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ミーティングハウス1号作戦

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…戦略機2機や零戦88型、76型≒陸軍名疾風が如何に鬼神の如き働きをしようとも、この日飛来した424機のB32を完全阻止は不可能であった。
「なんとか半分は確実に侵入できそうだ。
各機目標を再確認!投弾を最優先!」
「「イエッサー!」」
目標は芝区(後の港区)はじめ

下谷区、足立区、神田区、麹町区、日本橋区、本郷区、荒川区、向島区、牛込区、小石川区、京橋区、麻布区、赤坂区、葛飾区、滝野川区、世田谷区、豊島区、渋谷区

…つまりは人口密集地帯を大規模無差別に爆撃する計画である。
そして各機ペイロード一杯の20トンの爆弾、新規開発の焼夷弾を半々に積んでいた。
そして各弾にはジャイロ安定装置を搭載。
高高度からでも気流によるブレを最小限にするよう、レーダーとリンクさせつつ「半誘導爆撃」と言える盤石の体制。

銀色の機体の爆弾庫がそれぞれ開き、E46収束焼夷弾、そしM98 3トン爆弾…。
それらが神経を掻き毟る音と共に宙空を埋め尽くし落ちていく。
そして市街区と言う市街区が爆風と炎熱の花に包まれていく。

それをB32のクルー達は、まるで天空から人を超えた天使か何かになった気分で見下ろしていた。
無論、死の天使だが。
「確かに…万能感というのはこんなやつかもしれんな」
独りごちるパワー准将。
敵高射砲の弾も、虚しく自分達の遥か下方で爆ぜていく。

思わぬ犠牲は払った。
しかしとにかくそれを厭わず任務を遂行せよとの話だ。
つまりは成功…。

!!!??

隣の2番機が消し飛ぶ。
「ファッキン!敵のジェットが追い縋ってきたか!?」

「悪かったなぁ、ペラ付きで。
しかし俺らもぬるくはねえぜ!?」
樫出勇大尉率いる陸軍2式複座戦闘機屠龍Ⅲ型。
52機。
事実上初期型からは再設計された形で、エンジンにもMW50改等の強化を施し、10分間は高度1万強でも620キロを出しうる。
そして斜め銃として47ミリ砲。
単装だが重装甲を生かし強引にB32に肉薄、下腹を次々と食い破る。

「クッ…。次から次へと…。
全機、投弾終了次第速やかに反転、沖合の集合地点を目指し離脱!」
初空襲にしては十二分な戦果!
長居は無用…。

「逃すか!」
今度こそ再度食らいついてくるジェット戦闘機隊。
バカな、優に4割以上いた味方が…。
再び僚機が鴨撃ちにされていく悪夢。

「死ね!」
「落ち着け、総監ちゃん。」
赤松の声だった。
「燃料、燃料!」
すっとカリンの脳が醒める。
「…そうね…。
陸海軍邀撃任務全機!
各機敵編隊と慎重に距離を取り、戦場空域を離脱!
燃料の残量少ないものは集合はせずそのまま帰投せよ!」
「ヨウソロー!」
「了解!」

なんとか虎口を脱したか…。
しかしパワー准将以下B32クルーは、謎すぎる敵の脅威を目の当たりにして、屈辱と恐怖の震えを辛うじて堪えていた。

しかし、日本側も無論甚大な被害である。
軍属扱いの高水圧車、新型消火剤等を用いた戦略消防隊の奮迅にも関わらず、東京都街区35区の33.4%が焼失。
宮城も危ういところであった。
そして何より都民の被害…罹災者は100万を優に超え、死者は警視庁の概算で4万2千人を超えていた。
このうち約4分の1が整備中の中途半端な造成の壕に居たところに3トン爆弾が直撃し、落盤圧死したものと見られる。
残りは逃げ遅れ、地下壕網への出入り口がまだそもそも少なく…焼死の悲運に見舞われた人々であった…。

正直侮っていたな…。
物量や無差別爆撃はともかく、B32の「カタさ」防御性能であった。
いわゆる読者の皆さんが知る「史実」では、アメリカですら6発レシプロ爆撃機を「真っ当に大量運用できる」レベルには持っていけなかった。終戦時にさえ。
久保もこの時点で得た情報では、単に大型化、アップデートしたB29(それでも十分脅威だが。)くらいの予測対処で一切の迎撃態勢を整えていた。
そう本来なら、零戦76型以上のスペックの機体に中堅以上のパイロットを乗せれば、今回の邀撃態勢ならば8割弱を東京湾口で阻止できたはずなのである。
だが…もちろん通常の防空戦闘なら日本側勝利と言ってよい戦果を挙げたが、1機当たりの破壊力があまりにも無慈悲すぎた。
こいつはまさに、防御性能とも併せ空中戦艦、空中艦隊である。

翌日、被害の概要が徐々に明らかになりつつあった。
夕方のニュースで、それを極力正確に都民に伝え、その代わりこちらの防空部隊の戦果も華々しく伝える。
山本五十六らのこの案に、東條首相は当初、難色を示した。
しかし、決定的となったのは同席していた久保の発言であった。
「畏れ多い事に陛下にあらせられても、今朝自ら馬を曳かれ都内の惨状をご覧になったとの由。
ここで被害隠蔽などをしては不忠となりましょう。
あくまで、陛下の臣民の戦意を一層倍上げる筋書きにて行います故。」
そう言われては、東條も頷かざるを得なかった。

「国民の皆様にあられましては、今回帝都にてなされた米国の戦争行為を逸脱した大暴虐に対し怒りと同時に、恐怖も感じられたやもしれません。肉親を亡くされ今哀しんでおられる方もおいででしょう!
ですが!ここで逃げ腰になってはなりませぬ。
鬼畜米英は土下座をしても逃げても許してはくれませぬ。
よしんば白旗を上げて受け入れてくれたとしても、皆様一人一人の尊厳、日本人の誇り。
そうしたものに配慮はしてくれませぬ。
結局は何らかの形で死ぬ事になる。
ではどうするか!
我が空の神兵達と一体になり戦い抜く事です!
明日から皆様引き続き壕を掘りましょう!
残った工場と農地で生産力を上げましょう!
我ら日本民族が折れれば、それはまた亜細亜の友邦の危機につながります!
日清日露とは違う、20世紀の国家総力戦で、今後来寇する米軍に代償を取り立てるのであります!!」

東條首相の演説に、各世帯や焼け出され屋外でラジオを聴取していた者達は沸き立った。

だがその「内容」を面白くなく感じたものも、少なからず軍部内に存在したが。











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