GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也

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歯車の切り替わり

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アメリカ ワシントンD.C. ホワイトハウス
急死した前任者を慌ただしく引き継いだトルーマン新大統領は、楽観視されていた沖縄攻略戦地上軍の、近代戦史上にも稀な人的損害に青ざめていた。
「これは…いかなる事かね。
勿論弱敵だからと、わが軍将兵が油断していたなどとは思わないが…。」
「なんともはや…申し開きの仕様もございませぬ。」
「結果としては、我が方の判断ミス。としか…」
スティムソン陸軍長官、キング海軍作戦部長の2人は平身低頭する他ない。

「我が政府としても流石にいきなり犠牲者数を馬鹿正直に国民に報告出来ない。
だが隠しきれもしないので2万人程度とメディアには伝えるが、それでも国内の動揺は相当のものだろう。」
こちらはバーンズ国務長官の言葉である。
「御意…。」
「だがしかし、今更引く訳にもいかぬことも事実!」
トルーマンが空気を変えんと声を張る。
「ソ連に弱みを晒す訳にはいかぬ。
いずれにせよ、沖縄への増援は間も無く到着するのであろう?」
「はっ、陸軍、海兵隊の増援は海軍の機動艦隊と共に、48時間以内に到着致します。
総数は25万!
航空戦力も小型護衛空母中心となりますが800機は増派。随時陸上基地航空隊もです。」
さらには…と、スティムソンの後をキングが引き取る。
「今回は、巨大戦艦大和の突入に合わせ、日本陸海軍が人員機材燃料等の乏しいリソースを全集中してきた。いわばその覚悟を見誤っていたのが敗因の一つであります。
しかし流石に今度こそは、余力がゼロとは申しませんが、少なくとも今後艦隊の組織的動員をする備蓄重油はほぼゼロ。
航空燃料も断続的、ゲリラ的な少数のカミカゼ攻撃を行うのが精一杯でしょう。
無論マックスの警戒体制は解きませんし、こちらからの特攻基地攻撃も引き続き行いますが。」
トルーマンは重々しく頷く。
「うむ。わかりました。
今度こそは、慎重に、しかし迅速に頼む。」
「ははっ!」

…正直、トルーマンら合衆国首脳の苦悩はそれだけではなかった。
もう完全に最終段階に入った筈のヨーロッパ戦線、ナチスドイツとの戦い。
我々西側連合軍が苦戦しているのではない。
むしろ逆で、退のである。
まるで、我がドイツをそちらがより広範囲、ソ連よりも奪って下さいと言わんばかりである。
このままでは数日で敵首都ベルリンが目前となってしまうが…。
そのまま、では遠慮なくと分捕るわけにはいかない。
そもそも協定で少なくともベルリンは一応は同盟国たるソ連が奪うことになっているのである。(だが、ソ連軍自体はドイツの思わぬ猛反撃に進撃遅滞していた。)
だが、現場で命を張って進撃してきた我が将兵がどう思うか…。

今回の沖縄への大規模増援から本島の制圧。
負けはするまいがその過程でもし再び優に5桁単位の人的損害を被ることがあれば…。
世論はもちろんとして、前述のヨーロッパのソ連との水面下での緊張を鑑みると、太平洋戦線の継続については真剣に再検討せざるを得なくなる。
自分も前任者の急死後初めて聞かされた、かの「マンハッタン計画」
夏にその新型反応兵器が完成すれば、戦争そのものが終わる、片付くと自身思っていたが…。
この状況だと、そのたった数ヶ月間も待っていられないのだ。
とにかく、沖縄への再度の大攻勢の成功…合衆国陸海軍の力を信じるしかない。
表向きはポーカーフェイスで、トルーマンは秘書から差し出されたコーヒーを啜った。



一方、日本鹿屋基地である。
流石に、本日は10機分の出撃燃料も怪しく、機体の消耗も激しく出撃は見合わされた。
2度、敵の空襲はあったが、ほとんど虚しく土の滑走路を掘り返す程度である。
夕刻、南の空に向け敬礼を続ける野中五郎少佐。
そこへ渡久地が歩み寄り、タバコを勧める。
「まぁ、こんな俺なんかでも敵味方問わずあれだけ死んでも、殺してもなんとも思わないってことはねえよ。」
「まぁ、だろうな…。」
野中は貰ったタバコを思い切り吹かす。
「だが、これでは終わらない。上の連中は勝った勢いではしゃいでるようだが…。
早ければ本番は明後日だ。」
「敵の増援か…陸海空、どう考えても初回より少ないってこたぁねえやな。」
「ああ、なんだかんだ沖縄守備隊は7万行かない、その3.4倍は突っ込んできても不思議はねえな。アメリカはとにかくそう言う国だ。」
「で、兄ちゃんの考えは?」
「地上戦じゃ多少善戦しても無理だ。
まぁ今は野戦重砲を全面に押し出して残敵掃討とか頑張っているようだが。
例えば軽く20万超えの戦力が大規模な航空支援復活で一旦上陸したら…ガチで詰むな。」
「ってこたあ、水際撃退しかないのか、全力の特攻で。」
渡久地は頷く。
「それが、最後の決戦ってやつよ。宇垣の旦那も既に機材、燃料の折衝を軍令部としている。」
「わかった、それで特攻も、この戦も終わるってんなら命の張りがいがある。」
「…ああ。」

一方、アメリカ第3艦隊。
ハワイの総司令部、ニミッツ太平洋艦隊司令長官からの叱責混じりの指令、情報をスプルーアンスらは受け取った。
「こちら時間で明後日0600に上陸作戦開始か…。」
「それと地上軍支援はしつつ、カミカゼへの警戒を怠るなとありますな。」
カーニー参謀長の言葉に、スプルーアンスは頷く。
「ところでミッチャーの具合は大丈夫か?」
「は、ご本人と軍医曰く、12時間熟睡して栄養も摂れているので、明朝からは指揮に復帰できると。
「ふむ…だがどの道、早急にフレッチャー提督あたりに指揮を代わってもらうよう、再度説得せねばなぁ。」
「いずれにせよ、我が艦隊も航空兵力に関しては間も無く完全復活。
それに地上軍が大挙来援となれば、油断はできぬとは言えはるかに余裕のある戦いができましょう。」
頷きつつ、スプルーアンスは今回の災厄の元となった敵巨大戦艦を思い出す。
片割れの長門級らしき艦に味方潜水艦が魚雷を2ないし3発命中させた。
その報告は受けているが、沈没までは確認出来ず。
結局2戦艦とも行方不明。
燃料事情的にもはや漂うだけの幽霊船状態となっているのはほぼ確定だが、だからといって放置はできぬ。
上陸作戦成功後、航空戦力を繰り出しケジメはつけねば!
(結局、2大戦艦は沖縄北方はるか沖で漂ったまま、終戦までエンジンも切り岩礁と化して敵味方双方から発見もされず、しかし乗員達の大多数は生き延びることに成功するのだが)

…そして、4月17日0300。
待ちに待った護衛空母、巡洋艦隊。
そして膨大な増援兵力と物資を満載した大輸送船団が合流する。
「よし、このまま沖縄北部のバックナーの部隊に合流する形で、予定通り3時間後上陸作戦を開始する!」
高らかにスプルーアンスは命令を発した。




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