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友達認定
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「今回は野営となってしまった。面目ない」
金の林檎亭で席に着くなり、リチャードがラウルに告げた。
ラウル達は最近なるべく客の少ない時間を選んで店に足を運んでいる。
周りに気兼ねなく話すことが出来るためだ。
今も、先ほど最後の客が出ていって、夜の店内はラウルとリチャードの二人だけである。
「イシスで宿を探すのは大変だとは思ってはいたけど……」
来週には王と王妃がイシスの視察に訪れるが、宿泊する場所の調整は大いに難航した。
そもそもイシスには貴族が宿泊できるような宿屋は数が限られており、さらに王族となるとより限定される。
視察を決めた時には宿泊予定日はすでに満室だった為、王命で宿を開けさせる事をギルベルクとリチャードは進言したが、普段の生活を見るために視察するのだからと王に反対された。
王妃の体調を考えると、宿に比べ快適度に劣るところが懸念材料ではあったが、移動式住居を用いての野営で落ち着くことになったのだ。
幸にして水や火は魔法でどうにでもなる。
場所も既に決まっており、地均しに入っているとのことだった。
「何か困りごとですか?」
ラウルとリチャードの二人が、こんな難しい顔をして話をしているのは珍しいと、アイオライトは声をかけた。
「困りごと、ではあるけど、とりあえず今日のメニューが聞きたいな」
心配させまいとラウルが笑顔で答える。
「今夜はサラダうどんと、純豆腐です! サラダうどんは酸っぱいタレで食べやすいですし、純豆腐は辛いんですけどスタミナ満点です」
さっぱり食べる事ができると昼時間はサラダうどんが大好評だった。純豆腐はスタミナがつくような食事をと考えた結果である。
人に会うことが多い仕事の人用に、純豆腐は一応ニンニクとニラ少なめを選べるようにした。
「へぇ、じゃあ、俺はそのすんどぅぶにするよ。ニンニクとニラは普通でお願いしようかな」
「では、私はサラダうどんで」
この世界にはない料理名を発する二人の、辿々しい発音が可愛らしい。
「はい。承知しました。お茶とお水どちらにしますか?」
「あ、俺自分でやる。冷蔵庫開けてもいい?」
最近ラウルはお茶や水は自分で準備するようになった。
アイオライトを気遣ってのことではあるが、なにより二人で話せる時間が少しでも欲しいと言う気持ちが強い。
「ありがとうございます。でもラウルさんはお客様ですし、声をかけてもらえれば持っていきますよ?」
実際客なのだから、なんの間違いも問題もない。
なのに、ラウルはなんだかもやもやしてしまう。
「マークも自分でやってるの見たよ? 俺だって常連だしそれぐらいできるよ」
そう言って、ラウルは奥の冷蔵庫に向かう。
う~ん、とアイオライトが考えているが、少し不貞腐れてたラウルがお構いなしに冷蔵庫を開け、二人分のコップを棚から取り出す。
「マークは家族みたいなものですし、ラウルさんとは違うと思うんですけど……」
「……」
ラウルは、先ほどのもやもやした気持ちのその下に、チリっと胸の奥で焦げるようなものが湧いたが、アイオライトの次の言葉でかき消される。
「う~んと、そうだな、ラウルさんは最推しなんで……」
「おし?」
「ふぁっ! お? お友達です! 友達なら手伝ってもらってもおかしくないですかね」
最推しに対してお友達とはおこがましいが、口から出てしまった言葉は変更できない。
アイオライトがちらりと伺うように見ると、ラウルが大きな目をさらに見開いていた。
ラウルは、先ほどの焦げるような気持ちの正体が何なのかよくわからなかったが、それを忘れるぐらい、幸せで満たされ始めていた。
「友達?」
「庶民の自分と友達とか、ラウルさんには迷惑かもしれませんが……」
大きな目がさらに輝いて、笑顔になったラウルがあまりにも眩しすぎて凝視できず、アイオライトはつい声が小さくなってしまった。
そんなアイオライトに、同じ目線まで腰を落とし、ラウルはにかむように微笑む。
「そんなことないよ。嬉しい。俺、アイオライトに友達って言ってもらえて。本当に嬉しい」
「あ、あの、ラウルさん……眩しすぎる」
何が眩しいの? と、ラウルがさらに近づいて、真っ赤になったアイオライトの頬にラウルは片手を伸ばす。
もっと……、ラウルの思考が斜め上に飛びそうになった直後、
「ラウル、お前何してんの?」
お茶を運ぶだけにしては時間がかかり過ぎだと思ったリチャードが厨房の入り口から声をかけた。
「俺、アイオライトに友達認定されたんだ」
びくりと頬に伸ばした手の行き場に困って、ラウルはアイオライトの頭を一撫でしてからリチャードに振り返る。
何がしたかったのかバレバレなんだよ、とリチャードは思いながらラウルを諭す。
「アイオライトは女性なのだから、むやみに触ってはいけないよ」
「ごめん。嬉しくて、つい」
アイオライトは、最推しのラウルの先ほどのはにかんだ笑顔を脳内再生できるほど脳裏に焼き付けていた。
大変恥ずかしかったが、謝る必要はない。寧ろこんなご褒美ありがとうございます。と、心の中でラウルを拝む。
「さて、そろそろ席に戻ろう。アイオライトの邪魔をしていたら食事にありつけないからな」
リチャードは厨房を出るようにラウルに促し、ようやく席に戻った。
頬を少し赤く染め、潤んだ瞳で厨房のアイオライトを眺めている今の主は、それはそれは強烈な色気を放っている。
食事を待つ間に、少しは通常通りになったが、店の中に女性がいなくて良かったと心底思う。
「お待たせしました!」
「来た来た。ありがとう、アイオライト」
今のラウルはいつもの爽やか好青年で、リチャードはほっと胸を撫で下ろした。
「サラダうどんは、麺と具を絡めながら食べてくださいね」
フォークで器用にうどんを巻いて口に入れるリチャード。
タレには少し酢を入れて、さっぱり食べれるようにしてある。うどんはアイオライトの手打ちだ。
「なんか美味そうだな」
「なんかじゃなくて、うまい」
そう言って、食べる、茶を飲む……を無言で繰り返している。
リチャードは好きなものを食べるときは無言になるようだ、と最近アイオライトは気が付いた。
なので、リチャードが食べている時には基本的に話しかけないようになった。
「純豆腐は、辛いのに甘いね。この白いのは?」
「白いのは豆腐です。お味噌汁にたまに入れているやつですね。特製の辛いタレに漬けた白菜と豚肉、お野菜と豆腐をお鍋みたいに煮込むだけなんですけれど、コクがあってとっても美味しいんです」
「白いご飯とも相性抜群だね」
ラウルは、うん、うんと笑顔でアイオライトの説明を聞きながら食べる。
リチャードとは対照的に、何かを話しながら楽しく食事をする方が好きなようである。
「そう言えば、何かお困りでしたか?」
「あ、うん、今度父と母が来るだろう?泊まる所がなくて、結局野営することになったんだよね」
「野営ですか? 危なくないですか?」
「警護や侍女もいるから大丈夫だよ」
アイオライトは庶民だ。
前世の知識ではすごい人数になるイメージはあるが、この世界の貴族がどれぐらいの共を連れて外に出るのかはさっぱりわからない。
「うちにお泊り頂いてもいいですよ? うちの二階じゃ狭いですかね」
「さすがにそこまで甘えるわけにはいかないよ」
金の林檎亭の二階では、侍従と侍女、側近、騎士団護衛だけでも人数オーバーだろう。
「自分の部屋の他に四部屋もありますよ?」
「念のため見せてもらえるか?」
いつの間にかサラダうどんを平らげていたリチャードが急に会話に入ってきた。
「えっと?」
「私はラウルの友達だが、彼の家で家臣として働いているんだよ」
「おぉ、そうだったんですね。今からでもいいですよ?」
「じゃぁ、ラウル、ゆっくり食べているといい。私はアイオライトと一緒に二階を見てこよう」
にやりと笑ってリチャードは席を立つ。
「待てっ、二人きりはだめだ。俺も……ゴホッ」
急いで残りのスープを飲み干そうとして咳き込んでしまったラウルに、
「冗談だよ。早く食べろ」
とリチャードは水を渡しながら答えた。
すぐにラウルは食べ終わり、二階に上がる。
「ここに一人で住んでるの?」
「そうですね。家はありますが、両親共に冒険者なんであまり帰って来ないんです。店が家みたいになってます」
そう言って一部屋開ける。
「客間と言うわけでもないんですけれど、使えそうですか? 自分の部屋は一番奥なので気になさらず使ってもらえれば……」
清潔感のある八畳ぐらいの部屋だ。普通に泊まるぐらいなら問題はない。寧ろ普通の宿屋よりもいいかもしれない。だが相手は王族である。総人数を考えてもここに泊まるのはさすがに難しいだろう。
「いい部屋だけれど、ラウルのご両親をお泊めするのは、やはり難しいな」
「そうですか。お困りならと思ったんですが、お力になれずすみません」
「いや、俺の両親がちょっと特殊なだけなんだ。綺麗な部屋だし、俺が泊まりたいぐらいだよ」
「では今度是非! あと、これは自慢なんですけれど、お風呂が店の隣にあって結構広いんですよ!」
「っと……」
風呂は元日本人であるアイオライトが、力を入れて設計したのだ。
大きな木をくり抜いて、工房に作ってもらったお気に入りなのである。
お風呂を自慢したかっただけなので、ラウルに宿泊を進めたことに気が付かないまま、風呂の自慢を延々語るアイオライト。
ラウルの顔を見るリチャードは笑うしかなかった。
「そうだ! 今回のお食事会は、ラウルさん達がこの前出来なかったバーベキューにしませんか? 野営先から動かなくてもいいですし。色々メニューは考えていたんですけれど、なんか沢山人がいるみたいですし、楽しくないですか?」
ラウルの両親が店に来ると聞いたときから、アイオライトも色々メニューは考えて、提供するメニューもすでに決めていたのだが、せっかくなら楽しい方がいい。
「ラウル、聞いてみるか?」
「うん。いいね、バーベキュー。」
ラウルは即答する。
「おい、いいのか? お伺いを立てなくても」
「きっと父上も母上も喜んでくれるよ」
「では、野営先での食事に変更する旨お伝えしておこう」
目の前で楽しそうにバーベキューのプランを語るアイオライトの笑顔に、ラウルは場所がどこであってもきっと楽しい食事になると、そんな予感がしていた。
金の林檎亭で席に着くなり、リチャードがラウルに告げた。
ラウル達は最近なるべく客の少ない時間を選んで店に足を運んでいる。
周りに気兼ねなく話すことが出来るためだ。
今も、先ほど最後の客が出ていって、夜の店内はラウルとリチャードの二人だけである。
「イシスで宿を探すのは大変だとは思ってはいたけど……」
来週には王と王妃がイシスの視察に訪れるが、宿泊する場所の調整は大いに難航した。
そもそもイシスには貴族が宿泊できるような宿屋は数が限られており、さらに王族となるとより限定される。
視察を決めた時には宿泊予定日はすでに満室だった為、王命で宿を開けさせる事をギルベルクとリチャードは進言したが、普段の生活を見るために視察するのだからと王に反対された。
王妃の体調を考えると、宿に比べ快適度に劣るところが懸念材料ではあったが、移動式住居を用いての野営で落ち着くことになったのだ。
幸にして水や火は魔法でどうにでもなる。
場所も既に決まっており、地均しに入っているとのことだった。
「何か困りごとですか?」
ラウルとリチャードの二人が、こんな難しい顔をして話をしているのは珍しいと、アイオライトは声をかけた。
「困りごと、ではあるけど、とりあえず今日のメニューが聞きたいな」
心配させまいとラウルが笑顔で答える。
「今夜はサラダうどんと、純豆腐です! サラダうどんは酸っぱいタレで食べやすいですし、純豆腐は辛いんですけどスタミナ満点です」
さっぱり食べる事ができると昼時間はサラダうどんが大好評だった。純豆腐はスタミナがつくような食事をと考えた結果である。
人に会うことが多い仕事の人用に、純豆腐は一応ニンニクとニラ少なめを選べるようにした。
「へぇ、じゃあ、俺はそのすんどぅぶにするよ。ニンニクとニラは普通でお願いしようかな」
「では、私はサラダうどんで」
この世界にはない料理名を発する二人の、辿々しい発音が可愛らしい。
「はい。承知しました。お茶とお水どちらにしますか?」
「あ、俺自分でやる。冷蔵庫開けてもいい?」
最近ラウルはお茶や水は自分で準備するようになった。
アイオライトを気遣ってのことではあるが、なにより二人で話せる時間が少しでも欲しいと言う気持ちが強い。
「ありがとうございます。でもラウルさんはお客様ですし、声をかけてもらえれば持っていきますよ?」
実際客なのだから、なんの間違いも問題もない。
なのに、ラウルはなんだかもやもやしてしまう。
「マークも自分でやってるの見たよ? 俺だって常連だしそれぐらいできるよ」
そう言って、ラウルは奥の冷蔵庫に向かう。
う~ん、とアイオライトが考えているが、少し不貞腐れてたラウルがお構いなしに冷蔵庫を開け、二人分のコップを棚から取り出す。
「マークは家族みたいなものですし、ラウルさんとは違うと思うんですけど……」
「……」
ラウルは、先ほどのもやもやした気持ちのその下に、チリっと胸の奥で焦げるようなものが湧いたが、アイオライトの次の言葉でかき消される。
「う~んと、そうだな、ラウルさんは最推しなんで……」
「おし?」
「ふぁっ! お? お友達です! 友達なら手伝ってもらってもおかしくないですかね」
最推しに対してお友達とはおこがましいが、口から出てしまった言葉は変更できない。
アイオライトがちらりと伺うように見ると、ラウルが大きな目をさらに見開いていた。
ラウルは、先ほどの焦げるような気持ちの正体が何なのかよくわからなかったが、それを忘れるぐらい、幸せで満たされ始めていた。
「友達?」
「庶民の自分と友達とか、ラウルさんには迷惑かもしれませんが……」
大きな目がさらに輝いて、笑顔になったラウルがあまりにも眩しすぎて凝視できず、アイオライトはつい声が小さくなってしまった。
そんなアイオライトに、同じ目線まで腰を落とし、ラウルはにかむように微笑む。
「そんなことないよ。嬉しい。俺、アイオライトに友達って言ってもらえて。本当に嬉しい」
「あ、あの、ラウルさん……眩しすぎる」
何が眩しいの? と、ラウルがさらに近づいて、真っ赤になったアイオライトの頬にラウルは片手を伸ばす。
もっと……、ラウルの思考が斜め上に飛びそうになった直後、
「ラウル、お前何してんの?」
お茶を運ぶだけにしては時間がかかり過ぎだと思ったリチャードが厨房の入り口から声をかけた。
「俺、アイオライトに友達認定されたんだ」
びくりと頬に伸ばした手の行き場に困って、ラウルはアイオライトの頭を一撫でしてからリチャードに振り返る。
何がしたかったのかバレバレなんだよ、とリチャードは思いながらラウルを諭す。
「アイオライトは女性なのだから、むやみに触ってはいけないよ」
「ごめん。嬉しくて、つい」
アイオライトは、最推しのラウルの先ほどのはにかんだ笑顔を脳内再生できるほど脳裏に焼き付けていた。
大変恥ずかしかったが、謝る必要はない。寧ろこんなご褒美ありがとうございます。と、心の中でラウルを拝む。
「さて、そろそろ席に戻ろう。アイオライトの邪魔をしていたら食事にありつけないからな」
リチャードは厨房を出るようにラウルに促し、ようやく席に戻った。
頬を少し赤く染め、潤んだ瞳で厨房のアイオライトを眺めている今の主は、それはそれは強烈な色気を放っている。
食事を待つ間に、少しは通常通りになったが、店の中に女性がいなくて良かったと心底思う。
「お待たせしました!」
「来た来た。ありがとう、アイオライト」
今のラウルはいつもの爽やか好青年で、リチャードはほっと胸を撫で下ろした。
「サラダうどんは、麺と具を絡めながら食べてくださいね」
フォークで器用にうどんを巻いて口に入れるリチャード。
タレには少し酢を入れて、さっぱり食べれるようにしてある。うどんはアイオライトの手打ちだ。
「なんか美味そうだな」
「なんかじゃなくて、うまい」
そう言って、食べる、茶を飲む……を無言で繰り返している。
リチャードは好きなものを食べるときは無言になるようだ、と最近アイオライトは気が付いた。
なので、リチャードが食べている時には基本的に話しかけないようになった。
「純豆腐は、辛いのに甘いね。この白いのは?」
「白いのは豆腐です。お味噌汁にたまに入れているやつですね。特製の辛いタレに漬けた白菜と豚肉、お野菜と豆腐をお鍋みたいに煮込むだけなんですけれど、コクがあってとっても美味しいんです」
「白いご飯とも相性抜群だね」
ラウルは、うん、うんと笑顔でアイオライトの説明を聞きながら食べる。
リチャードとは対照的に、何かを話しながら楽しく食事をする方が好きなようである。
「そう言えば、何かお困りでしたか?」
「あ、うん、今度父と母が来るだろう?泊まる所がなくて、結局野営することになったんだよね」
「野営ですか? 危なくないですか?」
「警護や侍女もいるから大丈夫だよ」
アイオライトは庶民だ。
前世の知識ではすごい人数になるイメージはあるが、この世界の貴族がどれぐらいの共を連れて外に出るのかはさっぱりわからない。
「うちにお泊り頂いてもいいですよ? うちの二階じゃ狭いですかね」
「さすがにそこまで甘えるわけにはいかないよ」
金の林檎亭の二階では、侍従と侍女、側近、騎士団護衛だけでも人数オーバーだろう。
「自分の部屋の他に四部屋もありますよ?」
「念のため見せてもらえるか?」
いつの間にかサラダうどんを平らげていたリチャードが急に会話に入ってきた。
「えっと?」
「私はラウルの友達だが、彼の家で家臣として働いているんだよ」
「おぉ、そうだったんですね。今からでもいいですよ?」
「じゃぁ、ラウル、ゆっくり食べているといい。私はアイオライトと一緒に二階を見てこよう」
にやりと笑ってリチャードは席を立つ。
「待てっ、二人きりはだめだ。俺も……ゴホッ」
急いで残りのスープを飲み干そうとして咳き込んでしまったラウルに、
「冗談だよ。早く食べろ」
とリチャードは水を渡しながら答えた。
すぐにラウルは食べ終わり、二階に上がる。
「ここに一人で住んでるの?」
「そうですね。家はありますが、両親共に冒険者なんであまり帰って来ないんです。店が家みたいになってます」
そう言って一部屋開ける。
「客間と言うわけでもないんですけれど、使えそうですか? 自分の部屋は一番奥なので気になさらず使ってもらえれば……」
清潔感のある八畳ぐらいの部屋だ。普通に泊まるぐらいなら問題はない。寧ろ普通の宿屋よりもいいかもしれない。だが相手は王族である。総人数を考えてもここに泊まるのはさすがに難しいだろう。
「いい部屋だけれど、ラウルのご両親をお泊めするのは、やはり難しいな」
「そうですか。お困りならと思ったんですが、お力になれずすみません」
「いや、俺の両親がちょっと特殊なだけなんだ。綺麗な部屋だし、俺が泊まりたいぐらいだよ」
「では今度是非! あと、これは自慢なんですけれど、お風呂が店の隣にあって結構広いんですよ!」
「っと……」
風呂は元日本人であるアイオライトが、力を入れて設計したのだ。
大きな木をくり抜いて、工房に作ってもらったお気に入りなのである。
お風呂を自慢したかっただけなので、ラウルに宿泊を進めたことに気が付かないまま、風呂の自慢を延々語るアイオライト。
ラウルの顔を見るリチャードは笑うしかなかった。
「そうだ! 今回のお食事会は、ラウルさん達がこの前出来なかったバーベキューにしませんか? 野営先から動かなくてもいいですし。色々メニューは考えていたんですけれど、なんか沢山人がいるみたいですし、楽しくないですか?」
ラウルの両親が店に来ると聞いたときから、アイオライトも色々メニューは考えて、提供するメニューもすでに決めていたのだが、せっかくなら楽しい方がいい。
「ラウル、聞いてみるか?」
「うん。いいね、バーベキュー。」
ラウルは即答する。
「おい、いいのか? お伺いを立てなくても」
「きっと父上も母上も喜んでくれるよ」
「では、野営先での食事に変更する旨お伝えしておこう」
目の前で楽しそうにバーベキューのプランを語るアイオライトの笑顔に、ラウルは場所がどこであってもきっと楽しい食事になると、そんな予感がしていた。
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