音色が繋ぐその先は

楓乃めーぷる

文字の大きさ
16 / 42
第一章 音色が繋ぐその先は

15.目標

しおりを挟む
 それからの放課後は、お互いに用事がない限りは第二音楽室でピアノを弾き藤川は家のピアノ教室で母さんのレッスンも欠かさずに習いに来ていた。
 最初はうざったかっただけだったけど、気づけば藤川と二人でピアノの前で過ごす時間も悪くないと思えていた。

「……やった! ようやくつっかえずに弾けるようになった!」
「おー。相変わらず動きも音も硬いけど、悪くないかもな」
「風見くんに褒めてもらえれば十分! オレの目標は風見くんだし」
「は? 俺が目標って……」

 意味が分からないと顔に出したせいか、藤川がクスクスと笑う。なんか腹立たしい笑い方だ。

「オレは子犬のワルツが弾けるようになりたい。だから、風見くんに教えてもらいたいんだ」
「ふうん。まあ、右と左が動くようになってきたし。一音ずつ暗記できるって言うなら、弾けるかもな」

 俺が言うと、藤川はホント? と言って俺の両肩を掴んできた。
 コイツはたまに距離感を縮めてくるところが面倒だ。

「藤川、近い」
「あ……ごめん」

 俺が注意すると、大人しく食い下がる。
 だけど、視線だけは俺だけをしっかりと捉えているのが分かる。
 この真剣な眼差しはどうも苦手だ。

「ただ、まともな曲として弾けるようになるのはまだまだ時間がかかる。お前はスタートラインに立ったばっかりだ。それでも……弾きたいのか?」

 俺が問うと、藤川は迷いなく頷いた。こうなるとコイツは面倒臭いモードに入るだろうな。
 それはこの二か月で理解した。

「仕方ない。じゃあ、譜面買いに行くか。ピースなら高くないし」
「本当? オレ、実はキーボードを買ったんだ。だから、部屋で練習できるようになった」
「へえ。本当にピアノにハマったんだな。その熱意は尊敬する」

 素直に褒めると、藤川は恥ずかしそうに照れ笑いを返してきた。
 それほど真剣なら、思っていたより早く弾けるようになるかもしれない。

「クラシックの中では中級くらいだから……耳で覚えればイメージも掴みやすいかもな」
「それは大丈夫。今までずっと聞き続けてきたから。ただ、音に合わせて指は動かせなかったんだ」
「耳コピで弾こうとしたのか? そこまでして弾きたいって……」

 コイツにとっては運命の音色とか言っていたくらいだから、曲自体の思い入れも深いってことか。
 俺も子どもの頃はそうだったから、気持ちは分からなくもない。

「暴走されても面倒だし、譜面を買ったら一音ずつ教えてやるよ。それなら家でも弾けるだろ?」
「風見くんが? やった!」

 藤川の満面の笑みは、俺が子どもの頃に笑っていた笑顔と重なって胸の奥をくすぐってくる。
 こんなに純粋にのめり込めるコイツがうらやましい。
 俺もいつの間にかペースに飲まれて、気付いた時には笑っていた。

「ここから近い楽器店は……」
「ああ、駅ビルに入ってた。あそこにもそのピースって売ってるかな?」
「あー……たぶんな。いくつか回ってみればあるだろ」

 やたらとはしゃぐ藤川をなだめながら、俺たちは駅ビルへ寄ることにした。
 学校から駅までは歩いて十五分くらいで、駅にはあまり見かけないストリートピアノが置いてある。
 最近は触って弾くこともないけど、結構色々な人が弾いているのを見かけていた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...