好きな人の幸せを本当に願えますか?

はな

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想い

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昼休み、庭園のベンチに腰掛けていると、いつものようにジェレミーがやってきた。


大きく手を振りながら駆け寄ってくる姿は、周囲の視線など一切気にしていない。

「やっぱりここにいた。ルシアン、隠れるの下手だな」

「……隠れていたつもりはないのですけれど」

わざと冷ややかに返したものの、心の奥はほんのり熱を帯びていた。

ジェレミーは、何の遠慮もなく彼女の隣に腰を下ろす。


春の日差しの中、自然と肩が触れそうな距離。
その近さに、胸が落ち着かなくなる。

「噂なんて、どうでもいい」

ジェレミーは空を見上げ、軽く笑った。


「俺は君がどういう人か知ってる。少なくとも、冷たいなんて全然思わない」

その言葉に、思わず息を呑んだ。

長い間、誤解と噂の中で過ごしてきた自分にとって
――
「わかってくれる」と口にする人が現れたことが、どれほど救いになるのか。

「……ジェレミー、あなたはどうして、そんなに気にかけてくださるのですか?」


問いかけると、彼は少しだけ真剣な表情に変わる。

「それは……君を放っておけないからだ」

真っ直ぐに向けられた瞳に、鼓動が速くなる。


彼の笑顔に惹かれていたことを、ようやく認めざるを得なかった。


噂に振り回され、孤独に身を固めてきた心に、温かな光が差し込んでくる。

「……困りますわ」

小さく呟いた声は、照れ隠しにも似ていた。

だが、ジェレミーは満足げに微笑み、そっと彼女の髪を撫でるように指先を触れさせた。


「困らせてもいい。君が笑ってくれるなら」

――その瞬間、心臓が大きく跳ねる。


初めて「好きだ」と思える気持ちに気づいてしまったのだった。
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