ヤマネ姫の幸福論

最終章 湖面の誓い

幸せのゴミ拾い

　僕達、写真家・東山大悟氏一行も、テツオ率いる盗掘団一味も、ヤマネ姫の意外過ぎる申し出に、ただ、呆然としている。

「お金が必要なら、まず、ゴミ拾いをしましょう！奇跡が続けて起きるようになりますよ♪
　事業をなさっても、上手くいくようになります。
　天使が祝福してくれるんですね！」

　対峙していた東山さんも、テツオも、あっけに取られている。
　二人共、表情がさっきまでとは、打って変わって穏やかになっている。

　あ！佑夏と僕以外、誰も氣付いてないが、潮の香り！温かい海水の感触！真帆さんの波だ！

　生命の白い波が、高原の朝もやと、小鳥のコーラスのヒーリング効果と相まって、心地良さが何倍にも増幅されている。

　さっきまでの、一触即発の殺気立った空氣は、何処へやらだ。

「最初は、利己的な動機でいいんです♪こんな風に、”金～！金～！金が欲しい～！”」

　出た～！！！佑夏の十八番おはこ、「形態模写ギャグ」！

　破裂するんじゃないか？というくらい、彼女は目を大きく見開き、犬掻きのように、両手を空中で上下に
　動かす。
　さらに、唇をひっくり返し、タコのような、おちょぼ口にしている！

　この面白さ、ちょっと口では表現できないくらいである。

　堪らず、敵の首領であるテツオ氏も、「ギャハハ！」と声を上げて笑い出してしまう。

　彼だけではない。
　ここに居る全員、盗掘側も、僕達、パトロール側も笑顔で、笑いの渦に。

　あの「二十四時間仏頂面」の山田さんでさえ、腹を抱えて、爆笑している始末。

「お金が集まってくる運氣を身に付けるつもりで、ゴミ拾いを始めてみましょう！
　きっと、素敵なアイデアがどんどん生まれて、お金が集まって来るようになりますよ！」

　テツオ氏も、ようやく納得の表情を浮かべ、

「ああ、そうだな。お姉ちゃん、どっから来なすった？」

「○○です。霧ヶ峰ここ、歩きやすいし、綺麗だし、とってもいい所ですね♪
　すごく氣にいっちゃいました！」

　いつものように、他人に対し、嫌悪感をまるで示さず、どこもまでも優しい佑夏に、このリーダーの男も、心を打たれてようだ。

「そうだよ、いい所さ。」

　さっきまで、いかにも犯罪者風といった感じだったテツオ氏の表情が、地元の自然を慈しむ農夫とでもいったような、穏やかな顔付きに変わっている。

「ゴミを拾うと、余計な力が抜けて、心が整って満たされて来て、本来の能力とか。そういったものが、発揮されてくるんです。
　欲が強いと、幸せを感じにくくなって、何をやっても、上手くいかなくなるますね♪」

　こんな美人にこう言われたら、男なら逆らえない、ついでに、この中原仁助も。

「僕も、佑夏さんに言われて、ゴミ拾いをやってますが、イライラが減って、生活が楽しめるようになりますよ。
　何より、世の為、人の為になることですから、自分も、他の人達も、もっと好きになれます。」