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そう父親が返した瞬間、混乱の渦が発生し、声が固まりとなって押し寄せた。非難するもの、真偽を問うもの、真意は何かと叫ぶもの。疑問の声がさらなる疑問を呼び、太師が収拾をつけようとしたところに柏手が響いた。
「見苦しい」
水を打ったように静けさが戻り、宵は首を巡らせる。一声で空気が変わり、皇帝の覇気のようなものを感じた。そこに父親の咳払いが響き、いよいよ反撃に出る。
「玄家は建国の時より鳳蓮国に、鳳家に仕えて参りました。その歴史と忠誠は皆もご存知のはず……。ゆえに、陛下が行方知れずとなった時、すぐに玄家の総力を挙げて捜索をいたしました」
百官の中には頷いている者がおり、玄家と縁が深かったり裏の顔を知っていたりするのだろう。父はそこで一度溜め、顔を宵へと向けた。
「そこで、彼を見つけたのです。陛下と、そして先帝の面影を感じる青年を」
その先を察したものが困惑と期待が混じった表情を浮かべ、太師は「まさか」と呟く。三家は沈黙しているが、鈴花は右丞相の口角が少し上がったのを見逃さなかった。ざわりと胸の奥に嫌なものが忍び寄ったところで、父親が決定的な一言を告げた。
「この方は、先帝の血を引いていらっしゃいます」
父親が言い切れば、息を飲む音が聞こえる。皆何か言いたげな表情をしているが、黙って続きを待っていた。鈴花もここから、皆を説得できるかにかかっていると、固唾を飲んで見守る。
「市井にご落胤がいるという可能性は、以前から指摘がありました。彼、宵は先帝と下級妃だった李妃との間に生まれた公子です」
ぽつりぽつりと声が上がった。百官の中でも務めが長い者は李妃について知っているようで、「寵愛があった」だとか「急に姿を消された」とか呟いている。
「証拠はこちらにあります」
春明が文と簪を太師へ手渡すと、彼はそれらに目を通し、急いで文官に先帝と李妃の筆跡が分かるものを持ってくるように指示を出した。そして低い声で唸り、長いあごひげを撫でる。
「確かに、先帝陛下は李妃を寵愛されていましたな。忽然と姿を消され、嘆かれていたのも覚えております」
太師は昔を懐かしむような、柔らかな眼差しを宵に向けた。
「真偽を私が下すことはできませんが、その御顔を拝見できますでしょうか」
百官たちの期待と興味が一気に高まり、その視線は痛いほど。父親が判断は任せると宵に顔を向ければ、宵は静かに仮面に手をかけた。
(大丈夫……よね)
鈴花の鼓動は早く、苦しい。この瞬間に宵の、鈴花の、そして玄家の命運がかかっている。鈴花は知らぬ間に膝の上で裙を握りしめており、祈るしかなかった。
「俺は……父の顔を知らないが、皆が納得できるのなら」
仮面が顔から離れ、宵自身の声がはっきりと聞こえた。栗色の髪は整えられ、後ろでまとめられている。いつものふざけた様な笑みはなく、うっすらとそばかすのある精悍な顔つきだ。宵は首を巡らせ、皆の目にその顔を焼き付けさせていた。
ふと鈴花と目が合うと、ふわりと微笑を浮かべる。別人のような雰囲気さえあって、鈴花の心臓はまた違う高鳴りを見せた。髪型のせいか、身に着けている袍のせいか、その横顔には先帝の面影が浮かんでいる。
「なるほど、確かに先帝陛下の面影がございますな……。市井に出ては臣を困らせていた若い頃にそっくりですわ」
太師は目元を和ませ、困ったようなそれでいて嬉しそうな表情を浮かべていた。太師はその昔、先帝の師でもあったためことさら懐かしいのだろう。太師がそう認めたことで、周りも宵のことをご落胤だと信じ始めていく。
(よし、流れを引き寄せられたわ)
鈴花は静かに息を吐いて、裙を握りしめていた手をほどく。全身に力を入れていたようで、急に疲れを感じた。そこに父親の静かな声が届く。
「真偽については、気が済むまで調べていただいてかまいません」
「うむ。そうするとしよう……だが、なぜ今まで隠していたのだ。それに、皇帝だと名乗る必要はなかっただろう」
「……えぇ。証拠を押さえるのに時間がかかったこともありますが、現皇帝陛下を第一に考えているからです。陛下の行方が分からない状況で、ご落胤の存在を明るみにすればいらぬ混乱を招くでしょう」
下手すれば宵を自分の家に引き入れようと、争いが起こった可能性もある。
「なので、陛下が見つかり朝廷が安定してからと考えておりました。……ですが、陛下を自称するものが乱立する事態となり、偽物を炙り出すために皇帝を名乗らせていただいたのです。もし本物がいるならば彼を今後の影武者に、いない場合は仮の皇帝として推挙するつもりでありました」
それが、玄家側の物語。父親の話し方には説得力があり、百官の中にも頷くものたちが多い。そして太師が宵に、幼少期や母親のことを質問し始めたのを皮切りに、四方から声が飛んできた。それらに宵は丁寧に答えていき、夢物語を事実に変えていく。
(これで、宵の方の問題はうまくいったかしら……)
後は、珀家に閉じ込められていたという男に話を聞けば、皇帝の真偽が分かると鈴花が胸をなでおろしたところに、肌にまとわりつくような声がした。
「ずいぶんと出来た話ですなぁ。玄家は、劇作家にでもなればよろしい。皆、騙されてはなりません。これは仕組まれたものなのです」
「見苦しい」
水を打ったように静けさが戻り、宵は首を巡らせる。一声で空気が変わり、皇帝の覇気のようなものを感じた。そこに父親の咳払いが響き、いよいよ反撃に出る。
「玄家は建国の時より鳳蓮国に、鳳家に仕えて参りました。その歴史と忠誠は皆もご存知のはず……。ゆえに、陛下が行方知れずとなった時、すぐに玄家の総力を挙げて捜索をいたしました」
百官の中には頷いている者がおり、玄家と縁が深かったり裏の顔を知っていたりするのだろう。父はそこで一度溜め、顔を宵へと向けた。
「そこで、彼を見つけたのです。陛下と、そして先帝の面影を感じる青年を」
その先を察したものが困惑と期待が混じった表情を浮かべ、太師は「まさか」と呟く。三家は沈黙しているが、鈴花は右丞相の口角が少し上がったのを見逃さなかった。ざわりと胸の奥に嫌なものが忍び寄ったところで、父親が決定的な一言を告げた。
「この方は、先帝の血を引いていらっしゃいます」
父親が言い切れば、息を飲む音が聞こえる。皆何か言いたげな表情をしているが、黙って続きを待っていた。鈴花もここから、皆を説得できるかにかかっていると、固唾を飲んで見守る。
「市井にご落胤がいるという可能性は、以前から指摘がありました。彼、宵は先帝と下級妃だった李妃との間に生まれた公子です」
ぽつりぽつりと声が上がった。百官の中でも務めが長い者は李妃について知っているようで、「寵愛があった」だとか「急に姿を消された」とか呟いている。
「証拠はこちらにあります」
春明が文と簪を太師へ手渡すと、彼はそれらに目を通し、急いで文官に先帝と李妃の筆跡が分かるものを持ってくるように指示を出した。そして低い声で唸り、長いあごひげを撫でる。
「確かに、先帝陛下は李妃を寵愛されていましたな。忽然と姿を消され、嘆かれていたのも覚えております」
太師は昔を懐かしむような、柔らかな眼差しを宵に向けた。
「真偽を私が下すことはできませんが、その御顔を拝見できますでしょうか」
百官たちの期待と興味が一気に高まり、その視線は痛いほど。父親が判断は任せると宵に顔を向ければ、宵は静かに仮面に手をかけた。
(大丈夫……よね)
鈴花の鼓動は早く、苦しい。この瞬間に宵の、鈴花の、そして玄家の命運がかかっている。鈴花は知らぬ間に膝の上で裙を握りしめており、祈るしかなかった。
「俺は……父の顔を知らないが、皆が納得できるのなら」
仮面が顔から離れ、宵自身の声がはっきりと聞こえた。栗色の髪は整えられ、後ろでまとめられている。いつものふざけた様な笑みはなく、うっすらとそばかすのある精悍な顔つきだ。宵は首を巡らせ、皆の目にその顔を焼き付けさせていた。
ふと鈴花と目が合うと、ふわりと微笑を浮かべる。別人のような雰囲気さえあって、鈴花の心臓はまた違う高鳴りを見せた。髪型のせいか、身に着けている袍のせいか、その横顔には先帝の面影が浮かんでいる。
「なるほど、確かに先帝陛下の面影がございますな……。市井に出ては臣を困らせていた若い頃にそっくりですわ」
太師は目元を和ませ、困ったようなそれでいて嬉しそうな表情を浮かべていた。太師はその昔、先帝の師でもあったためことさら懐かしいのだろう。太師がそう認めたことで、周りも宵のことをご落胤だと信じ始めていく。
(よし、流れを引き寄せられたわ)
鈴花は静かに息を吐いて、裙を握りしめていた手をほどく。全身に力を入れていたようで、急に疲れを感じた。そこに父親の静かな声が届く。
「真偽については、気が済むまで調べていただいてかまいません」
「うむ。そうするとしよう……だが、なぜ今まで隠していたのだ。それに、皇帝だと名乗る必要はなかっただろう」
「……えぇ。証拠を押さえるのに時間がかかったこともありますが、現皇帝陛下を第一に考えているからです。陛下の行方が分からない状況で、ご落胤の存在を明るみにすればいらぬ混乱を招くでしょう」
下手すれば宵を自分の家に引き入れようと、争いが起こった可能性もある。
「なので、陛下が見つかり朝廷が安定してからと考えておりました。……ですが、陛下を自称するものが乱立する事態となり、偽物を炙り出すために皇帝を名乗らせていただいたのです。もし本物がいるならば彼を今後の影武者に、いない場合は仮の皇帝として推挙するつもりでありました」
それが、玄家側の物語。父親の話し方には説得力があり、百官の中にも頷くものたちが多い。そして太師が宵に、幼少期や母親のことを質問し始めたのを皮切りに、四方から声が飛んできた。それらに宵は丁寧に答えていき、夢物語を事実に変えていく。
(これで、宵の方の問題はうまくいったかしら……)
後は、珀家に閉じ込められていたという男に話を聞けば、皇帝の真偽が分かると鈴花が胸をなでおろしたところに、肌にまとわりつくような声がした。
「ずいぶんと出来た話ですなぁ。玄家は、劇作家にでもなればよろしい。皆、騙されてはなりません。これは仕組まれたものなのです」
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