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バーベキュー回顧録
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いつもより人が多くて大変だったが、無事に一日を終える事ができたことにほっと胸を撫で下ろし、マグカップを持ってアイオライトは店の扉を開けた。
疲れもあったが、今日の余韻に浸りたくなったのだ。
先ほどまでたくさんの人が集まって賑やかであったが、今はとても静かで、少し寂しい。
入口前の階段に腰掛けて、アイオライトはまだ湯気の立つミルクティーにふぅふぅと息をかけて啜るように飲む。
夏が近いとは言え、夜はまだ冷える。
カップを両手で持ち少しだけ冷えた指先を温めながら、今日の出来事を思い出していた。
夜のバーベキュー営業を前に、はやる常連客達が色々な準備を手伝いに来てくれた。
バーベキューコンロの設営、炭の準備、灯りが足りないとランタンを持ってきてくれた常連もいた。
それからラガーが足りなくなるだろうと、常連達が樽で差し入れだと持てきたのにはびっくりした。
お金を払おうとしたら、みんなで出し合って買ったものだから、と受け取り拒否。
断るのも大人げないとありがたく頂戴し、これからも美味しい食事を作ろうと約束すると、みんな破顔してアイオライトの頭を撫で回しにきた。
「子供じゃないんだからやめてよー」
「オレらから見たら、まだまだ子供だぞ」
と、さらに揉みくちゃにされたのだった。
始まる前から大騒ぎである。
夜のバーベキュー営業が始まると、来てくれた客のほとんどが自ら焼いて食べるので、アイオライトがすることと言えば、食べ物の補給と飲み物を出すことぐらい。
しかし、あれだけのエールとサングリアが消費されるとは思わなかった。
あと一年後、この世界の成人を迎えたら浴びるほど飲むぞと決意を固め、心の中で悔し涙を流しながらお茶で喉を鳴らしながら、次回はもう少し多めに準備しようと、心に誓った。
それはさておき……
誰かが誰かの手を引いて、人の輪が広がっていくのがなんか素敵だ、とアイオライトはその瞬間を今日一日で沢山見れた事にも大満足していた。
マークとリリはとにかく焼いて、飲んで、他人にも焼いて、酒を渡してと大忙しであった。
リリに至ってはサングリアを飲みすぎて、林檎亭二階のアイオライトの部屋で知らぬ間に休むという傍若無人ぶり。
飲みすぎたりなければ、本当に優しいお姉さんなのだが、飲むとマイペースが過ぎてマークも振り回されるのが面白い。
そしてバーベキュー終盤、肉の提供が間に合わず、アイオライトもコンロ前に立った時に、葡萄牛のカルビが油がはねて、右手の甲を少し火傷してしまった。
痛みはもうないが、ヒリヒリとしてまだ赤みが残っている。
料理人として恥ずかしいが、二、三日で治るだろう。ポーションを使うまでもないなとそのままにしてある。
撤退も早いものだった。
そろそろお開きに、と声をかけるや否や、その場にいた客達が片付けを始めたのだ。
「あの、片付けまでしてもらっては……」
そう声を掛けたが、みんな笑っていいのいいのと言うだけだった。
コンロはが鍛冶工房の人達、炭は硝子工房の人達が引き上げてくれて、コンロは綺麗に洗って後日持ってきてくれるそうだ。
炭汚れ、油汚れのコンロを洗う必要なし!
至れり尽くせりである。
ちなみにアーニャは、たらふく食べた後店の前をささっと片付けてから、
「来週火の日、店で待ってるわ」
という台詞と共に颯爽と帰っていった。
今回は余程の自信があるみたいだが、どうだろうか。
あんまりフリフリの服とか好きではないので、格好いい感じか、機能的な服を作っていてくれることを願いながらアーニャを見送った。
参加者全員で綺麗に片づけて、今回のバーベキューはお開きとなったのである。
今回は常連客の人達に助けられて大成功だったが、次回はあまり甘えることなく、しっかり開催して恩返しできるように準備しようと思う。
「でも残念だったな……」
あんなにバーベキューを楽しみにしていたラウルが、急遽仕事で参加できなくなってしまったのだ。
------------
風の日のお昼過ぎ、いつもテンション高めなラウルが、見たこともないローテンションで店にやってきた。
「アイオライト、ごめん。週末のバーベキュー、凄く楽しみにしていたんだけれど、どうしても仕事でコルドに行かなくちゃいけなくなって。帰りも一旦王城に戻るから、どうしても空の日に戻れない」
「コルドですか!?遠いですね」
コルドはイシスの街から半日ほどの距離にある、イシスよりも大きな街だ。
アルタジアの次に流行の発信地といえるほどで、大きな劇場もあるし、遊園地のような施設もある。
行ってみたいと思っていたが、イシスからはアルタジアに向かいさらにその先。
移動に半日ぐらいかかってしまうので一度も足を運んだことはない。
「すぐに向かうんですか?」
「うん。リチャード達も一緒に……」
「それは残念ですね。でもまた夏の間にバーベキューしますから」
そう言ってラウルにはまたのお誘いをしたのだが、がっかり感がぬぐえない顔をしたままだ。
「うん……」
そんなに楽しみにしていてくれたのはもちろん嬉しいが、仕事であれば仕方ない。
「う~ん。お昼食べていきますか?」
「ごめん、急遽決まったからすぐ出発しないといけないんだ」
ご飯を食べれなければ元気もやる気も出るはずがない。それはいけない。
「ちょっとだけ待っててください」
店内に客がいなかったので急いで厨房に入り、移動途中でも食べられるようにおにぎりを握る。
具はみんな大好きツナマヨと、この世界の梅の実をシウの葉で漬けてた、虹色の魔法の効果付き梅干しだ。小さいカリカリ梅でなかなかにいい漬かり具合である。
何故か虹色が目立たなくなるのが不思議だ。まぁ、虹色の魔法がかかってなくても梅干しは疲労回復にとてもいいが。
おにぎりを弁当箱にいれ、小さな瓶と、小さな木箱を持つ。それら全てに無事に戻ってこれるようにそっと願う。
虹色の光が弁当箱と小さな瓶を包んで、ふわりと吸い込まれたのを確認して、アイオライトは厨房を出た。
「おにぎりなんですけれど、おにぎりは全部で八個です。一人が二つでは足りないかもしれないですけれど小腹は満たせると思います」
「おにぎり?」
「はい、あ。ラウルさんはお店で食べたことなかったですかね。ご飯を握ったもので、簡単に片手で食べられます。途中でお腹がすいたら食べてくださいね。すっぱい木の実とお魚がご飯の中に入っています。あと、オムレツではないですけれど、甘い卵焼きも一緒に入れておきました」
「あ、ありがとう」
笑顔でお礼を言われたので少しはテンションが上がっただろうか。
よかった、とほっと胸をなでおろす。
「お弁当箱はイシスに戻った時にでも持ってきてくださいね。あ!これも。ちょっと甘いおやつです」
渡したのは蜂蜜レモン味の飴。
瓶に十個程入っている。
これも虹色のあまり目立たない魔法をかけた食べ物だ。
蜂蜜レモン、これまた疲労回復にいいだろう。
これもちょっと疲れた時に口にすぐ放りこめていいだろう。
「俺、甘いもの結構好きなんだ」
「よかった!ではお出かけ前に、こちらをおひとつどうぞ。元気出ますよ。自分のお気に入りなんです」
そう言って、木箱から取り出したのはオレンジピールのチョコレートがけ。
チョコはどうしても食べたくて、これも虹色の魔法で試行錯誤の末にたどり着いたアイオライトの嗜好品である。自分以外でこれを食べるのはラウルが初めてだ。
オレンジは分かるが、先にかかる黒いような茶色いようなものに手が伸びにくいのか箱から手に取ってもらえない。
「怖がることはありません」
「いや、カレーのこともあるしこの茶色いのも美味しいのかもしれないけど……」
何かの勧誘のようだが、アイオライトは戸惑うラウルの口が少し開いた瞬間躊躇なく放り込んだ。
もぐり、と咀嚼を始める。顔を赤くして食べるほど気に入ってくれたようだ。
「その、あの、ありがと……」
「では、お気をつけて。お仕事頑張ってください」
「うん、お弁当ありがとう。行ってくるね。多分火の日にはイシスに戻るよ」
強引に行きすぎたことは謝るが、いつもと同じようなテンションになったようで安心する。
大事そうにお弁当を抱えて金の林檎亭を後にするラウルを見送り、気持ちをバーベキューに向けた。
------------
ラウルとのやりとりをぼんやり思い出していたが、急に疲れが出たのか、眠くなってきた。
少しぬるくなったミルクティーを一気に飲み干し、金の林檎亭の二階にある自分の部屋に戻る。
火の日はお休みだけれど、イシスの街に戻るならどこかで会えるだろうか。
会えたらいいなと考えながら、アイオライトはすぐに眠りについた。
疲れもあったが、今日の余韻に浸りたくなったのだ。
先ほどまでたくさんの人が集まって賑やかであったが、今はとても静かで、少し寂しい。
入口前の階段に腰掛けて、アイオライトはまだ湯気の立つミルクティーにふぅふぅと息をかけて啜るように飲む。
夏が近いとは言え、夜はまだ冷える。
カップを両手で持ち少しだけ冷えた指先を温めながら、今日の出来事を思い出していた。
夜のバーベキュー営業を前に、はやる常連客達が色々な準備を手伝いに来てくれた。
バーベキューコンロの設営、炭の準備、灯りが足りないとランタンを持ってきてくれた常連もいた。
それからラガーが足りなくなるだろうと、常連達が樽で差し入れだと持てきたのにはびっくりした。
お金を払おうとしたら、みんなで出し合って買ったものだから、と受け取り拒否。
断るのも大人げないとありがたく頂戴し、これからも美味しい食事を作ろうと約束すると、みんな破顔してアイオライトの頭を撫で回しにきた。
「子供じゃないんだからやめてよー」
「オレらから見たら、まだまだ子供だぞ」
と、さらに揉みくちゃにされたのだった。
始まる前から大騒ぎである。
夜のバーベキュー営業が始まると、来てくれた客のほとんどが自ら焼いて食べるので、アイオライトがすることと言えば、食べ物の補給と飲み物を出すことぐらい。
しかし、あれだけのエールとサングリアが消費されるとは思わなかった。
あと一年後、この世界の成人を迎えたら浴びるほど飲むぞと決意を固め、心の中で悔し涙を流しながらお茶で喉を鳴らしながら、次回はもう少し多めに準備しようと、心に誓った。
それはさておき……
誰かが誰かの手を引いて、人の輪が広がっていくのがなんか素敵だ、とアイオライトはその瞬間を今日一日で沢山見れた事にも大満足していた。
マークとリリはとにかく焼いて、飲んで、他人にも焼いて、酒を渡してと大忙しであった。
リリに至ってはサングリアを飲みすぎて、林檎亭二階のアイオライトの部屋で知らぬ間に休むという傍若無人ぶり。
飲みすぎたりなければ、本当に優しいお姉さんなのだが、飲むとマイペースが過ぎてマークも振り回されるのが面白い。
そしてバーベキュー終盤、肉の提供が間に合わず、アイオライトもコンロ前に立った時に、葡萄牛のカルビが油がはねて、右手の甲を少し火傷してしまった。
痛みはもうないが、ヒリヒリとしてまだ赤みが残っている。
料理人として恥ずかしいが、二、三日で治るだろう。ポーションを使うまでもないなとそのままにしてある。
撤退も早いものだった。
そろそろお開きに、と声をかけるや否や、その場にいた客達が片付けを始めたのだ。
「あの、片付けまでしてもらっては……」
そう声を掛けたが、みんな笑っていいのいいのと言うだけだった。
コンロはが鍛冶工房の人達、炭は硝子工房の人達が引き上げてくれて、コンロは綺麗に洗って後日持ってきてくれるそうだ。
炭汚れ、油汚れのコンロを洗う必要なし!
至れり尽くせりである。
ちなみにアーニャは、たらふく食べた後店の前をささっと片付けてから、
「来週火の日、店で待ってるわ」
という台詞と共に颯爽と帰っていった。
今回は余程の自信があるみたいだが、どうだろうか。
あんまりフリフリの服とか好きではないので、格好いい感じか、機能的な服を作っていてくれることを願いながらアーニャを見送った。
参加者全員で綺麗に片づけて、今回のバーベキューはお開きとなったのである。
今回は常連客の人達に助けられて大成功だったが、次回はあまり甘えることなく、しっかり開催して恩返しできるように準備しようと思う。
「でも残念だったな……」
あんなにバーベキューを楽しみにしていたラウルが、急遽仕事で参加できなくなってしまったのだ。
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風の日のお昼過ぎ、いつもテンション高めなラウルが、見たこともないローテンションで店にやってきた。
「アイオライト、ごめん。週末のバーベキュー、凄く楽しみにしていたんだけれど、どうしても仕事でコルドに行かなくちゃいけなくなって。帰りも一旦王城に戻るから、どうしても空の日に戻れない」
「コルドですか!?遠いですね」
コルドはイシスの街から半日ほどの距離にある、イシスよりも大きな街だ。
アルタジアの次に流行の発信地といえるほどで、大きな劇場もあるし、遊園地のような施設もある。
行ってみたいと思っていたが、イシスからはアルタジアに向かいさらにその先。
移動に半日ぐらいかかってしまうので一度も足を運んだことはない。
「すぐに向かうんですか?」
「うん。リチャード達も一緒に……」
「それは残念ですね。でもまた夏の間にバーベキューしますから」
そう言ってラウルにはまたのお誘いをしたのだが、がっかり感がぬぐえない顔をしたままだ。
「うん……」
そんなに楽しみにしていてくれたのはもちろん嬉しいが、仕事であれば仕方ない。
「う~ん。お昼食べていきますか?」
「ごめん、急遽決まったからすぐ出発しないといけないんだ」
ご飯を食べれなければ元気もやる気も出るはずがない。それはいけない。
「ちょっとだけ待っててください」
店内に客がいなかったので急いで厨房に入り、移動途中でも食べられるようにおにぎりを握る。
具はみんな大好きツナマヨと、この世界の梅の実をシウの葉で漬けてた、虹色の魔法の効果付き梅干しだ。小さいカリカリ梅でなかなかにいい漬かり具合である。
何故か虹色が目立たなくなるのが不思議だ。まぁ、虹色の魔法がかかってなくても梅干しは疲労回復にとてもいいが。
おにぎりを弁当箱にいれ、小さな瓶と、小さな木箱を持つ。それら全てに無事に戻ってこれるようにそっと願う。
虹色の光が弁当箱と小さな瓶を包んで、ふわりと吸い込まれたのを確認して、アイオライトは厨房を出た。
「おにぎりなんですけれど、おにぎりは全部で八個です。一人が二つでは足りないかもしれないですけれど小腹は満たせると思います」
「おにぎり?」
「はい、あ。ラウルさんはお店で食べたことなかったですかね。ご飯を握ったもので、簡単に片手で食べられます。途中でお腹がすいたら食べてくださいね。すっぱい木の実とお魚がご飯の中に入っています。あと、オムレツではないですけれど、甘い卵焼きも一緒に入れておきました」
「あ、ありがとう」
笑顔でお礼を言われたので少しはテンションが上がっただろうか。
よかった、とほっと胸をなでおろす。
「お弁当箱はイシスに戻った時にでも持ってきてくださいね。あ!これも。ちょっと甘いおやつです」
渡したのは蜂蜜レモン味の飴。
瓶に十個程入っている。
これも虹色のあまり目立たない魔法をかけた食べ物だ。
蜂蜜レモン、これまた疲労回復にいいだろう。
これもちょっと疲れた時に口にすぐ放りこめていいだろう。
「俺、甘いもの結構好きなんだ」
「よかった!ではお出かけ前に、こちらをおひとつどうぞ。元気出ますよ。自分のお気に入りなんです」
そう言って、木箱から取り出したのはオレンジピールのチョコレートがけ。
チョコはどうしても食べたくて、これも虹色の魔法で試行錯誤の末にたどり着いたアイオライトの嗜好品である。自分以外でこれを食べるのはラウルが初めてだ。
オレンジは分かるが、先にかかる黒いような茶色いようなものに手が伸びにくいのか箱から手に取ってもらえない。
「怖がることはありません」
「いや、カレーのこともあるしこの茶色いのも美味しいのかもしれないけど……」
何かの勧誘のようだが、アイオライトは戸惑うラウルの口が少し開いた瞬間躊躇なく放り込んだ。
もぐり、と咀嚼を始める。顔を赤くして食べるほど気に入ってくれたようだ。
「その、あの、ありがと……」
「では、お気をつけて。お仕事頑張ってください」
「うん、お弁当ありがとう。行ってくるね。多分火の日にはイシスに戻るよ」
強引に行きすぎたことは謝るが、いつもと同じようなテンションになったようで安心する。
大事そうにお弁当を抱えて金の林檎亭を後にするラウルを見送り、気持ちをバーベキューに向けた。
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ラウルとのやりとりをぼんやり思い出していたが、急に疲れが出たのか、眠くなってきた。
少しぬるくなったミルクティーを一気に飲み干し、金の林檎亭の二階にある自分の部屋に戻る。
火の日はお休みだけれど、イシスの街に戻るならどこかで会えるだろうか。
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