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42 額を突き合わせて考えます
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運命を決する審議まで三日となり、景雲宮は襲撃の爪痕もなく元通りとなっていた。暗殺未遂以降、景雲宮は警備が厳重になり、玄家からの応援もあって侍女の数が増えた。後宮全体も武官の姿が増え、物々しい雰囲気になっている。
鈴花たちは審議に向け、身代わり訓練の最終段階に入っており、時には郭昭も交えて動きや知識、性格を確認していく。それと同時に、玄家は景雲宮にて重要人物を保護しているという情報を流し、襲撃はそれを狙ってであると印象付けた。
重要人物については宦官とも女とも明かさず、何とでも取れるようにしておく。そのほうが後々言い逃れしやすいからだ。
そして、黄家と翠家のおかげで細かな情報が集まってきており、ここで一度考えをまとめようと三人は離で話し合うことにしたのである。その大切な話し合いに先立ち、鈴花は父親からやっと返って来た文に目を通していたのだが、読み終わると無言で握りつぶして方卓に叩きつけた。
「時間がかかっているが合格ですってぇ!? 何が情報の確認に時間がかかったから遅くなったよ。絶対やきもきする私を想像して楽しんでたんだわ。腹が立つ!」
読み進めるにつれ表情が険悪になっていく鈴花を見ていた二人は、苦笑いを浮かべている。春明は「お茶でも飲んで落ち着いてください」と、胡国のお茶を淹れて鈴花の前に出した。
「ご当主はお味方だったのでしょう? 何よりじゃないですか」
「……これもこちらを欺くための罠という線もあるけど、一応信じることにするわ。そうしないと進めないしね」
鈴花は不満そうな顔で「次会ったら文句を言ってやるわ」と口の中で呟きながら、茶杯に手を伸ばした。脳裏にまだまだと小ばかにしたように笑う父の姿が浮かんできて、茶杯を持つ指に力が入る。
「ま、家族で協力できるならいいじゃねぇか。……で? なんか新しいこと分かったか?」
「……そうね。やっぱり陛下は玄家で身代わりの訓練を三年受けたそうよ。才覚があって、別人になりきることは歴代一ですって」
声帯模写が得意で、頭の回転もよく、何より器用だったらしい。人当たりもよく、すぐに場に溶け込める性格をしていると書かれていた。
「ただ、生き残ることを重視して剣術はそれほど極めていないから、多数の敵に囲まれると不利だそうよ」
つまり、集団に襲われて逃げられはしても、迎撃は難しいということだ。春明と宵はなるほどと相槌を打つ。鈴花はそこで軽く息を吐き、最後の方に書かれていた内容を嫌そうに口に出した。
「ひとまず、お父様はお兄様と皇帝のために動いているから心配せず、こちらの好きに動けばいいって。あと、黄家と翠家からは正式に協力の申し出が来たらしいわ」
この数日で事態は大きく動いた。政治的な権力では、他の名乗り出た三家に劣る玄家だが、黄家と翠家が付いてくれるなら肩を並べることができる。
「それと、朱家と蒼家はこちらで何とかするから、私たちは珀家に集中するようにって……試す気満々じゃない。絶対鼻を明かしてやるんだから!」
鈴花はやってやるわと意欲を燃やす。父親はいつも数手先の未来を読んでいるような人で、上手く闇の玄家の顔を隠して器用貧乏に擬態していた。
「敵が減るならいいじゃねぇか。で、こっちの準備はほとんどできたわけで、今日は相手の出方を詰めるんだろ?」
宵が話を本筋に戻し、鈴花はそうだったわねと咳払いをする。
「今に至る経緯をおさらいすると、一か月ほど前に陛下が襲われて行方不明になり、私たちは身代わりを立てる工作を始めたわ。陛下が見つかるまでの時間稼ぎのつもりだったけど、今や四人の皇帝が乱立する事態になっているのよね」
鈴花はここ最近、かき集めた情報をもとにずっと三家の動きについて考えていた。だがどうも煮詰まりそうにないので、二人の意見を聞きたいのだ。
「まず、朱家と蒼家なんだけど、個人的にはあまり気にしなくていいと思うのよ」
「なんでだ?」
名家のうちでも武と文に秀で、政治的権力も強い二家は最も注意すべき相手に思える。宵は小首を傾げており、鈴花は茶杯を軽く揺らしながら「確信はないけどね」と話を続けた。
「あまりにも、動きが無さすぎるの。やる気がないというか……正直あの二家が本気を出せば、うちも珀家もすぐにつぶされて、今頃国を割る事態になっていると思うわ」
二家は朝廷に一族が多く仕えており、根回しもしやすい位置にいる。本気で皇帝の座を狙えるわりには、皇帝の保護を宣言して以降気味悪いほど沈黙していた。
「あの二家は先の皇位争いで敗れていますし、また権力拡大のため皇位を取ろうとしてもおかしくないのですが……」
「そうなの……でも、父の文にも、あと黄家と翠家からも目立った動きなしって来ているのよ。なら、なんで宣言したのかが分からなくて……」
宵は腕組みをしたまま、低く唸る。
「俺、政治のかけひきはよく知らないけど、単純に珀家に対抗したんじゃね?」
あの二家が公表したのは、珀家の後。そう考えられなくはないが、鈴花はそんなに簡単なことだろうかと首を傾げる。
「対抗したってなると、二家の皇帝は偽物ってこと?」
「だって、本物だったらもっと早く明らかにしてるだろ」
鈴花はそれもそうかと少なくなったお茶に目を落とし、深く考えていく。鈴花たちの公表が遅れたのも、身代わりを仕立て上げる策を弄していたと同時に、皇帝を捜索していたからだ。
「……そうなると、珀家はどうしてすぐ公表しなかったのかしら」
「たしか、珀家は公表の際に保護した際は陛下の意識が無く、戻られてから本人という確証が得られるのに時間がかかったとしていましたが……」
「本人という確証ねぇ」
鈴花は答えの出ない難問に、ぐるぐると同じ問いを繰り返す。
(敵は、何が目的なのかしら……。どこから策が始まっているのかしら)
考え込んでいる鈴花を見て、宵は蜜柑を口に入れてから「そういや」と口を開いた。
「皇帝を襲ったのも、あの三家のうちのどれかだって考えてるのか?」
その問いかけに鈴花は視線を上げ、茶杯の縁を指でなぞった。
「……その可能性が高いとは思っているわ。皇帝の椅子が空いたから、ああやって皇帝を傀儡にできるように名乗りをあげたんでしょうし」
そう答える鈴花もその答えに納得していないのか、難しい顔をしている。
「けどよ。仮にどれかが本物だとして、助けてくれた恩だけで皇帝は言うことを全部聞くの?」
「歴史的に見れば、皇帝の外戚の権力が強くなって政治に介入したこともあったし、ありえない話ではないわ。皇帝が外戚を排除した例もあるけどね」
宵は顎を撫でながら、視線を宙に飛ばした。腑に落ちない顔をしており、鈴花も魚の骨が喉にひっかかったみたいに、もやもやとすっきりしない。
(私が敵ならどうするかしら……。もし、権力を手に入れて政治を思いのままに動かしたいと考えたら)
考えに詰まった時は発想を転換しろと、父に言われてきた。鈴花は目を瞑り、熟考する。
(まず、陛下は邪魔よね。だから、襲撃した……でも、逝去した場合は次の皇帝が選ばれて、自分の傀儡にできるかは分からない)
先の皇位争いで、朱家と蒼家は自分の家の血を引く公子を皇帝にするために戦っていた。だが、もう直系は陛下以外表向き存在していない。
(もし生け捕りにできれば、傀儡に作り替えることはできなくはない……か)
裏の技術を使えば、人を操り人形に変えられなくはないが、元の皇帝とは似つかぬものになるだろう。襲われた時の後遺症だと言い張ることはできるが、疑わしい目を向けられることになる。
「あっ」
そこまで考えたところで、鈴花の頭に閃きが走った。ハッと顔を上げ、目を瞬かせる。
「皇帝を廃して、用意した偽物を皇位つかせられれば、国を乗っ取れるわ」
突然声を上げた鈴花に、二人は「え?」と聞き返す。
「最初から意のままに操れる偽物を皇帝につける気なのよ」
「……ですが、それだと遺体が見つかれば終わりですね」
「なら、皇帝は監禁するか、完全に殺して隠ぺいするかだな」
鈴花の言葉を継いで、二人は考えを口にする。鈴花は情報の断片を繋げていき、今の状況に合う物語を作り上げる。
「予め皇帝の身代わりを用意しておいて、陛下を襲う。最善は暗殺して何もなかったように入れ代わることだけど、無理だった……。おそらく、騒ぎが大きくなったのよ」
春明は鈴花の思考を読み、その物語に話を加えていく。
「そして、陛下は行方知れずとなった。それが空白の時間ですね」
「でも公表に踏み切ったのは、陛下の死を確認できたか、手に入れたか……」
本物を確保しておかなければ、偽物を本物と言いはるには博打がすぎる。鈴花の脳内で情報が組み立て上げられ、舞台が整う。幕が開き、物語の未来が見えた。宵が「まさか」と声を上げる。
「本物はすでに敵の手に落ちてるってことか?」
「その可能性が高いわ……そして審議の場で皇帝であることを立証できれば、全て手に入る」
おそらく証拠は全て作り上げているのだろう。それをどうやって突き崩すかを考え出した鈴花は、ふと宵に視線をやった。彼は自信ありげな笑みを見せており、挑戦的に口角を上げている。
「じゃ、俺らは審議の場で向こうが偽物ってことを明らかにすればいいんだな」
「それもありますが、捕らわれている皇帝を救い出すのが早いような気がします。物言えぬ場合でも、不審点にはなるでしょう」
「……そうね。残る三日で各家に人員を潜ませると同時に、偽物をしたて上げた証拠を探しましょう。こちらは宵という切り札があるし、最悪ねじ伏せられるわ」
皇帝の真偽を明らかにするのは困難でも、ご落胤であることの証拠は提示できる。三家の中に皇帝がいなかった場合、宵に皇位を委譲させることも視野に入れて行動しなければならない。
鈴花の中で考えがまとまっていき、二人に視線を滑らすと重々しく頷いた。あと三日。それまでになるべく多く、相手の粗を探さなければならない。
「もうひと踏ん張りよ。二人とも、お願いね」
鈴花たちは審議に向け、身代わり訓練の最終段階に入っており、時には郭昭も交えて動きや知識、性格を確認していく。それと同時に、玄家は景雲宮にて重要人物を保護しているという情報を流し、襲撃はそれを狙ってであると印象付けた。
重要人物については宦官とも女とも明かさず、何とでも取れるようにしておく。そのほうが後々言い逃れしやすいからだ。
そして、黄家と翠家のおかげで細かな情報が集まってきており、ここで一度考えをまとめようと三人は離で話し合うことにしたのである。その大切な話し合いに先立ち、鈴花は父親からやっと返って来た文に目を通していたのだが、読み終わると無言で握りつぶして方卓に叩きつけた。
「時間がかかっているが合格ですってぇ!? 何が情報の確認に時間がかかったから遅くなったよ。絶対やきもきする私を想像して楽しんでたんだわ。腹が立つ!」
読み進めるにつれ表情が険悪になっていく鈴花を見ていた二人は、苦笑いを浮かべている。春明は「お茶でも飲んで落ち着いてください」と、胡国のお茶を淹れて鈴花の前に出した。
「ご当主はお味方だったのでしょう? 何よりじゃないですか」
「……これもこちらを欺くための罠という線もあるけど、一応信じることにするわ。そうしないと進めないしね」
鈴花は不満そうな顔で「次会ったら文句を言ってやるわ」と口の中で呟きながら、茶杯に手を伸ばした。脳裏にまだまだと小ばかにしたように笑う父の姿が浮かんできて、茶杯を持つ指に力が入る。
「ま、家族で協力できるならいいじゃねぇか。……で? なんか新しいこと分かったか?」
「……そうね。やっぱり陛下は玄家で身代わりの訓練を三年受けたそうよ。才覚があって、別人になりきることは歴代一ですって」
声帯模写が得意で、頭の回転もよく、何より器用だったらしい。人当たりもよく、すぐに場に溶け込める性格をしていると書かれていた。
「ただ、生き残ることを重視して剣術はそれほど極めていないから、多数の敵に囲まれると不利だそうよ」
つまり、集団に襲われて逃げられはしても、迎撃は難しいということだ。春明と宵はなるほどと相槌を打つ。鈴花はそこで軽く息を吐き、最後の方に書かれていた内容を嫌そうに口に出した。
「ひとまず、お父様はお兄様と皇帝のために動いているから心配せず、こちらの好きに動けばいいって。あと、黄家と翠家からは正式に協力の申し出が来たらしいわ」
この数日で事態は大きく動いた。政治的な権力では、他の名乗り出た三家に劣る玄家だが、黄家と翠家が付いてくれるなら肩を並べることができる。
「それと、朱家と蒼家はこちらで何とかするから、私たちは珀家に集中するようにって……試す気満々じゃない。絶対鼻を明かしてやるんだから!」
鈴花はやってやるわと意欲を燃やす。父親はいつも数手先の未来を読んでいるような人で、上手く闇の玄家の顔を隠して器用貧乏に擬態していた。
「敵が減るならいいじゃねぇか。で、こっちの準備はほとんどできたわけで、今日は相手の出方を詰めるんだろ?」
宵が話を本筋に戻し、鈴花はそうだったわねと咳払いをする。
「今に至る経緯をおさらいすると、一か月ほど前に陛下が襲われて行方不明になり、私たちは身代わりを立てる工作を始めたわ。陛下が見つかるまでの時間稼ぎのつもりだったけど、今や四人の皇帝が乱立する事態になっているのよね」
鈴花はここ最近、かき集めた情報をもとにずっと三家の動きについて考えていた。だがどうも煮詰まりそうにないので、二人の意見を聞きたいのだ。
「まず、朱家と蒼家なんだけど、個人的にはあまり気にしなくていいと思うのよ」
「なんでだ?」
名家のうちでも武と文に秀で、政治的権力も強い二家は最も注意すべき相手に思える。宵は小首を傾げており、鈴花は茶杯を軽く揺らしながら「確信はないけどね」と話を続けた。
「あまりにも、動きが無さすぎるの。やる気がないというか……正直あの二家が本気を出せば、うちも珀家もすぐにつぶされて、今頃国を割る事態になっていると思うわ」
二家は朝廷に一族が多く仕えており、根回しもしやすい位置にいる。本気で皇帝の座を狙えるわりには、皇帝の保護を宣言して以降気味悪いほど沈黙していた。
「あの二家は先の皇位争いで敗れていますし、また権力拡大のため皇位を取ろうとしてもおかしくないのですが……」
「そうなの……でも、父の文にも、あと黄家と翠家からも目立った動きなしって来ているのよ。なら、なんで宣言したのかが分からなくて……」
宵は腕組みをしたまま、低く唸る。
「俺、政治のかけひきはよく知らないけど、単純に珀家に対抗したんじゃね?」
あの二家が公表したのは、珀家の後。そう考えられなくはないが、鈴花はそんなに簡単なことだろうかと首を傾げる。
「対抗したってなると、二家の皇帝は偽物ってこと?」
「だって、本物だったらもっと早く明らかにしてるだろ」
鈴花はそれもそうかと少なくなったお茶に目を落とし、深く考えていく。鈴花たちの公表が遅れたのも、身代わりを仕立て上げる策を弄していたと同時に、皇帝を捜索していたからだ。
「……そうなると、珀家はどうしてすぐ公表しなかったのかしら」
「たしか、珀家は公表の際に保護した際は陛下の意識が無く、戻られてから本人という確証が得られるのに時間がかかったとしていましたが……」
「本人という確証ねぇ」
鈴花は答えの出ない難問に、ぐるぐると同じ問いを繰り返す。
(敵は、何が目的なのかしら……。どこから策が始まっているのかしら)
考え込んでいる鈴花を見て、宵は蜜柑を口に入れてから「そういや」と口を開いた。
「皇帝を襲ったのも、あの三家のうちのどれかだって考えてるのか?」
その問いかけに鈴花は視線を上げ、茶杯の縁を指でなぞった。
「……その可能性が高いとは思っているわ。皇帝の椅子が空いたから、ああやって皇帝を傀儡にできるように名乗りをあげたんでしょうし」
そう答える鈴花もその答えに納得していないのか、難しい顔をしている。
「けどよ。仮にどれかが本物だとして、助けてくれた恩だけで皇帝は言うことを全部聞くの?」
「歴史的に見れば、皇帝の外戚の権力が強くなって政治に介入したこともあったし、ありえない話ではないわ。皇帝が外戚を排除した例もあるけどね」
宵は顎を撫でながら、視線を宙に飛ばした。腑に落ちない顔をしており、鈴花も魚の骨が喉にひっかかったみたいに、もやもやとすっきりしない。
(私が敵ならどうするかしら……。もし、権力を手に入れて政治を思いのままに動かしたいと考えたら)
考えに詰まった時は発想を転換しろと、父に言われてきた。鈴花は目を瞑り、熟考する。
(まず、陛下は邪魔よね。だから、襲撃した……でも、逝去した場合は次の皇帝が選ばれて、自分の傀儡にできるかは分からない)
先の皇位争いで、朱家と蒼家は自分の家の血を引く公子を皇帝にするために戦っていた。だが、もう直系は陛下以外表向き存在していない。
(もし生け捕りにできれば、傀儡に作り替えることはできなくはない……か)
裏の技術を使えば、人を操り人形に変えられなくはないが、元の皇帝とは似つかぬものになるだろう。襲われた時の後遺症だと言い張ることはできるが、疑わしい目を向けられることになる。
「あっ」
そこまで考えたところで、鈴花の頭に閃きが走った。ハッと顔を上げ、目を瞬かせる。
「皇帝を廃して、用意した偽物を皇位つかせられれば、国を乗っ取れるわ」
突然声を上げた鈴花に、二人は「え?」と聞き返す。
「最初から意のままに操れる偽物を皇帝につける気なのよ」
「……ですが、それだと遺体が見つかれば終わりですね」
「なら、皇帝は監禁するか、完全に殺して隠ぺいするかだな」
鈴花の言葉を継いで、二人は考えを口にする。鈴花は情報の断片を繋げていき、今の状況に合う物語を作り上げる。
「予め皇帝の身代わりを用意しておいて、陛下を襲う。最善は暗殺して何もなかったように入れ代わることだけど、無理だった……。おそらく、騒ぎが大きくなったのよ」
春明は鈴花の思考を読み、その物語に話を加えていく。
「そして、陛下は行方知れずとなった。それが空白の時間ですね」
「でも公表に踏み切ったのは、陛下の死を確認できたか、手に入れたか……」
本物を確保しておかなければ、偽物を本物と言いはるには博打がすぎる。鈴花の脳内で情報が組み立て上げられ、舞台が整う。幕が開き、物語の未来が見えた。宵が「まさか」と声を上げる。
「本物はすでに敵の手に落ちてるってことか?」
「その可能性が高いわ……そして審議の場で皇帝であることを立証できれば、全て手に入る」
おそらく証拠は全て作り上げているのだろう。それをどうやって突き崩すかを考え出した鈴花は、ふと宵に視線をやった。彼は自信ありげな笑みを見せており、挑戦的に口角を上げている。
「じゃ、俺らは審議の場で向こうが偽物ってことを明らかにすればいいんだな」
「それもありますが、捕らわれている皇帝を救い出すのが早いような気がします。物言えぬ場合でも、不審点にはなるでしょう」
「……そうね。残る三日で各家に人員を潜ませると同時に、偽物をしたて上げた証拠を探しましょう。こちらは宵という切り札があるし、最悪ねじ伏せられるわ」
皇帝の真偽を明らかにするのは困難でも、ご落胤であることの証拠は提示できる。三家の中に皇帝がいなかった場合、宵に皇位を委譲させることも視野に入れて行動しなければならない。
鈴花の中で考えがまとまっていき、二人に視線を滑らすと重々しく頷いた。あと三日。それまでになるべく多く、相手の粗を探さなければならない。
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