いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

文字の大きさ
121 / 173
連載

ラミアーと太陽の騎士?

しおりを挟む
 「サフィラス様、ごきげんよう」
 昨日の醜態をすっかり忘れ、パーシヴァルと呑気にランチを楽しんでいれば、俺を恐怖に突き落とした張本人、グレース・エドモン嬢が左右に1人ずつ取り巻きのご令嬢を引き連れて再び俺の前に現れた。
 カフェテリアにいる学院生の視線が一斉に集まる。
 そりゃ当然だ。深い紅色の豊かな髪に、葡萄色の瞳。その上、女性らしいその姿は、学院の制服が不自然なほどだ。しかもグレース嬢だけではなく、取り巻きのご令嬢までも圧倒的な雰囲気を纏っている。
 こ、今度は何だ?
 俺が慌てふためいてわたわたと逃げ出そうとしていれば、パーシヴァルがすっと立ち上がった。
「失礼、エドモン嬢。サフィラスに話があるならば、まずは私が聞きましょう。一体どういったご用件だろうか?」
「あら、まぁ……本当にお噂通りでしたのね。宵闇の精霊様は太陽の騎士様が常にお守りしているというのは。てっきり、皆様が大袈裟に仰っているのだとばかり思っていましたわ」
 グレース嬢はそういうと、蠱惑的な笑みを浮かべた。
 美女3人と麗しの騎士。絵面的には素晴らしいけど、こう言ってはなんだが、さながらラミアーと対峙する騎士って感じだ。
 いかんせん空気が怖い。周囲もそう思っているんだろう。誰もが固唾を飲んでこちらの様子を伺っている。
 グレース嬢は第四学年で、俺たちより二つ年上らしいけど、確かに大人の魅力ってやつが濃厚に漂う。いっそ貫禄と言ってもいいかもしれない。
「ふふ、太陽の騎士様、そう警戒なさらないで。わたくし、今日は謝罪に参りましたのよ」
 しゃ、謝罪だって? 一体何を考えているんだ? まさか、謝罪だと油断させておいて、いきなり襲いかかるんじゃないだろうな?
 グレース嬢がパーシヴァルに向けていた深い葡萄色の瞳を俺に向ける。昨日のことを思い出した俺は、思い切り身構える。
「サフィラス様、昨日は大変失礼いたしました。わたくし、殿方からあのように悲鳴を上げられたのは、初めての経験でしたわ」
「……そ、それは、すみませんでした」
 あれ? 謝罪を受け取るのは俺の方だよな。なんだかグレース嬢からの圧が強くて、つい謝ってしまった。昨日の恐怖がまだ残っているので、すっかり逃げ腰になってるよ俺。
「サフィラス様の魔力と魔法の才能は、魔法の血統を重んじる我が侯爵家にとって喉から手が出るほど欲しいもの……婚約なさっていたとしても、サフィラス様がわたくしを気に入ってくだされば問題ありませんでしょう? ですから、あわよくば、と思いましたのよ」
 いやいや、問題大有りだろ! そんなのがまずいことぐらい平民の俺だってわかるぞ。しかも、貴族のご令嬢があわよくばだなんて、なにを言っているんだ。ほら! パーシヴァルの眉間に深い皺が寄っちゃってるじゃないか。
「ですが、わたくしお二人の仲を少々侮っていたようですわね。申し訳ございません」
「わかっていただけたなら結構だ」
 パーシヴァルが俺に視線を向ける。
「えっと、しゃ、謝罪を受け取ります?」
「ありがとうございます、サフィラス様。では、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう……」
 グレース嬢が踵を返したので、俺は安堵のため息をつく。いやぁ、完全に圧倒されてしまったな。いやはや、なんとも迫力のあるご令嬢だったなぁ。
 ところが、俺が完全に気を抜いたところで、グレース嬢がくるりと振り返った。
 え? 何? まだなにかあるの? 慌てて身構えるも、グレース嬢の視線はパーシヴァルに向けられている。
「太陽の騎士様。わたくし身を引きますけれど、諦めたわけではございませんのよ。くれぐれもご安心なさりませんよう」
「肝に銘じよう」
 パーシヴァルがそういうと、グレーズ嬢は怪しく微笑みを深め今度こそ本当にカフェテリアを出て行った。
 ……あのご令嬢、絶対に只者じゃないぞ。



 「クレメンティ侯爵家のグレース様ですか……ある程度は想定はしておりましたけれど」
 アウローラに招待されたお茶の席で、美味しいお菓子とお茶を頂きながら件のご令嬢の話をすれば、アウローラは難しい表情を浮かべながら、深いため息をついた。というか、何者かの襲撃は想定内だったのか。それなら前もって言っておいてほしかったよ。もしわかっていれば、あんな人目のない寮の裏なんかに行かなかった。
 相手はご令嬢なんだから、いくら襲ってきたからって魔法でぶっ飛ばすわけにはいかないでしょ。おかげで、乙女のように悲鳴をあげて逃げ出す羽目になってしまった。
「グレース様には十分注意してくださいませ。今回は無事でしたが、次回も無事とは限りませんので」
「ん? どういうこと?」
 俺とパーシヴァルは顔を見合わせる。
 まさか、か弱いご令嬢と見せかけて実は屈強の戦士とかいう……? 
「グレース様は少々変わった魔法をお使いになりますの。そのことは国王陛下とグレース様のご家族、そして一部の者しか知りません」
 おや? なんだか厄介そうな話だな。そういう特別な話っていうのには関わらない方がいいんだろうけど、魔法が絡んでるとなると俄然興味が湧いてくる。
「それはどういった魔法なの?」
「触れた相手に自身への好意を抱かせる、というものですわ」
「触れた相手に、自身への好意……? えーっと、つまり?」
「相手が自分を嫌っていたり無関心であったとしても、触れるだけで好きにさせることができる、ということだろう」
「ええ、パーシヴァル様のおっしゃる通りです」
「ああ、なるほど!」
 だけど、人の心を惑わす魔法だなんて初めて聞いた。伯爵家で読んだ本の中にも、そんな魔法のことは書いてなかったな。
 一部の例外を除いて魔法を使えるのはほとんど貴族だけど、冒険者になるような魔法使いは貴族とはいえ爵位が低い上に家を継がない次男三男だ。王族や一部の貴族しか知らないようなことを知っているわけもないか。
 しかし、その魔法。実に興味深いな。
「エドモン嬢はサフィラスにその魔法を使ったということか」
「そうですわね。わざわざ触れたということは、間違いなく魔法を使ったはずです」
「でも、俺は彼女に好意どころか、むしろ恐怖を感じたけど?」
 あの時の気持ち悪さを思い出して、俺はブルっと身震いをする。それに気がついたパーシヴァルが、気遣うように背中を摩ってくれた。
 グレース嬢と俺の相性は相当悪い。好意どころか、むしろゾッとしたからな。もしかしたら、魔力の違いが影響しているのかもしれないけど。
「それにしても、その魔法。使いようによってはかなり危険じゃない?」
「ええ。サフィラス様のおっしゃる通りですわ。魔法の威力としては暗闇の中でほんのわずかな火を灯す程度ですが、それでも心に隙があれば、当然グレース様の魔法は大きく効果を発揮いたします。グレース様は大変魅力的なお方ですから、小さくはない騒動も何度かございましたわ……」
 その時のことを思い出したのか、アウローラが疲れたような表情を浮かべた。
 何があったのかは、まぁ想像がつく。魔力の高い相手を伴侶として求めているんだろうけど、それが婚約者や伴侶がいる相手だったりしたら目も当てられない。しかも、浮ついたやつならころっといっちゃうわけだ。
 その点、パーシヴァルならそんな魔法にかかったりはしないはず。何しろ真面目な上に隙がないもんな。
「どうした、サフィラス?」
 キリッとした隙のない横顔に向けた俺の視線に気がついたパーシヴァルが首を傾げる。
「いや、パーシヴァルだったらそんな魔法にはかからないだろうなって思って」
「ああ、心配ない。何があろうと、俺の唯一はサフィラスだ」
 一切の迷いなく答えたパーシヴァルは、その尊顔に柔らかな笑みを浮かべた。
「っ!」
 一瞬にして顔に血が昇った俺は、堪らず両手で顔を覆う。そんな甘い顔をして、よくもそんなことを! 俺は思っていてもそんなこと絶対に言えないからな! これだから真面目な男は!
「微笑ましいですわね」
 ころころとアウローラ嬢が笑う。本当にやめて。俺、そういうの耐性がないんだ。
「そ、それより! 今日、俺たちを呼んだのはそんな話をするためじゃないんでしょ?」
「ええ、そうでしたわね。今日はお二人に折り入ってご相談があって、お呼びいたしましたの」
 可愛らしい笑みを浮かべていたアウローラが、すっとその表情を引き締めた。
しおりを挟む
感想 919

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。