300 / 488
第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子
298.獅子の突進
しおりを挟む
「はいはい、じゃあ呼び出しますよ――団長、テオドール様とレイヴンが手がかりを発見したそうです。こちらも隊を編成し直して……って、団長、ちゃんと指示出しましたか? もう、走ってますよね。俺の声は聞こえてますかー!」
『今、向かっている!』
ウルガーの耳元から、でかめの声が漏れ出た。
確実に耳鳴りがしそうなデカさだ。
ディーめ、相変わらず暑苦しいヤツだな。
「来るそうです」
「あぁ、聞こえた」
ウルガーは耳を抑えながら、すでに疲れた声で伝えてくる。
アイツ魔道具の使い方も分かってなさそうだしな。
疲れた顔はしてるが、ウルガーは別の騎士隊にも連絡を取って連携してるみてぇだな。
別動隊にも副団長がいて、隊を動かしてるらしい。
誰が隊を率いて見回りを続けるのか、俺の案に乗って外で待機するかをこの場で組み上げて指示をしている。
ディーもウルガーのことは評価してんだろうな。
細かい仕事ができるヤツを側においておけば、俺ら上に立つ者はラクができるってもんだ。
「ウルガーもこう見ると副団長だなって感じするんだよな」
「失礼だな。確かにレイヴンほど生真面目でもないけど、俺だって生活のためならやる時はやるって。使いっ走りだろうが、副団長だし」
「ま、お前はいざというときは使えるヤツだしな。せいぜい盾になってくれ」
「テオドール様が言うと冗談に聞こえないから嫌なんですよ……っと、ほら、獅子が突進してきましたよ」
ウルガーが親指で指し示した先に、見慣れた銀の鎧をカチャカチャと震わせながら全速力で向かってくるディーが見えてくる。
なんつーか、近づいてくるだけで面倒臭ぇな。
「来るだけで暑苦しいなお前は。もっと普通に来れねぇのかよ」
「人を、何だと思っている……お前と違って……だな。目的地に素早く、飛べる訳では……」
「ディートリッヒ様、お待ちしておりました。飲み物は……水がありました。どうぞ」
優しいレイヴンが腰に下げていた簡易用水筒の蓋を捻り、息絶え絶えのディーに差し出してるし。
更に白いハンカチを取り出して、ディーの額の汗まで拭いてやってるじゃねぇか。
ったく、なんでうちの弟子が暑苦しい獅子の面倒を見てやらなきゃいけねぇんだっての。
呑気にゴクゴク、水を飲みやがって。
見てるだけでイラつくな。
「ウチのレイヴンに何させてんだよ、この阿呆が。大人しく見てれば、甲斐甲斐しく世話焼かれやがって」
「何だ、いきなり食ってかかって。レイヴンが親切に気を回してくれただけだろう。何を苛々している?」
「団長……いえ、やめましょう。今、痴話げんかをしている場合じゃありませんから。テオドール様もすみませんが、後のお楽しみに取っておいて頂いてですね」
「そうですよ。ここにいつまでもいる訳にもいきませんし、師匠、いつまでむくれてるんですか。恥ずかしい」
レイヴンはディーが笑顔で寄越した水筒とハンカチを、それぞれ元の場所に仕舞いこんでいく。
ディーとのやり取りを見ていたせいで、どうも苛つきが止まらない。
隣に寄ってきたレイヴンが俺の腕を掴み、体重を乗せてグイっと背伸びすると俺の耳元に口を寄せてきた。
「……さっきはありがとうございました。テオが来てくれると思っていたから、安心して飛び出せました」
可愛い弟子に視線を向ける。
レイヴンは俺だけに見えるように一瞬だけ、嬉しそうに微笑んで見せた。
すぐにいつもの補佐官の顔に戻っちまったが、答える代わりにポンと頭をひと撫でする。
やっぱり分かってんだよなぁ、レイヴンは。
信用されてるっていうのは悪くねぇ。
イライラも収まるってもんだ。
「うわー……飼い慣らされてる……」
側でウザいことを言ってるヤツがいるなァ?
飼いならされてるんじゃなくて、俺が飼ってるの間違いだ。
余計な口を挟むウルガーを見遣る。
「何か言ったか?」
「いいえ別に。はい、レイヴン説明!」
チッ。誤魔化すのも早ぇな。
少し魔力で脅してやろうと思ったのによ。
話を振られたレイヴンは、妖精から見聞きした場所の説明を始める。
『今、向かっている!』
ウルガーの耳元から、でかめの声が漏れ出た。
確実に耳鳴りがしそうなデカさだ。
ディーめ、相変わらず暑苦しいヤツだな。
「来るそうです」
「あぁ、聞こえた」
ウルガーは耳を抑えながら、すでに疲れた声で伝えてくる。
アイツ魔道具の使い方も分かってなさそうだしな。
疲れた顔はしてるが、ウルガーは別の騎士隊にも連絡を取って連携してるみてぇだな。
別動隊にも副団長がいて、隊を動かしてるらしい。
誰が隊を率いて見回りを続けるのか、俺の案に乗って外で待機するかをこの場で組み上げて指示をしている。
ディーもウルガーのことは評価してんだろうな。
細かい仕事ができるヤツを側においておけば、俺ら上に立つ者はラクができるってもんだ。
「ウルガーもこう見ると副団長だなって感じするんだよな」
「失礼だな。確かにレイヴンほど生真面目でもないけど、俺だって生活のためならやる時はやるって。使いっ走りだろうが、副団長だし」
「ま、お前はいざというときは使えるヤツだしな。せいぜい盾になってくれ」
「テオドール様が言うと冗談に聞こえないから嫌なんですよ……っと、ほら、獅子が突進してきましたよ」
ウルガーが親指で指し示した先に、見慣れた銀の鎧をカチャカチャと震わせながら全速力で向かってくるディーが見えてくる。
なんつーか、近づいてくるだけで面倒臭ぇな。
「来るだけで暑苦しいなお前は。もっと普通に来れねぇのかよ」
「人を、何だと思っている……お前と違って……だな。目的地に素早く、飛べる訳では……」
「ディートリッヒ様、お待ちしておりました。飲み物は……水がありました。どうぞ」
優しいレイヴンが腰に下げていた簡易用水筒の蓋を捻り、息絶え絶えのディーに差し出してるし。
更に白いハンカチを取り出して、ディーの額の汗まで拭いてやってるじゃねぇか。
ったく、なんでうちの弟子が暑苦しい獅子の面倒を見てやらなきゃいけねぇんだっての。
呑気にゴクゴク、水を飲みやがって。
見てるだけでイラつくな。
「ウチのレイヴンに何させてんだよ、この阿呆が。大人しく見てれば、甲斐甲斐しく世話焼かれやがって」
「何だ、いきなり食ってかかって。レイヴンが親切に気を回してくれただけだろう。何を苛々している?」
「団長……いえ、やめましょう。今、痴話げんかをしている場合じゃありませんから。テオドール様もすみませんが、後のお楽しみに取っておいて頂いてですね」
「そうですよ。ここにいつまでもいる訳にもいきませんし、師匠、いつまでむくれてるんですか。恥ずかしい」
レイヴンはディーが笑顔で寄越した水筒とハンカチを、それぞれ元の場所に仕舞いこんでいく。
ディーとのやり取りを見ていたせいで、どうも苛つきが止まらない。
隣に寄ってきたレイヴンが俺の腕を掴み、体重を乗せてグイっと背伸びすると俺の耳元に口を寄せてきた。
「……さっきはありがとうございました。テオが来てくれると思っていたから、安心して飛び出せました」
可愛い弟子に視線を向ける。
レイヴンは俺だけに見えるように一瞬だけ、嬉しそうに微笑んで見せた。
すぐにいつもの補佐官の顔に戻っちまったが、答える代わりにポンと頭をひと撫でする。
やっぱり分かってんだよなぁ、レイヴンは。
信用されてるっていうのは悪くねぇ。
イライラも収まるってもんだ。
「うわー……飼い慣らされてる……」
側でウザいことを言ってるヤツがいるなァ?
飼いならされてるんじゃなくて、俺が飼ってるの間違いだ。
余計な口を挟むウルガーを見遣る。
「何か言ったか?」
「いいえ別に。はい、レイヴン説明!」
チッ。誤魔化すのも早ぇな。
少し魔力で脅してやろうと思ったのによ。
話を振られたレイヴンは、妖精から見聞きした場所の説明を始める。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 1000 Thank_You!!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる