とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第133話 マデュラの闇

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真剣な面持ちでコーエンとエデルと話し込むセルジオとエリオスを眺めるブレンの両脇にバルドとオスカーはそっと控えた。

「ブレン様」

バルドが声を掛けるとブレンは驚いた表情を向けた。

「ブレン様、失礼を致します。改めて手合わせの御礼をと思いお声かけ致しました」

バルドとオスカーはブレンの足元に跪いた。
ブレンはじっと2人の姿を見つめ、ふぅと一つ息を吐いた。

「バルド殿、オスカー殿・・・・まずはお座り下さい。今宵は皆さまをお招きできた祝宴です。どうか、我らマデュラの家族のもてなしを堪能なさって下さい」

ブレンは2人に両隣の椅子を勧める。

「はっ!感謝申します」

着座するとバルドとオスカーはブレンに身体を向け、深々と頭を下げた。

「我が主との真剣での手合わせに改めて感謝申します。他家騎士団では訓練はを使います故、この度が初の真剣での手合わせとなりました。またとない機会を下さり感謝申します」

バルドとオスカーは左手を胸にあて、今一度頭を下げた。

ブレンは2人の言葉にフルフルと首を左右に振った。

「私のいたずら心が招いた失態にございました。セルジオ殿とエリオス殿に怪我まで負わせ、セルジオ騎士団団長に詫びねばなりません」

ブレンは申し訳なさそうな顔をするとセルジオとエリオスへ目を向けた。


 ーーーーーーー手合わせの後、訓練場ーーーーー


ブレンが宴の準備の号令を掛けると騎士と従士は見事な動きで訓練場を後にした。

残された見習い従士が片づけに入るとブレンはエリオスの右肩にそっと触れた。

「っつ!!」

エリオスは思わず痛みを口走る。

エリオスはブレンが振り下ろした剣の柄が右肩に入り脱臼していた。

「エリオス殿、すまぬ」

ブレンはエリオスに頭を下げた。

「そなたの攻撃をかわすに精一杯で加減ができなかった。すまぬ」

ブレンは申し訳なさそうにエリオスの顔を覗き込んだ。

「ブレン様、大事ございません。真剣との手合わせです。怪我は覚悟の上にございます。肩が脱臼はずれただけにて有り難く存じます」

額に脂汗を浮かべながらエリオスはブレンの謝罪に呼応した。

「見事な攻撃であった。そなたの背丈が今少し高ければ間違いなく私の胴元に短剣が突き刺さっていた」

ブレンはじっとエリオスを見つめた。脂汗が顎からポタポタと落ちている。

「オスカー殿に早う繋いでもらえ。城までの道中、大事はないか?」

「はっ!大事ございません」

エリオスはじっと見つめるブレンの薄い青い瞳を見返し呼応した。

ブレンが目配せをするとオスカーはエリオスを連れ天幕に向かった。

天幕内には訓練中に怪我を負った者を手当する簡易な救護所が設けられている。

ブレンはオスカーに連れられるエリオスの後ろ姿を見送った。


 ーーーーーー食堂ーーーーーーー

「ブレン様」

オスカーに声を掛けられブレンはハッとした。

また、先ほどの手合わせの情景が頭に浮かび気もそぞろになっていた。

右肩を綿布で固定したエリオスは痛みを見せる素振りなくコーエンとエデルに勧められた魚料理を頬張っている。

「ブレン様、我らが主にお気づかい下さり、このように立派な宴を開いて頂き感謝申します」

オスカーは礼を述べるとセルジオとエリオスの怪我の状況を伝えた。

「セルジオ様は打撲のみにございます。エリオス様は右肩の脱臼のみにて、お二方とも大事ございません」

オスカーは左手を胸にあて頭を下げた。

「左様でしたか。されど一つ間違えば取り返しのつかぬ事態となっていました。お詫び申します」

ブレンはどこか心ここに非ずの様だった。

バルドとオスカーはブレンの様子に顔を見合わせる。騎士団城塞にポルデュラの結界が張られているとはいえマデュラ子爵家の領内だ。黒魔術を操るマルギットの膝元であることに変わりはない。

バルドはブレンに黒の影が入ってるのではと疑念を抱いた。

ぼんやりとセルジオとエリオスへ目を向けていたブレンが口を開いた。

「バルド殿、オスカー殿」

ゆっくりと2人へ顔を向ける。

「マデュラの闇が復活を遂げたのではないかと・・・・」

ブレンの言葉にバルドとオスカーの身体はピクリッと反応した。

「先ほどの手合わせの後、私が申し上げた事覚えておいでですか?」

ブレンは少し苦し気な表情を浮かべセルジオに目を向けた。

手合わせ後のブレンの言葉をバルドとオスカーは思い返した。


 ーーーーーー手合わせの後、訓練場ーーーーーー

「青き血が流れるコマンドールに拝謁致します」

左手を胸にあてブレンはセルジオに深々と頭を下げた。

「伝説の騎士の再来が真の事であることポルデュラ様より伺っておりました。しかし、そのお姿を目の当たりにし恐怖を抱きました。まだまだ、お小さい御身でありながらあのように・・・・」

ブレンは古から王国に伝わる伝説の騎士の言い伝えを口にする。

「その者、青白き炎を携え、剣を振るう。剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く。黄金に輝く髪、深く青い瞳、透き通る肌には青き血が流れる。その名を持って国を守り、その名を持って国に安寧をもたらす」

じっとセルジオの深く青い瞳を見つめた。

「セルジオ様、私は青と赤の因縁を当代で終わらせたいと考えております。この地にセルジオ様が滞在されている間に青と赤の因縁の終わりの始まりを何とか広義のこことできないものかとポルデュラ様へ相談を致しました」

セルジオは真直ぐに己を見つめるブレンの次の言葉を静かに待った。

「ポルデュラ様はセルジオ様とじっくり話をすることだと申されました。我らがお互いの考えを詳《つまび》らかにし、分かり合う事ができたなら存分にお力をお貸し下さると申されました。セルジオ様がご到着された後は我が城塞に結界を張り、闇の邪魔が入らぬ様に手立てを施すと仰られて。アロイス様もお力添え下さると」

ブレンは地面へ目を落とし再びセルジオを見つめた。

「しかしながら、我らマデュラ騎士団は因縁の終わりの始まりを告げる事ができるのかと、先ほどの我が団の者達を見、己の愚かさと傲りを改めて感じました」

ブレンの薄い青い瞳が憂いを帯びている様に見える。

「我が姉、マデュラ子爵家現当主が仕向けた事、全て聞き及んでおります」

ブレンは実姉マルギットの行動を謝罪するかの様に頭を下げた。

「数年前までの当主はセルジオ様の暗殺を企てる等、思いもしませんでした。自領よりも王国を領民を思い、伴侶と共に領地を治め、ここまで活性化した領地に致しましたのは他ならぬ現当主です。されど・・・・」

ブレンは再びセルジオを見つめる。

「5年ほど前から少しづつ様子が・・・・立て続けに子を亡くした頃からガラリと人が変わりました。私を遠ざける様になり、あれほど仲睦まじく過ごしていた伴侶が病に伏せると本城に残し、今はほとんど王都の私邸に滞在しております。第一子次期当主とその婚約者も本城に残したまま、当主教育も人任せで・・・・」

ブレンはマルギットの変りようをセルジオ達に伝えた。

「あろうことか、セルジオ様へ刺客を送るなど以前の当主からは考えられない事です」

ブレンは息をついだ。

「当主が、姉がどのような考えで、あのような行いに走ったのか、今はまだ見当もつきまません。それでも私は、当主と考えも行動も違える事となってでも青と赤の因縁を終わらせたい。そして、当主の行いもまた因縁を終わらせる行いの一端であると信じたい。セルジオ様、どうか、マデュラの地を去られる時に私と共に宣言をして頂けませんでしょうかっ!我らで青と赤の因縁の終わりの始まりを宣言すると広義のものとしていただけませんでしょうか?お願い申します」

ブレンは左手を胸にあて深々と頭を下げた。

セルジオはブレンが次の言葉を発しないと見ると静かに口を開いた。

「ブレン様、どうか頭をお上げ下さい」

ゆっくりと歩み寄り、顔を上げたブレンと目を合わせた。

「我らも同じように因縁の終わりを願っております。であればこそ、易々と今この場でご返答は出来かねます」

セルジオは揺るぎない視線をブレンに向けた。

「永い時をかけ根付いたものは、同じように永い時をかけねば拭えぬと我が師は申します。絡んだ糸を解きほぐすには時を要すと思います。終わりを急ぐと事を仕損じ、始まりを急ぐと目指す所が揺らぎます。ここはポルデュラ様の仰る通り、まずは我らが考えや思いを語り合う事から始める事が肝要に存じます」

ブレンはセルジオの言葉にハッとした。

『一切の傲りを持たぬ事』マデュラの戒めの言葉をまたもや蔑ろにした行いだった。

己の考えや思いをセルジオに押し付けた行いは『傲り』そのものだ。

ブレンはセルジオを前にすると己の言動がなぜか信念を揺るがす様に感じる。

「はっ!セルジオ様、感謝申します。セルジオ様を前にしますとなぜが心が乱れ、気が高ぶり、焦りを覚えます。仰る通り、時をかけセルジオ様と語らいたいと存じます」

ブレンはセルジオの深く青い瞳をしっかりと見つめた。


 ーーーーーー食堂ーーーーーーー

バルドとオスカーはブレンが口にした言葉を思い返し顔を見合わせた。

ブレンが口を開く。

「今まで、この様な思いを抱いた事などありませんでした。今日、セルジオ様を前にした私の言動は、己の知らぬ己でありました。まるで別の何かに操られているかの様に心が乱れ、気が高ぶり、焦りを覚える・・・・この様な事、今まで一度たりとも感じたことがありません」

ブレンはバルドとオスカーへ憂いを帯びた目線を向けた。

「ポルデュラ様の結界を張り巡らせた城塞で、私にこの様な思いを抱かせられるのは黒魔術による闇より他にないと。当主の変り様は闇の復活、黒魔術の復活を意味するのではないかと・・・・」

ブレンの両手がわなわなと震えている。

バルドとオスカーは震えるブレンの手にそっと手を重ねた。ブレンは顔を上げる。

「ブレン様、我ら刺客と対峙しました時に既にその事存じております」

バルドの言葉にブレンは目を見開いた。

「ポルデュラ様が申されるに黒魔術を操る古の魔女が復活を遂げたと。残念ではございますがマデュラのご当主様は既に黒魔術に取り込まれていると申されました」

「なっ!それは真にございますか?」

ブレンは立ち上がる勢いでバルドとオスカーに詰め寄った。

ザワッザワッ

ブレンの上げた声に賑やかな食堂の空気が不穏なざわつきに変わった。

一斉にブレンに視線が集中する。

ブレンは何事もなかったかのように高らかな笑い声を上げ、その場を取り繕った。

食堂はホッとした様に賑やかさを取り戻す。

「申し訳ない。この様な有様なのです。己が己でないようで不甲斐なく」

ブレンは小声でバルドとオスカーに詫びた。

「大事ございません」

バルドはブレンの様子に一つの確信を持った。

「ブレン様、黒魔術に操られた者はその力に
あらがう事はできません。されどブレン様は己の言動の違いを自覚し、己の意思で行動されてみえると存じます。黒魔術に操られてはいないと言う事です。しかし、何かしらの影響を受けている可能性は・・・・」

ガタンッ!!!
ドタッドタッ!!!

突然に大きな音が食堂のあちこちから響いた。

ガタンッ!!!
ドタッドタッ!!!

「うぅ・・・うぅ・・・」
「どうしたっ!おいっ!」

賑やかに談笑していた騎士と従士がバタバタと倒れ、うずくまり、苦しそうに身体を丸めている。

「ガハッ!!」

その内に激しく嘔吐する者が出た。

ブレン、バルドとオスカーは勢いよく椅子から立ち上がった。

「どっ毒だっ!毒だっ!何かに毒が仕込まれたっ!!」

倒れた騎士を介抱していた一人が叫んだ。

食堂は一気に大混乱に陥った。

深緑色の吐しゃ物を目にしたブレンが大声を上げる。

「皆の者っ!倒れた者から離れろっ!吐き出た物に触れるなっ!」

時間差でバタバタと倒れていく騎士と従士にブレンが呟いた。

「なぜだ・・・・城塞でこの様なこと・・・・なぜ、今なのだ・・・・」

バルドがブレンの腕を掴んだ。

「ブレン様、洗浄が先にございます。水をっ!大量の水でこの場を洗浄するより他ありません。外に毒気が漏れぬ様、今すぐにご指示をっ!」

バルドとオスカーは口元を布で覆い、フードを目深にかぶっていた。

ブレンの後ろに回り口元に布を宛がう。

「お早くご指示をっ!我らは我が主の元に参ります」

バルドとオスカーはセルジオとエリオスの所へ走った。

「セルジオ様っ!エリオス様っ!」

バルドとオスカーが駆け寄るとコーエンとエデルの姿はなかった。

「・・・・」

食堂の状況に唖然としているのかセルジオとエリオスはその場に立ち尽くしていた。

バルドとオスカーの声に2人はゆっくりと振り向く。

「・・・・バルド・・・」

消え入りそうな声を発したセルジオの口元から真っ赤な血がポタポタと滴り落ちていた。

「セルジオ様っ!!!」

カタンッ・・・・コロコロッ・・・・

セルジオの手から杯がこぼれた。

バタンッ!!!

「セルジオ様っ!!!」

ドサッ!!!

セルジオはそのまま食堂の床に倒れた。




【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

無事にマデュラ騎士団城塞に入り、歓迎の宴に招かれたセルジオ達一行。

ああああぁ、ポルデュラの結界で守られていたのに・・・・毒を仕込まれ食堂は大混乱に陥ります。

誰が仕組んだのか・・・・黒幕は黒魔女マルギットですが、実際に手を下したのは、思いもよらぬ人でした。

この混乱を団長ブレンはどう治めるのか、毒をもった実行犯は誰なのか?セルジオ達は無事にマデュラを出られるのか?

次回もよろしくお願い致します。
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