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容赦なき総力戦
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時系列は少し遡る…。
ほぼ半数の機体が、よろばうように着陸態勢に入ってくる。
「ひでえ…。」
「弾痕が半端ねえ。」
「ジャップも噂のジェット機を相当数繰り出して来たってことだ。」
結局基地に帰投できたのは、半数を切る191機。
50機前後が中途海上不時着。
ただ9割がた危険を顧みぬアメリカ海軍飛行艇、潜水艦の救助活動により乗員のほうは救助されたが…。
ハワイの第20爆撃集団司令部の参謀達も動揺を隠せない。
「正直、戦略爆撃の運用論としては一旦中止すべきダメージだ。」
「海軍の…ミッチャーの機動部隊が無傷なら、護衛戦闘機をつけてやれたのに。」
「だが日本近海に接近するリスク、戦闘機自体も所詮レシプロ機では…」
コツン。
靴音。
あのお方だ。
各幕僚達が一斉に敬礼する。
カーチス・ルメイ少将。
この「空中艦隊」の司令官。
一同を睨め付けたのち、開口一番。
「なんなのアンタ達は!?これだけ鮮烈な戦果を上げたのに逃げ腰とか舐めてるの!?」
!!!??
「サ、サー。しかし、我が軍は実質6割の機体を喪失して…。」
「なら、その6割をまたすぐ補充すれば良いじゃない?我が軍我が国は日本とは違うのよ!」
平然と言い放つルメイ。
「…っやしかしですね。我が方のクルーはもちろん、民間人を今回以上に狙って虐殺していくようなやり口は…。
国際法以前にわが国の人道、正義がっあああっ!?」
若い参謀の身体がくの字に折れる。
ルメイが分厚く生温かい手を伸ばし、彼の股間を鷲掴みにしたのである。
あまりの光景と、ルメイのアレっぷりに、周囲は凍りつく。
「いい!?
貴方達はプロの軍人。
もし中途半端なヒューマニズムが頭を掠めるなら
その時は国家が合衆国が貴方達に要求する事を思い出して、徹底的に忘れなさい!」
「~~~ッサー!イエスサー!!」
青年は涙目を通り越してそう叫び、周囲の幕僚達も唱和した。
実際、ルメイの言葉通り、ハワイの合計3ヶ所の基地に、2日以内でB32は次々と補充されてきた。最終的に稼働機がプラス112機程になるくらいには。
プラット&ホイットニーR4360、離昇4300馬力。
最強のレシプロエンジンが、腹に響く不気味な咆哮を幾重にも上げる。
まるで日本帝国へ死刑執行宣言をするかのように…。
日本 帝都東京。
灰色の瓦礫を、護衛もつけず一人無表情で歩く久保拓也。
各所で、かつての自宅を失ったのであろう都民がすすりなく声。
手を合わせる者、正気を失っている者。
いずれ明日にも奴らは来るであろうな。
「ロクに空襲阻止もできなかったくせに、何を偉そうにクソ軍人が。」
聞こえよがしにそんなことを口にして、周囲に慌てて咎められる男性もいた。
予測通りだ。
だが、慚愧に耐えぬと言う思いには間違いない。
カリンが気丈に、凛として指揮を続けてくれているのはありがたいが…。
昨夜は東海地区に120機が襲来したと聞く。
三菱がジェットエンジンを請け負い生産している工場も当然狙われた。
松代等に機能分散していたとは言え、やはり痛手は痛手である。
そして、反復されるであろう帝都と各都市、重要拠点への猛空爆…。
久保は俯いたまま、口角を上げ…
中村もカリンも見たことのない凄絶な笑みを浮かべた。
例の新大統領…ライアンか。
やってくれたな
ならば結構。こちらもとことん付き合ってやる。
もう、こちらの牙が届く。
シアトル。ボーイング&コンソリデーデット系列工場区画。
いきなり神経を掻き毟るどころかブチ切るような金属音。
工場内の騒音をも上回るそれに、工員の皆が手を止め天井を見上げる。
班長らがそれを咎めようとした時。
!!!
全てをかき消す爆音、爆風爆炎。
2トンクラスの爆弾もしくは砲弾が、次々と図ったように他ならぬB32生産区画を破壊していく。
貴重な機材も治具も、そして熟練工も、次々と状況把握もままならぬまま、冥府へと送り込まれていく。
たった10分に満たぬ攻撃で。
そして1時間と経たず、今度はサンディエゴの軍港、造船所が同様に、空爆か砲撃かもわからぬ猛撃に晒される。
やはり痛撃であったのは軍港施設は勿論、錬成あるいは建造中であった大型正規空母、戦艦等が粉微塵にされたことであった…。
それで、悪夢は一通り去るが、アメリカ国民は半ばパニックとなっていた。
どう言うことだ、我が軍は東京を焦土にして日本をねじ伏せつつあったのではなかったのか。
ラジオの臨時ニュースでは、表面上片道燃料の日本軍航空隊の自殺攻撃と報じられていたが…。
夕刻、ワシントンD.C. ホワイトハウス。
「情報が欲しい、どうなっているのだ今の状況は!?」
「考えられるのは例のモンスターバードですが、あれほどの投弾量は…!?」
「そんなことより沿岸の防空体制はどうなっていたのか!?」
「海軍の方こそ!」
「近海にはアンノウンの目標はいなかった。」
皆…。
!!?
ライアン大統領?
「ひとつ忘れていませんか?
マリアナ沖のあの『不明艦』を…。」
「うっ…」
「アレ、ですか…。」
未だにその実態が不明な、日本の超巨艦。
たしかに、あの時の不可解な超長距離の巨弾射撃。
奴が真犯人なら説明がつく。
しかし、幾重もの哨戒網を掻い潜って…。
解らぬことだらけだ。
「とにかく、OSSも動員し、連中の『ジョーカー』の正体と背景を解明してください。」
「御意!!」
全員が各部署に戻り、執務室に1人佇むライアン。
温和にも見えた表情が一変した。
「ジャップ…!」
机表面に拳を叩き込み、凹みと亀裂を入れる。
B32量産自体は、まもなく五大湖方面でもシアトルのそれ以上の一大ラインが完成する…とは言え、対日、対独戦にまたも面倒な足枷を嵌められたことは確かだ。
平静さを取り戻すと、若き大統領は受話器に手を伸ばす。
ほぼ半数の機体が、よろばうように着陸態勢に入ってくる。
「ひでえ…。」
「弾痕が半端ねえ。」
「ジャップも噂のジェット機を相当数繰り出して来たってことだ。」
結局基地に帰投できたのは、半数を切る191機。
50機前後が中途海上不時着。
ただ9割がた危険を顧みぬアメリカ海軍飛行艇、潜水艦の救助活動により乗員のほうは救助されたが…。
ハワイの第20爆撃集団司令部の参謀達も動揺を隠せない。
「正直、戦略爆撃の運用論としては一旦中止すべきダメージだ。」
「海軍の…ミッチャーの機動部隊が無傷なら、護衛戦闘機をつけてやれたのに。」
「だが日本近海に接近するリスク、戦闘機自体も所詮レシプロ機では…」
コツン。
靴音。
あのお方だ。
各幕僚達が一斉に敬礼する。
カーチス・ルメイ少将。
この「空中艦隊」の司令官。
一同を睨め付けたのち、開口一番。
「なんなのアンタ達は!?これだけ鮮烈な戦果を上げたのに逃げ腰とか舐めてるの!?」
!!!??
「サ、サー。しかし、我が軍は実質6割の機体を喪失して…。」
「なら、その6割をまたすぐ補充すれば良いじゃない?我が軍我が国は日本とは違うのよ!」
平然と言い放つルメイ。
「…っやしかしですね。我が方のクルーはもちろん、民間人を今回以上に狙って虐殺していくようなやり口は…。
国際法以前にわが国の人道、正義がっあああっ!?」
若い参謀の身体がくの字に折れる。
ルメイが分厚く生温かい手を伸ばし、彼の股間を鷲掴みにしたのである。
あまりの光景と、ルメイのアレっぷりに、周囲は凍りつく。
「いい!?
貴方達はプロの軍人。
もし中途半端なヒューマニズムが頭を掠めるなら
その時は国家が合衆国が貴方達に要求する事を思い出して、徹底的に忘れなさい!」
「~~~ッサー!イエスサー!!」
青年は涙目を通り越してそう叫び、周囲の幕僚達も唱和した。
実際、ルメイの言葉通り、ハワイの合計3ヶ所の基地に、2日以内でB32は次々と補充されてきた。最終的に稼働機がプラス112機程になるくらいには。
プラット&ホイットニーR4360、離昇4300馬力。
最強のレシプロエンジンが、腹に響く不気味な咆哮を幾重にも上げる。
まるで日本帝国へ死刑執行宣言をするかのように…。
日本 帝都東京。
灰色の瓦礫を、護衛もつけず一人無表情で歩く久保拓也。
各所で、かつての自宅を失ったのであろう都民がすすりなく声。
手を合わせる者、正気を失っている者。
いずれ明日にも奴らは来るであろうな。
「ロクに空襲阻止もできなかったくせに、何を偉そうにクソ軍人が。」
聞こえよがしにそんなことを口にして、周囲に慌てて咎められる男性もいた。
予測通りだ。
だが、慚愧に耐えぬと言う思いには間違いない。
カリンが気丈に、凛として指揮を続けてくれているのはありがたいが…。
昨夜は東海地区に120機が襲来したと聞く。
三菱がジェットエンジンを請け負い生産している工場も当然狙われた。
松代等に機能分散していたとは言え、やはり痛手は痛手である。
そして、反復されるであろう帝都と各都市、重要拠点への猛空爆…。
久保は俯いたまま、口角を上げ…
中村もカリンも見たことのない凄絶な笑みを浮かべた。
例の新大統領…ライアンか。
やってくれたな
ならば結構。こちらもとことん付き合ってやる。
もう、こちらの牙が届く。
シアトル。ボーイング&コンソリデーデット系列工場区画。
いきなり神経を掻き毟るどころかブチ切るような金属音。
工場内の騒音をも上回るそれに、工員の皆が手を止め天井を見上げる。
班長らがそれを咎めようとした時。
!!!
全てをかき消す爆音、爆風爆炎。
2トンクラスの爆弾もしくは砲弾が、次々と図ったように他ならぬB32生産区画を破壊していく。
貴重な機材も治具も、そして熟練工も、次々と状況把握もままならぬまま、冥府へと送り込まれていく。
たった10分に満たぬ攻撃で。
そして1時間と経たず、今度はサンディエゴの軍港、造船所が同様に、空爆か砲撃かもわからぬ猛撃に晒される。
やはり痛撃であったのは軍港施設は勿論、錬成あるいは建造中であった大型正規空母、戦艦等が粉微塵にされたことであった…。
それで、悪夢は一通り去るが、アメリカ国民は半ばパニックとなっていた。
どう言うことだ、我が軍は東京を焦土にして日本をねじ伏せつつあったのではなかったのか。
ラジオの臨時ニュースでは、表面上片道燃料の日本軍航空隊の自殺攻撃と報じられていたが…。
夕刻、ワシントンD.C. ホワイトハウス。
「情報が欲しい、どうなっているのだ今の状況は!?」
「考えられるのは例のモンスターバードですが、あれほどの投弾量は…!?」
「そんなことより沿岸の防空体制はどうなっていたのか!?」
「海軍の方こそ!」
「近海にはアンノウンの目標はいなかった。」
皆…。
!!?
ライアン大統領?
「ひとつ忘れていませんか?
マリアナ沖のあの『不明艦』を…。」
「うっ…」
「アレ、ですか…。」
未だにその実態が不明な、日本の超巨艦。
たしかに、あの時の不可解な超長距離の巨弾射撃。
奴が真犯人なら説明がつく。
しかし、幾重もの哨戒網を掻い潜って…。
解らぬことだらけだ。
「とにかく、OSSも動員し、連中の『ジョーカー』の正体と背景を解明してください。」
「御意!!」
全員が各部署に戻り、執務室に1人佇むライアン。
温和にも見えた表情が一変した。
「ジャップ…!」
机表面に拳を叩き込み、凹みと亀裂を入れる。
B32量産自体は、まもなく五大湖方面でもシアトルのそれ以上の一大ラインが完成する…とは言え、対日、対独戦にまたも面倒な足枷を嵌められたことは確かだ。
平静さを取り戻すと、若き大統領は受話器に手を伸ばす。
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