彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第三章 ギルド長からのご指名

23.不意打ち

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「ただいま。リュー、起きられるか? 水飲むだろう?」

 リューは身体を起こそうとするが、身体全体が疲労しているせいかうまく力が入らないようだ。
 僕が補助すると漸くゆっくりと身体を起こす。

「前にリューが熱を出していた時を思いだすよ。はい、水」
「お前は飲まないのか?」
「飲ませてくれるなら、飲むけど」

 冗談だ、と言って笑うと、リューは水筒を受け取って水を口に含む。

 飲む仕草をしたはずなのに、それだけではなくて。
 何故かそのまま僕の頭を引き寄せて、強引に口付けてくる。

「んんっ!?」

 唇の隙間から水が流し込まれる。
 やることだけやると、リューはまた少し身体を離してしまう。

 コッチは冷たい水がいきなり入ってきたので驚いたが、軽く咽ながらなんとか嚥下することができた。

「お、驚いた……何、いきなり」
「飲ませるのなら、飲むのだろう?」
「いや、確かに言ったけど……もしかしてリュー、まだぼんやりしているのか?」
「さぁな」

 しれっと言い放って素知らぬ顔で水を飲んでいるリューをジィと見遣る。
 僕の視線はどこ吹く風と無視を決め込むが、水筒を空にしてしまうと改めて僕と視線を合わせてくる。

「ほぼ一気飲みしてるし。喉渇いてたんだ?」
「あぁ。そうだな……」

 話している間にリューが堪えきれなかった欠伸を漏らした。
 眠そうなリューの身体をまた支えてやると、僕の膝の上に頭を乗せる。

 抵抗するかと思ったが本当に眠気が襲ってきているようで、瞼が下りて来ているのが分かる。

「疲れただろう? とりあえず眠って回復したら戻ればいい」
「お前は?」
「僕は後で寝る。リューが回復したらおぶってもらえばいいし」
「……そうか」

 ウトウトと微睡みながら、リューがふと、僕を見上げる。
 何? と首を傾げると、唇が僅かに動いたので、慌てて耳を近づけて音を拾おうとする。

「――ありがとう」

 リューは一言だけ呟いて、今度こそ本当に眠ってしまった。

 一人残された僕は、逆に妙に気恥ずかしくなる。
 何となく顔に血が上っている気がして、片手で顔を仰いで熱を逃す。

 (いつも大して喋りもしない癖に……こういうの、急に聞かされる方が何だか妙な気分だ)

 自分は思ったよりリューのことが気に入っているらしい。
 無防備に眠っている顔を覗き込むと、普段より穏やかでどこか幼い感じもするから不思議だ。

「おやすみ、リュー。僕はリューの寝顔を近くでたっぷりと堪能させてもらうことにするから、覚悟しろよ?」

 起こさぬように額に触れるだけのキスを落とし、また静寂の訪れた空間で一夜を明かすことにした。
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