いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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俺の剣が火を吹くぜ! ガチでね。

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「審判は……っと。じゃぁ、赤髪任せた」
 伴侶であるパーシヴァルに頼んだりしたら、どんな言いがかりをつけられるかわからないからさ。
 赤髪は助けを求めるようにパーシヴァルに視線を向けたけれど、当然パーシヴァルは首を縦に振った。今更止めるわけがなかろうに。往生際が悪いな。
「……はぁ……わかったよ」
 赤髪は渋々ながらも、審判を引き受けてくれた。
 俺は気合を入れてブンブンと剣を振ったものの、その重さにちょっとふらついてしまった。完全に剣に振り回されている。だいぶ格好悪いな。杖だったら華麗に回せるのに。
 杖と違って魔力で腕力を強化することはできないから、これは仕方がない。
 そんな俺の様子を見て、エディタたちは鼻先で笑う。赤髪も不安そうな表情だ。赤髪よ、杖がなければ何もできない俺と思うなよ。
 とはいえ、確かに剣に関しては全くのド素人。ちょうどいい手加減ってものができればいいがな。
「んじゃ、始めようか」
 俺は握った剣に炎を纏わせる。鍛練用の剣が、さながら魔剣のごとき姿に変化した。
 以前、魔獣の森でパーシヴァルの剣に施したのと同じ魔法だ。あの時と同じ風でも良かったんだけど、非力な俺じゃ剣が吹っ飛んじゃうかもしれないからね。
 青い炎を纏う剣を見て、周囲はざわつく。一番ざわついたのはエディタたちだ。
「な、なによ……それ」
「何って、剣に炎をまとわせただけだよ。それが何か?」
「そんな剣を使うなんて卑怯だわ!」
「そうだぞ!」
「いや、問題ないだろ。お前らだって魔法が使えないフィンレーに、なんの躊躇いもなく魔法で攻撃してたじゃないか。自分たちができないことをサフィラスがやったからって、文句は言えないぞ。それに、魔法ならお前らも使えるじゃないか。相手は魔法使いなんだから、遠慮せず好きなだけ魔法を使えよ」
「……っ」
 審判の赤髪に正論を突きつけられて、エディタたちは押し黙る。
「互いに正々堂々と勝負しろ。命に関わる一撃になると俺が判断したら、そこで勝負ありだ。それでいいな?」
「うん、異論はないよ」
「……いいわ」
 エディタは随分と不満そうだ。だけど、最初に卑怯な手を使ったのは自分たちだから仕方ないよねぇ。

 最初の対戦相手と俺は向かい合う。名前を知らないので、仮にその1と呼んでおこう。
「はん。ろくに剣も握れないやつが、そんなもの使ったところで何も変わらん。多少魔法が得意だからと、いい気になるなよ」
 うん、確かにいい気にはなっているけど、勘違いしてもらっちゃ困る。俺は、多少じゃなくて魔法が得意なんだ。
 それにしても、エディタの周りにいる連中は、すっかり様変わりしたな。パーシヴァルたちから離れたあとは、女性騎士を目指すご令嬢たちと一緒にいたはずなのに、今じゃすっかり距離を置かれてる。
 で、現在はこんなろくでもない連中と連んでいると。
「用意はいいか? では、初め!」
 赤髪による試合開始の合図と同時に、俺はその1の背後に転移する。
「おっと! 剣が重くて狙いが定められないぜ!」
 そう言いながら、俺はよろよろとしながらも大きく剣を振りかぶった。突然背後に現れた俺に、その1は慌てて振り下ろされた剣を避ける。当然当たったら大火傷だ。せいぜい、直撃しないように避けてくれよ。
 たとえ剣が重くてろくに振るえなくても、俺は転移が使えるからな。その1の剣を避けながら、下手くそな剣を振り回すだけで十分だ。炎が掠めるたびに、その1の服や髪が焼ける。
「お、お前! 転移ができるのか! い、いや、それよりも詠唱はどうした!?」
「詠唱? してほしいならするけど。したところで現状は変わらないよ。詠唱しながら転移するから」
「なっ! くっ、くそっ!」
 悔しさからか、顔を歪めたその1の剣の腕前は、言うほど大したことは無い。多分こいつは騎士になれないな。それじゃ、後が控えているんで第一試合はそろそろ終了だ。
 その1の首を目掛けて、炎の剣を思い切り振る。当然俺は非力なので、勢いのついた剣を途中で止めるなんて芸当はできない。
「勝負あり! そこまで! 勝者サフィラス!」
 慌てて赤髪が勝敗を告げたけれど、地面に座り込んだその1は、顔面を蒼白にしてガクガクと震えている。
 首を落とす勢いで斬り込んだ俺は、刃が首に当たる瞬間に転移をした。その1は本当に首を落とされると思っただろう。当然命まで取るつもりはなかったけど、首に軽い火傷くらいは負っただろうな。
「一つ俺の勝ちだな。じゃ、次は誰が出るの?」
 俺の戦い方を見ていた3人は、完全に引いている。
 詠唱なしの転移魔法。魔法剣士といえど、魔法を使うには詠唱がいるあいつらが、俺と一対一で勝てるわけがない。たとえ、四人まとめて相手にしたとしても、負けるわけがないけど。
 どんなに剣の腕がへっぽこでも、相手の攻撃を受けなければ絶対に負けないのだ。そして俺は、あいつらの剣に間違っても当たらない。たとえ避け損なっても防壁がある。
「つ、次は俺だ……」
 その2が及び腰で出てきた。まずいと思ったところで、あれだけ偉そうにしていて、今更後には引けないんだろう。引くには観衆が集まりすぎているしね。最近は見学者が多いって話だし、当然今日も麗しの騎士見習いたちの勇姿を見ようと学生が集まっている。
 賛同者を集めたい彼らとしては、逃げ出すようなみっともないところは見せられないってところだろうな。
「じゃ、始めよう」
 今度は炎の代わりに雷を剣に纏わせる。ピシピシと音を立てて、周囲に小さな稲妻が走った。
 試合を始める前まであんなに心配していた赤髪は、すっかり呆れ顔になっていた。
「はいはい、次の対戦始めるぞ。サフィラスはほどほどにな」
「承知」
「では、初め!」
 さっきの戦いを見ていたその2は背後への転移を警戒して、剣を大きく振り回す。
 残念! 今度は足元なんだよね!
 身を屈めて足元に転移をすれば、その2は慌てて後ろに飛び退る。その1よりは多少剣が使えるようだけれど、それでも俺の相手にはならなかった。稲妻でじわじわと攻めて、最後は切り込んできたその2の剣を俺が受けると、相手は勝手に痺れて動けなくなった。
 おや? もしかして稲妻剣って最強なんじゃない?
 ちなみにその3は水で相手をしたが、剣に纏わせたのが水だとわかってあからさまにホッとした表情をしていたけど、水もなかなか侮れない。
 威力を一点に集中すれば、剣を折ることだってできるんだ。その3の剣は、俺が振り払った拍子にあっさりと折れた。というよりも、水で切断された。
 魔法剣士と言いながらも、彼らは結局一度も魔法を使わないまま終わった。俺の攻撃を避けながら、詠唱する余裕はないだろう。
「これで最後の対決になるが……フィルダー、本当にやるのか?」
 赤髪がエディタに意思を確認する。
「も、もちろんやるわよ!」
「……やめといた方がいいと思うけど」
 ボソッと呟いた赤髪を、エディタが睨みつける。
 すっかりボロボロになっている3人に視線を向けるけれど、彼らにエディタを止めるつもりはないようだ。実力があるから大丈夫だと思って止めないのか……?
 うーん……騎士志望とはいえ、相手はご令嬢。どこまでやっていいのかな。手を抜くとそれはそれで怒りそうだし。
「お前たち、これは一体なんの騒ぎだ?」
 どうしようかなと思っていれば、大きな声が鍛練場に響く。鍛練を始める時間になったらしい、剣の講師がやってきた。
 講師は怪訝そうに、傷だらけのフィンレーとその1からその3に視線を向ける。それから、俺。
 エディタがあからさまにホッとした表情を浮かべ、急に困ったような様子を見せた。
 おっと。これは、騒動の原因を俺たちにするつもりだな。まぁ、そんなことは予想の範疇だから別に構わないけど。
「先生、実は……」
「学生同士の交流を行っていました!」
 エディタが何かを言う前に、フィンレーが満面の笑顔で答えた。
「交流?」
「はい。私たち獣人は魔法が使えないので、魔法を使った戦い方を実践で体験させてもらっていました。だよな、パーシヴァル」
「フィンレーの言う通りです」
 パーシヴァルは頷くと、講師をまっすぐに見た。
「……なるほど。で、彼は?」
 俺はどう考えても部外者。怪訝に思われても仕方がない。
「俺はフィンレーの友人として、彼らに無理を言って参加させてもらいました。お騒がせしてすみませんでした」
 俺が頭を下げると、講師は片方の眉を上げてわずかに口元を緩めた。
「確か君は魔法が得意な学生であったな。して、ハーディングは交流で何か学ぶものがあったか?」
「はい、とても! 魔法が使えない私にとって、サフィラスの剣の使い方は非常に興味深いものでした」
「そうか。学びに貪欲なのは良いことだ。だが、基本も大事だぞ。では、鍛錬を始める。皆、準備を」
「はい!」
 どうやら、鍛錬の講師は俺たちの顔ぶれを見て、この場の状況を察してくれたらしい。
 パーシヴァルが師と仰ぐ講師だ。お兄さんたちもこの講師に学んだと言うし。きっと公平で、理解のある先生なんだろうな。少なくとも、エディタたちの態度に思うところはあったんだと思う。
 じゃなければ、こんなにあっさりと騒動を終わりにはしない。
 エディタたちは悔しげな顔をしているけど、この場は収めるしかないだろう。これに懲りて、これ以上くだらないことをやらかしてくれるなよ。

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