新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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一転攻勢

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「なん…だと。」
ハルゼー程の男が蒼白とならざるを得ない大損害。
「いかな日本側が万全の体制を整えていたとしても…多すぎる。」
そう疑念混じりの言葉を発したスプルーアンスに、カーニー参謀長が答える。
「現場の報告を総合しますと、敵戦闘機は500ないし600機以上は確実に存在したと…。」
「なんだと?それではつまり彼らは…。」
「ジャップ…すべてが全艦載機戦闘機母艦オールファイターキャリア体制で来やがった!」
「それとプラス、これまで原始的なものしか使って来なかった彼らが、短期間で高性能レーダーと、原始的なものながら一定レベルの早期警戒体制を築いていたのも無視できません。」
スプルーアンスは深々と頷く。
「さらにはと無線電話を駆使して、個のテクニックに依存しがちな日本戦闘機隊らしからぬ徹底した編隊空戦とその誘導…。」
「最早、従来のジャップと思わない事だ。」
ハルゼーは拳を握りしめる。
「だが俺たちは未だ優位!」
「そうだな。なんのかの、まだ稼働戦闘機は陸軍合わせ400機強。
それに対空砲火含めた防空態勢ならばこちらが本家本元だ。」
「ああ、そうとも、レイ。
今度はこちらが七面鳥撃ちにしてやる。」
両名ともカーニー参謀長も、例え敵艦載機が全てゼロ…戦闘機でも、日本側からの艦隊への航空攻撃はない。などと決めつけてはいなかった。
タイプ54の推定される強度、馬力ならば、1000ポンド…約500キロの爆弾搭載は十分可能。
もし水雷戦隊や戦艦部隊で決戦を挑むとしても、その前に必ず来る筈だ。  

はたして…。
空母葛城、艦上。
第一機動艦隊司令、山口多聞中将が搭乗員達に簡潔に訓示する。
「本来なら、過酷な邀撃任務をこなした諸君に、即再出撃を命ずるのは忍びない。
だが、なにぶんにも皇国の興廃がかかっておる。
委細は既に久保参謀長から説明の有った通り!
私からは、とにかく生きて帰って来い!それのみだ!」
一方、第二戦隊空母 大鳳甲板上。
「本官は諸君の生還を喜ばない。
ただ戦果のみを喜ぶ!」
角田覚治司令の言葉に、搭乗員たちは一瞬息を飲む。
直後にニヤリと笑う角田。
「とは言え、貴様たちに簡単に死なれても困る。
皇国の今後を担ってもらわねばならん。
生還にも戦果に対してと同様、全力を尽くせ!
以上!」

かくして、日本側「攻撃隊」520機は発艦。

既に日米両艦隊は350キロの距離まで迫っていた。

1200 アメリカ機動部隊、残余の戦闘機420機を発艦させる。
陸軍航空隊の150機とも合流。
戦艦ニュージャージー、CIC(戦闘中央指揮所)からの誘導で、敵より約1000メートルの高度の優位を確保するが…。
「待て、アルファ1。敵の一部が高度を上げてきた!?」
「ああん!?」
「別の一群は緩降下で加速しながら、我が艦隊に向かっている!」
「見られてる…」

そう、はるか150キロ南からの、富嶽六号機からの管制誘導を、零戦隊は受けていたのである。
「仕方ないね。」
そのまま高度を上げた方の、笹井率いる零戦隊200機と、F6Fヘルキャットと陸軍Pー51C混成300機超が激突。
今度は乱戦となった。
が、この零戦隊は全員が飛行時間1000時間超えのベテラン。
「おあいにくさま。
この展開じゃ万に1つもアンタ達に勝ち目はないっての!」
抜く手も見せず、3機を撃墜するカリン。
同様の光景がそこかしこで繰り広げられ、どう見ても墜ちていく機体は星マークのそればかりであった。

一方、「攻撃隊」に回った零戦隊。
「緩降下で最大戦速、敵機を振り切れ!」
敢えて慣れぬ零戦54型に乗り、指揮官の任務を引き受けた艦爆乗り、江草隆繁少佐は、後方の若手を叱咤する。
こちらの優速に難渋しつつも、襲い掛かって来たヘルキャット群に20機強が墜とされる。
やばいか…。
脂汗を掻き始めたところへ新たな日の丸の翼!
今度はグラマンが墜とされていく。
「すみません少佐、上の奴らに手こずって。」
「坂井か!」
よし、あとは突入のみ。
当然対空砲火は近づくほど激化する。
前衛駆逐艦まで、距離1200。
それで十分!
「第1から第3中隊!まずは奴らを狩れ!」
前衛の零戦隊の両翼から放たれたのは…。
ロケット弾!!
なるべく構造的には簡便にしたそれは、100キロの弾頭に、ゲル化した石油を混ぜて焼夷効果も加えたものであった。
それが最速1000キロに迫る速度で、アメリカ駆逐艦の横腹や上部構造物に次々と命中、誘爆を起こし無力化する艦も続発。
対空火器も、それを操作すべき水兵達も炎につつまれ…。

より一層の地獄の蓋が、開け放たれる合図であった。







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