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3.突然
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警察署でもオカフュさんの活躍話で持ち切りだった。
なんでも、解放戦線のリーダーに手傷を負わせたそうだ。
ただ、リーダーはとてもすばしっこいらしく逃げられてしまったらしい。
「でも、リーダーって動きが素早すぎて獣人ってことしか分かってないって聞いたな」
「僕たちが分からなくても、刑事課ではもっと詳しい情報があるのかもしれないよ? 僕たちはできることをするだけだ」
「そうだよな。お年寄りたちにも気を付けてなって言いに行かないと」
受付業務だけしてればいいって訳じゃないからな。地域を回るパトロール兼声掛けも大事な仕事の一つだ。
広報課も色々と仕事を兼務しているけど、刑事課ほどじゃない。
僕たちがいる警察署は部署が少ないので、人数が多い代わりにみんなで順番に業務を分担していた。
僕はトパントと一緒に行動することが多いから、二人で分担しながら仕事をしていた。
「早く捕まるといいんだけど……」
「そうだな。笹を咥えながら昼寝もできやしない。参ったな」
トパントの可愛らしい耳が不満げにパタパタと動く。
彼の動作にはいつも和まされていた。
「今日は早上がりだろう? 気を付けて帰ってね」
「おう。トッカーブもな」
トパントのまあるい背中を見送り、僕は提出する書類を仕上げようと気合いを入れる。
明かりが僕のところだけになってしまった広報課は薄暗いけど、節電のためだ。
暫く集中してパソコンに向かっていると、僕のパソコンに影が差した。
「こんな時間まで、大変だね」
「え……? オカフュさんじゃないですか。お疲れ様です」
「お疲れ様。トッカーブ君の姿が見えたから気になってね。これ、良かったら」
「わあ、ありがとうございます」
オカフュさんに会えただけでも嬉しいのに、缶コーヒーの差し入れをもらってしまった。
どうしよう、すごく嬉しいな。
「……ねえ、トッカーブ君。ボクは……いつも君の笑顔に励まされている。知っているかい? 君は子どもたちにも人気者なんだ」
「え、そんな。人気者はオカフュさんです。忙しくてもいつも気配りを忘れないし、爽やかで真面目で……警察署でもアイドル並みの大人気じゃないですか」
「ありがとう。でも、ボクは……君のことが知りたい」
オカフュさんは身体を屈めて僕の耳元に口をよせる。
僕の小さな耳は緊張でぷるぷると震え始めた。そして、小声で好きだよと囁かれた。
「え……今、なんて?」
「君のことが好きだって言ったんだ。君さえよければ、僕とお付き合いをしてほしい。前向きな答えを待っているよ」
そういうと、オカフュさんは爽やかな笑顔とふわりと爽やかなシトラスの香りを残して去って行った。
取り残された僕はというと、ずり落ちた眼鏡を直しながらもらった缶コーヒーを握りしめて呆然としていた。
+++
数時間後、何とか勤務時間内に仕事を終えて僕も家への帰路につく。
自宅は警察署から二十分ほど歩いた先だ。
仕事場に近すぎてもなと思い、街の中心部から離れた住宅街の一角のアパートに住んでいる。
「無理……そんな、前向きに考えて欲しいと言われてもどうすればいいのか……」
僕は仕事中もオカフュさんの言った言葉が耳から離れなかったし、推しから告白された事実を受け止めきれなかった。
オカフュさんは確かに推しだし大好きな人だ。でも、その隣に自分がいる姿を想像できない。
考えてもぐるぐるしてしまって、すぐに答えを出せそうになかった。
「はあ……どうしよう。嬉しいような、とんでもなさすぎて申し訳ないような……」
考え事をしていたせいだろうか? 僕は足元をよくみていなかった。
いつもの細道の近道へ向かって曲がったとき、何かにつまずいて転んでしまった。
「わぁ!」
「……っぐ」
僕が慌てて身体を起こすと、黒いパーカーを着た人が壁にもたれかかって座っていた。
どうやら僕はこの人の足につまずいてしまったらしい。
「すみません、大丈夫ですか?」
「……」
返事はない。眠っているのかと思ったが、よく見ると伸ばされた足には少し血が滲んでいる。
怪我しているみたいだ。
なんでも、解放戦線のリーダーに手傷を負わせたそうだ。
ただ、リーダーはとてもすばしっこいらしく逃げられてしまったらしい。
「でも、リーダーって動きが素早すぎて獣人ってことしか分かってないって聞いたな」
「僕たちが分からなくても、刑事課ではもっと詳しい情報があるのかもしれないよ? 僕たちはできることをするだけだ」
「そうだよな。お年寄りたちにも気を付けてなって言いに行かないと」
受付業務だけしてればいいって訳じゃないからな。地域を回るパトロール兼声掛けも大事な仕事の一つだ。
広報課も色々と仕事を兼務しているけど、刑事課ほどじゃない。
僕たちがいる警察署は部署が少ないので、人数が多い代わりにみんなで順番に業務を分担していた。
僕はトパントと一緒に行動することが多いから、二人で分担しながら仕事をしていた。
「早く捕まるといいんだけど……」
「そうだな。笹を咥えながら昼寝もできやしない。参ったな」
トパントの可愛らしい耳が不満げにパタパタと動く。
彼の動作にはいつも和まされていた。
「今日は早上がりだろう? 気を付けて帰ってね」
「おう。トッカーブもな」
トパントのまあるい背中を見送り、僕は提出する書類を仕上げようと気合いを入れる。
明かりが僕のところだけになってしまった広報課は薄暗いけど、節電のためだ。
暫く集中してパソコンに向かっていると、僕のパソコンに影が差した。
「こんな時間まで、大変だね」
「え……? オカフュさんじゃないですか。お疲れ様です」
「お疲れ様。トッカーブ君の姿が見えたから気になってね。これ、良かったら」
「わあ、ありがとうございます」
オカフュさんに会えただけでも嬉しいのに、缶コーヒーの差し入れをもらってしまった。
どうしよう、すごく嬉しいな。
「……ねえ、トッカーブ君。ボクは……いつも君の笑顔に励まされている。知っているかい? 君は子どもたちにも人気者なんだ」
「え、そんな。人気者はオカフュさんです。忙しくてもいつも気配りを忘れないし、爽やかで真面目で……警察署でもアイドル並みの大人気じゃないですか」
「ありがとう。でも、ボクは……君のことが知りたい」
オカフュさんは身体を屈めて僕の耳元に口をよせる。
僕の小さな耳は緊張でぷるぷると震え始めた。そして、小声で好きだよと囁かれた。
「え……今、なんて?」
「君のことが好きだって言ったんだ。君さえよければ、僕とお付き合いをしてほしい。前向きな答えを待っているよ」
そういうと、オカフュさんは爽やかな笑顔とふわりと爽やかなシトラスの香りを残して去って行った。
取り残された僕はというと、ずり落ちた眼鏡を直しながらもらった缶コーヒーを握りしめて呆然としていた。
+++
数時間後、何とか勤務時間内に仕事を終えて僕も家への帰路につく。
自宅は警察署から二十分ほど歩いた先だ。
仕事場に近すぎてもなと思い、街の中心部から離れた住宅街の一角のアパートに住んでいる。
「無理……そんな、前向きに考えて欲しいと言われてもどうすればいいのか……」
僕は仕事中もオカフュさんの言った言葉が耳から離れなかったし、推しから告白された事実を受け止めきれなかった。
オカフュさんは確かに推しだし大好きな人だ。でも、その隣に自分がいる姿を想像できない。
考えてもぐるぐるしてしまって、すぐに答えを出せそうになかった。
「はあ……どうしよう。嬉しいような、とんでもなさすぎて申し訳ないような……」
考え事をしていたせいだろうか? 僕は足元をよくみていなかった。
いつもの細道の近道へ向かって曲がったとき、何かにつまずいて転んでしまった。
「わぁ!」
「……っぐ」
僕が慌てて身体を起こすと、黒いパーカーを着た人が壁にもたれかかって座っていた。
どうやら僕はこの人の足につまずいてしまったらしい。
「すみません、大丈夫ですか?」
「……」
返事はない。眠っているのかと思ったが、よく見ると伸ばされた足には少し血が滲んでいる。
怪我しているみたいだ。
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