【完結】平凡な令嬢、マリールイスの婚約の行方【短編】

青波鳩子

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【8】伯爵代理として兄は、妹の婚約を白紙にする

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そこにカタリーナの甲高い声が割って入った。

「……グスタフ、あなた今、望まない婚約と言ったわね? 私との婚約が嬉しくないとでも言うの!? ブルネル公爵家に婿入りできるのよ!?」

レイフとカタリーナは、それぞれ公爵家の第一子としての役割を背負っていた。
互いに惹かれ合っていても、その想いを封じてカタリーナは父の決めた婚約を受け入れた。ストレーム侯爵家の三男であるグスタフも、父親の決めた婚約に従った。
カタリーナのような気の強い女性はまったく好まないグスタフだが、嫡男ではないのだから、どこかに婿入りすることは普通のことで、ましてやそれが格上の公爵家とあれば喜ぶべきことだった。
カタリーナは自分の美貌に自信を持っており、地位と美しい妻の両方を手にするグスタフに、望まない婚約と言われて激高したのだ。
グスタフが周囲から『レイフのお下がりをありがたく頂戴した』などと揶揄されていることなど、カタリーナは知らなかった。

「……大変申し訳ありませんが、そうしたお話はマリールイスや我がエングダール伯爵家には、何も関係のないことです。ブルネル公爵家のお屋敷内を捜してもマリールイスが見つからないのでしたら、捜索範囲を外に向けなければならず、今はこのような時間も惜しいのです」

「あ、ああそうだな……すまない……」

「オークランス公爵閣下、マリールイスが見つかっても見つからなくても、レイフ様との婚約は白紙にすることをエングダール伯爵家は望みます。父と改めてオークランス公爵家に伺います。オークランス公爵家からマリールイスを求められた理由がレイフ様の一目惚れというのは真っ赤な嘘で、自分の技術力を留める為だったと知れば、弟ヨーアンもこのままではいられないでしょう。父も母も私も弟も、マリールイスの幸せを第一に考えています」

「婚約を白紙に戻すのは……やむを得ないが、それは令嬢が見つかってからのほうがいいのではないだろうか……」

「マリールイスがどのような状態で見つかるかも分からないのに、でしょうか? 生きていたとして、生きていられないような状態だったと判ってから婚約を白紙にしたら、オークランス公爵家はこの貴族社会でどのように思われましょうか。私のような若輩者は、公爵家はなんと薄情なことだと、そう思ってしまいそうですが。オークランス公爵閣下がそれで構わないとおっしゃるのでしたら、マリールイスが見つかってからの婚約解消でもかまいません」

カタリーナが震えながら声を殺して泣き出した。
先程から何を大袈裟なことをと思っていたが、マリールイスが自らの意志で出て行ったのではなく、誰かに連れ去られたのだとしたら……。
そこから先を想像するのは、同じ女性としてカタリーナにはあまりにも恐ろしいことだった。
グスタフは、さすがに泣き出した婚約者の肩をそっと抱いた。
レイフは重苦しい空気に潰されたように、膝をついてしまった。

「……オークランス公爵、エングダール伯爵令息の言うとおりだ。このタイミングで婚約を白紙にしたほうが、互いの家にとって傷が浅く済むと私も思う。今夜のパーティのように、その婚約は外に向けて発表していないのだろう?」

フレドリクソン公爵の静かな言葉にもう誰も何も言わず、ただ黙ってそれぞれどこかをみつめている。
マリールイスが消えた舞台となってしまったブルネル公爵は、家令に命じて紙とペンを持ってこさせ、それをオークランス公爵の前に滑らせた。
オークランス公爵は、嫡男レイフとマリールイス・エングダール伯爵令嬢の婚約を白紙にする旨を記して紙にサインをした。
マリールイスの兄エーギルも、エングダール伯爵家当主代理としてサインをした。
その紙に、王弟であるフレドリクソン公爵が見届け人としてサインをする。
用意された三枚の紙にそれぞれが三度ずつサインをし、オークランス公爵、エーギル・エングダール伯爵令息、そしてフレドリクソン公爵に手渡した。
エーギルは渡されたその紙を畳み、大事そうに胸元にしまった。



バタバタと使用人たちがやってきて、公爵邸内と庭をくまなく捜したものの令嬢は見つからなかったと報告をした。
また、門を閉ざす前にも招待客は帰っていったが、そこに不審な者はいなかったという。
もしもマリールイスが徒歩でブルネル公爵邸を出たのなら、歩いていくか辻馬車を拾うしかないが、どの門の門番も歩いて一人で門を出た令嬢はいなかったと証言したという。
となると、やはりパーティ参加者の誰かの馬車に乗せられて行ったとしか考えられない。
エーギルは表情をどこかに落としたような顔をしている。
オークランス公爵は、そんなエーギルに向かって口を開いた。

「明日は朝からエングダール伯爵家では捜索をするのだろう? そこに我がオークランス家の者を幾人か参加させてもらえないだろうか。我が公爵家はもちろん令嬢を捜すつもりだったが、両家がバラバラに行動するより効率的だと思うのだ。無駄なく迅速に令嬢を見つけたいと思っている」

レイフが婚約者を放置していたことと婚約者マリールイスが行方不明であることは、パーティ会場のブルネル公爵家の使用人たちに知れ渡った。
オークランス公爵家の使用人ならばその口を噤ませることはできるが、これからレイフのやらかしは、婚約が白紙になったことと抱き合わせで人の口を渡り歩くだろう。
少しでもオークランス公爵家の名誉を守るためにも、マリールイスの捜索にオークランス公爵家も加わることが重要だった。
あくまでもマリールイスの身を案じている顔をし続けなければならない。

「大変ありがたいお申し出をありがとうございます。伯爵家の我々では届かないところまで公爵家が照らしてくだされば、きっと妹はすぐにも見つかることでしょう。どうかよろしくお願いいたします」

エーギルは礼儀正しく頭を下げた。

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