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本編

狂った空間2

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「————おい、今の……」

 ぐいと再度強い力で引き寄せられまじまじと私の手を見るディオ。心なしか汗が引き、荒かった息も整っている。
 だがしかし、だ。

「ちょ、っと! なんなの!?」
 
 よく分からないが、手を見ているだけかと思っていたら、微かにではあるが、ふわりと手のひらに息がぶつかるのがわかった。

 驚いて、思わずバシリと腕を振り解き、咄嗟に一定の距離を取る。

 こここ、こいつ……!
 女子の腕を引っ張り無許可で触ってさらに、さらにあろうことか、私の、て、て、て、手のひらの匂いを嗅ぎやがった……!
 
 この人今の今まで瀕死だったんじゃないのか?何故ちょっと回復しているの。私のなに?手のひらの匂いで?え?手のひらの匂いで?

「へへへ、変態!?」
「違っ————うっ、くそっ……、お前、今何しようとした? ……ゲホッ……何か、魔法を使っただろう」

「ひ、あう、そ……そうだけど……」

 つい言葉尻が小さくなっていく。確かに魔法を使おうとした。でも失敗するのを恐れて途中で消滅させてしまった。
 未熟な部分を指摘された気がして、なんだか責められているような気がしてくる。
 ほんの少しだが、和らいでいた学校での評価の傷がジクリと痛み出す。

「……それ……もう一度やってみてくれないか……」

「えっ」

「何故か、分からないが……お前の手から微かに魔法の残滓が……それを吸い込んだら呼吸が少し楽になった気がするんだ……」

「いや、でも……」

「……なんでもすると言っていた気がするが……」


 うぐぐ、確かに言った気がする。
 先ほどより顔色が良くなったが、いまだにディオは起き上がるほど回復した様子はない。
 じ、とこちらを見つめるディオと目が合った。

 先ほどまでは目も開かせぬほど衰弱していたようだったが、今は苦しそうではあるが口も目も開くようになっている。
 その瞳は真剣そのものだ。
 
 ディオの体調に変化が出た、ということは私が発動し損ねた魔法は、正確に発動しようとしていたという事?
 
 魔法が成功するかもしれない。

 ほんの少し湧き上がってきた希望に、胸が騒ぎ始める。両方に傾いた「でも」が心を行ったり来たりして忙しなく動き回る。

「わ、私……魔法が上手くいかなくて成功しないかもしれないの。失敗すると攻撃の魔法が出てしまうの」

 緊張と興奮で喉がからりと渇き、うまく声が出ていたか分からない。
 しかしディオは瞬きをゆっくりとすると「構わない。慣れている」と頷いた。

「わかった。やってみる……!」

 自らを鼓舞するように、自分に言い聞かせるように口から言葉が溢れ出た。

 床に倒れ込んでいるディオに近寄り、自分の手を祈るように組み、先ほどと同じように頭の中で魔法を探し、治癒のイメージを練っていく。

 重ねた手のひらに魔力が集まるのを感じる。

 大丈夫……!
 上手くいっている……!

 ふわふわと柔らかな風が私とディオを包み込み、柔らかな力がぶわりと溢れているのを感じる。



 そっと、魔力が満ち溢れた手のひらをディオの身体に添わせる。

 そこはちょうど、聖女ララ様が治療を施された場所だった。


 そして、魔法を、発動させた。



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