新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

文字の大きさ
85 / 166

凶刃

しおりを挟む
ここで、ヨーロッパ…と言うよりユーラシア全体の戦況に目を向けておきたい。
ドーバー海峡を挟んでの米英VSドイツ空軍の航空撃滅戦、アメリカ側のより本腰を入れた航空兵力支援…Bー29とPー51D戦闘機を中心とした新鋭機配備…これで戦局をようやく5分強にまで盛り返すことが出来た。
そして当然、その高高度性能、搭載量でドイツ本土要所に大打撃を与えることが期待されたBー29であるが、フォッケウルフ社の誇る天才デザイナー、クルト・タンク博士が零戦76型の設計を逆輸入する形で再設計した
Ta152H4をドイツ側は投入。
さしもの「超空の要塞」も思うようにドイツ本土を蹂躙とはいかず、やむを得ず空襲そのものを中断することも何度かあった。
ドイツ総統ハイドリヒは就任早々、戦闘機総監ガーランドの進言を容れ、単発戦闘機はフォッケウルフ系、夜間爆撃要撃用としてはハインケルHe219。
残余の生産能力は全て量産が始まったMe262ジェット戦闘機に注ぎ込むよう指示した。
この措置で、米英航空戦力の損害も日々無視できぬものとなっていた訳である。
そして、ドイツアフリカ~中東戦線も、まだアメリカが日本脅威論に揺れる世論、メディアに配慮し、予定の半分の兵力支援しか行えず、こちらもスエズ運河奪回に本格的に動ききれなくなっていた。
そして東部戦線も、シベリア方面に追いやられたソ連赤軍も、一時スターリンに更迭されていたが復帰、最高司令官の座に就いたジューコフ将軍の指揮下で、ドイツ軍の浸透を許さず頑強に抵抗していた。
…要するに、今次大戦は1943年晩秋時点では、ほぼ主要戦線全てで、「連合国がやや押し気味の膠着状態。」であったわけである。

そして11月中旬。
日本 帝都首相官邸。
去り際にもう一度、首相東條に最敬礼する久保。
「お陰様で、予算的にも旅順の件間に合いそうであります。
ぎりぎりではありますが…。」
「なんの、皇国の命運がかかっておる。
まあ、大蔵省との折衝が滞りなくとはいかなんだが。決戦に勝利するためです。」
「誠に…お礼の申しようも…。」

…10分後、車に戻る久保。
「あれ? 浅尾さんと岩瀬さんは?」
護衛の憲兵の行方を訊くと、運転手は怪訝な顔をした。
「え?使いの憲兵らしい人が来て、閣下に呼ばれてと何処かに行きましたけど?」
「なんだって?」
官邸ではないどこかへ行ったと…。
20分ほど待てど、2人は戻って来ない。

仕方ないな…。
やむを得ず、官邸警備の憲兵隊長に言伝し、今宵の宿のホテルに先に帰ることにする。
まあ、車なら10分…。

ところが。
きっかり5分後、何故かエンジンが咳こむ。
「なんだ?
あれ?ガス欠…バカな!?」
運転手の言葉に、久保は脳内の警戒水域を一気に上げる。
完全に道端で停止した車を、十数名の人影が取り囲む。
全員帯刀した、帝国陸軍軍人!?

長らしき男が、出てこいと顎を動かす。

致し方ない。






しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

幻影の艦隊

竹本田重朗
歴史・時代
「ワレ幻影艦隊ナリ。コレヨリ貴軍ヒイテハ大日本帝国ヲタスケン」 ミッドウェー海戦より史実の道を踏み外す。第一機動艦隊が空襲を受けるところで謎の艦隊が出現した。彼らは発光信号を送ってくると直ちに行動を開始する。それは日本が歩むだろう破滅と没落の道を栄光へ修正する神の見えざる手だ。必要な時に現れては助けてくれるが戦いが終わるとフッと消えていく。幻たちは陸軍から内地まで至る所に浸透して修正を開始した。 ※何度おなじ話を書くんだと思われますがご容赦ください ※案の定、色々とツッコミどころ多いですが御愛嬌

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...