ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第三章 幸福論の四季

幸せの犬

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 九月に入っても、まだまだ暑い日が続いている。

 大学の一年目、後期日程から、僕は教職課程を履修することにしたのは、もちろん、佑夏の影響である。

 中学時代の嫌な思い出から、先生と聞いただけで毛嫌いしていたのに、教師になる夢を楽しそうに話す彼女との触れ合いで、俄然、興味が湧いてきたから。

 それに、僕は元々、子供は嫌いではない。

 何しろ、今日は朝から、まだ二歳半の女の子のお守りだ。

 従妹の、苺奈子もなこちゃん。

 今どき珍しい、「子」のつく名前。
 ただの、「苺奈」より上品だと、叔母がつけたのだが、この意見には、僕も同意している。

「レオナちゃん!レオナちゃん!」

 苺奈子ちゃんは、僕の雑種犬「レオナ」が大のお氣に入りで、いつもレオナにベッタリである。

 もし、レオナがいなくて、僕だけだったら、とても面倒見切れないだろう。

 こんなところに、今日も佑夏が来てくれて。

「ゆーかおねーちゃーん!」

「ふにゃ~ん!」

 苺奈子ちゃんと、ぽん太が走って佑夏に駆け寄る。

 佑夏と苺奈子ちゃんが顔を合わせるのは、これで三回目。
 もう、すっかり懐いている。

「モナちゃん、こんにちはー♡おーぽん太ー!」

 佑夏は、苺奈子ちゃんを抱き上げて、クルクル回してあげる。
 幼児殿は大喜びである。

「あにょね、モナね、ジンシュケにいちゃんと、ずっといっしょだったの。」

「そーかー、モナちゃん、偉いなー!」

 持病のある、苺奈子ちゃんの母親、つまり僕の叔母が、今日は検査の日。
 叔母が通院の度、こうして預かっている。

 母は仕事で、僕は朝から苺奈子ちゃんと二人だった。

 佑夏は、苺奈子ちゃんとレオナと一緒に遊び始め

「レオナちゃん、大人しいわね~。吠えることあるの?」

「俺でも数えるほどしか聞いたことないよ。」

 レオナは、苺奈子ちゃんの顔をなめてあげたり、母犬が仔犬にするように身体を巻き付けてあげたりして、立派な母親ぶりだ。

 苺奈子ちゃんはキャッキャッいって楽しそう。

「なんか、レオナちゃん、本当にお母さんみたいね。」

 佑夏は微笑みつつ、驚いている。

「出産経験が二回あるっていうからね。慣れてるんじゃないかな?」

 この雌の犬は保護団体から引取っている。

「レオナって素敵な名前ね。どうやってつけたの?」

「名前はとにかく、大きくて強いのがいいからさ。スペイン語で”雌のライオン”の意味だよ。」

 二人と一頭がかりで遊んでもらえて、大満足の苺奈子ちゃんである。

 

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