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消えた公爵令嬢
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「……遅い」
公爵家に遣いに行ったケット・シーが戻ってこない。
いや、こうなるんじゃないかなーって予感はしていたけど、まさか本当に戻ってこないとは……
ケット・シーは空気を読むことに長けている。それほど切羽詰まった状況じゃないことをわかっていて、公爵邸で寛いでいるんだ。
確かに急を要する事態じゃないけど、なるべくなら急いで欲しい案件だ。今かまだかと、ケット・シーが戻ってくるのを待っていれば、エーリッヒ殿下とアウローラが学舎から出てきた。
学院長と教師たちに見送られ、二人がそれぞれの馬車に乗り込んでゆく。
「どうやら、何事もなく視察が終わったようだな」
「うん。学院じゃ人の目が多すぎるから何もできないよね」
なにしろ護衛だけではなく、案内の教師や学院生が何人もついて回っている。
アウローラはリリアナを伴って馬車に乗り込む前に、俺たちのいる窓を見上げて僅かに微笑んで小さく会釈をした。なんだ、俺たちが見ていることに気がついていたんだ。俺はそれに応えて手を振る。
まずは何事もなく学院視察が終わってよかった。エーリッヒ殿下はどうか知らないが、アウローラには公爵家と王太子殿下がつけた護衛がいる。あの連中が何かを企んでいたとしても、馬車は王都のメインストリートを走るのに事を起こすなんて無茶なことはさすがにしないだろう。
今後の日程は神殿への表敬訪問だったか。事を起こすとなるとそのあたりかな?
無事に学院を離れてゆく馬車を見送ってからしばらくして、なぜか公爵家の侍従が俺を訪ねてきた。
「閣下がお二人にお会いするとのことです」
「あの……ケット・シーは?」
「ご心配なく。邸におられます」
いや、別に心配はしていない。なぜケット・シーが戻って来ないで、公爵家から遣いが来たのかが気になっているだけだ。
「サフィラス、今はまず閣下に会おう」
「うん、そうだね……」
パーシヴァルに促され、俺は一旦ケット・シーのことは忘れることにした。
したんだけども。
「……で、ケット・シー。君は一体何をしているのかな?」
「うにゃーん」
案内された応接室ですっかり普通の猫になっているケット・シーが、ソファーで腹を出して転がっていた。しかも、テーブルの上には食べかけのお菓子がいくつも並んでいるじゃないか。またしても、色々とご馳走になって! 前よりもずっと図々しくなってないか?
俺はこんな図々しい子に育てた覚えはないぞ。いや、昔からちょっと図々しいところはあったな。可愛いからって調子に乗りすぎだ。俺が深くため息をつけば、閣下は気にした様子もなく口を開く。
「何か大事な話があるそうだが、もしかしてエーリッヒ殿下に関わることかな?」
「あ、はい。彼らの目的について……」
気を取り直して要件を伝えようとすれば、焦ったようなノックの音に話を遮られた。ただならぬ気配に何かを感じたのか、ごろごろと寝そべっていたケット・シーも弾かれるように起き上がり俺の肩に飛び乗る。
「失礼します、旦那様。王城より早馬が参りました」
「早馬が? すまない、少々失礼するよ」
閣下は立ち上がると、足早にエントランスへと向かう。
「まさか……」
パーシヴァルと視線を交わし頷き合うと、俺たちも閣下の後に続く。
エントランスでは王太子殿下付きの近衛騎士が、いかにも馬を飛ばしてきたと言わんばかりの様相で閣下を待っていた。
「ブルームフィールド公爵閣下に申し上げます。エーリッヒ第二王子殿下をご案内中だった御息女が行方不明となりました」
「何?」
「至急、登城して頂きたいと王太子殿下よりご伝言を承っております」
「……相わかった。すぐに向かう。ジェンセン、事態をルシオラに伝え、屋敷で待つよう伝えよ。念の為警護を強化し、私からの遣い以外は屋敷に入れぬように」
「かしこまりました」
閣下は一瞬動揺したように見えたけれどすぐに冷静さを取り戻し、家令に指示を出す。さすがというべきか。
「閣下、俺たちも行きます」
「君たちが私に会いたかった理由は、この件と関係があることかね?」
「はい」
「……詳しい話は城で聞こう」
「閣下、城までは俺の転移で向かいましょう。それから、空の馬車を城へ向かわせてください」
エイドリアンのクソッタレ野郎がどこまで俺の情報をエーリッヒ殿下……いや、もう殿下はいらないな。兄弟揃って敬意を示す必要は最早無い。
エーリッヒにどれだけこっちの事を伝えているかわからないが、アウローラの居場所がわかるまで手の内はあまり晒したくはない。自在に転移ができるってことは、それなりの切り札になる。
「すぐに手配しよう」
侍従に空の馬車を準備して城に向かわせるよう指示を出した閣下と俺たちは、王城へと転移した。
王城は一見、何事もなくいつもと変わらない落ち着いた様子を取り繕っているようだが、案内された王太子殿下の執務室は唯ならぬ様相だった。
険しい表情の王太子殿下が絶え間なく指示を出し、側近と護衛騎士たちが緊迫した空気を纏って出入りを繰り返している。
「殿下、ブルームフィールド公爵閣下が到着いたしました」
俺たちを執務室まで案内した侍従の声に、殿下は閣下の顔を見るなり頭を下げた。
「ブルームフィールド公爵、申し訳ない。大切なご令嬢を預かっておきながら、このような事態を招いてしまった」
「殿下、顔を上げてください。まずは詳しい話をお聞かせ願いたい」
「ああ、もちろんだ」
促されソファに座った閣下の後ろに立てば、正面に腰を下ろした王太子殿下の視線が俺たちに向けられる。
「君たちが来てくれて実に心強いよ」
「アウローラ嬢は俺たちにとって大切な友人ですから当然です」
「そうか……」
吊り上がっていた殿下の眉が僅かに下がった。殿下や閣下に出来ないことが俺たちにはできるからね。
「まずは状況を説明しよう。知っての通りアウローラは学園の視察終了後、帰城する馬車の中で侍女の子爵令嬢と共に姿を消した。途中護衛がキャビンの二人を確認していたが、しかし、城に戻ってきた馬車に二人は乗っていなかった」
「つまり、我が娘とリリアナは移動中に忽然と姿を消したと。それで、エーリッヒ第二王子はどうしておられる?」
「アウローラと侍女が消えたことを知ると酷く怯えて、部屋にこもってしまった。話を聞こうにも、護衛どもが面会の邪魔をする。無理に会おうとすれば、王子を疑うのかと噛みつく始末だ」
一番事情を知っていそうな人物だし、是非とも話を聞きたいと思うのは当然。それを拒むってことは、わざわざ口にしなくてもこの件に関わっているって言っているようなもんじゃないか。
引きこもりが演技なのか、それとも本当に怯えているのかわからないけど、いずれにせよ話は聞かせてもらう必要はある。
「……万が一のことを考えて、十分な護衛をつけていたのだがな」
「殿下。今、それを言ったところで仕方がありません」
「そうだな、公爵のいう通りだ。だが、なぜ私も同行しなかったのかと……」
後悔なんてしようと思えばいくらでもできるが、するだけ無駄だ。アウローラ達を無事に助け出してから、反省会でもすればいい。そんなことよりも、今すしなければならない事はいくらでもある。
「とりあえず、アウローラ嬢とリリアナ嬢が姿を消して、まだそれほど時間が経っていないってことですね」
学院から城までは半刻程度。馬車が空だとわかって、すぐに公爵家に早馬を出したのならアウローラ失踪から一刻ほど経っていることになる。
「ああ。今の所、二人の失踪は内々で留めているが、時間が経てばそうもいかなくなる」
公爵令嬢、しかも王太子殿下の婚約者の失踪だ。そんな大事件に世間は騒ぐだろうし、何よりもアウローラの名誉が傷つけられる可能性も否めない。それに、時間が経てば立つほどアウローラとリリアナの身が危ぶまれる。アウローラの聖魔法が必要であるなら、まさか命を奪うような事はしないだろうが、逆に命さえあればとぶっ壊れた事を考えるかもしれない。
早期解決が必須だって事は、公爵閣下も王太子殿下もここにいる誰よりわかっているはずだ。
「メルキオール殿下。エーリッヒ殿下の護衛に就いていた魔法使いがいたと思うのですが、城に戻ってきた時に、その人物は一緒におりましたか?」
あ、やっぱりパーシヴァルもあの魔法使いが怪しいって思ってたんだ。
エーリッヒがどの程度関わっているのかはわからないが、あの魔法使いが転移魔法の使い手であったなら、途中で二人が消えたカラクリは単純なものだ。
「いや……私が報告を受けた時にはすでにエーリッヒ殿下は護衛と共に移動していた。そこに護衛の魔法使いが居たかまでは聞いていない」
「つまり、彼の護衛が転移魔法使いだったということかな?」
「恐らく。ここを立つ時か、あるいは学院でアウローラ嬢が馬車に乗り込む前に、キャビンの中を見ていたのではないかと」
考えられるとしたらそれしかない。移動中にアウローラ達が乗る馬車に転移して、そのまま二人を連れ去った。一瞬のことだから、気がついた時にはもう仕事は終わっているってわけだ。
恐らく間違いなくクソッタレ野郎の仕業だとして、二人をシュテルンクストに連れ去るなら、どこかに中継地点を設けているはず。並の魔法使いがアウローラとリリアナを連れて、一足飛びに国に戻れるとは思えない。それをやってのけるには膨大な魔力が必要になるからだ。
「そういうことだったか……馬車を別にしても意味がなかったのだな」
「相手は他国の王族。魔法使いの護衛を外せとは言えぬでしょう。そればかりはやむを得ない」
そもそも、普通は友好国(仮)の貴族令嬢、しかも王太子の婚約者を略取しようだなんて事はしないからな。うっかりでもそんなことをしたら、戦争になりかねない。そういう常軌を逸した事を平気でやってしまうんだから、やっぱりあのクソッタレ野郎はどうかしている。きっとインサニアメトゥスの魔気で頭がやられてしまったんだ。
だが、この平和な時代において戦争だなんて民のことを考えたらそう易々とできるもんじゃない。
ただし、俺は別だ。クソッタレ野郎は二度も俺の大事な人たちに手を出した。この戦は目玉が飛び出るほど高い値段で買ってやるとも。
「殿下、今すぐに俺が着られるサイズのメイド服と鬘を用意してもらえませんか?」
「なんだって?」
みんなの視線が俺に集まる。
「奴らと同じ手を使って、引き篭もりエーリッヒを引き摺り出してきますよ。まずは早急に彼から話を聞きましょう」
公爵家に遣いに行ったケット・シーが戻ってこない。
いや、こうなるんじゃないかなーって予感はしていたけど、まさか本当に戻ってこないとは……
ケット・シーは空気を読むことに長けている。それほど切羽詰まった状況じゃないことをわかっていて、公爵邸で寛いでいるんだ。
確かに急を要する事態じゃないけど、なるべくなら急いで欲しい案件だ。今かまだかと、ケット・シーが戻ってくるのを待っていれば、エーリッヒ殿下とアウローラが学舎から出てきた。
学院長と教師たちに見送られ、二人がそれぞれの馬車に乗り込んでゆく。
「どうやら、何事もなく視察が終わったようだな」
「うん。学院じゃ人の目が多すぎるから何もできないよね」
なにしろ護衛だけではなく、案内の教師や学院生が何人もついて回っている。
アウローラはリリアナを伴って馬車に乗り込む前に、俺たちのいる窓を見上げて僅かに微笑んで小さく会釈をした。なんだ、俺たちが見ていることに気がついていたんだ。俺はそれに応えて手を振る。
まずは何事もなく学院視察が終わってよかった。エーリッヒ殿下はどうか知らないが、アウローラには公爵家と王太子殿下がつけた護衛がいる。あの連中が何かを企んでいたとしても、馬車は王都のメインストリートを走るのに事を起こすなんて無茶なことはさすがにしないだろう。
今後の日程は神殿への表敬訪問だったか。事を起こすとなるとそのあたりかな?
無事に学院を離れてゆく馬車を見送ってからしばらくして、なぜか公爵家の侍従が俺を訪ねてきた。
「閣下がお二人にお会いするとのことです」
「あの……ケット・シーは?」
「ご心配なく。邸におられます」
いや、別に心配はしていない。なぜケット・シーが戻って来ないで、公爵家から遣いが来たのかが気になっているだけだ。
「サフィラス、今はまず閣下に会おう」
「うん、そうだね……」
パーシヴァルに促され、俺は一旦ケット・シーのことは忘れることにした。
したんだけども。
「……で、ケット・シー。君は一体何をしているのかな?」
「うにゃーん」
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俺はこんな図々しい子に育てた覚えはないぞ。いや、昔からちょっと図々しいところはあったな。可愛いからって調子に乗りすぎだ。俺が深くため息をつけば、閣下は気にした様子もなく口を開く。
「何か大事な話があるそうだが、もしかしてエーリッヒ殿下に関わることかな?」
「あ、はい。彼らの目的について……」
気を取り直して要件を伝えようとすれば、焦ったようなノックの音に話を遮られた。ただならぬ気配に何かを感じたのか、ごろごろと寝そべっていたケット・シーも弾かれるように起き上がり俺の肩に飛び乗る。
「失礼します、旦那様。王城より早馬が参りました」
「早馬が? すまない、少々失礼するよ」
閣下は立ち上がると、足早にエントランスへと向かう。
「まさか……」
パーシヴァルと視線を交わし頷き合うと、俺たちも閣下の後に続く。
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「ブルームフィールド公爵閣下に申し上げます。エーリッヒ第二王子殿下をご案内中だった御息女が行方不明となりました」
「何?」
「至急、登城して頂きたいと王太子殿下よりご伝言を承っております」
「……相わかった。すぐに向かう。ジェンセン、事態をルシオラに伝え、屋敷で待つよう伝えよ。念の為警護を強化し、私からの遣い以外は屋敷に入れぬように」
「かしこまりました」
閣下は一瞬動揺したように見えたけれどすぐに冷静さを取り戻し、家令に指示を出す。さすがというべきか。
「閣下、俺たちも行きます」
「君たちが私に会いたかった理由は、この件と関係があることかね?」
「はい」
「……詳しい話は城で聞こう」
「閣下、城までは俺の転移で向かいましょう。それから、空の馬車を城へ向かわせてください」
エイドリアンのクソッタレ野郎がどこまで俺の情報をエーリッヒ殿下……いや、もう殿下はいらないな。兄弟揃って敬意を示す必要は最早無い。
エーリッヒにどれだけこっちの事を伝えているかわからないが、アウローラの居場所がわかるまで手の内はあまり晒したくはない。自在に転移ができるってことは、それなりの切り札になる。
「すぐに手配しよう」
侍従に空の馬車を準備して城に向かわせるよう指示を出した閣下と俺たちは、王城へと転移した。
王城は一見、何事もなくいつもと変わらない落ち着いた様子を取り繕っているようだが、案内された王太子殿下の執務室は唯ならぬ様相だった。
険しい表情の王太子殿下が絶え間なく指示を出し、側近と護衛騎士たちが緊迫した空気を纏って出入りを繰り返している。
「殿下、ブルームフィールド公爵閣下が到着いたしました」
俺たちを執務室まで案内した侍従の声に、殿下は閣下の顔を見るなり頭を下げた。
「ブルームフィールド公爵、申し訳ない。大切なご令嬢を預かっておきながら、このような事態を招いてしまった」
「殿下、顔を上げてください。まずは詳しい話をお聞かせ願いたい」
「ああ、もちろんだ」
促されソファに座った閣下の後ろに立てば、正面に腰を下ろした王太子殿下の視線が俺たちに向けられる。
「君たちが来てくれて実に心強いよ」
「アウローラ嬢は俺たちにとって大切な友人ですから当然です」
「そうか……」
吊り上がっていた殿下の眉が僅かに下がった。殿下や閣下に出来ないことが俺たちにはできるからね。
「まずは状況を説明しよう。知っての通りアウローラは学園の視察終了後、帰城する馬車の中で侍女の子爵令嬢と共に姿を消した。途中護衛がキャビンの二人を確認していたが、しかし、城に戻ってきた馬車に二人は乗っていなかった」
「つまり、我が娘とリリアナは移動中に忽然と姿を消したと。それで、エーリッヒ第二王子はどうしておられる?」
「アウローラと侍女が消えたことを知ると酷く怯えて、部屋にこもってしまった。話を聞こうにも、護衛どもが面会の邪魔をする。無理に会おうとすれば、王子を疑うのかと噛みつく始末だ」
一番事情を知っていそうな人物だし、是非とも話を聞きたいと思うのは当然。それを拒むってことは、わざわざ口にしなくてもこの件に関わっているって言っているようなもんじゃないか。
引きこもりが演技なのか、それとも本当に怯えているのかわからないけど、いずれにせよ話は聞かせてもらう必要はある。
「……万が一のことを考えて、十分な護衛をつけていたのだがな」
「殿下。今、それを言ったところで仕方がありません」
「そうだな、公爵のいう通りだ。だが、なぜ私も同行しなかったのかと……」
後悔なんてしようと思えばいくらでもできるが、するだけ無駄だ。アウローラ達を無事に助け出してから、反省会でもすればいい。そんなことよりも、今すしなければならない事はいくらでもある。
「とりあえず、アウローラ嬢とリリアナ嬢が姿を消して、まだそれほど時間が経っていないってことですね」
学院から城までは半刻程度。馬車が空だとわかって、すぐに公爵家に早馬を出したのならアウローラ失踪から一刻ほど経っていることになる。
「ああ。今の所、二人の失踪は内々で留めているが、時間が経てばそうもいかなくなる」
公爵令嬢、しかも王太子殿下の婚約者の失踪だ。そんな大事件に世間は騒ぐだろうし、何よりもアウローラの名誉が傷つけられる可能性も否めない。それに、時間が経てば立つほどアウローラとリリアナの身が危ぶまれる。アウローラの聖魔法が必要であるなら、まさか命を奪うような事はしないだろうが、逆に命さえあればとぶっ壊れた事を考えるかもしれない。
早期解決が必須だって事は、公爵閣下も王太子殿下もここにいる誰よりわかっているはずだ。
「メルキオール殿下。エーリッヒ殿下の護衛に就いていた魔法使いがいたと思うのですが、城に戻ってきた時に、その人物は一緒におりましたか?」
あ、やっぱりパーシヴァルもあの魔法使いが怪しいって思ってたんだ。
エーリッヒがどの程度関わっているのかはわからないが、あの魔法使いが転移魔法の使い手であったなら、途中で二人が消えたカラクリは単純なものだ。
「いや……私が報告を受けた時にはすでにエーリッヒ殿下は護衛と共に移動していた。そこに護衛の魔法使いが居たかまでは聞いていない」
「つまり、彼の護衛が転移魔法使いだったということかな?」
「恐らく。ここを立つ時か、あるいは学院でアウローラ嬢が馬車に乗り込む前に、キャビンの中を見ていたのではないかと」
考えられるとしたらそれしかない。移動中にアウローラ達が乗る馬車に転移して、そのまま二人を連れ去った。一瞬のことだから、気がついた時にはもう仕事は終わっているってわけだ。
恐らく間違いなくクソッタレ野郎の仕業だとして、二人をシュテルンクストに連れ去るなら、どこかに中継地点を設けているはず。並の魔法使いがアウローラとリリアナを連れて、一足飛びに国に戻れるとは思えない。それをやってのけるには膨大な魔力が必要になるからだ。
「そういうことだったか……馬車を別にしても意味がなかったのだな」
「相手は他国の王族。魔法使いの護衛を外せとは言えぬでしょう。そればかりはやむを得ない」
そもそも、普通は友好国(仮)の貴族令嬢、しかも王太子の婚約者を略取しようだなんて事はしないからな。うっかりでもそんなことをしたら、戦争になりかねない。そういう常軌を逸した事を平気でやってしまうんだから、やっぱりあのクソッタレ野郎はどうかしている。きっとインサニアメトゥスの魔気で頭がやられてしまったんだ。
だが、この平和な時代において戦争だなんて民のことを考えたらそう易々とできるもんじゃない。
ただし、俺は別だ。クソッタレ野郎は二度も俺の大事な人たちに手を出した。この戦は目玉が飛び出るほど高い値段で買ってやるとも。
「殿下、今すぐに俺が着られるサイズのメイド服と鬘を用意してもらえませんか?」
「なんだって?」
みんなの視線が俺に集まる。
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