吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

文字の大きさ
10 / 46

昼、野勝市の問題

しおりを挟む
 議員団が去った後、開いたままの署長室を男がのぞき込んだ。
「ああいう輩は君の方で処理して、もらえるとありがたいんだけどね。大森君」
 大森と呼ばれた男は、軽く頭を下げ少し笑った。
「すいません。どうーしても、署長を出せって言うもんですから。そりゃ、私は断りましたよ。副署長である私が話を聞きますと、何度も何度も言いましたよ。ですが聞き耳を持たなくて、それに、署長も市民の意見には耳を傾けろって、言ってたじゃないですか」

 森浩介は三十代前半の男だ。前の副署長が戦闘でなくなり、指揮能力があり部下に人気がある人間を選んだ。確かに森は下の者に人気がある。それは間違いないのだが、自分がやりたくない仕事を巧みに上司に回す癖があった。ただ、人当たりの良さと、自分ができることはそれなりにこなすので、仕事が全くできないわけではない。
「そんなことは俺は言わん。指揮官が、状況を飲み込めていない兵士の意見を聞いたって仕方ないだろう。今は戦争中だ。市民の皆さんには我慢してもらえ」
 田志沢は手元の地図を眺めた。署長室の壁には所狭しと地図が貼られていた。野勝市周辺の地図だ。
 現状安全地帯といえるのは、警察署を含む市役所周辺の市所有の施設のみだ。市の施設や体育館や駐車場に仮設施設を建て、合計で三千人ほどの避難民が暮らしている。居住スペースを確保するため、南東の住宅街を確保するよう、例の議員団に言われているのだが、田志沢は、すべて断っている。プライバシーも大切だが、広範囲の住居を守るだけの人員と資材がない。せめて、近くにマンションでもあればいいのだが、一番近くの五階建てのマンションでも一キロ離れている。しかもその辺りは、大量のゾンビがすくっている。とても無理だ。
 それよりも、一番大きな問題は食糧だ。周辺施設に農協があるので、種と肥料と人員はある程度確保できているが、安全に野菜が作れるところが少なく、敷地内の作れるところすべてに野菜を育てているものの、まだまだ足りない。調達部隊を編成して、かなり遠方の方まで探しているが、芳しくない。犠牲も少なからずでているが、こちらの犠牲に限っては議員団連中も何も言ってこない。
 水源に関しては、野勝浄水場が生きており、水を供給し続けている。元々は災害やテロを想定して造られた建物なので、門さえ閉めてしまえばゾンビは入り込みにくい。太陽光発電と小さいながらも水力発電システムもあるため、晴れているときは、なんとか浄水施設を稼働することができる。ただ塩素を使った消毒も行えないし、ゾンビの菌が混入しているおそれがあるため、飲み水としては適さない。トイレの水や洗濯の水として使う分には感染のおそれはないだろうと、市の衛生課はいっている。野勝浄水場には、千人ほどの避難民が暮らしている。
 田志沢は住民の不満を聞く気はあまりなかった。そんなことより市民一人一人が何ができるかを考えるべきだと思っていた。治安の維持と住民の安全を第一に考える、後は我慢してくださいと、住民には説明してある。この状況下でそれ以上を望むのは、贅沢と言うものだ。
 だが、不満を持っている人間が少なからずいることも田志沢は知っていた。先ほどの市議会派の連中のような輩だ。幸い、市議会の連中の支持はたいして高くない。安全通路を造ろうとして大勢の犠牲が出たため、それを止めなかった、議会の連中にたいして非難の声があるためだ。だが、学校教師やその親中心に、熱烈な支持者がいるため、所々でつまずきや時間のロスが出ている。そう考えれば、先ほどのように議会側の話を聞いてガス抜きをするのは、悪くないのだろう。いや、聞けば聞いた分だけつけあがる。そういう連中だ。やはり我慢してもらおう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

終焉列島:ゾンビに沈む国

もちもちほっぺ
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...