新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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執念

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野中一家富嶽隊、高度6000メートルにて、最大戦速に近い710キロで離脱…。
「隊長、大丈夫すか、燃料は。」
副操縦士は当然の疑問を口にするが…。
「今ァ兎に角、敵勢力圏を抜けるのが先だ。
このスピードなら、追いついて来られる戦闘機はいねえ、とにかく脱出して、低燃費飛行に切り替えてから後の事を考える。」
「合点!」

そして…実際数度に渡り3桁クラスの敵戦闘機隊の襲撃を受けるが、どうにか振り切る。
遂に洋上に出た。
やがて、足の長いPー38の想定行動半径も離脱する。
「よし、全機、高度6000、機速を320キロに維持しろっ。」
それならば…なんとか…。
そう思った矢先、左翼側から異音。
!!
「6番エンジンに発火!」
しまった…最悪じゃねぇか。
「燃料バルブ停止。」
「よかった、自動消火作動してます!」

なんとか飛べるか…。
直後に、3番機もエンジン1基不調との連絡…。
やはり、いまの皇国の手に余る怪物だったかこいつは….。
だが、技術者を責められはせん。
根本的な国力や技術の集積の問題だ。
「野郎ども!エンジンを合計4基!それ以外は止めろ。回転数もギリギリまで絞って、機速は280キロ!」
「合点承知!」
半ば「滑空」に近いが…。これで騙し騙し行くしかない。
「野郎ども!必ず生きて還るぞ!全員だ!」

一方、こちらはホワイトハウスである。
「…不幸中の幸いにして、ウラニウム精製68%にまで行きましたプラントは無事です。
別エリアにありましたゆえ。
しかし問題は、それを反応兵器としての形に出来る、『頭脳集団』です。」
「その彼らの安否は…。」
大統領の絞り出す様な声に、グローブス准将はかぶりを振った。
「恐らくは絶望的かと。
オッペンハイマーが無事であったのはこれまた不幸中の…でしたが。
彼1人で全てを行うのは当然無理です。
再び人材の登用など…集積した演算データも焼失した為に…現段階では再開時期を云々はできませぬ。」
「ぐうむ、分かった。
ご苦労様、一旦休み給え。」
1人になると、ルーズベルトは錠剤を水で流し込む。
来春の大規模海戦前に、やるべき復讐はやっておかねば。

再び、太平洋上、野中富嶽隊。
発進してから実に26時間が経過していた。
(じわじわ、舵の応答性も怪しくなってきた。)
だが、ようやく…。
「サイパンまで500キロ、切りましたぜ!」
よっしゃ!
と言った声が上がる。
「よし!野郎どももうひと踏ん張りだ!
帰ったら食って呑むぞ吐くまで!」
「合点承知!」
精一杯景気付けた互いの声も、やはり疲弊の色は隠せない。
交代で無論休んでいるとは言え、前代未聞の超長距離爆撃作戦である。
(だからこそ、生還してやらねえとなぁ。)

しかし。

後方から、轟々と、非情な音が響く。
「親分!上空から。」
グラマンか!!
しかも70から80は居る。
「ヘイ構わん!殺すぞ!
復讐だ!!」
第38任務部隊、戦闘機隊総隊長ヘリントン少佐がグラマンF6Fヘルキャットの群れを自ら率いる!

「野郎ども、止めていたエンジンも再起動!
今出せる全速で逃げる!
あとは各銃座、撃って撃って撃ちまくれ!」
「合点承知!!!」
4機の富嶽は出力と火力を振り絞る。
が…速力も450キロ前後がいずれもやっと。
各機銃座も奮戦し戦果を挙げるが…。
それの数十倍の弾幕の嵐!
「3番機!エンジンから出火!」
「2番機高度が下がってます!」
最早、強靭を極めた富嶽の装甲も限界。
糞、ここまで来て。
だが諦めんぞ!
無情にも野中機の3番エンジンが火を噴くが…。
それでも…
「6時方向F6F、3機に張っつかれた!」
ぎりっ…。
F6Fのパイロット、グリーンウェル少尉はほくそ笑む。
「チェックメイトだ、モンスターめが!」
トリガーに指がかかった時。
折れた!
グリーンウェル機の翼が、だ。
!!!!???!!

なんだと…。
F6Fのパイロット達が振り向くと…。
「ゼロだ!!!」
それも40機はいる…しかも例のタイプ54!

「田所!遠野!富嶽隊を基地まで誘導しろ!
残りは私と暴れるぞ!」
無論先頭を切るはカーテローゼ・伊集院・ホルテンブルク…カリンであった。

台南空、見参!!

「なんだこいつら!?(驚愕)」
中堅以上の米軍パイロットは驚愕し、それ以下のレベルの連中は半ばパニックになっていた。
「ぐあ振り切れ…アーッ!!」
「エンジン出火!脱出する!」
「速い、なんで馬力に劣るこいつが!」
「ぐあああああ!」

こいつらは死の天使か…。

「ええい遅すぎる!あいつらは普段何訓練してんだ!?」
呆れつつ、坂井三郎准尉は4機目を屠る。
一方、岩本徹三少尉はヘリントン機と再びドッグファイト…。

うおおおおおおおおお!やったぜ!
富嶽各機とも歓声に包まれる。
同時に本格的に帰還の為の手順に入る。
機銃、その他残弾、果ては冷蔵庫まで投げ捨て、機を少しでも軽くする。
「へへっ、ありがとうよ。
あんたが噂の姉ちゃんか。やるじゃねえか。」
野中の言葉に対し、カリンはレシーバーに向け怒鳴りつける。
「姉ちゃんって呼ぶな!
てか人のことより、自分らの着陸の心配をなさい!
つーか拓也…久保大佐がガダルカナルに戻りかけのうちらを呼びつけなければ、あんた達海の藻屑よ今頃!」
「着陸がなんだって?誰に言ってんだ?笑」

実際、野中一家は4機ともほぼ滑空状態になりつつ、それでも被弾時以外の破損は負わず着陸し、基地の整備員達から大歓声で迎えられ凱旋したのであった。












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