彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第六章 二人の距離感

57.少しずつでいいから

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「弱っている人の側にいてくれるっていうのは、安心するものなんだ。だからそれにどんな意味があったとしても単純に嬉しい。観察のためだろうが、どうしてか分からなくても。僕は嬉しい。リューは僕のこと気にしてこの場にいてくれるのだから」

 笑いかけるとリューは少しだけ驚いたような顔をしたあとに、そうか、と一言だけ呟く。

「ギルド長がしてくれたかどうかは知らないけれど、具合が悪かったリューを永遠に放置するとかそんなことはしないと思う。一緒にいてあげたり、薬を飲ませてあげたり。そういうのってされたら嬉しいものだ。俺の言っている意味は何となく分かるか?」
「……あぁ」
「だから、それがバディのワガママだからと言われても僕は嬉しい」
「……それは……」

 リューは僕の瞳から内部を探るように真剣に見つめてくる。
 僕が笑いかけても、リューは納得した表情にはならない。

「それは、本心ではないのだろう?」
「え? そんなことは……」
「違うと、言っていた。だが、俺は……」

 リューはどこか苦しそうだ。僕よりリューの方が心配になってくる。

「やっぱり何か言ったのか、僕が。いいよ今は気にしないで。そう思っていたとしても大丈夫だ。すぐに理解する必要はない。少しずつでいいから……」

 そんなに苦しめるつもりはないのだけれど、考え込むリューを引き寄せて抱きしめる。
 リューは身じろぎするが、大人しくなされるがままだ。
 あやすように背中を撫でてやると、リューが深く息を吐き出したのが分かった。

「僕のことを気にしてくれるのは嬉しいが、リューを苦しめたい訳じゃないから。何か言ったのだとしてもそれは僕の一方的な願望だ。リューが合わせる必要はない。リューはリューで好きにしてくれていいから。そのうち自然に分かるようになるだろうし」
「……」

 少し落ち着いたみたいだ。
 リューの腕が所在なさげにしているので自分を抱きしめるように誘導させると、大人しく腕を背中に回してきた。

 (なんか恋人同士っぽくていいな)

 一人でクスと笑うと、憮然な表情でリューが見てくる。
 どうやらいつもの調子に戻ったようだ。

「抱き合っていたら癒されるって言うだろう?」
「聞いたことないが……」
「今日はそういうことにしておけばいい」
「……適当だな」

 フ、と吐息で笑った感触があったので、リューも力が抜けてきたみたいだ。

「そんなに真剣に考えてくれるとは思わなかった。ありがとう」
「何がだ?」
「リューが僕のことを、ね。でも今はこうして側にいてくれるだけで嬉しいよ」
「……そうか」

 リューの髪が擽ったいが、いつもとは違う感じがして新鮮だ。
 何となく抱きしめあったまま、結局ニ人ともそのうちに寝てしまった。
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