彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第六章 二人の距離感

44.伝わらないことに焦れて

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 リューは気怠さもあるのか、装備を外して楽な格好になるとベッドに腰掛ける。
 そのままベッドへと身体を倒してぼんやりし始めた。
 視線だけで僕を追うが、特に何をする気もないらしい。

「物凄くやる気のない感じ?」
「特に動きたいと思わない。自室では危険を感じないし、気怠い」
「色気の欠片もないな。単純に具合が悪いのか?」
「疲れもあるのだと思う。先程眠った分で帰宅する体力分は確保できたが、予想よりも調子が上がらない」

 リューはそう言うと目を閉じてしまう。

 (僕の勘違いで眠いだけ? 抑制剤を飲んだということは、そういう気持ちもなくはないはずだが。分かりづらいな)

 僕はリューの額に手を当ててみた。
 額は熱いといえば熱いが前に熱が出ていたような熱さは感じない。

 単純に具合が悪い訳ではなさそうだ。
 僕が手を離すとリューもうっすらと目を開けて、自分で額に手を当てている。

「……熱はない。あれくらいで疲れるとは情けないな」
「あのギルド長とやりあえる人物はメルセネールではリューくらいだろう? 少なくとも僕には無理だ。戦いたいとも思わない」
「あの人は遊んでいただけで本気など出してはいない。いつもそうだ。だから、俺は……」

 リューが目線を動かして何かを言いかける。
 やはりギルド長とはリューにとっては特別なのだろうか?

「リュー……ギルド長とどういう関係? もしかして、深い繋がりが……」
「お前が何を言いたいのかよく分からない。恩人で育ててもらっただけだが。深い繋がりとは?」

 リューが訝しげに眉を寄せたので、その顔を僕の方へと向かせ唇をあわせてそっと離す。

「こういうこともしたか? という意味」
「ますます意味が分からないのだが」
「だから……」

 僕は言いながら抵抗しないリューの服を脱がせていく。
 シャツをはだけさせたところでその身体を優しく撫でる。

「こういうことを許していたのか? そういう意味」

 僕の意図がやっと伝わったのか、リューは長く息を吐いた。

「求められたこともない。そういう対象と思われたことがないが、お前は何を気にしている? いつもおかしいが、今日は特におかしい」
「酷い言われようだな。特におかしいって……まぁ、そうかもしれないな。僕も自分で自分が良く分からない」
「いつも知った風で自慢げに語る癖に珍しいな。恋愛ごとは得意なのだろう?」

 リューが珍しく揶揄うように言うものだから、何だか心を見透かされているみたいで嫌になってしまった。
 リューの両足を持ってベッドの上へと転がすと、僕も隣へと寝転がる。

「別に恋愛ごとが得意な訳じゃない。快楽に関して素直なだけだ。そこに感情は含まない。その時、その時が、楽しければそれでいい」
「何の問題が?」
「こういう時だけ突っ込んで聞いてくるのか……普段は喋らない癖に」
「話すのが好きではない。俺は必要最低限でいいと思っている」

 (僕は何が言いたいのだろう……リューに言っても通じないのは分かっているのに)

 言い争っても仕方がないと分かっているのに、つい言葉を荒らげてしまいそうになった。
 僕はこんな人間だっただろうか?

「いや……いい。なんでもない。リューが疲れているのなら寝た方がいいのかもしれない。寝よう」
「お前はそれでいいのか?」
「今しても楽しくなさそうだから。無理矢理するのも嫌いじゃないけれど、気分じゃない。それに、リューは怪我もしているから」

 リューはまた黙ってしまった。ただ僕のことをじっと見ている。観察でもしているのだろうか?

「……何?」
「俺は人の気持ちというものを察することはできない。戦いにおいては別だが。言いたいことがあるのなら……」
「あるけれど、リューに理解してもらえないし。説明するほどのことでもない。というか、こういうのを説明するなんて……僕がお喋りだとしても格好悪くて言いたくない」
「あれほど行為をすることが好きなお前が、するのをやめるほどに何か気になることがある、ということは分かる。それが何なのかは分からないが」

 珍しくリューが食いついてくる。

 どういう風の吹き回しなのだろうか?
 こういうことこそ、面倒で無関心なのではなかっただろうか?

「何だか僕が一人で馬鹿らしいから、気にしなくていい。今、無理にしなくても平気そうだし。僕が心配しすぎただけかもしれない」
「……」
「それともリューが我慢できなかった?」
「いや……」
「じゃあ、大丈夫そうだ。変なことを言って悪かった。おやすみ」

 僕が目を閉じてしまうと、リューもそれ以上何も言わなかった。

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