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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第86話 獅子との戦い
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「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
クリソプ男爵領、東の館の地下円形闘技場はセルジオとエリオスがアーチ形の入口から姿を見せると大歓声が上がった。
「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
口々にする声が断片的に聞える。
「勝敗はどちらに賭けました?私は、対戦者に賭けましたが・・・・あのような子供だとは・・・・」
「おやおや、獅子をご存知なかったのですか?恐らく正規の騎士でも敵いませんよ」
「あ~これは・・・・痛い出費ですな。奴隷を買う足しにしようと思っていたのに・・・・早まりました」
どうやら、セルジオとエリオスが対峙する獅子との戦いは賭博の対象になっているようだ。
セルジオとエリオスは観客席を見上げた。
貴族と思しき者から従士のような者、やたらと煌びやかな装いの商人風の者など、様々な人達が集まっている。
装いや様子は異なるものの皆の顔が同じ様に見える。
一応に『仮面』を着けているからだった。
闘技場の中央へ目をやると薄い茶色の動物が
大きな檻の中で前足に顎を乗せ、時折耳をピクピクと動かしているのが見えた。
セルジオはエリオスへ耳打ちする。
「エリオス、あれが獅子か?馬のたてがみの様なもので顔が覆われているのだな」
セルジオはこれから戦う獅子を前に怖気づくでもなく、初めて目にする動物に興味深々と言った面持ちを向けた。
「・・・・プッ!!!」
エリオスは獅子を目にしても動じないセルジオがおかしく吹き出す。
「・・・・?なんだ?エリオス、何がおかしいのだ?」
セルジオは怪訝な顔をした。
エリオスはそんなセルジオが愛おしく、そっと手を取る。
「ふふふふ・・・・いえ、失礼を致しました。
観覧席の者達が騎士でも倒せぬと口々に申しているのに、セルジオ様が全く動じる素振りもなく、頼もしくて・・・・つい」
優しい微笑みを向ける。
セルジオは真剣な眼差しをエリオスへ向けた。
「何を申しているか。私とエリオスだぞ。我ら2人でかかれば恐いものなどなかろう?」
セルジオはエリオスの手をぐっと握り返した。
「我らは生きて西の屋敷に戻るのだ。ここで獅子に食われる訳にはまいらぬであろう?エリオス、また私を助けてくれ。頼む」
セルジオはエリオスへ闘志に燃えた目を向けた。
エリオスはセルジオの正面に膝まづいた。
「はっ!セルジオ様。この命、セルジオ様へ常に同道いたします」
セルジオの言葉にエリオスは力強く呼応した。
バシッ!!!!
バシッ!!!!
地面を叩く鞭の音が円形闘技場に響いた。
シーーーーン
ザワつきと歓声は一瞬にして静寂に変わる。
バシッ!!!
バシッ!!!
再び鞭が地面を叩いた。
観覧席で妙に煌びやかな衣服を身に付けていたでっぷりとした男が備え付けの階段を下り、競技場の中央で獅子の檻の傍に立った。
「皆様っ!今宵は、我らが敬愛するクレメンテ伯爵主催の饗宴へお運び頂き、感謝致します」
大げさな身振り手振りで一礼をする。
「今宵は、久々の余興にございます。皆様っ!思いの丈をどちらへ賛同しましたでしょうか?血に飢えた獅子か?はたまた、眉目秀麗な2人の子弟か?」
「さぁ、まだ賛同を迷われていらっしゃる紳士淑女の皆様っ!今より最終の賛同を募ります。もう、既に賛同頂いていらっしゃる方は変更はできません。されど、追加での賛同は受け付けます。どちらか一方では心もとないと思われる方は両方へ賛同頂くことも可能です」
「どうぞ、どうぞ、心残りのございませんよう、よくよくお考え下さい。追加での賛同は可能です。いらっしゃればお手を挙げて下さい。係りの者がお席まで伺います」
円形闘技場の四方に向けて煌びやかな衣服の男が大仰に声を張り上げた。
「さぁさぁ、いかがでございますか?お手を、どうぞ、お手をお挙げ下さいっ!」
円形闘技場に響き渡る声に熱がこもる。
観客席のあちらこちらから手が挙がるとどこからともなく従者が現れ、金貨や銀貨と紙面を交換していった。
ザワザワと再びにどよめきが大きくなる。
「さぁ、さぁ、よろしいですかな?これにて締め切りと致しますっ!!」
バシッ!!!
バシッ!!!
男は鞭を地面に叩きつけた。
「紳士淑女の皆様っ!今宵、最高の余興をご用意下さったクレメンテ伯爵へ盛大な拍手をっ!!!」
闘技場での催しがより間近で観覧できるよう、中二階に特別な観覧席が用意されている。
高位の貴族や大口の取引を行う奴隷商人が使用する特別席だった。
男は北側の中二階特別席へ向け大仰に両手を叩いて見せる。
「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
大歓声と共に大きな拍手が北側の中二階特別席へ贈られた。
セルジオとエリオスは北側中二階へ目を向ける。
黒の仮面を着けた男が2人とその後ろに4人程の護衛らしき従者が見えた。
1人は歓声に応じる様に軽く手を挙げている。
もう1人はじっとセルジオとエリオスを見つめている様だった。
ピクリッ!!
セルジオの身体がわずかに反応する。
エリオスはセルジオへ目を向けた。
「セルジオ様、いかがなさいましたか?」
セルジオは北側の中二階から目を離さずにぎゅっとエリオスの手を握った。
「・・・・セルジオ様?」
エリオスは心配そうにセルジオの顔を覗く。
「・・・・同じ、感じがするのだ・・・・あの時と・・・・同じ・・・・サフェス湖の湖畔で・・・・」
ギュッ!!!
セルジオはエリオスの手を更に強く握り、声を押し殺すように呟いた。
「!!!!えっ!!!」
エリオスは驚きの声を上げ、北側中二階を見る。
こちらへ目線を向けている1人を見返すと黒々とした靄の様なものが身体を覆っているのが解った。
「っ!!!あれはっ!黒の影!?」
「エリオスにも見えるか・・・・あの黒い靄が。あれはサフェス湖で対峙した刺客と同じだ」
セルジオとエリオスが見ていると察すると黒の靄を纏った男はニヤリと口元を歪めた。
ゆらゆらと黒い靄が男の背後に揺らめいている。
徐々に色が濃くなり、黒い靄は人形に膨らんだ。
だが、刺客の様に襲ってくる様子は窺えない。
「セルジオ様、サフェス湖の折り、黒の影は我らの様子を窺う『眼』だとポルデュラ様が申されていました。黒魔術を操るマデュラ子爵当主の『眼』であると」
「・・・・」
セルジオはエリオスの言葉に無言で呼応する。
ふっと一つ息を吐いた。
「それでも、今は目の前の獅子を倒すことが先決だな。エリオス、これも訓練と考えればよいだろう?バルドがいつも申している。日々の訓練を怠らねば後は実戦を重ねればよいと」
セルジオは再びエリオスの手をギュッと握った。
エリオスはどんな状況にあっても動じないセルジオが頼もしく感じていた。
クリソプ男爵領に入り、バルドとオスカーと共にクリソプ騎士団城塞で共に過ごすことが叶わぬことであったからこその成長であろうと思い、自身も深く息を吐いた。
「はっ!!セルジオ様、我らが今、なすべき事は獅子を退治することのみっ!」
「よろしく頼む」
セルジオはエリオスへ微笑みを向けた。
クレメンテ伯爵への敬意の儀式が終わると男は再び観覧席へ向け大仰に言葉を発する。
「さて、紳士淑女の皆様っ!今宵、獅子と対峙しますはこちらの2人の子弟です」
セルジオとエリオスへ手を向ける。
「ご覧下さいっ!2人の子弟は武具を持ち合わせておりませんっ!これでは、即座に獅子に食われてしまうでしょうっ!」
悲しそうな顔を観覧席へ向ける。
「すぐに勝敗は決まっては、余興も楽しめませんっ!!」
ニヤリと口元を歪めていやらしく笑う。
「この2人の眉目秀麗な子弟にどうぞ、武具を授けて下さいっ!!さぁ、さぁ、武具を授けて下さる方は目印の札をつけ、闘技場へ投げ入れて下さいっ!!」
この武具を投げ入れさせる行為も掛け金の一部となる。
使用いかんに関わらず投げ入れられた武具は主催者側が一旦預かり、その後売買される。
これもシュタイン王国の禁忌の一つ、王都騎士団総長の許可なく他国へ武具を売買する行為であった。
バタバタと闘技場に武具が投げ入れられる。
鞭や短剣、盾にハンマー、剣まである。
従者が投げ入れられた武具を闘技場の地面に丁寧に並べていく。
荷札の様な札がついた武具は、実戦で使用されるもの、装飾品として価値があるものなど様々だった。
男がセルジオとエリオスを手招きする。
2人は男に歩み寄った。
「この中から好きな武具を選べ」
男は顎で並べられた武具を指し示した。
セルジオとエリオスは並べられた武具へ目を向けた。
キラリッ!!!
銀の柄をした4口の短剣がキラキラと光を放っている。
セルジオとエリオスは顔を見合わせた。
ラドフォール騎士団前団長ウルリヒが自ら鍛造し、セルジオとエリオスへ授けた魔剣だった。
見た目はごくごく一般的な短剣だ。しかし、短剣の主の泉の波動に反応し、短剣にその力を宿らせるものだった。
他の者の手に渡れることを避けるため、バルドとオスカーに預けてあった。
セルジオとエリオスは観客席にバルドとオスカーが潜んでいると確信する。
迷いなく短剣を2口づつ手に取った。
「その様な武具でよいのか?獅子が相手なのだぞ」
男は他の武具へ目を向け、再考するように首を傾げた。
セルジオとエリオスは男の顔を見上げる。
「これでよいのです。いえ、これがよいのです」
力強く言い放った。
「・・・・まぁ、すぐに勝敗はつくからな・・・・」
男は残った武具を片付けるよう従者へ指示する。
闘技場の中央に男は戻った。
「紳士淑女の皆様のお気持ちっ!2人の子弟は受け取りましたっ!」
大仰にセルジオとエリオスに手を向け、選んだ武具を掲げる様に促す。
バッ!!!
バッ!!!
両手に短剣を握り、セルジオとエリオスは大きく手を挙げた。
「この短剣で獅子との対峙に挑む子弟に盛大な拍手をっ!!」
「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
地下円形闘技場は大歓声と共に熱気に包まれていた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
いよいよ、獅子との戦い『余興』が幕を開けました。
観覧席に忍び込んだバルドとオスカー。
セルジオとエリオスは投げ入れられた短剣から2人が助けにきたと確信します。
そして、かつてセルジオの暗殺を目論んだ『黒の影』、黒魔術を操るマデュラ子爵との因縁も見え隠れします。
セルジオとエリオスの獅子との戦いはどちらに軍配が挙がるのか?
『黒の影』マデキュラ子爵の刺客と対峙したサフェス湖湖畔での戦いの回は
「第2章 第22話:インシデント18 因縁の対決」
「第2章 第23話:インシデント19 想定外の初陣」
をご覧下さい。
次回もよろしくお願い致します。
「ワァァァァァ」
クリソプ男爵領、東の館の地下円形闘技場はセルジオとエリオスがアーチ形の入口から姿を見せると大歓声が上がった。
「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
口々にする声が断片的に聞える。
「勝敗はどちらに賭けました?私は、対戦者に賭けましたが・・・・あのような子供だとは・・・・」
「おやおや、獅子をご存知なかったのですか?恐らく正規の騎士でも敵いませんよ」
「あ~これは・・・・痛い出費ですな。奴隷を買う足しにしようと思っていたのに・・・・早まりました」
どうやら、セルジオとエリオスが対峙する獅子との戦いは賭博の対象になっているようだ。
セルジオとエリオスは観客席を見上げた。
貴族と思しき者から従士のような者、やたらと煌びやかな装いの商人風の者など、様々な人達が集まっている。
装いや様子は異なるものの皆の顔が同じ様に見える。
一応に『仮面』を着けているからだった。
闘技場の中央へ目をやると薄い茶色の動物が
大きな檻の中で前足に顎を乗せ、時折耳をピクピクと動かしているのが見えた。
セルジオはエリオスへ耳打ちする。
「エリオス、あれが獅子か?馬のたてがみの様なもので顔が覆われているのだな」
セルジオはこれから戦う獅子を前に怖気づくでもなく、初めて目にする動物に興味深々と言った面持ちを向けた。
「・・・・プッ!!!」
エリオスは獅子を目にしても動じないセルジオがおかしく吹き出す。
「・・・・?なんだ?エリオス、何がおかしいのだ?」
セルジオは怪訝な顔をした。
エリオスはそんなセルジオが愛おしく、そっと手を取る。
「ふふふふ・・・・いえ、失礼を致しました。
観覧席の者達が騎士でも倒せぬと口々に申しているのに、セルジオ様が全く動じる素振りもなく、頼もしくて・・・・つい」
優しい微笑みを向ける。
セルジオは真剣な眼差しをエリオスへ向けた。
「何を申しているか。私とエリオスだぞ。我ら2人でかかれば恐いものなどなかろう?」
セルジオはエリオスの手をぐっと握り返した。
「我らは生きて西の屋敷に戻るのだ。ここで獅子に食われる訳にはまいらぬであろう?エリオス、また私を助けてくれ。頼む」
セルジオはエリオスへ闘志に燃えた目を向けた。
エリオスはセルジオの正面に膝まづいた。
「はっ!セルジオ様。この命、セルジオ様へ常に同道いたします」
セルジオの言葉にエリオスは力強く呼応した。
バシッ!!!!
バシッ!!!!
地面を叩く鞭の音が円形闘技場に響いた。
シーーーーン
ザワつきと歓声は一瞬にして静寂に変わる。
バシッ!!!
バシッ!!!
再び鞭が地面を叩いた。
観覧席で妙に煌びやかな衣服を身に付けていたでっぷりとした男が備え付けの階段を下り、競技場の中央で獅子の檻の傍に立った。
「皆様っ!今宵は、我らが敬愛するクレメンテ伯爵主催の饗宴へお運び頂き、感謝致します」
大げさな身振り手振りで一礼をする。
「今宵は、久々の余興にございます。皆様っ!思いの丈をどちらへ賛同しましたでしょうか?血に飢えた獅子か?はたまた、眉目秀麗な2人の子弟か?」
「さぁ、まだ賛同を迷われていらっしゃる紳士淑女の皆様っ!今より最終の賛同を募ります。もう、既に賛同頂いていらっしゃる方は変更はできません。されど、追加での賛同は受け付けます。どちらか一方では心もとないと思われる方は両方へ賛同頂くことも可能です」
「どうぞ、どうぞ、心残りのございませんよう、よくよくお考え下さい。追加での賛同は可能です。いらっしゃればお手を挙げて下さい。係りの者がお席まで伺います」
円形闘技場の四方に向けて煌びやかな衣服の男が大仰に声を張り上げた。
「さぁさぁ、いかがでございますか?お手を、どうぞ、お手をお挙げ下さいっ!」
円形闘技場に響き渡る声に熱がこもる。
観客席のあちらこちらから手が挙がるとどこからともなく従者が現れ、金貨や銀貨と紙面を交換していった。
ザワザワと再びにどよめきが大きくなる。
「さぁ、さぁ、よろしいですかな?これにて締め切りと致しますっ!!」
バシッ!!!
バシッ!!!
男は鞭を地面に叩きつけた。
「紳士淑女の皆様っ!今宵、最高の余興をご用意下さったクレメンテ伯爵へ盛大な拍手をっ!!!」
闘技場での催しがより間近で観覧できるよう、中二階に特別な観覧席が用意されている。
高位の貴族や大口の取引を行う奴隷商人が使用する特別席だった。
男は北側の中二階特別席へ向け大仰に両手を叩いて見せる。
「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
大歓声と共に大きな拍手が北側の中二階特別席へ贈られた。
セルジオとエリオスは北側中二階へ目を向ける。
黒の仮面を着けた男が2人とその後ろに4人程の護衛らしき従者が見えた。
1人は歓声に応じる様に軽く手を挙げている。
もう1人はじっとセルジオとエリオスを見つめている様だった。
ピクリッ!!
セルジオの身体がわずかに反応する。
エリオスはセルジオへ目を向けた。
「セルジオ様、いかがなさいましたか?」
セルジオは北側の中二階から目を離さずにぎゅっとエリオスの手を握った。
「・・・・セルジオ様?」
エリオスは心配そうにセルジオの顔を覗く。
「・・・・同じ、感じがするのだ・・・・あの時と・・・・同じ・・・・サフェス湖の湖畔で・・・・」
ギュッ!!!
セルジオはエリオスの手を更に強く握り、声を押し殺すように呟いた。
「!!!!えっ!!!」
エリオスは驚きの声を上げ、北側中二階を見る。
こちらへ目線を向けている1人を見返すと黒々とした靄の様なものが身体を覆っているのが解った。
「っ!!!あれはっ!黒の影!?」
「エリオスにも見えるか・・・・あの黒い靄が。あれはサフェス湖で対峙した刺客と同じだ」
セルジオとエリオスが見ていると察すると黒の靄を纏った男はニヤリと口元を歪めた。
ゆらゆらと黒い靄が男の背後に揺らめいている。
徐々に色が濃くなり、黒い靄は人形に膨らんだ。
だが、刺客の様に襲ってくる様子は窺えない。
「セルジオ様、サフェス湖の折り、黒の影は我らの様子を窺う『眼』だとポルデュラ様が申されていました。黒魔術を操るマデュラ子爵当主の『眼』であると」
「・・・・」
セルジオはエリオスの言葉に無言で呼応する。
ふっと一つ息を吐いた。
「それでも、今は目の前の獅子を倒すことが先決だな。エリオス、これも訓練と考えればよいだろう?バルドがいつも申している。日々の訓練を怠らねば後は実戦を重ねればよいと」
セルジオは再びエリオスの手をギュッと握った。
エリオスはどんな状況にあっても動じないセルジオが頼もしく感じていた。
クリソプ男爵領に入り、バルドとオスカーと共にクリソプ騎士団城塞で共に過ごすことが叶わぬことであったからこその成長であろうと思い、自身も深く息を吐いた。
「はっ!!セルジオ様、我らが今、なすべき事は獅子を退治することのみっ!」
「よろしく頼む」
セルジオはエリオスへ微笑みを向けた。
クレメンテ伯爵への敬意の儀式が終わると男は再び観覧席へ向け大仰に言葉を発する。
「さて、紳士淑女の皆様っ!今宵、獅子と対峙しますはこちらの2人の子弟です」
セルジオとエリオスへ手を向ける。
「ご覧下さいっ!2人の子弟は武具を持ち合わせておりませんっ!これでは、即座に獅子に食われてしまうでしょうっ!」
悲しそうな顔を観覧席へ向ける。
「すぐに勝敗は決まっては、余興も楽しめませんっ!!」
ニヤリと口元を歪めていやらしく笑う。
「この2人の眉目秀麗な子弟にどうぞ、武具を授けて下さいっ!!さぁ、さぁ、武具を授けて下さる方は目印の札をつけ、闘技場へ投げ入れて下さいっ!!」
この武具を投げ入れさせる行為も掛け金の一部となる。
使用いかんに関わらず投げ入れられた武具は主催者側が一旦預かり、その後売買される。
これもシュタイン王国の禁忌の一つ、王都騎士団総長の許可なく他国へ武具を売買する行為であった。
バタバタと闘技場に武具が投げ入れられる。
鞭や短剣、盾にハンマー、剣まである。
従者が投げ入れられた武具を闘技場の地面に丁寧に並べていく。
荷札の様な札がついた武具は、実戦で使用されるもの、装飾品として価値があるものなど様々だった。
男がセルジオとエリオスを手招きする。
2人は男に歩み寄った。
「この中から好きな武具を選べ」
男は顎で並べられた武具を指し示した。
セルジオとエリオスは並べられた武具へ目を向けた。
キラリッ!!!
銀の柄をした4口の短剣がキラキラと光を放っている。
セルジオとエリオスは顔を見合わせた。
ラドフォール騎士団前団長ウルリヒが自ら鍛造し、セルジオとエリオスへ授けた魔剣だった。
見た目はごくごく一般的な短剣だ。しかし、短剣の主の泉の波動に反応し、短剣にその力を宿らせるものだった。
他の者の手に渡れることを避けるため、バルドとオスカーに預けてあった。
セルジオとエリオスは観客席にバルドとオスカーが潜んでいると確信する。
迷いなく短剣を2口づつ手に取った。
「その様な武具でよいのか?獅子が相手なのだぞ」
男は他の武具へ目を向け、再考するように首を傾げた。
セルジオとエリオスは男の顔を見上げる。
「これでよいのです。いえ、これがよいのです」
力強く言い放った。
「・・・・まぁ、すぐに勝敗はつくからな・・・・」
男は残った武具を片付けるよう従者へ指示する。
闘技場の中央に男は戻った。
「紳士淑女の皆様のお気持ちっ!2人の子弟は受け取りましたっ!」
大仰にセルジオとエリオスに手を向け、選んだ武具を掲げる様に促す。
バッ!!!
バッ!!!
両手に短剣を握り、セルジオとエリオスは大きく手を挙げた。
「この短剣で獅子との対峙に挑む子弟に盛大な拍手をっ!!」
「ワァァァァァ」
「ワァァァァァ」
地下円形闘技場は大歓声と共に熱気に包まれていた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
いよいよ、獅子との戦い『余興』が幕を開けました。
観覧席に忍び込んだバルドとオスカー。
セルジオとエリオスは投げ入れられた短剣から2人が助けにきたと確信します。
そして、かつてセルジオの暗殺を目論んだ『黒の影』、黒魔術を操るマデュラ子爵との因縁も見え隠れします。
セルジオとエリオスの獅子との戦いはどちらに軍配が挙がるのか?
『黒の影』マデキュラ子爵の刺客と対峙したサフェス湖湖畔での戦いの回は
「第2章 第22話:インシデント18 因縁の対決」
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をご覧下さい。
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