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葡萄牛のサンドイッチ
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今日のアイオライトは一日休みだ。
今の時期、動くと少し汗ばむので、濃いめの緑の半袖パーカーに、カーキのショートパンツを選んだ。
ショートパンツなので小学生のようだが、一夏前にアーニャと作った大のお気に入りである。
昨日少しだけ残ったカレーの素であるグレイビーと一緒に葡萄牛を焼いて、ザク切りキャベツと一緒に挟んだサンドイッチ、冷えた緑茶の入った水筒を鞄に入れ、アイオライトは散歩のため、金の林檎亭を出発した。
「昨日はカレーライス、美味しかったな~」
独り言なのに思ったより大きな声が出て、周りいた人達にすみません、と苦笑いと共に小さく頭を下げた。
それにしてもとてもいい天気だ。
途中で顔見知りの何人かと立ち話をしながら、上機嫌で鼻歌を歌いながら向かっているのは、街の中央にある噴水公園である。
噴水公園は大きなイベント、例えば年末年始の年越しなどで人がたくさん集まりやすい場所だ。
年越しは屋台も出て、その賑わいは初詣を思わせる。
しかし今はとても静かで、その喧騒の欠片も見当たらない。
そんな公園内には、今は春の終わりでポピーが花盛りだ。
アイオライトは噴水公園に入ると、
「うわわ、ポピーがたくさんだ!」
と思わず声を上げてしまった。
元々そんなに花に興味があるタイプでもないが、見るとやっぱり心が和む。
そよ風にその花を揺らしながら、見るものの心に安らぎを与えている。
さわさわと花の揺れる音と、たまに水を上げる噴水の水音が耳にに心地よい、静かな時間が流れている。
花が揺れると、つい自分の身体まで揺れてしまうのが不思議だ。
丁度いい木陰にあるベンチに腰を掛け、緑茶で喉を潤す。
ベンチから見える芝生の上には、旅行者だろうか? 仲の良さそうな男女がどこかでテイクアウトしてきたお弁当を広げて楽しそうに笑っている。
私、一人で寂しくなんてないんだからね! とカレーの匂いが食欲を誘うサンドイッチを取り出して、頬張る。
ガツガツと半分ほど食べたところで、一旦手が止まった。
本当に寂しくはない……
しかし、ほんのたまに、ふとした瞬間なかなか会えない前世の友人達を思うと、この世界で一人ぼっちになったような、ナーバスになる時がある。
はたと思う。
今回、少しナーバスになってしまったのは昨日の事が原因だなと。
ラウルとそのラウルの友達が仲良さそうにしているのを見てしまったから……。
マークやリリ、アーニャといても楽しいのだが。
世界中、そうでない人の方が圧倒的に多いとは思うが、中高生の頃の時のような妙に厨二感漂う会話とか、好きな乙女ゲームの推しキャラをワキワキしながら語らうとか、心の中のドロドロな感情とか、なんともなかった今日の話とか、みんなと話したいなと。
荒唐無稽な約束なのは百も承知だが……。
必ずと約束したからには、絶対に会える!
「よっしゃ! ワイやったるでー!」
気を取り直してサンドイッチを高く掲げて、自分を奮い立たせるように声に出した。
「そんなに勢い勇んで、なにかするの?」
サンドイッチを高く掲げながら持ちながら、声のする方に体を向けると、昨日会ったばかりのラウルがキラキラの笑顔でアイオライトに声をかけた。
「!こ、こんにちは。これはですね、気合を入れていただけで……」
「気合?」
なんともカッコ悪いところを見られてしまったと思ったが、後ろに昨日店に来たリチャードと、知らない男性二人がいることが気になってついつい凝視してしまう。
ラウルは王道の王子様、リチャードはインテリ眼鏡、さらに二人可愛い系とセクシー系が揃って並んでいる。
凝視して、目に焼き付けねばならぬよ。
心の写真のシャッター連写中だよ?
キラキラしすぎじゃない?
心の中が大忙しなアイオライトはピタリと動かなくなってしまった。
「なにか、付いてる?」
耐えられなくなったのか、ラウルがアイオライトに話しかけた。
「いや、あの、王子様が増えたなと思いまして」
「うん?」
あまり分かっていないような返事をしたラウルに、手をパタパタと振って、
「いえ、違うんです。あ、違わなくないんですけど……」
しどろもどろになって説明しようとするが、どうにもうまくいかないのでアイオライトは話題を変えることにした。
「あの、リチャードさんは昨日お会いしましたが、お二人も友達ですか?」
「あぁ。今週末に店でバーベキューあるだろ?それに友達二、三人連れてくるっていったろ?」
「わざわざありがとうございます。バーベキューは今週空の日の夜ですけど、数日はイシスを観光されるんですか?」
今日は火の日なので、空の日までは三日もある。
実際空の日の朝、現地入りする予定ではあったが、錬金術師の調査をする為、三人も予定より早くイシスの街に入ることにしたのだ。
「仕事が休めたんだって」
「俺の名はフィン。君は?」
そういって、薄い栗色の髪と、髪と同じ色の瞳を持つアイオライト曰くセクシー系のお兄さんが、ラウルの言葉を遮って握手を求めてきた。
「こんにちわ。自分はアイオライトと言います。よろしくお願いします」
そう言うともう一人、茶色の髪に大きな水色の瞳の青年がアイオライトに向けた。
「僕はロジャーです。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「飲み物買ってきます。二人ともちょっと……」
リチャードがフィンとロジャーに声をかけて、飲み物を買いに公園の売店へと向かっていった。
「あまりお店にはお友達といらっしゃらないので、びっくりしました。皆さんとは長いんですか?」
常連とはいえ客ではあるが、休日に出会ったのなら少しぐらい踏み込んだ質問をしてもいいだろうかと様子を見ながらアイオライトはラウルに聞いた。
「そうだね、リチャードは乳兄弟だからそれこそ産まれた頃から知ってるし、ロジャーとフィンは学園の初等部からの腐れ縁だよ」
乳兄弟がいるなんて、やはりラウルはどこぞの貴族なのだろうか。
しかしラウルに貴族っぽいところがあまりないので気にしないことにした。
「そうなんですね。いいですね。仲がよさそうでうらやましいです」
「リチャードなんていつも口うるさくて仕方ないよ」
ラウルに対するリチャードの立ち位置が分からないが、なんだか想像できて笑ってしまった。
「それでね、アイオライト、そのサンドイッチ……、もしかして昨日の?」
「そうです!葡萄牛とカレーの素を一緒に焼いてパンにはさんだだけですけど」
食べかけのそれを、ラウルがじっと見ている。
……
……
……
まだ、見てる。
すごく見られている。
アイオライトを、ではなく、アイオライトが手に持つサンドイッチが。
「あの、少し食べますか?」
「え?そんなつもりじゃなかったんだけど」
にじりにじりとラウルがアイオライトに近づく。
頬を染めながら、サンドイッチを凝視して。
「では、いただきます」
ラウルはアイオライトの手首をしっかり持って、その手から直接パクリと食べた。
「!?」
身体がびっくりして後ずさるが、手首をしっかりつかまれているので動けないのに、さらにラウルが距離を詰めてくる。
ラウルから離れようとするアイオライトと、サンドイッチを食べるためにアイオライトに近づくラウル。はたから見たら何をしている二人なのかさっぱりわからないだろう。
「これもいいね。葡萄牛とキャベツにカレーの風味があって!カレーライスほどじゃないけどこれも美味しい」
手首をようやく離し、ぺろりと唇を舌で拭ってラウルは笑った。
「じゃ、じゃぁ、残りもどうぞ!」
妙に近い位置でラウルの色気にあてられたのか、アイオライトは頬が赤くなるのが分かって、その赤さを隠すように残りのサンドイッチをラウルに手渡し、花壇に隠れるように移動する。
「アイオライト!どうしたの~?」
「花が綺麗なので、近くで見ています!」
なんだかわからない言い訳けだが、顔の赤みを治めることが最優先だと、アイオライトは隠れ続けた。
そんなやり取りを少し遠くから、生温い視線でリチャードとロジャー、フィンが見ていたが、頃合いかと思ってラウルに声をかけた。
「二人で何してたの?」
フィンが声をかけたが、ラウルは手に持つおそらくアイオライトに貰ったであろうサンドイッチをゆっくり堪能していてあまり聞いていない。
食べ終わった後、おもむろに三人の手首を順番につかんだあと、小さくつぶやいたのをリチャードは聞き逃さなかった。
「なんか、アイオライトの手首、めちゃくちゃ細かったな。なんか良い匂いもしたし……」
やっぱり自分の主は、この件に関してちょっと残念だと肩をすくめた。
今の時期、動くと少し汗ばむので、濃いめの緑の半袖パーカーに、カーキのショートパンツを選んだ。
ショートパンツなので小学生のようだが、一夏前にアーニャと作った大のお気に入りである。
昨日少しだけ残ったカレーの素であるグレイビーと一緒に葡萄牛を焼いて、ザク切りキャベツと一緒に挟んだサンドイッチ、冷えた緑茶の入った水筒を鞄に入れ、アイオライトは散歩のため、金の林檎亭を出発した。
「昨日はカレーライス、美味しかったな~」
独り言なのに思ったより大きな声が出て、周りいた人達にすみません、と苦笑いと共に小さく頭を下げた。
それにしてもとてもいい天気だ。
途中で顔見知りの何人かと立ち話をしながら、上機嫌で鼻歌を歌いながら向かっているのは、街の中央にある噴水公園である。
噴水公園は大きなイベント、例えば年末年始の年越しなどで人がたくさん集まりやすい場所だ。
年越しは屋台も出て、その賑わいは初詣を思わせる。
しかし今はとても静かで、その喧騒の欠片も見当たらない。
そんな公園内には、今は春の終わりでポピーが花盛りだ。
アイオライトは噴水公園に入ると、
「うわわ、ポピーがたくさんだ!」
と思わず声を上げてしまった。
元々そんなに花に興味があるタイプでもないが、見るとやっぱり心が和む。
そよ風にその花を揺らしながら、見るものの心に安らぎを与えている。
さわさわと花の揺れる音と、たまに水を上げる噴水の水音が耳にに心地よい、静かな時間が流れている。
花が揺れると、つい自分の身体まで揺れてしまうのが不思議だ。
丁度いい木陰にあるベンチに腰を掛け、緑茶で喉を潤す。
ベンチから見える芝生の上には、旅行者だろうか? 仲の良さそうな男女がどこかでテイクアウトしてきたお弁当を広げて楽しそうに笑っている。
私、一人で寂しくなんてないんだからね! とカレーの匂いが食欲を誘うサンドイッチを取り出して、頬張る。
ガツガツと半分ほど食べたところで、一旦手が止まった。
本当に寂しくはない……
しかし、ほんのたまに、ふとした瞬間なかなか会えない前世の友人達を思うと、この世界で一人ぼっちになったような、ナーバスになる時がある。
はたと思う。
今回、少しナーバスになってしまったのは昨日の事が原因だなと。
ラウルとそのラウルの友達が仲良さそうにしているのを見てしまったから……。
マークやリリ、アーニャといても楽しいのだが。
世界中、そうでない人の方が圧倒的に多いとは思うが、中高生の頃の時のような妙に厨二感漂う会話とか、好きな乙女ゲームの推しキャラをワキワキしながら語らうとか、心の中のドロドロな感情とか、なんともなかった今日の話とか、みんなと話したいなと。
荒唐無稽な約束なのは百も承知だが……。
必ずと約束したからには、絶対に会える!
「よっしゃ! ワイやったるでー!」
気を取り直してサンドイッチを高く掲げて、自分を奮い立たせるように声に出した。
「そんなに勢い勇んで、なにかするの?」
サンドイッチを高く掲げながら持ちながら、声のする方に体を向けると、昨日会ったばかりのラウルがキラキラの笑顔でアイオライトに声をかけた。
「!こ、こんにちは。これはですね、気合を入れていただけで……」
「気合?」
なんともカッコ悪いところを見られてしまったと思ったが、後ろに昨日店に来たリチャードと、知らない男性二人がいることが気になってついつい凝視してしまう。
ラウルは王道の王子様、リチャードはインテリ眼鏡、さらに二人可愛い系とセクシー系が揃って並んでいる。
凝視して、目に焼き付けねばならぬよ。
心の写真のシャッター連写中だよ?
キラキラしすぎじゃない?
心の中が大忙しなアイオライトはピタリと動かなくなってしまった。
「なにか、付いてる?」
耐えられなくなったのか、ラウルがアイオライトに話しかけた。
「いや、あの、王子様が増えたなと思いまして」
「うん?」
あまり分かっていないような返事をしたラウルに、手をパタパタと振って、
「いえ、違うんです。あ、違わなくないんですけど……」
しどろもどろになって説明しようとするが、どうにもうまくいかないのでアイオライトは話題を変えることにした。
「あの、リチャードさんは昨日お会いしましたが、お二人も友達ですか?」
「あぁ。今週末に店でバーベキューあるだろ?それに友達二、三人連れてくるっていったろ?」
「わざわざありがとうございます。バーベキューは今週空の日の夜ですけど、数日はイシスを観光されるんですか?」
今日は火の日なので、空の日までは三日もある。
実際空の日の朝、現地入りする予定ではあったが、錬金術師の調査をする為、三人も予定より早くイシスの街に入ることにしたのだ。
「仕事が休めたんだって」
「俺の名はフィン。君は?」
そういって、薄い栗色の髪と、髪と同じ色の瞳を持つアイオライト曰くセクシー系のお兄さんが、ラウルの言葉を遮って握手を求めてきた。
「こんにちわ。自分はアイオライトと言います。よろしくお願いします」
そう言うともう一人、茶色の髪に大きな水色の瞳の青年がアイオライトに向けた。
「僕はロジャーです。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「飲み物買ってきます。二人ともちょっと……」
リチャードがフィンとロジャーに声をかけて、飲み物を買いに公園の売店へと向かっていった。
「あまりお店にはお友達といらっしゃらないので、びっくりしました。皆さんとは長いんですか?」
常連とはいえ客ではあるが、休日に出会ったのなら少しぐらい踏み込んだ質問をしてもいいだろうかと様子を見ながらアイオライトはラウルに聞いた。
「そうだね、リチャードは乳兄弟だからそれこそ産まれた頃から知ってるし、ロジャーとフィンは学園の初等部からの腐れ縁だよ」
乳兄弟がいるなんて、やはりラウルはどこぞの貴族なのだろうか。
しかしラウルに貴族っぽいところがあまりないので気にしないことにした。
「そうなんですね。いいですね。仲がよさそうでうらやましいです」
「リチャードなんていつも口うるさくて仕方ないよ」
ラウルに対するリチャードの立ち位置が分からないが、なんだか想像できて笑ってしまった。
「それでね、アイオライト、そのサンドイッチ……、もしかして昨日の?」
「そうです!葡萄牛とカレーの素を一緒に焼いてパンにはさんだだけですけど」
食べかけのそれを、ラウルがじっと見ている。
……
……
……
まだ、見てる。
すごく見られている。
アイオライトを、ではなく、アイオライトが手に持つサンドイッチが。
「あの、少し食べますか?」
「え?そんなつもりじゃなかったんだけど」
にじりにじりとラウルがアイオライトに近づく。
頬を染めながら、サンドイッチを凝視して。
「では、いただきます」
ラウルはアイオライトの手首をしっかり持って、その手から直接パクリと食べた。
「!?」
身体がびっくりして後ずさるが、手首をしっかりつかまれているので動けないのに、さらにラウルが距離を詰めてくる。
ラウルから離れようとするアイオライトと、サンドイッチを食べるためにアイオライトに近づくラウル。はたから見たら何をしている二人なのかさっぱりわからないだろう。
「これもいいね。葡萄牛とキャベツにカレーの風味があって!カレーライスほどじゃないけどこれも美味しい」
手首をようやく離し、ぺろりと唇を舌で拭ってラウルは笑った。
「じゃ、じゃぁ、残りもどうぞ!」
妙に近い位置でラウルの色気にあてられたのか、アイオライトは頬が赤くなるのが分かって、その赤さを隠すように残りのサンドイッチをラウルに手渡し、花壇に隠れるように移動する。
「アイオライト!どうしたの~?」
「花が綺麗なので、近くで見ています!」
なんだかわからない言い訳けだが、顔の赤みを治めることが最優先だと、アイオライトは隠れ続けた。
そんなやり取りを少し遠くから、生温い視線でリチャードとロジャー、フィンが見ていたが、頃合いかと思ってラウルに声をかけた。
「二人で何してたの?」
フィンが声をかけたが、ラウルは手に持つおそらくアイオライトに貰ったであろうサンドイッチをゆっくり堪能していてあまり聞いていない。
食べ終わった後、おもむろに三人の手首を順番につかんだあと、小さくつぶやいたのをリチャードは聞き逃さなかった。
「なんか、アイオライトの手首、めちゃくちゃ細かったな。なんか良い匂いもしたし……」
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