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包囲網
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ここで…一旦僕の一人称視点から離れる。
1942年12月8日
ソ連 スターリングラード南西部
「前進!これより“冬の嵐”作戦。状況を開始する」
マンシュタインの号令一下、スターリングラード包囲下にあるパウルス率いる第6軍救援のため、ヘルマン・ホト上級大将率いる第4装甲軍は進撃を開始した。
「うう寒みい!沁みるぜこれは…」
クルト・クニスペル曹長は、ぶるぶる震えながらハッチを閉める。
「車長!やっぱ病みあがりで戦線復帰は無理だったんじゃないですか!?」
「バカいえ!まだ数が揃わねえ新型のティーガーで戦えるんだぞ!こんな機会はめったにねえ!」
砲手の頭を軽く小突くと、もう一度クニスペルはハッチを開ける。
「来たぜ一時方向、イワンどもだ」
前方にソ連軍戦車T-34 30両あまり。
Ⅲ号、Ⅳ号戦車時代は脅威であったが…
「敵はまだ気づいていない。先頭のやつから叩け!」
「了解!距離1400、弾種徹甲!」
「撃て!!」
ティーガーⅠの88ミリ砲が吠える。
炎の槍が、先頭を行くT-34の砲塔をぶち抜く。
敵は擱座した。
慌てて反撃に転じる他のT-34。
戦車砲弾がティーガーⅠの正面装甲に直撃する。
しかし…
「カスが効かねえんだよ!」
さらに一両のT-34が屠られる。
この方面に投入されたティーガーⅠ重戦車はわずか12両
しかし10倍近いソ連軍戦車の群れを相手に猛威を振るい、後続のⅣ号戦車中心の部隊の進撃に大いに貢献することとなる。
12月12日
スターリングラード近傍
「もう一度照明弾を上げたまえ」
マンシュタイン元帥は、軽い苛立ちとともにそう命じた。
包囲網を破り、パウルスの第六軍を救出するには…
彼ら自身が動き、こちらと呼応して包囲を内側からも突き破るアクションが必要になる。
それを再三にわたって呼びかけているのだが…。
総統閣下も撤退命令を出されているのに、何をためらっておるのだ?
あとは空路派遣した参謀アイスマン少佐の直接の説得工作しかないか…
スターリングラード 第6軍司令部
「いまこの時をおいてほかになし。包囲網を破るため、直ちに残存全兵力を動かしてください!」
アイスマン少佐は必死に訴えた
パウルスにではなく、その腹心のシュミット参謀長に。
「パウルス閣下は?閣下に直接お話ししたい!」
「閣下はご体調すぐれず、お休みになっておられる。」
「な…
と、とにかく全軍に包囲突破の用意を!」
「ならぬ。総統閣下より死守命令がでておるゆえ。」
「それは数日前までの話であって今の話ではありません!
現在は総統閣下も脱出許可を出されておるのです!」
「信じられぬな。あれ程強固に固守命令を出しておられた総統が…
貴官らが命令をねつ造しておるのではないか?」
「な、なんということを…」
その後も両者は押し問答を繰り返したが、結局シュミットが折れることはなかった。
(だめだ、ここにいる同胞10数万の命運が…)
アイスマンが内心天を仰いだ時。
「ま、まて…」
杖をつき、よろめきつつ現れたのは、第6軍司令官パウルス上級大将であった。
「わが第6軍全軍は、第4装甲軍の動きに呼応する。
この包囲網を突破する故、ただちに準備にかかれっ。」
「パウルス閣下、しかし」
「準備にかかれ、と申したのだ。これは総統閣下のご意思に沿うことであると心得よっ!」
アイスマンはかすかに微笑をうかべつつ、シュミットは顔をゆがめつつ敬礼した。
祖国に帰れる!
絶望の底にいた包囲下の第6軍兵士達に、注がれた希望の光。
しかしそれは当然、命がけの試練でもあった。
赤軍はヴァトゥーチン大将の南西方面軍およびゴリコフ中将のヴォロネジ方面軍を投入し、突破の阻止にかかる。
第6軍兵士たちは、残り少ない装甲車両を盾にして、大半は徒歩で決死の脱出行に臨んだ。
「11時方向!敵装甲部隊!」
「2時方向からも来ます!」
「隊列を崩すな!撃ちまくれ!ここを跳ね返さねば後はないぞ!」
吹雪とともに、弾幕と爆風の嵐。
次々と、友軍兵士の肉体や装備がケシ飛んでいく。
「クソッ!弾薬が足りねえ!」
「何とか持たせろ!」
「正面にT-34!」
シュターデン一等兵らの正面に、忌まわしきソ連戦車が立ちはだかる。
「出やがった!やべえ!」
「クッ戦車砲無いか戦車砲!」
言っている間にも車載機関銃の掃射で味方が次々斃されていく。
勇敢に前に出たⅣ号戦車D型が、撃ち込んだ7,5cm砲をあっさりと弾き返され、あえなく返り討ちに遭う。
「クソが!あてにならねえ!」
シュターデンの後方から10、5cm榴弾砲leFH18が運ばれてきた。
そこへ機銃掃射が行われ、砲の周囲の砲兵がバタバタ倒れる。
「うおおおおおおお!」
匍匐前進でシュターデンは砲に近づくと、負傷した砲兵を手伝ってやり、共に砲を操作する。
「喰らいやがれ!」
150メートルの至近距離から砲を撃ち込まれ、大破擱座するT-34。
「やった…!」
だが、喜ぶ間もなく、後方から黒い影がいくつも浮かんでくる。
目の前に迫るT-34の群れが、シュターデンら兵士たちに絶望の壁となって立ちはだかったとき。
その壁の一角が、爆発音とともに崩れた。
T-34が一息に十数両、爆発炎上。あるいは擱座した。
「味方だ!」
歓声が上がる。
数少ないティーガーⅠの群れが、ついに外側から包囲網に亀裂を入れたのである。
「よっしゃ!このクニスペル様が来たからにはだぜ!
どんどん狙い撃て!!」
ティーガーⅠの8.8 cm Kwk 36L/56砲は、1600メートルの長距離からでもT-34の正面装甲を容易に貫徹することができる。まさに虎の牙であった。
そして遮るものの無い平原は、ティーガーがその強みを存分に発揮できる理想的な舞台である。
少数のティーガーⅠに、ソ連赤軍のT-34群は明らかに浮足立ち、注意を引き付けられてしまった。
稼ぎだされた貴重な間隙に、第6軍将兵は安全圏に近づくことが出来た。
「信号弾撃て!」
「同士討ちに注意せよ!」
「待たせてすまない!わが装甲車列の内側に入ってくれ!合流するぞ!」
―この後もソ連軍の追撃は苛烈を極め、最終的に包囲網を脱出できた第6軍将兵は10万を切っていた。
だが、それでも、歴史の歯車が確実に変わりだしたことには間違いなかった。
1942年12月8日
ソ連 スターリングラード南西部
「前進!これより“冬の嵐”作戦。状況を開始する」
マンシュタインの号令一下、スターリングラード包囲下にあるパウルス率いる第6軍救援のため、ヘルマン・ホト上級大将率いる第4装甲軍は進撃を開始した。
「うう寒みい!沁みるぜこれは…」
クルト・クニスペル曹長は、ぶるぶる震えながらハッチを閉める。
「車長!やっぱ病みあがりで戦線復帰は無理だったんじゃないですか!?」
「バカいえ!まだ数が揃わねえ新型のティーガーで戦えるんだぞ!こんな機会はめったにねえ!」
砲手の頭を軽く小突くと、もう一度クニスペルはハッチを開ける。
「来たぜ一時方向、イワンどもだ」
前方にソ連軍戦車T-34 30両あまり。
Ⅲ号、Ⅳ号戦車時代は脅威であったが…
「敵はまだ気づいていない。先頭のやつから叩け!」
「了解!距離1400、弾種徹甲!」
「撃て!!」
ティーガーⅠの88ミリ砲が吠える。
炎の槍が、先頭を行くT-34の砲塔をぶち抜く。
敵は擱座した。
慌てて反撃に転じる他のT-34。
戦車砲弾がティーガーⅠの正面装甲に直撃する。
しかし…
「カスが効かねえんだよ!」
さらに一両のT-34が屠られる。
この方面に投入されたティーガーⅠ重戦車はわずか12両
しかし10倍近いソ連軍戦車の群れを相手に猛威を振るい、後続のⅣ号戦車中心の部隊の進撃に大いに貢献することとなる。
12月12日
スターリングラード近傍
「もう一度照明弾を上げたまえ」
マンシュタイン元帥は、軽い苛立ちとともにそう命じた。
包囲網を破り、パウルスの第六軍を救出するには…
彼ら自身が動き、こちらと呼応して包囲を内側からも突き破るアクションが必要になる。
それを再三にわたって呼びかけているのだが…。
総統閣下も撤退命令を出されているのに、何をためらっておるのだ?
あとは空路派遣した参謀アイスマン少佐の直接の説得工作しかないか…
スターリングラード 第6軍司令部
「いまこの時をおいてほかになし。包囲網を破るため、直ちに残存全兵力を動かしてください!」
アイスマン少佐は必死に訴えた
パウルスにではなく、その腹心のシュミット参謀長に。
「パウルス閣下は?閣下に直接お話ししたい!」
「閣下はご体調すぐれず、お休みになっておられる。」
「な…
と、とにかく全軍に包囲突破の用意を!」
「ならぬ。総統閣下より死守命令がでておるゆえ。」
「それは数日前までの話であって今の話ではありません!
現在は総統閣下も脱出許可を出されておるのです!」
「信じられぬな。あれ程強固に固守命令を出しておられた総統が…
貴官らが命令をねつ造しておるのではないか?」
「な、なんということを…」
その後も両者は押し問答を繰り返したが、結局シュミットが折れることはなかった。
(だめだ、ここにいる同胞10数万の命運が…)
アイスマンが内心天を仰いだ時。
「ま、まて…」
杖をつき、よろめきつつ現れたのは、第6軍司令官パウルス上級大将であった。
「わが第6軍全軍は、第4装甲軍の動きに呼応する。
この包囲網を突破する故、ただちに準備にかかれっ。」
「パウルス閣下、しかし」
「準備にかかれ、と申したのだ。これは総統閣下のご意思に沿うことであると心得よっ!」
アイスマンはかすかに微笑をうかべつつ、シュミットは顔をゆがめつつ敬礼した。
祖国に帰れる!
絶望の底にいた包囲下の第6軍兵士達に、注がれた希望の光。
しかしそれは当然、命がけの試練でもあった。
赤軍はヴァトゥーチン大将の南西方面軍およびゴリコフ中将のヴォロネジ方面軍を投入し、突破の阻止にかかる。
第6軍兵士たちは、残り少ない装甲車両を盾にして、大半は徒歩で決死の脱出行に臨んだ。
「11時方向!敵装甲部隊!」
「2時方向からも来ます!」
「隊列を崩すな!撃ちまくれ!ここを跳ね返さねば後はないぞ!」
吹雪とともに、弾幕と爆風の嵐。
次々と、友軍兵士の肉体や装備がケシ飛んでいく。
「クソッ!弾薬が足りねえ!」
「何とか持たせろ!」
「正面にT-34!」
シュターデン一等兵らの正面に、忌まわしきソ連戦車が立ちはだかる。
「出やがった!やべえ!」
「クッ戦車砲無いか戦車砲!」
言っている間にも車載機関銃の掃射で味方が次々斃されていく。
勇敢に前に出たⅣ号戦車D型が、撃ち込んだ7,5cm砲をあっさりと弾き返され、あえなく返り討ちに遭う。
「クソが!あてにならねえ!」
シュターデンの後方から10、5cm榴弾砲leFH18が運ばれてきた。
そこへ機銃掃射が行われ、砲の周囲の砲兵がバタバタ倒れる。
「うおおおおおおお!」
匍匐前進でシュターデンは砲に近づくと、負傷した砲兵を手伝ってやり、共に砲を操作する。
「喰らいやがれ!」
150メートルの至近距離から砲を撃ち込まれ、大破擱座するT-34。
「やった…!」
だが、喜ぶ間もなく、後方から黒い影がいくつも浮かんでくる。
目の前に迫るT-34の群れが、シュターデンら兵士たちに絶望の壁となって立ちはだかったとき。
その壁の一角が、爆発音とともに崩れた。
T-34が一息に十数両、爆発炎上。あるいは擱座した。
「味方だ!」
歓声が上がる。
数少ないティーガーⅠの群れが、ついに外側から包囲網に亀裂を入れたのである。
「よっしゃ!このクニスペル様が来たからにはだぜ!
どんどん狙い撃て!!」
ティーガーⅠの8.8 cm Kwk 36L/56砲は、1600メートルの長距離からでもT-34の正面装甲を容易に貫徹することができる。まさに虎の牙であった。
そして遮るものの無い平原は、ティーガーがその強みを存分に発揮できる理想的な舞台である。
少数のティーガーⅠに、ソ連赤軍のT-34群は明らかに浮足立ち、注意を引き付けられてしまった。
稼ぎだされた貴重な間隙に、第6軍将兵は安全圏に近づくことが出来た。
「信号弾撃て!」
「同士討ちに注意せよ!」
「待たせてすまない!わが装甲車列の内側に入ってくれ!合流するぞ!」
―この後もソ連軍の追撃は苛烈を極め、最終的に包囲網を脱出できた第6軍将兵は10万を切っていた。
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