いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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第二王子が来たりて……

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 「どうやら国境を越えたようだな」
 パーシヴァルが文を読んでいる間に、俺はヴァンダーウォールから遥々飛んできた風隼にご褒美の肉片を与えた。それにしても、ヴァンダーウォールは風隼も大きくてしっかりしてるよな。羽根に乱れもなく、よく手入れされている。嘴を指先で撫でてやれば、もっとやれと言わんばかりに首を傾げ頭を押し付けてきた。可愛いやつめ。
 シュテルンクストからソルモンターナの王都に向かうには、我らがヴァンダーウォール領にある国境を通過しなければならない。けしからん王太子のやらかしを知っているヴァンダーウォール卿……えーっと、父さんが警戒していて、エーリッヒ殿下ご一行が国境を通過したことをわざわざ知らせてくれたのだ。
「山を迂回しなきゃならないから、それなりに時間はかかるね」
「そうだな。10日以上はかかるかもしれない」
 馬車での旅は山を迂回するしかない。しかも何台も連なってとなったら、相当時間がかかるはずだ。

 なんて会話を交わした10日後。
 俺たちが思っていたよりも早く、第二王子ご一行がラエトゥスに到着した。第二とはいえ王子。随伴者も多く馬車が何台も連なってくるかと思っていたんだけど、彼らはなんとも控えめだった。
 驚くことに馬車3台と護衛の騎士がわずか6名。まぁ、ソルモンターナは基本的に治安の良い国で、山越えや夜道を無理に移動しなければ野盗に襲われるようなことはほとんどない。魔獣にだけは気をつけれなければいけないけど、街道は基本的に安全だからそれほど仰々しくする必要はないのかもしれないけど。
 それにしても王族だぞ? ちょっとお金を持ってる貴族だったら、あの王子よりも護衛をつけるだろう。
 護衛が優秀なのかもしれないが、そこは一応国力の見せつけどころでもあるわけだし。護衛が周りをガッチリと囲んでいれば、それだけで相手の身分が知れるので周囲への牽制になる。
 それをたった騎士6人って、我が国を信用しているのか、それとも第二王子が母国で侮られているのか。
 もしかしたらかつて『僕』だった俺みたいに、自国でいない者として扱われていた可能性もある。それが王太子の負傷で突然表舞台に押し上げられたのか。そう考えると、護衛の少なさも頷けなくもないが。
「気になるのか?」
「え? な、何が?」
「エーリッヒ王子のことだ」
 そわそわしているのがバレていたか。本当にパーシヴァルには隠し事ができないな。
「あはは……実はね」
 誤魔化しても無駄だから、正直に白状する。
 そう。実はエーリッヒなる人物が気になるんだよな。あれほど関わらないようにしようって思ってたんだけど、あのけしからん男の異母弟だぞ。しかも、滞在中はアウローラが世話役を担っているっていうんだから、一体どんな人物なのか気になっても仕方がないと思う。
「どうやらエーリッヒ殿下は大人しく控えめな人物らしい」
「さすがパーシヴァル。もうそんなことまでわかってるんだ」
「ああ、一応閣下から報告書が届いていた。だがサフィラスが興味を持たなければ、わざわざ聞かせることもないだろうと思っていたんだ」
 関わりたく無いって言った俺に気を遣ってくれたのか。もちろん今だって関わるつもりはないんだけど、あの王太子の弟だぞ。
「……大人しくて控えめ、ね」
 まぁ、傍若無人だったけしからん王太子と比べたら、ほとんどが控えめで大人しい人物だろうさ。エーリッヒ王子が演技をしてるって可能性もあるし、どこまでが本当の姿かなんてこればかりは実際に会ってみないことにはわからない。
 もしその姿が演技だとしても王太子殿下や閣下なら簡単に見抜くだろうから、縦しんば何かを企んでこの国に乗り込んできたのだとしても、そうそう迂闊なことはさせないだろう。
 あの国には散々な目に遭わされているから、余計なことを考えすぎているのかもしれないな。



 他国の王子を迎えている王都ではいつもよりも兵士や騎士の数が多く、街角には花が飾られたりしていてそれなりの歓迎ムードが漂ってる。
 何事もおこらず予定通りエーリッヒ王子の視察が行われているようだけど。
「え? 学院の見学」
「エーリッヒ殿下たっての希望らしい」
「でも、そんなの予定になかったよね?」
 エーリッヒ王子ご一行の予定は、一応俺の元にも届いていた。万が一のことを考えて不用意な場所で俺が迂闊なことをしないようにとの配慮だ。俺に対する信用が全く無くない?
「なんで急に?」
「次期王太子妃であるアウローラ嬢が通う学院に興味を持ったらしい」
「なるほど? それなら、明日はできるだけ学内を彷徨かないようにしておくよ」
 それにしたって急だな。学院も警備の準備で大変だろう。

 昨日の慌ただしさを噯気にも出さず学院長や教師陣が揃って王子を出迎えている。とにかく全く予定のなかった第二王子の訪問だ。城から派遣された騎士がぞろぞろとやってきて、学院中を危険がないか調べ回った。
 やんごとなき身分の客人が急に予定を変更したら、そりゃ迎える方は大変だ。そう言うことを考えていないあたり、やっぱりあの男の弟だ。
 本来なら学生もあの場にいるべきなんだろうけど、いつも通りの学院生活を見せてほしいとの要望で、実に静かな視察風景だ。
 俺は学院長と挨拶を交わす第二王子の姿を、パーシヴァルと一緒に3階の窓から覗き見る。
 前もって聞いていた通り、エーリッヒ王子は小柄で線が細くおとなしそうな人物だ。それにかろうじて王族としての体裁を保ってはいるが、控えめに言っても覇気が足りない。離れてみていてもどこかおどおどした様子が伺える。案内役として隣に立っているアウローラの輝きに完全に負けているよな。
 しかもエーリッヒ王子の護衛は騎士二人と魔法使い一人。いくらなんでも人数が少なくないか? 他の4人の護衛騎士はどこに行ったんだよ。
「やはり気になるか?」
「さすがにね。仮にも第二王子なのに護衛が少な過ぎるよ。それに外交に慣れていない雰囲気なのに、指導役の文官だったり外交官が一緒に行動していない。一体何のためにこの国に来たんだろうって」
「……エイドリアン殿下が表舞台に戻ってくるつもりなら、あまりエーリッヒ殿下を表に立たせたくはないだろう。しかし、エイドリアン殿下にはここ一年余、空白の期間がある。まだ国王が健在とはいえ、次代を担う王太子として弟殿下の名を使ってでも、己の存在を主張しなければならないのかもしれないが……」
 そう言ったパーシヴァルは少し考えるような仕草を見せた。
「どうしたの?」
「護衛が多ければ、守りは厚くなるがどうしても動きは鈍くなる。しかし、護衛が少なければ、守りは薄くとも次の行動へ迅速に移れる」
 それっていうのはつまり、守りを犠牲にしてでも迅速に動かなければならないことを想定しているってこと? そんな事態って一体なんだ?
「エイドリアン殿下は腕を失っている。その彼が何を考えるのか……」
「まさか……いや、」
 あの男のことだ。おそらく腕を取り戻したいと思っているはず。しかし、大陸広しといえど聖魔法使いの存在は稀だ。そんな折、ソルモンターナの王太子が聖女との婚約を発表した。わざわざ探さなくても、手近なところに聖魔法使いがいると知ったら? 
 手っ取り早く腕を取り戻すために、他国の王太子の婚約者に接触できるだけの地位があり、最悪切り捨てても惜しくない人物をソルモンターナに送り込んだと考えればこの違和感の説明がつく。
「すぐに閣下と話をした方が良さそうだね」
「ああ、そのようだな」
「ケット・シー!」
 俺の呼びかけに応えて、魔法陣からケット・シーが飛び出してくる。
「にゃーん! お呼びかにゃ?」
「うん、閣下のところに行って、いますぐ会いたいって伝えて欲しいんだ」
「おまかせにゃ!」
 大好きな公爵邸へのお使いだ。渋ることはないと思っていたけど、元気に窓から飛び出したケット・シーは、クルクルと宙返りをするとあっという間に走り去っていった。

 ……ちゃんと返事をもらって戻ってくるよね?
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