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第一章 音色が繋ぐその先は
14.黙々と
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暫くの間、黙々とピアノに向き合う。
俺もこんなに真剣に向き合ったのは久しぶりかもしれない。
イケメンは想像以上に真面目にピアノに向き合っていて、真剣そのものだった。
だからつい、俺も熱が入ったのかもな。
チャイムの音が聞こえて、ようやく我に返る。
「そろそろ帰らないとな。今日はここまでってことで」
「ありがとうございました! ピアノを弾くのってすごく新鮮だ。この音が重なってあんな風に弾けるようになるって……すごい!」
イケメンは素直な感想を言って、俺に笑いかけた。
心の底からピアノが楽しかったという気持ちが表れている笑顔を見ていると、何だか妙な気分になる。
その笑顔を見ている資格なんてない気がして、顔を逸らした。
「それは良かったな。じゃあ、帰るぞ」
「うん……あ、良かったら連絡先を交換しない?」
「なんで?」
「その……これから色々と教わる訳だし。質問もしたいし……ダメかな?」
言っていることは分かるが、今までの言われたことを考えると素直に教える気になれない。
俺が渋っていると、イケメンは諦めたように両眉を下げて苦笑した。
「ごめん。やっぱり嫌だよね。オレ、つい勢いで色々言ったから……その、気持ち悪いよね」
「それは否定しない。けど……純粋な質問だけだったら、聞いてやってもいい。その代わり、俺の音色がどうとか言ったらブロックする」
コイツが俺のことだけじゃなくて、ピアノに向き合っているのは見ていて少し嬉しい気持ちもある。
ここは俺が譲ってやるしかなさそうだ。俺がポケットからスマホを取り出して先にコードを出すとイケメンは嬉しそうに同じくスマホを取り出して喜んで読み取る。
「ありがとう! これで何かあっても連絡できる」
「あー……部活とか用事がある時も連絡してこい。俺は気が向いたらココにいるし」
「分かった。これからよろしくね、風見くん」
イケメンの笑顔に負けた気持ちだが、コイツから母さんに伝えてくれれば俺も小遣いがもらえそうだし。
しばらくの間は付き合ってやることに決めた。
どうせ、俺はやることもないし……少しくらい付き合ってやるのも悪くない。
「そういや、敬語やめた訳?」
「え? あ、そういえば」
「ま、俺はどうでもいいけど。好きにすれば」
「そっか。ありがとう。いや、距離を感じたから自然と敬語になっていたというか……」
それに関しては俺は悪くない。コイツが勝手に気持ち悪いことを言い続けているせいだ。
だからといって友だちほど仲良くもないが。
「だったら普通にしてろよ、イケメン。俺が威圧しているみたいって勘違いされそうだ」
「それなら、そのイケメンって呼ばれるのもちょっと……オレはイケメンって思ってないし」
「イケメンはみんなそう言うんだよな。まあ、いいや。藤川、さっさと帰るぞ」
「……っ! はい!」
俺が苗字を読んだだけで、嬉しそうな顔しやがって。本当に変なヤツだ。
この時間は校内に人もほとんど残っていないし、藤川も特に女子たちに囲まれることもなく普通に下校できた。
イケメンはイケメンなりに、苦労する部分もあるのかもしれないな。
俺もこんなに真剣に向き合ったのは久しぶりかもしれない。
イケメンは想像以上に真面目にピアノに向き合っていて、真剣そのものだった。
だからつい、俺も熱が入ったのかもな。
チャイムの音が聞こえて、ようやく我に返る。
「そろそろ帰らないとな。今日はここまでってことで」
「ありがとうございました! ピアノを弾くのってすごく新鮮だ。この音が重なってあんな風に弾けるようになるって……すごい!」
イケメンは素直な感想を言って、俺に笑いかけた。
心の底からピアノが楽しかったという気持ちが表れている笑顔を見ていると、何だか妙な気分になる。
その笑顔を見ている資格なんてない気がして、顔を逸らした。
「それは良かったな。じゃあ、帰るぞ」
「うん……あ、良かったら連絡先を交換しない?」
「なんで?」
「その……これから色々と教わる訳だし。質問もしたいし……ダメかな?」
言っていることは分かるが、今までの言われたことを考えると素直に教える気になれない。
俺が渋っていると、イケメンは諦めたように両眉を下げて苦笑した。
「ごめん。やっぱり嫌だよね。オレ、つい勢いで色々言ったから……その、気持ち悪いよね」
「それは否定しない。けど……純粋な質問だけだったら、聞いてやってもいい。その代わり、俺の音色がどうとか言ったらブロックする」
コイツが俺のことだけじゃなくて、ピアノに向き合っているのは見ていて少し嬉しい気持ちもある。
ここは俺が譲ってやるしかなさそうだ。俺がポケットからスマホを取り出して先にコードを出すとイケメンは嬉しそうに同じくスマホを取り出して喜んで読み取る。
「ありがとう! これで何かあっても連絡できる」
「あー……部活とか用事がある時も連絡してこい。俺は気が向いたらココにいるし」
「分かった。これからよろしくね、風見くん」
イケメンの笑顔に負けた気持ちだが、コイツから母さんに伝えてくれれば俺も小遣いがもらえそうだし。
しばらくの間は付き合ってやることに決めた。
どうせ、俺はやることもないし……少しくらい付き合ってやるのも悪くない。
「そういや、敬語やめた訳?」
「え? あ、そういえば」
「ま、俺はどうでもいいけど。好きにすれば」
「そっか。ありがとう。いや、距離を感じたから自然と敬語になっていたというか……」
それに関しては俺は悪くない。コイツが勝手に気持ち悪いことを言い続けているせいだ。
だからといって友だちほど仲良くもないが。
「だったら普通にしてろよ、イケメン。俺が威圧しているみたいって勘違いされそうだ」
「それなら、そのイケメンって呼ばれるのもちょっと……オレはイケメンって思ってないし」
「イケメンはみんなそう言うんだよな。まあ、いいや。藤川、さっさと帰るぞ」
「……っ! はい!」
俺が苗字を読んだだけで、嬉しそうな顔しやがって。本当に変なヤツだ。
この時間は校内に人もほとんど残っていないし、藤川も特に女子たちに囲まれることもなく普通に下校できた。
イケメンはイケメンなりに、苦労する部分もあるのかもしれないな。
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