ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第九章 ヤマネの夜

出会いの森

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 テーブルを囲んだ霧ヶ峰の夜。 
 
 のっけから、脱線しまくりではあったが、ようやく東山さんの、ヤマネの話が始まる、これを待ってたんだ!

「私が初めてヤマネを見てから、再び出会うまでに、五年かかりました。」

 東山さん、山でヤマネを見まくってると思ったが、そんなにレアなのか?
 そりゃ、そうだよな、誰でも簡単に見れるなら、この人のヤマネの写真集はあんなに売れないよ。

「五年ですか?よう頑張りましたな~!」

 ルミ子さんの言葉に、佑夏はリンゴを口にしながら、他のメンバーは無言で頷いている。

「その時は、どんな状況だったのですか?」

 地元・長野の小林幸枝さんの質問に、東山氏は答える。僕には穏やかで、優しい語り口に聞こえるな。

「八ヶ岳の森の中でね、一人でキャンプをしてたんです。夜、シュラフに入って横になり、10分位、眠っていたでしょうか?するとね、シュラフの足の上に何か乗ってるのを感じました。」

「キャ~!ヤマネがいたんですね!」

「佑夏ちゃん、ネタバレさせないでよ!」

「エヘヘ、ごめんなさ~い!」

 僕と佑夏のやりとりに、ドッと笑いが起きた後、氣を悪くした様子もなく、東山さんのお話は続く。

「重さは全く感じないのに、明らかに、なにかいる氣配がするんです、それが、ジッとしてるんですよね。
 野ネズミかと思ったんですが、鼠なら動き回るでしょう。」

「ウチやったら、幽霊怖おす。そないなとこに一人で、よう怖うあらしまへんなぁ。」

 理夢ちゃん、昼間の怪談の時も、酷く怯えていたし、心霊系は本当に苦手としているね。
 この子は漫画で有名になった、女子高生の一人キャンプなど、とても無理だろう。

「慣れれば、なんともありませんよ。あ、吉岡さん。
 女性だけで、キャンプをしたり、山小屋に泊まる時は、必ず五人以上にして下さい。

 怖いのは霊だけとは限りません。山小屋の管理人に襲われて命を落とした若い女性もいますからね。」

「はい!うちは絶対に、一人じゃできしまへん!」

「アホ!威張んな!」

 声高らかに宣言する実の娘に、ルミ子さんのキツイ一言、ここでも笑いが起きてしまう。
 何というか、こういう山で自然の中だと、強い連帯感と一体感が生まれるのかな?

 ここは、遭難するような場所でもないし。でも、自然をなめて油断するなよ、自分!

「さて。」

 再び、東山さんは語り始める。

「枕元の懐中電灯を手探りで取って、足元を照らしてみたんですが、何もいないんです。
氣のせいか?と思いましてね、またウトウトしてると、今度も氣配がしました。」
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