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突破へ!

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敵陸軍航空隊…当然カミカゼだわな。
当然艦隊輪形陣の外で排除する!戦闘機隊でもって!
ヘリントンの部隊と、追加発進させたF6F合計260機。

…んん!?
何故にそんなに少ない!?

いや、確かに少なからぬ空母が被害に遭う中、航空戦力マルチタスクを課せられ上空直掩戦闘機が足りなくなっているのはワカる。
ワカるが、この状況が誰かに仕組まれたものである感が払拭できないミッチャー中将。
いや、乱戦による偶然。
このカミカゼの勢いも日本側が大和も含めなけなしのリソースを割いて来ている証拠でもある。
要するに確実に眼前の敵を叩けば良い!

目の前のカミカゼもだが、今さっき日本艦隊への攻撃隊より
「大和と思しき戦艦はじめ、日本艦隊肉眼で確認。これより殲滅する」
の報が入っていたのだ。
よし。これでスプルーアンス提督の頭痛の種も消える。
ミッチャーや幕僚達は目先の敵機迎撃に思考を切り替える。

喜界島南西方65キロ。
偽装進路を取ることもなく驀進する日本海軍第二艦隊改め第一遊撃部隊。
既に敵との距離100キロを切った時点で、電探である程度確認済みだ。
「総員対空戦闘、よーい!!」
大和艦長有賀大佐が吠える。
僚艦長門以下、他艦も無論それに倣う。

「クッ流石でけえな。
長門級が巡洋艦に見えるぜ?
だが対空砲火など滅多に当たらん。
時代はとっくに航空機よ。
ビビらず確実にかましていけ!」
アメリカ攻撃隊隊長アター中佐は、全軍を叱咤する。
「「ラジャー!!」」
間もなく敵艦隊対空砲火エリア。
その時!
一機の戦闘機F6Fが右翼をへし折られ墜ちていく。
「何っ!?」
更に2機がコクピットを砕かれ、あるいはエンジンを射抜かれる。
「ゼロだ、30機か40機!太陽を背に被ってくる!」
なんだと!?
日本海軍第5航空艦隊が機材と燃料を各基地からかき集めた部隊。
苦情はあったが、これは乾坤一擲の大作戦なのだ。
それに、渡久地隊が合流していた。
長大な航続距離を誇る零戦21型だからこそなしうる、1出撃における2会戦。
ただ、渡久地は制限時間10分間としていたが。
「十分だろ。」
言いながら渡久地は、次は艦上爆撃機、艦上攻撃機(魚雷搭載)に部下達の目標を定めさせる。
自身は存分にF6Fを狩る。
F6Fの歴戦のパイロット以外は、数十秒程度にせよ両翼の250kg爆弾を投棄し空戦機動に入ることを躊躇ってしまった。
もともと、戦闘機としての護衛任務に加え、大和をはじめとする日本艦船攻撃としての任務も課せられていた。
それが、空戦では致命的なタイムラグとなる。
正直練度が低く、やがては特攻組に回されるような敵パイロットなら、負荷を抱えたままでもどうとでもなったが、渡久地並びに渡久地隊。プラス数名のエース級が混じっていると…。

「クソ!ジャップの数は知れてる!無視して敵艦隊に突っ込め!」
アター総隊長の指示は正しかった。が。
「そうはいかない。」
冨安中尉と中村中尉、根尾少尉、斎藤勇希少尉が雷撃機(TBMアベンジャー)を集中して落とす。
実に17機が5分間で狩られる。
爆撃機(SB2Cヘルダイバー)にも岩瀬平良都築の曹クラスが食らいつき、15機を撃墜。
渡久地や少数のベテランが抑えてなお、敵護衛戦闘機のF6Fが後方から阻止にかかる。
だが、渡久地組の零戦は後ろに目が付いているかのように、悠々と敵の猛攻を躱しぬいてしまう…。
「ガッデム!」
アメリカ戦闘機隊長のヴァンは吠えた。
先刻ゼロ(岩瀬機)に突っかかった僚機が、見たこともない機動で返り討ちに合うのを間の当たりにしている。
なんだあれは…まるで死神の鎌だ。
とにかくもう潰しきれない。
ゼロの群れはもう逃げにかかっている。
深追いすると味方の敵艦隊攻撃の支援(機銃掃射等にて行う)に支障が出る…。
ヴァンは歯軋りしながらも、部下達に指示を出す。

結局日本側の零戦は18機を失ったのに対し、アメリカ攻撃隊はこの空戦で68機を失う事となる…。
大和をはじめとする各艦の水兵たちは、歓声を上げて味方機を見送った。


「気持ちを切り替えろ、とにかくあのデカブツどもを沈める!」
アターが全部隊を再度束ねようと指示を下しかけた時、周辺一帯の大気がはじけた。
「今度は何だッ!!」

戦艦大和 艦橋 
「各主砲塔、三式弾、再装填急げ!!」
艦長の有賀の指示を、能村が復唱する。
そう、日本独特の対空榴弾。範囲攻撃兵器とも言える。
その有効性に関しては後世の記録で評価が分かれる、が、今回大和、長門、軽巡矢矧のそれぞれの主砲が斉射した分に関しては相当な威力を発揮した。
アメリカ側各機が慌てて密集した所に叩き込まれた合計25発は、無数の弾子をまき散らし、TBM、SB2C中心に29機を撃墜した。
その他も被弾多数。
そして2度目の斉射で、25機が狩られる。
「ファッキン!」
総隊長アタ―自身の機体も、エルロンや尾翼に穴が開き操縦困難。
これでは母艦に還るのが精いっぱい。
やむを得ず全機に、トマソン大尉機に指揮を引き継ぐ旨伝え、自身は搭載武器を投棄して引き返す…。
ようやくアメリカ攻撃隊は高度を下げ、敵艦を狙える位置にまで肉薄した。
だが、日本側も必死の対空砲火である。
駆逐艦・響、もともと機関不調で機動性が落ちている所に爆弾一発、魚雷二発を受ける。
しかし3機の敵機を、自らの命運と引き換えに撃墜、その後急速に傾き沈没していく。
「糞ったれめ!撃って撃って撃ちまくれ!ただしテメエが被弾したら意味ねえぞ。」
同じく駆逐艦の雪風寺内艦長は周囲を叱咤しつつ、巧みな操艦と機動力で敵に隙を与えない。
無論、主目標とされている戦艦大和への敵攻撃は、10隻強の僚艦では阻止できない。
大和自身も膨大な対空火器をフル稼働させ、弾幕を張るが…。
日米双方にとっての鉄血の地獄はこれからであった。





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