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第一章 音色が繋ぐその先は
16.視線
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ストリートピアノが視界に入ると藤川が暴走するかもしれない。
俺は適当にはぐらかしながら、楽器屋へ何とか誘導した。
藤川は楽器店にも来ることはないらしく、キョロキョロと興味津々で辺りを見回していた。
「譜面のコーナーは……ああ、一応ありそうだ」
「譜面って歌手のもあるんだ」
「クラシックに限らずあるだろ。バンド用とか色々な。ピアノピースは……コレだ」
俺はピアノピースの束から子犬のワルツを引き抜く。ピースならこの一曲のみだからかさばらないし便利だ。
ただ、一曲だけと考えるとコスパは悪いかもしれないが。
「ほら、子犬のワルツ」
「これがそうなんだ? ありがとう、風見くん! 買ってくる」
藤川は喜んで小走りでレジへ向かう。ここで運動部の足を使わなくても譜面は逃げないってのに。
たまたまあって良かったけど、ない場合も多いからな。
藤川はニコニコしながら俺の側へ戻ってきた。
「これでオレも……」
「でも、藤川。譜面読めるようになったのか?」
「少しは。ただ、素早くは難しいっていうか。記憶を頼りにだから、パッと見ただけじゃ分からないよ」
「なるほど、それでも上達してるよな」
俺が褒めると毎回嬉しそうな顔するんだよな。ホント分かりやすいっていうか。
藤川は嬉しそうに譜面を抱えてるし。まるで宝物みたいに大切そうだ。
「今日も付き合ってくれてありがとう。帰ってじっくり譜面を眺めてみる」
「ああ。無理すんなよ。また明日な」
藤川と駅ビルの前で別れて、俺もふらふらと歩き始めた。
譜面を見るだけで嬉しくなる感覚か。でも、新しい曲に出会った時の気持ちはなんとなく分かる気がした。
+++
次の日、藤川からサッカー部の練習があると連絡があり練習に行けないとメールが入った。
文面がかなり残念そうだったが、藤川にとってはピアノより部活が本命でなくちゃいけないはずだ。
「譜面買った次の日にって。本来は休みだったらしいし、グラウンドがあいてこんなに悲しむヤツも珍しいよな」
元々来られない日は聞いていたが、今日はたまたま練習することになったらしい。
部活の試合もあるんじゃないかと思って聞いたが、ウチの学校は強くないらしく一回戦で負けてしまったから練習だけらしい。
でも、元々サッカー部に誘われてしまったこともあって藤川はサッカーを続けていると言っていた。
「元々運動部で来てるなら、そっちでプロを目指すのか? いやでも、普通の推薦って言ってたか」
久しぶりに一人の第二音楽室は妙に広く感じた。
藤川がいるかと思い、窓へ近づき風通しのつもりで窓を開けた。
この位置からもグラウンドの様子は見える。
サッカー部の面々が練習している側で、やたらと女子が歓声をあげている場所があった。
「あー……アレだ。分かりやすっ」
相変わらずの人気っぷりだ。俺もサッカーはテレビでたまに見る程度だが、藤川はどうやらフォワードらしいな。
試合形式で練習しているせいか、シュートを打つたびにきゃあきゃあと声が聞こえる。
「人気者も大変だな」
苦笑しながら眺めていると、遠くに見える藤川らしき人物が音楽室の方を見上げていることに気付く。
表情は良く見えないが、急に手をあげて手を振ったように見えた。
俺は適当にはぐらかしながら、楽器屋へ何とか誘導した。
藤川は楽器店にも来ることはないらしく、キョロキョロと興味津々で辺りを見回していた。
「譜面のコーナーは……ああ、一応ありそうだ」
「譜面って歌手のもあるんだ」
「クラシックに限らずあるだろ。バンド用とか色々な。ピアノピースは……コレだ」
俺はピアノピースの束から子犬のワルツを引き抜く。ピースならこの一曲のみだからかさばらないし便利だ。
ただ、一曲だけと考えるとコスパは悪いかもしれないが。
「ほら、子犬のワルツ」
「これがそうなんだ? ありがとう、風見くん! 買ってくる」
藤川は喜んで小走りでレジへ向かう。ここで運動部の足を使わなくても譜面は逃げないってのに。
たまたまあって良かったけど、ない場合も多いからな。
藤川はニコニコしながら俺の側へ戻ってきた。
「これでオレも……」
「でも、藤川。譜面読めるようになったのか?」
「少しは。ただ、素早くは難しいっていうか。記憶を頼りにだから、パッと見ただけじゃ分からないよ」
「なるほど、それでも上達してるよな」
俺が褒めると毎回嬉しそうな顔するんだよな。ホント分かりやすいっていうか。
藤川は嬉しそうに譜面を抱えてるし。まるで宝物みたいに大切そうだ。
「今日も付き合ってくれてありがとう。帰ってじっくり譜面を眺めてみる」
「ああ。無理すんなよ。また明日な」
藤川と駅ビルの前で別れて、俺もふらふらと歩き始めた。
譜面を見るだけで嬉しくなる感覚か。でも、新しい曲に出会った時の気持ちはなんとなく分かる気がした。
+++
次の日、藤川からサッカー部の練習があると連絡があり練習に行けないとメールが入った。
文面がかなり残念そうだったが、藤川にとってはピアノより部活が本命でなくちゃいけないはずだ。
「譜面買った次の日にって。本来は休みだったらしいし、グラウンドがあいてこんなに悲しむヤツも珍しいよな」
元々来られない日は聞いていたが、今日はたまたま練習することになったらしい。
部活の試合もあるんじゃないかと思って聞いたが、ウチの学校は強くないらしく一回戦で負けてしまったから練習だけらしい。
でも、元々サッカー部に誘われてしまったこともあって藤川はサッカーを続けていると言っていた。
「元々運動部で来てるなら、そっちでプロを目指すのか? いやでも、普通の推薦って言ってたか」
久しぶりに一人の第二音楽室は妙に広く感じた。
藤川がいるかと思い、窓へ近づき風通しのつもりで窓を開けた。
この位置からもグラウンドの様子は見える。
サッカー部の面々が練習している側で、やたらと女子が歓声をあげている場所があった。
「あー……アレだ。分かりやすっ」
相変わらずの人気っぷりだ。俺もサッカーはテレビでたまに見る程度だが、藤川はどうやらフォワードらしいな。
試合形式で練習しているせいか、シュートを打つたびにきゃあきゃあと声が聞こえる。
「人気者も大変だな」
苦笑しながら眺めていると、遠くに見える藤川らしき人物が音楽室の方を見上げていることに気付く。
表情は良く見えないが、急に手をあげて手を振ったように見えた。
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