ショノウ

雪豹

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戦闘

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 「う、うぅ…」
  
何故だかわからないけど全身が痛くて思うように動かない。腕に力を入れるだけで腕の他鎖骨や肋骨もズキズキ痛む。立ち上がろうとするが足にも力が入ら座立ち上がれない。そしてーー

「ここはどこ? 私はだr…」

「えっ? 俺は誰だ?」

 さっきまでどこにいてなぜ体がこんなにも痛いのかを覚えれていない。そして自分の名前すらも思い出せないのだった。テンプレのような自問自答には本当に答えれなかったのだ。痛む体に記憶が薄れていく。
ふと周りを見渡すとーー

 澄み切った空、そして雲一つない青空の下焦げ茶色の砂漠と砂の中間のような土の上で「俺」は蹲っていた。

 周りに一つとして建物はたっていなく人影すら感じられない。微風が頬にあたるーー
 
 風で砂が舞い上がる。

 その時、蜃気楼だろうかー確かに灰色か薄い黒いかとも言える古びた城、古城とでも言うべきだろう建物が俺の視界に映った気がした。

 痛む体を起こし目を擦ってもう一度見てみる。しかしそれはもう二度と見えることは無かった。

 気になったものは何が何でも知りたい! それが前世の俺の性格だったのだが記憶を失っても好奇心は失われていなかった。

 そして何よりその城に惹かれたのだ。所々とんがった箇所があっただろうか? 微かな   
 風景をもう一度頭に描いてみる。

(あれに行きたい!)

 そう心に命じ古城を目指すことにしたーー

 なんとか力を振り絞り痛む体を起こして立ち上がる。近くに落ちていた手頃な木を杖に代用して1歩ずつ古城が見えた方向へ遅々として進んでいった。

 そして、太陽がちょうど頭の上に来たあたりだろうかー

先程から風で舞い上がる土煙の音以外になにか歩く音が聞こえる。周りを見渡しても何も見えないが自分の足音以外に確かに聞こえ、そして自分に近づいているような気がするのだ。

 いざと言う時にはこの木で殴ろうかと考えていたその時、、

グガァァァ!!

突然、背後から大熊が爪を伸ばして襲ってきたのだ。当然、不意打ちというのもあり対処すら出来ていない

俺は脇腹と背中に引っかき傷を負う。

「痛い…」

 木を用いてなんとか立ち上がり大熊の容貌を目の当たりにする。
 
それは黒の毛皮で体長が5m強の規格外の熊だったのだ。

 木でなんとか熊に応戦しようとするが向こうの方が素早く強い。

 それでも古城を見るため、それが今の生きがいなのだからこちらとしても諦めるわけには行かない。

ウオオオオ!!

俺の怒声とともに木の周りに黒い靄が覆われる。俺は知る由もないのだがそれは魔力というものだったのだ。

 熊はその木を見て酷く怯えすぐさま逃げようとするーーが、それは既に遅かった。

 それを感じたのか熊も諦め死にものぐるいで攻撃してくる。俺の振るった杖は熊の腹を切り中から何やら紫と緑色が混ざった液体が流れ出てくる。

そして熊も爪で切り裂いてきたり、その巨躯の体を生かし突進をしてくる。

(これは生き残りをかけた殺し合いなのか)

ふと戦闘中に今更とも言えるようなことが脳に浮かぶ。

 相手も死ぬかもしれないし、こちらも死ぬかもしれない。

 しかし、俺が死ぬことはありえないのだ!と自信に満ち黒い靄がさらに立ち上る。
 熊も猛烈な勢いで俺に襲い掛かってくる。手から突き出ている3本の爪は猛スピードで頭に向かってくる。

 それを俺は木で抑える。
 それは只の木ではなくなっていたのだ。俺の魔力が組み合わさり、そしてその木ヤヌスガエラと言われる貴重な木の枝だったのだ。

 その木は名木刀とも言われる剣に使用されている素材なのだがそれはまた別のお話
 何はともあれその木は硬く強いのだ。
 俺はその木の切っ先を熊に向け両手で振り下ろした。

ブォォン!

空を切る音がして、熊は死んだ。

 必死の戦いだったのだ。どちらが死んでもおかしかったのだが俺は勝った。

 記憶に残る限りの初めての戦闘で初勝利。引っかき傷や突進による抉れた肉は痛むが勝ったことによる達成感のようなものがそれらを上回り体の痛みさえ忘れていたーー

そして奇妙なことが起きた。木に纏っていた黒い靄は俺の体へ吸収され怪我がみるみる治っていく。

「おお! 痛くない!」

戦闘前の痛みさえも消えていた。それは勝ったことに上回る喜びだったのだ。
 そして、小休憩を挟み古城が見えた方角へ杖を頼りにまた歩き出したーー
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