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28.グリューワイン
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「兄さんたち、イキュアすっごい気に入ってたよね」
「始めはみんなすっごい嫌がるのに、食べてもらえると結構美味しいって言ってもらえるのほんと嬉しい!」
時間は夕暮れ近く。
ぶらぶらと屋台街をシズクをエドワルドは歩いていた。
セリオン家へ一番最後におせちを渡し終え、この世界で初めてのおせちが予約客すべてに行き渡ったことになる。感想を聞くのはドキドキするが、今後の屋台運営にも影響するのでしっかりと聞こうと心に誓った。
最後に手渡ししたセリオン家では、これから国王主催の年終わりの舞踏会の前夜祭に出席するために全員が勢揃いしており、シズクを迎えてくれた。
エドワルドの兄二人とその家族には会ったことがなかったので大変うれしかったのだが、いかんせん全員見目麗しすぎのピカピカのキラッキラ。目がつぶれるのではないかとシズクは正直本気で思ったほどだ。
さて、シズクは今回初めて長男であるライモンド一家と次男のコルラード夫妻に会ったわけだが、ライモンドはとても物腰穏やかで口調もゆっくりで丁寧。エドワルド曰く怒ると家族の中ではで一番怖いらしいのだが、妻のバレンディナと息子のアクバルドにはデレデレだそうだ。コルラードは三兄弟の中で一番体が大きく性格も豪快、しかし仕事に対してはかなり細かいそうで妻のエイラと共に城の財務局で働いていると紹介を受けた。
そしてベルディエットに至ってはシズクの持ってきたおせちを見て、あまり茶色くないけれどちゃんと美味しいのかしら?といたずらっ子のように笑った。
悪戯のお返しに、面白みもなく前髪にあしらわれていた花髪飾りをサイドに移動して髪を少し遊ばせると、それが大いに気に入ってしまいそのまま舞踏会へ行くという暴挙に出たのには驚いた。
去り際にロイルドから移動門を使う許可が出たことと、出発が新年あけて二日目になる事を伝えられ、一家総出で出かけるのを何故か見送って今に至る。
「でもエドワルドは皆さんと一緒に出掛けなくって大丈夫だったの?」
当然エドワルドもセリオン家の一員なのだから一緒に国王主催の舞踏会に行くものだと思ったのだ。年末なので『良い年をお迎えください』と挨拶をしたと言うのに、エドワルドも当然と言った顔をして一緒に外に出てきたのはさすがのシズクもびっくりしてしまった。
「全然。明日が本番だし今夜は俺は行かなくても平気」
「王様の舞踏会なのに? クレドさんは行くって言ってたよ」
「そりゃぁクレドは長男だからさ。俺は明日ちゃんと出席すれば問題ないよ。それに舞踏会苦手だし、明日だって本当はあんまり行きたくないんだよ。それよりもシズクと一緒に居られる方がいいし」
冷たい風に吹かれたからだろうか。少しだけ頬が紅いエドワルドが柔らかく微笑む。
そんな何とも言えない爽やかな色気をはらむ笑顔でそんなことを言われたら、自分でも勘違いしてしまいそうだなと思いながら、視線の先には自分しかいない事を確認してシズクは何故か安心してしまう。
「おべっかが上手だなぁー」
「そんなことないよ」
なんだかそんなことを思った自分が急に恥ずかしくなって軽口を言いながらエドワルドに向き直る。
と、不意にエドワルドの手が伸びてきて、シズクの頬にそっと触れた。
「寒いからやっぱりほっぺた冷たいね。シズクはグリューワイン飲める?」
「え? の!! 飲めるっ! よ!」
「ははっ。良かった。なら少しだけ飲んでいこうよ。あそこのお店なかなかなんだよ」
びっくりして声が大きくなってしまったが、悪戯が大成功した少年のようにエドワルドが破顔した。これはしてやられたとシズクが脇腹に効かないボディーブローをいれてやれば、お返しとばかりにやんわりと脇腹をくすぐられる。
「ちょっとっ! 変なとこ触ったらダメなんだからね」
「変なとこってー?」
変なテンションのまま二人でしばらく楽しくじゃあっていたのだが、周りからの少し生温かく見守られているその視線に気が付き急にいたたまれなくなって、シズクとエドワルドは目の前に見えるグリューワインを売っているバルにようやく入った。
グリューワインは日本ではホットワインとも言われるものだ。ワインに香辛料が入っているので飲み始めてしばらくするとぽかぽかと身体があたたまってくる。末端冷え性だったシズクは、前世冬の寒い時期には寝る前などにたまに飲んでいたので、妙に懐かしく思えてきた。
「グリューワインはこの国では子供も飲むの?」
「飲むよ? でも子供用は葡萄ジュースのやつだけどね。一応そっちにするけどリキュール入れてもらえるよ?シズクも入れてみる?」
「うん。気持ち入れてもらえたら嬉しいかな」
「わかった。ちょっと待ってて」
前世ではまあまあ飲んでそこそこ酔っぱらえるほどには飲兵衛だったので、引き際はわきまえているつもりだ。大丈夫だと思うが……この体がどれだけアルコールに耐えうるかは不明なだけに、危ないと思ったら飲むのを控えるつもりだ。
「グリューワイン二つね。毎度あり! こっちがリキュール少な目。少し熱いから気を付けて飲んで」
カップを受け取ってカウンターテーブルに二人並んで座る。
妙に距離が違いのは元々の椅子の位置が近かったからで他意はない。
屋台街にこの店があるのは知ってたし、なんならこの店の女将は井戸端会議でシズクの屋台でよく話に花を咲かせている良く知った顔だが、シズクがこの店に足を運んだのは今日が初めてだ。
その女将が、カウンターの中からシズクを見つけると一瞬消えたかと思ったら手に皿ともう一杯グリューワインを持ってシズクとエドワルドの所にやってきた。
「やっとうちに来てくれたのね! いつも美味しいもん食べさせてもらってるから、アタシからのサービス! あら、収穫祭でシズクのお店を手伝ってた……。この子の事よろしくね、お兄さん」
「それはもちろん! 大事にします」
「あらあら、まぁまぁ。こんないい人がいたなんてー。シズクったら隅に開けないわねー」
「ちょっとエドワルドも変な言い方しないでよー! そう言うんじゃないんだってばー」
否定するシズクと、ニコニコするエドワルドを交互にニヤニヤしながら何回か見て、持っていたブルスケッタとグリューワインを置いて行ってしまった。
まぁ目の前の美味しそうなブルスケッタに罪はないのでいただきますが!
そう思いながらブルスケッタを一口食む。
ブルスケッタは薄くスライスしたパンにオリーブオイルやニンニクを塗って好きな具材を上にのせて食べる料理だ。オリーブオイルはエライア、ニンニクはニンニクと言うので覚えやすい。
トマト多めだがニンニクも効いていて、粉チーズがかかり塩加減も丁度いい。ブラックペッパーではなくピリッと辛い唐辛子のようなものが入っていてこれはこれで美味しいと、もう一口頬張る。
「リコペルのブルスケッタ、美味しい? 俺この店のこれ好きなんだよ」
にこにこと笑いながらそれを見ていたエドワルドがシズクに聞く。
「美味しい! 私もこれ好き!」
そう言ってグリューワインに手を伸ばす。
こちらの世界に来てからはアルコールを飲んでいなかったので、酔いが早く回らないように慎重にグラスに口を付けると、華やかなシナモンの香りにクローブも少し入っているのか甘い香りがシズクの鼻腔をくすぐる。さらに生姜とオリンジのスライスがアクセントになってなかなか美味しい。
お酒を飲んだ時の、喉がカッと熱くなる感覚もなく口当たりが軽くて飲みやすい。アルコールがかなり低いのでついついごくごく飲んでしまう。
「だろ? つい最近警ら隊員の先輩に連れてきてもらったことがあってさ。グリューワインならリキュールの量も選べるし、時間が合えばシズクを誘おうと思ってたんだ」
グラスを少し回しながらあまりにも嬉しそうに話すので、シズクもつられて笑顔になってしまうのは致し方ない事だろう。
「ここはね、さっきの女将がよくうちで井戸端会議するからそのうち来ようと思ってたんだよー。誘ってくれてありがとね」
最近は新しいお客さんも増えたよ。
ちょっと故郷の食材があればいいな。
あのドラゴンどこ行っちゃったんだろね。
明日の舞踏会頑張ってね!
そう言いながらシズクの他愛もない話にニコニコと相槌を打ったり答えるエドワルドと二人、ブルスケッタに手を伸ばしつつ暖かいグリューワインを飲む。
訓練は結構厳しくってさ。
お弁当の新作は?
ドラゴンの足取りはまだわかってなくて。
明日は舞踏会じゃなくって、シズクの作ったご飯食べてゆっくり年越ししたいよ……。
楽しいからか、久しぶりのアルコールだからかはわからないが飲んでいたグリューワインはすぐに尽き果て、先ほど女将が出してくれたものにシズクは手を伸ばす。
「私のご飯? お腹パンパンで幸せなだけだよ?」
「それがいいんじゃん」
笑いながらそのグリューワインを先ほど飲んでいたものと同じようにごくりと飲み干すと、飲み口は軽いのにアルコールの独特の香りと喉を通る灼熱感が先ほど飲んでいたものはあまりにも違った。
先ほどまで飲んでいたのは葡萄ジュースほんのりリキュール入り。今飲んだのがアルコール入り本物のグリューワインだろう。少しだけふわふわとした心地になってきた。
それでも話は尽きず、話すことは流石にユリシスに来てからの話ばかりだが、聞き上手なエドワルドとの会話は久しぶりのお酒も手伝っていつもよりついつい饒舌になってしまう。
グリューワインを半分ほど飲んだ頃、大きくふわりと体が浮いたような感覚があって……。シズクが気がついた時には朝だった。
その夜のことはなんとなくだが、覚えている。
以前の体とは違うのだからあれだけ気をつけて飲もうと思っていたのに、美味しさに負けてグリューワインを二杯飲み干したシズクは、散々色々と話した挙句に酒場で寝てしまった、のだと思う。
「しょうがないな、おいで?」
優しくうながされ、シズクはしゃがんだエドワルドの背中に促されておんぶしもらって……。
家に帰るとリグとエリスが迎えてくれて部屋のベッドにちゃんと入ったというのに、何故か近くで心地よく響くエドワルドの声して、大きな手が自分の手を優しく包み込んでくれると、とても満たされた気持ちで深い眠りについたのだった。
「始めはみんなすっごい嫌がるのに、食べてもらえると結構美味しいって言ってもらえるのほんと嬉しい!」
時間は夕暮れ近く。
ぶらぶらと屋台街をシズクをエドワルドは歩いていた。
セリオン家へ一番最後におせちを渡し終え、この世界で初めてのおせちが予約客すべてに行き渡ったことになる。感想を聞くのはドキドキするが、今後の屋台運営にも影響するのでしっかりと聞こうと心に誓った。
最後に手渡ししたセリオン家では、これから国王主催の年終わりの舞踏会の前夜祭に出席するために全員が勢揃いしており、シズクを迎えてくれた。
エドワルドの兄二人とその家族には会ったことがなかったので大変うれしかったのだが、いかんせん全員見目麗しすぎのピカピカのキラッキラ。目がつぶれるのではないかとシズクは正直本気で思ったほどだ。
さて、シズクは今回初めて長男であるライモンド一家と次男のコルラード夫妻に会ったわけだが、ライモンドはとても物腰穏やかで口調もゆっくりで丁寧。エドワルド曰く怒ると家族の中ではで一番怖いらしいのだが、妻のバレンディナと息子のアクバルドにはデレデレだそうだ。コルラードは三兄弟の中で一番体が大きく性格も豪快、しかし仕事に対してはかなり細かいそうで妻のエイラと共に城の財務局で働いていると紹介を受けた。
そしてベルディエットに至ってはシズクの持ってきたおせちを見て、あまり茶色くないけれどちゃんと美味しいのかしら?といたずらっ子のように笑った。
悪戯のお返しに、面白みもなく前髪にあしらわれていた花髪飾りをサイドに移動して髪を少し遊ばせると、それが大いに気に入ってしまいそのまま舞踏会へ行くという暴挙に出たのには驚いた。
去り際にロイルドから移動門を使う許可が出たことと、出発が新年あけて二日目になる事を伝えられ、一家総出で出かけるのを何故か見送って今に至る。
「でもエドワルドは皆さんと一緒に出掛けなくって大丈夫だったの?」
当然エドワルドもセリオン家の一員なのだから一緒に国王主催の舞踏会に行くものだと思ったのだ。年末なので『良い年をお迎えください』と挨拶をしたと言うのに、エドワルドも当然と言った顔をして一緒に外に出てきたのはさすがのシズクもびっくりしてしまった。
「全然。明日が本番だし今夜は俺は行かなくても平気」
「王様の舞踏会なのに? クレドさんは行くって言ってたよ」
「そりゃぁクレドは長男だからさ。俺は明日ちゃんと出席すれば問題ないよ。それに舞踏会苦手だし、明日だって本当はあんまり行きたくないんだよ。それよりもシズクと一緒に居られる方がいいし」
冷たい風に吹かれたからだろうか。少しだけ頬が紅いエドワルドが柔らかく微笑む。
そんな何とも言えない爽やかな色気をはらむ笑顔でそんなことを言われたら、自分でも勘違いしてしまいそうだなと思いながら、視線の先には自分しかいない事を確認してシズクは何故か安心してしまう。
「おべっかが上手だなぁー」
「そんなことないよ」
なんだかそんなことを思った自分が急に恥ずかしくなって軽口を言いながらエドワルドに向き直る。
と、不意にエドワルドの手が伸びてきて、シズクの頬にそっと触れた。
「寒いからやっぱりほっぺた冷たいね。シズクはグリューワイン飲める?」
「え? の!! 飲めるっ! よ!」
「ははっ。良かった。なら少しだけ飲んでいこうよ。あそこのお店なかなかなんだよ」
びっくりして声が大きくなってしまったが、悪戯が大成功した少年のようにエドワルドが破顔した。これはしてやられたとシズクが脇腹に効かないボディーブローをいれてやれば、お返しとばかりにやんわりと脇腹をくすぐられる。
「ちょっとっ! 変なとこ触ったらダメなんだからね」
「変なとこってー?」
変なテンションのまま二人でしばらく楽しくじゃあっていたのだが、周りからの少し生温かく見守られているその視線に気が付き急にいたたまれなくなって、シズクとエドワルドは目の前に見えるグリューワインを売っているバルにようやく入った。
グリューワインは日本ではホットワインとも言われるものだ。ワインに香辛料が入っているので飲み始めてしばらくするとぽかぽかと身体があたたまってくる。末端冷え性だったシズクは、前世冬の寒い時期には寝る前などにたまに飲んでいたので、妙に懐かしく思えてきた。
「グリューワインはこの国では子供も飲むの?」
「飲むよ? でも子供用は葡萄ジュースのやつだけどね。一応そっちにするけどリキュール入れてもらえるよ?シズクも入れてみる?」
「うん。気持ち入れてもらえたら嬉しいかな」
「わかった。ちょっと待ってて」
前世ではまあまあ飲んでそこそこ酔っぱらえるほどには飲兵衛だったので、引き際はわきまえているつもりだ。大丈夫だと思うが……この体がどれだけアルコールに耐えうるかは不明なだけに、危ないと思ったら飲むのを控えるつもりだ。
「グリューワイン二つね。毎度あり! こっちがリキュール少な目。少し熱いから気を付けて飲んで」
カップを受け取ってカウンターテーブルに二人並んで座る。
妙に距離が違いのは元々の椅子の位置が近かったからで他意はない。
屋台街にこの店があるのは知ってたし、なんならこの店の女将は井戸端会議でシズクの屋台でよく話に花を咲かせている良く知った顔だが、シズクがこの店に足を運んだのは今日が初めてだ。
その女将が、カウンターの中からシズクを見つけると一瞬消えたかと思ったら手に皿ともう一杯グリューワインを持ってシズクとエドワルドの所にやってきた。
「やっとうちに来てくれたのね! いつも美味しいもん食べさせてもらってるから、アタシからのサービス! あら、収穫祭でシズクのお店を手伝ってた……。この子の事よろしくね、お兄さん」
「それはもちろん! 大事にします」
「あらあら、まぁまぁ。こんないい人がいたなんてー。シズクったら隅に開けないわねー」
「ちょっとエドワルドも変な言い方しないでよー! そう言うんじゃないんだってばー」
否定するシズクと、ニコニコするエドワルドを交互にニヤニヤしながら何回か見て、持っていたブルスケッタとグリューワインを置いて行ってしまった。
まぁ目の前の美味しそうなブルスケッタに罪はないのでいただきますが!
そう思いながらブルスケッタを一口食む。
ブルスケッタは薄くスライスしたパンにオリーブオイルやニンニクを塗って好きな具材を上にのせて食べる料理だ。オリーブオイルはエライア、ニンニクはニンニクと言うので覚えやすい。
トマト多めだがニンニクも効いていて、粉チーズがかかり塩加減も丁度いい。ブラックペッパーではなくピリッと辛い唐辛子のようなものが入っていてこれはこれで美味しいと、もう一口頬張る。
「リコペルのブルスケッタ、美味しい? 俺この店のこれ好きなんだよ」
にこにこと笑いながらそれを見ていたエドワルドがシズクに聞く。
「美味しい! 私もこれ好き!」
そう言ってグリューワインに手を伸ばす。
こちらの世界に来てからはアルコールを飲んでいなかったので、酔いが早く回らないように慎重にグラスに口を付けると、華やかなシナモンの香りにクローブも少し入っているのか甘い香りがシズクの鼻腔をくすぐる。さらに生姜とオリンジのスライスがアクセントになってなかなか美味しい。
お酒を飲んだ時の、喉がカッと熱くなる感覚もなく口当たりが軽くて飲みやすい。アルコールがかなり低いのでついついごくごく飲んでしまう。
「だろ? つい最近警ら隊員の先輩に連れてきてもらったことがあってさ。グリューワインならリキュールの量も選べるし、時間が合えばシズクを誘おうと思ってたんだ」
グラスを少し回しながらあまりにも嬉しそうに話すので、シズクもつられて笑顔になってしまうのは致し方ない事だろう。
「ここはね、さっきの女将がよくうちで井戸端会議するからそのうち来ようと思ってたんだよー。誘ってくれてありがとね」
最近は新しいお客さんも増えたよ。
ちょっと故郷の食材があればいいな。
あのドラゴンどこ行っちゃったんだろね。
明日の舞踏会頑張ってね!
そう言いながらシズクの他愛もない話にニコニコと相槌を打ったり答えるエドワルドと二人、ブルスケッタに手を伸ばしつつ暖かいグリューワインを飲む。
訓練は結構厳しくってさ。
お弁当の新作は?
ドラゴンの足取りはまだわかってなくて。
明日は舞踏会じゃなくって、シズクの作ったご飯食べてゆっくり年越ししたいよ……。
楽しいからか、久しぶりのアルコールだからかはわからないが飲んでいたグリューワインはすぐに尽き果て、先ほど女将が出してくれたものにシズクは手を伸ばす。
「私のご飯? お腹パンパンで幸せなだけだよ?」
「それがいいんじゃん」
笑いながらそのグリューワインを先ほど飲んでいたものと同じようにごくりと飲み干すと、飲み口は軽いのにアルコールの独特の香りと喉を通る灼熱感が先ほど飲んでいたものはあまりにも違った。
先ほどまで飲んでいたのは葡萄ジュースほんのりリキュール入り。今飲んだのがアルコール入り本物のグリューワインだろう。少しだけふわふわとした心地になってきた。
それでも話は尽きず、話すことは流石にユリシスに来てからの話ばかりだが、聞き上手なエドワルドとの会話は久しぶりのお酒も手伝っていつもよりついつい饒舌になってしまう。
グリューワインを半分ほど飲んだ頃、大きくふわりと体が浮いたような感覚があって……。シズクが気がついた時には朝だった。
その夜のことはなんとなくだが、覚えている。
以前の体とは違うのだからあれだけ気をつけて飲もうと思っていたのに、美味しさに負けてグリューワインを二杯飲み干したシズクは、散々色々と話した挙句に酒場で寝てしまった、のだと思う。
「しょうがないな、おいで?」
優しくうながされ、シズクはしゃがんだエドワルドの背中に促されておんぶしもらって……。
家に帰るとリグとエリスが迎えてくれて部屋のベッドにちゃんと入ったというのに、何故か近くで心地よく響くエドワルドの声して、大きな手が自分の手を優しく包み込んでくれると、とても満たされた気持ちで深い眠りについたのだった。
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