【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

楓乃めーぷる

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第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子

298.獅子の突進

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「はいはい、じゃあ呼び出しますよ――団長、テオドール様とレイヴンが手がかりを発見したそうです。こちらも隊を編成し直して……って、団長、ちゃんと指示出しましたか? もう、走ってますよね。俺の声は聞こえてますかー!」

『今、向かっている!』

 ウルガーの耳元から、でかめの声が漏れ出た。
 確実に耳鳴りがしそうなデカさだ。
 ディーめ、相変わらず暑苦しいヤツだな。
 
「来るそうです」
「あぁ、聞こえた」

 ウルガーは耳を抑えながら、すでに疲れた声で伝えてくる。
 アイツ魔道具の使い方も分かってなさそうだしな。
 疲れた顔はしてるが、ウルガーは別の騎士隊にも連絡を取って連携してるみてぇだな。
 別動隊にも副団長がいて、隊を動かしてるらしい。
 誰が隊を率いて見回りを続けるのか、俺の案に乗って外で待機するかをこの場で組み上げて指示をしている。

 ディーもウルガーのことは評価してんだろうな。
 細かい仕事ができるヤツを側においておけば、俺ら上に立つ者はラクができるってもんだ。
 
「ウルガーもこう見ると副団長だなって感じするんだよな」
「失礼だな。確かにレイヴンほど生真面目でもないけど、俺だって生活のためならやる時はやるって。使いっ走りだろうが、副団長だし」
「ま、お前はいざというときは使えるヤツだしな。せいぜい盾になってくれ」
「テオドール様が言うと冗談に聞こえないから嫌なんですよ……っと、ほら、獅子が突進してきましたよ」

 ウルガーが親指で指し示した先に、見慣れた銀の鎧をカチャカチャと震わせながら全速力で向かってくるディーが見えてくる。
 なんつーか、近づいてくるだけで面倒臭ぇな。

「来るだけで暑苦しいなお前は。もっと普通に来れねぇのかよ」
「人を、何だと思っている……お前と違って……だな。目的地に素早く、飛べる訳では……」
「ディートリッヒ様、お待ちしておりました。飲み物は……水がありました。どうぞ」

 優しいレイヴンが腰に下げていた簡易用水筒の蓋を捻り、息絶え絶えのディーに差し出してるし。
 更に白いハンカチを取り出して、ディーの額の汗まで拭いてやってるじゃねぇか。
 
 ったく、なんでうちの弟子が暑苦しい獅子の面倒を見てやらなきゃいけねぇんだっての。
 呑気にゴクゴク、水を飲みやがって。
 見てるだけでイラつくな。

「ウチのレイヴンに何させてんだよ、この阿呆が。大人しく見てれば、甲斐甲斐しく世話焼かれやがって」
「何だ、いきなり食ってかかって。レイヴンが親切に気を回してくれただけだろう。何を苛々している?」
「団長……いえ、やめましょう。今、痴話げんかをしている場合じゃありませんから。テオドール様もすみませんが、後のお楽しみに取っておいて頂いてですね」
「そうですよ。ここにいつまでもいる訳にもいきませんし、師匠、いつまでむくれてるんですか。恥ずかしい」

 レイヴンはディーが笑顔で寄越した水筒とハンカチを、それぞれ元の場所に仕舞いこんでいく。
 ディーとのやり取りを見ていたせいで、どうも苛つきが止まらない。

 隣に寄ってきたレイヴンが俺の腕を掴み、体重を乗せてグイっと背伸びすると俺の耳元に口を寄せてきた。

「……さっきはありがとうございました。テオが来てくれると思っていたから、安心して飛び出せました」

 可愛い弟子に視線を向ける。
 レイヴンは俺だけに見えるように一瞬だけ、嬉しそうに微笑んで見せた。
 すぐにいつもの補佐官の顔に戻っちまったが、答える代わりにポンと頭をひと撫でする。

 やっぱり分かってんだよなぁ、レイヴンは。
 信用されてるっていうのは悪くねぇ。
 イライラも収まるってもんだ。

「うわー……飼い慣らされてる……」

 側でウザいことを言ってるヤツがいるなァ?
 飼いならされてるんじゃなくて、俺が飼ってるの間違いだ。
 余計な口を挟むウルガーを見遣る。
 
「何か言ったか?」
「いいえ別に。はい、レイヴン説明!」

 チッ。誤魔化すのも早ぇな。
 少し魔力マナで脅してやろうと思ったのによ。
 
 話を振られたレイヴンは、妖精から見聞きした場所の説明を始める。
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