新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

文字の大きさ
84 / 166

時間との戦い。

しおりを挟む
1943年10月
太平洋ではマリアナ、ヨーロッパではドーバー海峡を挟み、連合軍と枢軸の壮絶な航空撃滅戦が繰り広げられていた。

ワシントンD.C. ホワイトハウス

「ネオオレンジ作戦…。
Xデイはいつになるかね。」
ルーズベルト大統領の問いに、キング海軍作戦部長が答える。
「はっ、海空に加え、揚陸兵力の錬成、編成に手間取りましたが…12月中旬、クリスマス前には発動できるかと。」
「うむ…連日の空爆で敵防衛体制はジリ貧…とは言え機動部隊は強化されている。」
ゆめ油断なきよう。」
「御意。心得ております。」

これでマリアナ諸島を奪い、余勢に任せて硫黄島奪取。
そうすれば、新鋭Pー51D戦闘機の護衛付きで、数百機から1000機単位で連日に猛爆撃を加えることができる。
軍需工場に留まらず、インフラも何もかも破壊し尽くし、数ヶ月でチェックメイトに追い込めれば…(実際先月、英軍ランカスターとの混成で、ドイツ戦線で100機弱投入された同機は、ドレスデンを半ば「蒸発」させている)
あとはナチスとの戦いに専念できる。

ルーズベルトはそんな考えを巡らし、いつもの錠剤を水で流し込む。

同時期。
日本 帝都某所の喫茶店。
「すまねえな、こっちが礼だ。」
「いえこちらこそ、お待たせしまして…
しかし、『中野』さんも何かと大変ですな。
では。」
席に一人となった中村は、今の男に渡された書類の束に目を通す。
やはり…

(大和級三番艦だけではない。重巡以上の建艦計画が実質凍結されている…。
空母雲竜級の4番艦までだな。実際に進んでいるのは…。
それ以外は…中断、あるいはそもそも最初から人員資材が動いた形跡が無い…。
しかも、下手すれば開戦前から、一連の動きが仕組まれている…。)

何を考えている…久保の奴は…。

こちらは…満州は旅順。
「某施設」内。

「いや、どう頑張っても半年…。
急造なりに万全を期さねば、海軍さんの、というより閣下のご期待に沿うものにはなりませぬ故…。」
「それは、良くわかります。
ですが牧野さん。どうしても年内には余裕を持って投入したいのです。」
「それは…、資材は良いとして、人員や治具その他諸々が…。
いや、まあ、あと1000万でも予算追加頂ければ話は別ですが。無理でしょうし。」
「…わかりました。何とかしますので、何卒。」
「.…へ!?」

これしかない。なかったとは皮肉なものだが…。
開戦後、表面上は勝利を重ねつつも、質量ともに圧倒的なアメリカの工業力。国力と組織力。その皇国との絶望的なまでの差を思い知らされてきた。
敢えてそれを覆しうる「決戦兵器」はこれしかないのである。

これに全てを託すほかあるまい。


しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

処理中です...