエリーナの本棚に追加されていた。それとは別に持ってきたということは、特別なものなのだろう。
エリーナは美しい表紙に目を奪われ、金文字で書かれたタイトルを読み上げる。
「プリン姫の甘くとろける恋」
ベロニカはいたずらを考えている子どものように面白そうな笑みを浮かべており、嫌な予感がする。エリーナは恐る恐る本を手に取り、あらすじに目を通した。既視感をごまかしつつ、中身にざっと目を通し、特にクライマックスを目を皿にして読む。隣でリズが興味津々で覗き込んでいた。
どのエピソードも少し脚色はされているが、身に覚えのあるものばかりで、エリーナは本を落とさないようにするのでやっとだった。
「ベロニカ様……これ、何ですか」
パタンと本を閉じれば、横からリズにひょいっと取られた。目を輝かせて読んでいく。そしてエリーナが恨みがましい瞳をベロニカに向ければ、悪びれた様子のない美しい微笑が返ってきた。
「どこかのプリン好きのお姫様を題材にしたロマンス小説よ」
おほほほと、ベロニカは口に手を当てて笑っており、当然ネタを提供し執筆を命じた本人である。流し読みをしたリズは「わぁ」と口を開ける。
「すごい。父親の分からない不憫な伯爵令嬢が、プリンとロマンス小説の道を極めつつ、魅力的な四人に迫られてます。皆さんとのデートが詳細に載ってますね。そして夜会で王女であることがバレ、窮地に陥ったところを西の王子が颯爽と救ってます。さすがに政治的に詳細を書くのはまずかったんですね」
「その辺りを詳細に書いたのは、伝記ものとしてあるもの。こちらはストーリーを重視しているのよ」
すでに伝記があるとは聞き捨てならないが、自分を題材にしたロマンス小説の存在にエリーナは羞恥心に苛まれ、深く訊くどころではない。
「これは、きゅんきゅんしますね」
「えぇ。プリン姫が誰かなんて一言も書いていないのに、ご令嬢の間で爆発的に広がっているわ。近いうちに劇化もされるでしょうね」
「……わたくし、ラルフレアに帰れなくなりましたわ」
令嬢たちのほとんどが自分の恋愛劇を知っているなんて、どんな地獄だ。茶会でも夜会でも質問攻めに合うこと間違いない。
「あら、逆に知られているから、余計な詮索をされないで済むのよ。諦めなさい」
かくいうベロニカを題材にした小説もすでにいくつか出版されており、南の国の王女との経緯は劇化もされていた。それを思い出したエリーナは明後日の方を見て、乾いた笑みを浮かべる。
「大好きなロマンス小説の題材になれたことを、幸せだと思うことにします……」
そしてそれぞれが近況報告をし、わいわいとお菓子を食べながら盛り上がる。そして話が恋愛について入ったところで、ベロニカが鋭い視線をリズに向けた。狩人の目だ。
「そうそうリズ。貴女、他にわたくしたちに報告することがあるんじゃないの?」
「……へ?」
唐突に話を振られて、リズは目を丸くして口を開ける。その間抜けな顔がリズらしい。
「報告書はエリーナについてはたくさん書いてあったけど、エリーナからの手紙には貴女の恋愛についても話があったのだけど?」
「ひぇ!? え、で、でも、あの報告書はエリーナ様の近況を……」
「御託はいいわ。ほら、さっさと最近あったことについて話しなさい。無理なら、エリーナに集めた情報を事細かに披露してもらうけど?」
涼やかな微笑を浮かべるベロニカの目は本気だ。リズは顔を引きつらせ、怯えた顔で助けを求めエリーナに顔を向ける。だがこちらもニマニマと意地悪な顔をして、状況を楽しんでいた。つまり、味方はいない。リズは二人から視線の圧力を受け、そうそうに白旗を上げたのだった。
「えっと……エリーナ様のプリン作りに協力してもらった人で、マルクさんと言うんですが……食の好みが同じで、作る料理もおいしくて、気さくで話しているとすごく楽しくて落ち着くんです」
頬を赤く染めて、カップを見つめながらぽつぽつ話すリズは可愛い。相手のいる二人は初々しさを感じて、頬を緩めていた。友人が恋をしている姿は、なんとも素敵なものだ。
「それで、これからも一緒にいられたらいいなぁって……」
「恋に落ちてるわね」
「落ちてますね」
二人にそう言われ、リズは顔を真っ赤にする。熱くなってきたのか、手で顔を仰いでいた。
「ふ~ん。なら、告白すればいいじゃない」
「へぇ!? む、無理ですよ! そんな、まだ、出会ったばかりですし!」
手を突き出してぶんぶん振っている。そんな恋する乙女のリズに二人はキュンとした。
「あら、でもうかうかしてたら、他の女に取られるわよ?」
「でもぉ、こういうのには、タイミングがぁ」
リズも告白したい。恋人になりたいとは思っているようで、もじもじしながらも、解決策を求めているようだ。皆の頼れるお姉様、ベロニカは扇子でビシッとリズを指す。
「そうね。恋にはタイミングが必要よ。でも、タイミングは作り出すの。待っていても転がってこないわ」
重みのある言葉に、エリーナは思わず拍手をする。小さく「師匠」と呟けば、ばっちり聞こえたようで、軽く扇子ではたかれる。リズも感銘を受けたようで、おぉと目をキラキラさせてベロニカを見つめていた。さすが王妃様。カリスマ性は抜群だ。
二人から尊敬の眼差しを受け、ベロニカは咳払いをして言葉を続ける。
「リズ。友達に恋人が出来たら、真っ先に祝いたいの。だから、わたくしがアスタリアにいる間に告白しなさい」
「え、えぇ!? あと一週間もないじゃないですか!」
「あら、ちょうど、三日後にマルクとデートでしょ? そこで決めればいいわ」
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「み、三日後だなんて、無理です!」
「無理じゃないわ。やるの」
有無を言わさないベロニカの威圧感に気圧されたリズは、「うぅっ……」と呻き、悩みに悩んだ後、「はい」と小さく返事をしたのだった。そして告白について少し意見を出し合い、茶会も終わりに差し掛かったところで、エリーナが一通の手紙をベロニカに差し出した。
「ベロニカ様。少しお願いしたいことがありまして……」
手紙を受け取り、中に目を通したベロニカは訝し気に視線をエリーナに戻す。
「何を企んでるの?」
「いえ、ちょっと二国間で交流をと思いまして」
エリーナの含み笑いは、裏があると言っているようなものだ。
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