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第18話 黒い影
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華やかな音楽にのり、広間はダンスを楽しむ貴族で埋め尽くされていた。
その円舞の中で楽しそうに踊るマデュラ子爵家第一子アルノーと婚約者のフレデリカの姿をマルギットは場外で眺めていた。
黒魔女マルギットがマルギットの身体を乗っ取り二週間が経っていた。
マルギットは手始めに侍従のベルントと女官ベーベルを赤黒い靄で包み込み魂を呪縛した。
普段は今世のマルギットの様子そのものを装い、魂の呪縛を施したベルントとベーベルの前でのみ黒魔女マルギットを露わにした。
マルギットの息子アルノーとフレデリカや領地本城に住まう者達へハイノは他国への視察へ出ていることにし、口外しない様念を押した。
国王からの秘密裏の任務を授かったこととし、対外的には本城で病に伏せている事にする旨を言い含めていた。
マデュラ子爵家本城でマルギットの様子の変化に気付く者はいなかった。
疑念を抱く者が現れれば黒魔術で取り繕うことは容易だったのだ。
黒魔女マルギットは徐々に肉体の自由を取り戻しつつあった。
領地から月に一度、王都別邸へ赴き滞在する。
18貴族の当主会談が催されるからだ。
当主会談の後は王家主催の饗宴が催される。
7歳になったフレデリカは饗宴へ初めて出席し、ダンスを披露していた。
「マルギット殿、今宵はお独りですか?ハイノ殿はいかがされましたか?」
ピクリッ!
名前を呼ばれた方へ目をやるとエステール伯爵家当主ハインリヒの姿があった。
「・・・・」
金色に輝く髪、深く青い瞳のハインリヒをマルギットは無言で見つめた。
「・・・・マルギット殿?いかがされましたか?」
ハインリヒがマルギットの様子に首をかしげる。
ふっと一つ息を吐くとマルギットはハインリヒに呼応した。
「これは、ハインリヒ様、失礼を致しました。少し考え事をしていましたの。ハイノの・・・・夫が体調を崩していまして、心配で・・・・」
マルギットは少しうつむくと扇子で口元を覆った。
「!!!左様でしたかっ!いつも仲睦まじく饗宴にお出ましになるのに、それはご心配でありましょう」
ハインリヒはハイノの様子を慮る。
「はい、心配です。されどフレデリカの初めての饗宴ですから・・・・」
マルギットは扇子で覆った口元をニヤリと歪めた。
「そう言えば、ハインリヒ様、この度は第二子ご誕生のこと、おめでとう存じます」
ギュッ!!
マルギットの言葉にハインリヒは左手をギュッと握った。
マルギットは100有余年前のエステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁を終わらせようとマルギットに持ちかけたハインリヒにあの日のことを思い出させる様に視線を向けた。
ハインリヒの様子にマルギットはニヤリと口元を歪める。
「我が第二子イゴールも訓練施設に入り、半年が経ちました。いずれ、セルジオ様と会いまみえる時が来るかと思うとどの様なことが起きるのか・・・・楽しみですね」
マルギットはハインリヒに意味深な微笑みを向けた。
フワリッ・・・・
一つ扇子を振る。
黒い靄がハインリヒの視界を遮った。
「・・・・」
「ハインリヒ様が掲げる理想が事成すことが可能でしょうか?現実に阻まれ、実現不可能な時、ハインリヒ様はどうなさるのか?楽しみです」
「マデュラの印、赤い髪と赤い瞳を持ち生まれたイゴールと金色の髪、深く青い瞳を持ち生まれたセルジオ様・・・・100有余年前の出来事を繰り返さねばよいのですか・・・・」
フワリッ・・・・
マルギットは口元の扇子を一振りする。
ヴゥン・・・・
両耳を塞がれた様な感覚にハインリヒの身体は動きを止めた。
「ねぇ、ハインリヒ様、私も願っているのですよ。ハインリヒ様が掲げた理想が事成し、シュタイン王国が他国からの侵略などものともしない強き王国になることを・・・・」
「されど、王国内で古の禍が復活すればどうなるでしょう?攻め入る好機と捉える国も出てくるかと」
「王国に禍を呼び込む種が芽吹かぬ内に葬り去る事も必要かもしれませんね。さて・・・・赤と青・・・・どちらが禍の種となるのか・・・・ハインリヒ様はいかがお考えですか?」
フワリッ・・・・
マルギットは意味深な目線と言葉を黒の靄に乗せてハインリヒの身体を包み込んだ。
「・・・・」
身体の自由を奪われたハインリヒは佇み、マルギットの赤い瞳を無言で見つめる。
「・・・・ハインリヒ様の理想へのお覚悟、陰ながら願っております」
フワリッ・・・・
マルギットは扇子を一振りする。
グラッ・・・・
ハインリヒの視界が歪んだ。堪らず、目を閉じる。
マルギットはハインリヒの身体を包んだ黒い靄が耳から入り込むのを見届けるとふっと黒の靄を吹き払った。
ハインリヒの様子に満足そうな微笑みを浮かべる。
「では、ハインリヒ様、私はこれにて失礼を致します。いずれまた・・・・」
マルギットはクルリと後ろを向くと饗宴の間の出入口へ向かった。
「マルギット殿っ!」
ハインリヒがマルギットの背中に声を上げる。
ゆっくりと振り返るとハインリヒの深く青い瞳を見つめた。
「マルギット殿、私の理想は何としても実現させます。たとえそれが、我が子を手にかける事になろうとも、実現させます」
ハインリヒはぐっと両手拳を握った。
クスリッ・・・・
マルギットは口元を歪めクスリと笑う。
「では・・・・」
軽く膝を曲げ挨拶をすると静かに饗宴の間を後にした。
その円舞の中で楽しそうに踊るマデュラ子爵家第一子アルノーと婚約者のフレデリカの姿をマルギットは場外で眺めていた。
黒魔女マルギットがマルギットの身体を乗っ取り二週間が経っていた。
マルギットは手始めに侍従のベルントと女官ベーベルを赤黒い靄で包み込み魂を呪縛した。
普段は今世のマルギットの様子そのものを装い、魂の呪縛を施したベルントとベーベルの前でのみ黒魔女マルギットを露わにした。
マルギットの息子アルノーとフレデリカや領地本城に住まう者達へハイノは他国への視察へ出ていることにし、口外しない様念を押した。
国王からの秘密裏の任務を授かったこととし、対外的には本城で病に伏せている事にする旨を言い含めていた。
マデュラ子爵家本城でマルギットの様子の変化に気付く者はいなかった。
疑念を抱く者が現れれば黒魔術で取り繕うことは容易だったのだ。
黒魔女マルギットは徐々に肉体の自由を取り戻しつつあった。
領地から月に一度、王都別邸へ赴き滞在する。
18貴族の当主会談が催されるからだ。
当主会談の後は王家主催の饗宴が催される。
7歳になったフレデリカは饗宴へ初めて出席し、ダンスを披露していた。
「マルギット殿、今宵はお独りですか?ハイノ殿はいかがされましたか?」
ピクリッ!
名前を呼ばれた方へ目をやるとエステール伯爵家当主ハインリヒの姿があった。
「・・・・」
金色に輝く髪、深く青い瞳のハインリヒをマルギットは無言で見つめた。
「・・・・マルギット殿?いかがされましたか?」
ハインリヒがマルギットの様子に首をかしげる。
ふっと一つ息を吐くとマルギットはハインリヒに呼応した。
「これは、ハインリヒ様、失礼を致しました。少し考え事をしていましたの。ハイノの・・・・夫が体調を崩していまして、心配で・・・・」
マルギットは少しうつむくと扇子で口元を覆った。
「!!!左様でしたかっ!いつも仲睦まじく饗宴にお出ましになるのに、それはご心配でありましょう」
ハインリヒはハイノの様子を慮る。
「はい、心配です。されどフレデリカの初めての饗宴ですから・・・・」
マルギットは扇子で覆った口元をニヤリと歪めた。
「そう言えば、ハインリヒ様、この度は第二子ご誕生のこと、おめでとう存じます」
ギュッ!!
マルギットの言葉にハインリヒは左手をギュッと握った。
マルギットは100有余年前のエステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁を終わらせようとマルギットに持ちかけたハインリヒにあの日のことを思い出させる様に視線を向けた。
ハインリヒの様子にマルギットはニヤリと口元を歪める。
「我が第二子イゴールも訓練施設に入り、半年が経ちました。いずれ、セルジオ様と会いまみえる時が来るかと思うとどの様なことが起きるのか・・・・楽しみですね」
マルギットはハインリヒに意味深な微笑みを向けた。
フワリッ・・・・
一つ扇子を振る。
黒い靄がハインリヒの視界を遮った。
「・・・・」
「ハインリヒ様が掲げる理想が事成すことが可能でしょうか?現実に阻まれ、実現不可能な時、ハインリヒ様はどうなさるのか?楽しみです」
「マデュラの印、赤い髪と赤い瞳を持ち生まれたイゴールと金色の髪、深く青い瞳を持ち生まれたセルジオ様・・・・100有余年前の出来事を繰り返さねばよいのですか・・・・」
フワリッ・・・・
マルギットは口元の扇子を一振りする。
ヴゥン・・・・
両耳を塞がれた様な感覚にハインリヒの身体は動きを止めた。
「ねぇ、ハインリヒ様、私も願っているのですよ。ハインリヒ様が掲げた理想が事成し、シュタイン王国が他国からの侵略などものともしない強き王国になることを・・・・」
「されど、王国内で古の禍が復活すればどうなるでしょう?攻め入る好機と捉える国も出てくるかと」
「王国に禍を呼び込む種が芽吹かぬ内に葬り去る事も必要かもしれませんね。さて・・・・赤と青・・・・どちらが禍の種となるのか・・・・ハインリヒ様はいかがお考えですか?」
フワリッ・・・・
マルギットは意味深な目線と言葉を黒の靄に乗せてハインリヒの身体を包み込んだ。
「・・・・」
身体の自由を奪われたハインリヒは佇み、マルギットの赤い瞳を無言で見つめる。
「・・・・ハインリヒ様の理想へのお覚悟、陰ながら願っております」
フワリッ・・・・
マルギットは扇子を一振りする。
グラッ・・・・
ハインリヒの視界が歪んだ。堪らず、目を閉じる。
マルギットはハインリヒの身体を包んだ黒い靄が耳から入り込むのを見届けるとふっと黒の靄を吹き払った。
ハインリヒの様子に満足そうな微笑みを浮かべる。
「では、ハインリヒ様、私はこれにて失礼を致します。いずれまた・・・・」
マルギットはクルリと後ろを向くと饗宴の間の出入口へ向かった。
「マルギット殿っ!」
ハインリヒがマルギットの背中に声を上げる。
ゆっくりと振り返るとハインリヒの深く青い瞳を見つめた。
「マルギット殿、私の理想は何としても実現させます。たとえそれが、我が子を手にかける事になろうとも、実現させます」
ハインリヒはぐっと両手拳を握った。
クスリッ・・・・
マルギットは口元を歪めクスリと笑う。
「では・・・・」
軽く膝を曲げ挨拶をすると静かに饗宴の間を後にした。
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