ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第九章 ヤマネの夜

森の盗人

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「ヤマネは、そんなに簡単に撮れるものではありません。確率は10回行って、一回撮れれば、いい方です。」

 ええ~!?そんなに撮れないの?東山さんの告白に、顔を見合わせる僕達。

「ボーナスも退職金もありませんし、動物カメラマンになりたいなんて人は少ないですよ。」

 本当に決死の覚悟で、危険を冒して、大自然の風景を撮ってる人もいるよな。
 ロシアでの撮影で命を落とした、月野和夫さんへの印象を聞いてみたい、だが、今はヤマネの話だし、後にすることに。

 水野さんがフォローする、この人は横浜とかいでストレスを抱えながら、給料で暮らす生活に疲れているから。

「でも、東山先生、頑張ったおかげで、今は、こんな素晴らしい、素敵な生活をされてるじゃないですか。」

 山田さんも加わる。

「東京で、お金で生活するのも、大変ですよ、ほとんどの人は生活が苦しくて、お金に困ってます。」

 すると、東山先生は、ちょっと故郷の話を入れる、出身地は著書に掲載されていて、僕達は知っているよ。

「私は、滋賀県の出身で、琵琶湖の湖畔で育ってまして、一度も都会暮らしはしたことがありませんし、ずっと自然の中で生きたいと思っています。

 お金を求めて、森を離れたいと考えたことは無いですね。

 専業で撮影だけで生活できるようになったのは、最初の写真集の”霧ヶ峰の子ギツネ”が出てからです。」

 ここで、宿の女将さんが口を開く、

「写真集が出るまで、大悟さんは、この山小屋で他の仲間と一緒に働いていたんです。」

 そして、先生は当時を回想し、

「近隣の山小屋で働いていた仲間が、何人か出版社に就職したんです。
 そのツテで、何とか本を出すことが出来ました。
 本来、出版には何百万円も自己資金が必要で、それが無かったら、とても無理でしたね。」

「東山先生、それはご自身で引き寄せた運です、お人柄の賜物でしょう。」

 小林さんが微かに、笑顔を見せる。

「ありがとうございます、でもね、森では恐ろしい者に出くわすこともあります。」

「オバケですか?」

 東山先生の語りに、佑夏が突っ込み、同時に理夢ちゃんを見て、姫はニコっと笑う。

 見られた女子高生は、キャッ!と悲鳴を上げ、両手を胸の前にくっつけているが、東山先生が言いたいのは別だった。

「それもありますが、夜中の一時頃に、森で三人組の男を見たんです。手にはスコップを持っていました。」

「高山植物の盗掘ですか?けったいな奴らですなぁ。」

 ルミ子さんは、憤る。

「はい、そうでしょうね。ちょうど、紙とペンを持っていましたから、”何の為のスコップだ?”と書いて、通り道に貼っておきました。
 次の日、行ってみると、丸めて捨ててありましたよ。」

 そんなこと、やっていても、財は為せないのに。


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