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第一章 音色が繋ぐその先は
1.日常
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ようやく退屈な授業も終わり、放課後になった。
大きなあくびをしていると、目の前にニヤニヤ顔のダチが現れる。
坊主の口ピの大男の山地は、表情は可愛いもんだが見た目がアレなせいでクラスの奴らからも怖がられている。
俺もなんでコイツはこの高校にいるのか謎だし、クラスでも浮いていた。
だがコイツもチューバ演奏ができるしなかなかの腕前だから、人は見た目で判断できない。
「なあ、るるちゃん。今日、いつものゲーセンに新台が来るってさ。寄ってこうぜ」
「今日は気分じゃねぇし。お前一人で行ってこいよ。んで、その呼び方やめろ」
俺に気安く近づいてくるのはコイツくらいだ。俺も耳にはピアス、襟足まで伸びた赤茶の髪はゴムで結んでいる。
ヤンキーとよく間違われるが、髪が明るい色なのは昔からだ。
ピアスはただのファッションで、ちょっと数が多いくらいどうってことない。
ついでに言うと、俺はるるではなく音流だ。母親が音葉だから、音の字を使いたかったらしいが女っぽい名前のせいか昔からよく弄られる。
「付き合いわりぃな。まあいいや。じゃ、明日な」
「おー」
適当にあしらって山地を見送ってから、俺もスクバを持って立ち上がる。
今日は気が向いた。いつもの場所へ行くとする。
まだ教室でくっちゃべってる女子たちの合間を縫って、教室を出た。
+++
俺は気晴らしに音楽室へ向かう。
この学校は音楽に力を入れているせいか、音楽室が二つある。
第一音楽室は吹奏楽部が使っていることが多いが、第二音楽室はカギも開いていて下校時間から学校が閉門する時間までは自由に立ち寄ることが許されていた。
吹奏楽部も個人練習は音楽室ではなく教室で行っているから、第二音楽室は意外と人気もない。
俺は二年だから、一つ階段を上った先の三年の教室の奥が第二音楽室だ。
「……っし。今日も開いてるな」
ガラリと引き戸を開けると、グランドピアノが置いてある。
俺はこんな見た目だが、母親がピアノ教室の先生をやっているせいもあって小さい頃からピアノと慣れ親しんで育ってきた。
一応音楽が強い高校に入ってみたものの、俺は別にピアニストを目指したい訳でもない。
母親を見ていたから、何となくだ。
それに、最近弾いていても別に楽しさは感じなかった。
「何となくだけど、弾きたくなるのは不思議だよな」
だったら弾かなきゃいいのに、時々無性に弾きたくなる。
家にも勿論グランドピアノは置いてあるが、母親のピアノ教室はそこそこ人気がある教室だ。
やる気が微妙な俺が邪魔をする訳にもいかない。
「あー……いい天気だな」
窓から差し込む光は暖かい。
こういう日は嫌いじゃないし、外の空気でも吸いたくなる。
俺は少し窓を開けて風通しをする。
爽やかな風が髪を揺らす感覚で、少しでもやる気が呼び覚まされればいい。
まあ、そううまくはいかないもんだ。
一人苦笑してから、そっと鍵盤蓋を開いた。
「さてと、今日は何を弾いてみるか……」
椅子に座って、鍵盤をなぞる。
少し悩んでから、ポケットからいつものアイツを取り出した。
それは、ガチャで出たらしい気の抜ける顔をしたナマケモノのフィギュアだった。
大きなあくびをしていると、目の前にニヤニヤ顔のダチが現れる。
坊主の口ピの大男の山地は、表情は可愛いもんだが見た目がアレなせいでクラスの奴らからも怖がられている。
俺もなんでコイツはこの高校にいるのか謎だし、クラスでも浮いていた。
だがコイツもチューバ演奏ができるしなかなかの腕前だから、人は見た目で判断できない。
「なあ、るるちゃん。今日、いつものゲーセンに新台が来るってさ。寄ってこうぜ」
「今日は気分じゃねぇし。お前一人で行ってこいよ。んで、その呼び方やめろ」
俺に気安く近づいてくるのはコイツくらいだ。俺も耳にはピアス、襟足まで伸びた赤茶の髪はゴムで結んでいる。
ヤンキーとよく間違われるが、髪が明るい色なのは昔からだ。
ピアスはただのファッションで、ちょっと数が多いくらいどうってことない。
ついでに言うと、俺はるるではなく音流だ。母親が音葉だから、音の字を使いたかったらしいが女っぽい名前のせいか昔からよく弄られる。
「付き合いわりぃな。まあいいや。じゃ、明日な」
「おー」
適当にあしらって山地を見送ってから、俺もスクバを持って立ち上がる。
今日は気が向いた。いつもの場所へ行くとする。
まだ教室でくっちゃべってる女子たちの合間を縫って、教室を出た。
+++
俺は気晴らしに音楽室へ向かう。
この学校は音楽に力を入れているせいか、音楽室が二つある。
第一音楽室は吹奏楽部が使っていることが多いが、第二音楽室はカギも開いていて下校時間から学校が閉門する時間までは自由に立ち寄ることが許されていた。
吹奏楽部も個人練習は音楽室ではなく教室で行っているから、第二音楽室は意外と人気もない。
俺は二年だから、一つ階段を上った先の三年の教室の奥が第二音楽室だ。
「……っし。今日も開いてるな」
ガラリと引き戸を開けると、グランドピアノが置いてある。
俺はこんな見た目だが、母親がピアノ教室の先生をやっているせいもあって小さい頃からピアノと慣れ親しんで育ってきた。
一応音楽が強い高校に入ってみたものの、俺は別にピアニストを目指したい訳でもない。
母親を見ていたから、何となくだ。
それに、最近弾いていても別に楽しさは感じなかった。
「何となくだけど、弾きたくなるのは不思議だよな」
だったら弾かなきゃいいのに、時々無性に弾きたくなる。
家にも勿論グランドピアノは置いてあるが、母親のピアノ教室はそこそこ人気がある教室だ。
やる気が微妙な俺が邪魔をする訳にもいかない。
「あー……いい天気だな」
窓から差し込む光は暖かい。
こういう日は嫌いじゃないし、外の空気でも吸いたくなる。
俺は少し窓を開けて風通しをする。
爽やかな風が髪を揺らす感覚で、少しでもやる気が呼び覚まされればいい。
まあ、そううまくはいかないもんだ。
一人苦笑してから、そっと鍵盤蓋を開いた。
「さてと、今日は何を弾いてみるか……」
椅子に座って、鍵盤をなぞる。
少し悩んでから、ポケットからいつものアイツを取り出した。
それは、ガチャで出たらしい気の抜ける顔をしたナマケモノのフィギュアだった。
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