半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第二節 〜忌溜まりの深森〜

011 特異生物産資源買取その他業務委託会社

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キレイなお姉さん? は冒険者ギルドのほうから来たそうです。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――

「何さらしとんじゃ、ワレ! オー!
 女の子を泣かすなボケー!
 もう少しで私が旨く丸め込める処だったのに。台無しじゃん! バカなの? バカなのね⁉」

「丸め込めなかっただろ」
 僕は後頭部脊髄のチョット上を摩りながら起き上がり、大学生ぐらいの大人の女の人が立ち尽くし、大声をあげながら盛大に泣いているのを見やる。凄い罪悪感。そりゃさ、悪いと思うよ。でもさ。


 ◇

 最初の最初、『悪・即・斬』の後で気づいた以降はハナの質問にサキュバスっ娘も恐れ入った感じで素直に供述してくれていた。しどろもどろであったけど。

 彼女は“B2ブロンズ冒険者”であるという。
異世界定番の冒険者ってちょっと滾る、と思ってたらハナの善意からの意訳だった。直訳は“特異生物産資源収集その他請負業務有資格者・乙職二種四級”。
 「男の子って冒険者とか好きでしょ」との事。“者”しか合ってねー。

 ちなみに冒険者ギルドは“特異生物産資源買取その他業務委託会社”。
 ギルド直訳の相互組合でも自治団体でもなく営利目的のただの会社だった。でもそれはソレ、中世チックで魔法ありの世界は色々ユルくて、まあ軍閥という側面もあったりして(逆にそんな制御が及ばない一大武装組織を各国家がよく放置したままにしていると不思議で)関係団体(国とか領主貴族とか有力商人とか)とのウンヌン・カンヌンもあり~ので、結局やっぱり“無難”な冒険者ギルドでよくねっ、てことらしい。
 
 “B四級ブロンズ冒険者”として隣国への単純な密入国の道案内に雇われたらしい。
 サラっと流したけど密入国って違法だし、誘拐の片棒も込みって知ってたよね。その辺のモラルもユルユルと。

 と、自分たちがえらい遠い場所まで飛ばされていた現実を聞き唖然とした。僕は主に転移魔法の存在とその魔力の効力についてだが、ハナは距離(東京から九州鹿児島、或いはパリ~ベルリン間に等しい距離だった。遠!)とそれに伴う帰還への困難さに。

 やはりというか、当然というか、異世界こっちでは魔物がいるらしく、それもウジャウジャと。
 『溜まりの深森』と呼ばれる魔物の領域と人の生活園及び未到達地とが不定形且つ複雑に隣り合い、都市間の移動はもちろん経済にも多大な支障を及ぼしているらしい。あと憶測だけど文明の発展にも。

 その分人間同士の戦争は少ないのかな。と、思ったけど、実際は戦争はむしろ多いらしい。それも小さな領地を巡る極めで短絡的な略奪メインの極悪戦が。
 本当に頭が悪い。結局双方に利益なんて残らない、双方が損耗し合いジリ貧へと向かう終わりの為の戦争。

 実際、この世界はそんなバカ争いの最終段階一歩手前らしい。本当に後のあとに判明わかる事なんだけど。
 そこからの脱却は底辺層からの経済的押上げだけなんだけどな。世界はままならないらしい。

 整備された街道は有るものの、『溜まりの深森』から離脱した『ハグレ(単体だけでなく集団で移動する種もいる)』が徘徊し、事態を深刻化させている。そこで登場したのが冒険者のなかの専門職だ。

 ハグレを含め魔物や獣の習性を踏まえ、事前に避けたり、安全に野営するノウハウを携えたエキスパートな道案内が乙cBだ。道案内だけではなく、警護も兼ねると一種。彼女は兼ねない二種。
 でも実際は真のエキスパートに達していないから荒事も引き受けるって訳で、要するに体のいい肉壁。二種のほうが希少性も勿論料金も高い。
 守る前に避けるが鉄則。でも二種だからって荒事が出来ない、得意では無いって訳じゃない、らしい。なら彼女は?

「二種でも、戦闘はちょっと……」
 と、彼女は顔を背けていた。でもさっきの殺気? 僕を心底ビビらせた“悪魔チックな何か”はとても“戦闘はちょっと”と言わせる以上のモノがあったような気がするけど。

「等級は専門技量を図るもので、道案内二種に戦闘力は加味して無いはずよ」
 と、ハナが小声で僕に教えてくれた。
 そうなんだ。でもハナって悪役だけど侯爵家の高貴な深窓の令嬢様なんだよな。よくも市井のそれもマニアックな冒険者ギルドの事情に何でそんなに詳しいんだ?
 ああ、マニアだからか、所詮は厨二病……って足踏んでんですけどハナさん。
 非常に痛いんですけど。

 ハナはサキュバスっ娘の雇い主『黒フードの男』を自分たちが撃退し、此処ここには永遠にやって来ない事を声高に宣言した。

「『黒フードの男』の代わりに雇ってあげる。だから自分たちを元の国まで連れて行きなさい」
 と、自分はキノギス王国五大貴族が一つ、ヴレゥ侯爵家その第二息女であり勇者候補であり神託の聖女候補と、止める間もなく秘匿すべき個人情報もダダ洩れ喧伝し、だからと悪徳令嬢そのままに厚顔チックに下命(命令じゃなくて下命)、もとい、説得に励んでいた。
 それがハナが豪語している『旨く丸め込んだ』の真相だ。

 ラノベの転生異世界物だと現世の性格がそのまま表に出る場合が定番だが、コッチでは転生先の性格も色濃く出る感じなのかな。元のハナの性格だともっと……。
 あれ?  僕は今何を言おうとした?  これじゃまるで僕はハナの事をよく知っているみたいじゃないか。くそ、嫌な感じだ。こんなことがさっきから繰り返してる気がする。似非大賢者サマもだんまりだし……
 まあ、いい。この件は保留にしておこう。それも意図されている気はするが……。

「あッ、元の国お家じゃなくて……そう、安全な場所迄でいいわ」と突然行き先を変更するハナ。
? なんだ。

「安全な場所迄でいいけど、でも住む所が必要よね。家よね。贅沢とは言わないけど最低二十部屋は必要よね。あと、私って健気、生活の為には働かなくちゃね、ハム君が。ハム君が働ける仕事を用意しなさい」
 この子はおバカなのか?
 そして何故なぜに急に目的地を生家の侯爵邸からそこら辺にランクダウンさせた? 諸事の要求はアレだけど。

 ハナはゲス貴族バリに(っあ、生粋か)上から目線で。その代わり金に糸目はつけない等の頭の悪さを発揮して、サキュバスっ娘を懐柔? (脅迫?)しようとしている。
 でも、いいのかな。丸っぽ彼女を信用して。初見で少し事情を聞いたぐらいだし。何より最初の悪魔に見えた時のあれ、もの凄く怖かった……。

 僕は彼女を改めて観察する。
 うん。スレンダーでスタイルもいいし、綺麗なお姉さんは好きだ。合格。
 特にお臍の下、丹田と呼ばれる下腹部にある藍色の変形ハートのタトゥーがセクシーで……。
「ぐわ、ゲホ。ぐぅぅ」……チ、チガウし。

 って感じで楽しんでいたらふと、彼女から不穏な気の揺れをおぼえる。
 最初は気のせいかと思ったそれが、少しづつ広がりをみせるに至って警戒に動こうと身構える直前だった。
 突然大きな害意の塊のような異臭が鼻を突き、加えて彼女のビキニスタイルその体表から渦を巻くような異音が響き僕の背筋を凍らせた。特に下腹部の藍色のタトゥーからが酷く、軽くないパニックを起こす。
 黒い、雷雲? 藍白い一瞬のひらめき? アレは、ヤバイ‼
 無意識だった。
 たぶん恐怖心から。全力での炎弾を放っていた。

 それは似非3D炎と称するには異質すぎた。全くの別物。炎と言うよりもっとい閃光そのものだった。絶対的な質量を伴った現実的リアルな、全てを溶かし切る超高温の燃焼爆発だった。

 焦った。1m先で幻のように霧散したからよかったものの、当たってたらえらい事になっていた。たぶん彼女の足首から上は溶けて無くなってた。それは元世界あっちの実験検証番組で見たテルミット燃焼爆発反応そのままだった。最高到達温度は三千度に達する。
 口の端が引き攣るのを止められない。反省自重。だから誤魔化す為に。
 
「動くなって、言ったよな」
 ってカッコつけて言ってみた。

 あれ? 今僕、異世界こっちの言葉を喋ったよな。
 でも相変わらず中途半端な魔法。伸ばした左の掌が焼き爛れ、髪の毛の先が焦げ、鼻先がヒリヒリする。

 ふと、サキュバスっ娘の足元に水たまりが出来ているのが見えた。顔を逸らす。
 違うから。僕はそんな趣味は無いから。ゴメンナサイ。

 僕の謝罪はあっさり拒否される。ハナの唸る“延髄斬り”が僕の首裏に炸裂した。咄嗟に前に身体を倒していなければリアルにヤバいヤツ。
 キケンな技は止めて。

 僕はそのまま地面に伏す。
「何さらしとんじゃ、ワレ! オー!
 女の子を泣かすなボケー‼
 もう少しで私が旨く丸め込める処だったのに。台無しじゃん! バカなの! バカなのね⁉」

 伏した僕の顔をウ◯コ座りで顔を斜めに下げ覗き込み啖呵を吐くハナ。迫力満点、目が怖い。でもスカートが捲れて股間のかぼちゃパンツが僕の目の前、拡大丸見えだぞ。はしたないからやめなさい。だから。

「丸め込めなかっただろ」

 それでも文句を言いたそうなハナは僕の焼け爛れた右手を見て言葉を綴るのをやめる。痛ましげに黙ると治癒用ポーションを取り出し僕の顔の横にそっと置く。

「いらないよ。ナンカすぐに治るっぽいし」
「飲んで、今すぐ。命令だから」
 そう言ってスッと立ち上がると未だ立ち尽くし大泣きしているサキュバスっの元へと歩みよる。
 憤慨甚だしいハナ「あっち行ってて、見ないでね。絶対」

「はい」と僕。

 伏したまま眼だけ動かし見るとハナがサキュバスっ娘に優しく寄り添い手を腰に(背の高さが逆だから腰に抱き着いてるようにしか見えないが)、優しく話し掛けていた。

「見るな!」炎弾が飛んできて僕の目の前の地面を刳る。鼻先の火傷度数が上がりましたけど。

「はい」と僕。

 僕はハナとサチが歩み去るのを待って、そのまま仰向けに寝転び空を見上げる。青いなぁ。
 僕は自分の右腕を空に向かって伸ばして確認する。ぐじゅぐじゅジュウジュウ蒸気上げて絶讃修復中。皮膚下がモコモコと所々動いててキモい。そしてとんでもなく痛い。治りもすごく遅い。痛いよー。
 もう使わない。絶対だ。
 って言うかテルミットなんてどうやって撃てた俺。

 ポーションを飲んだ。借金増額は非常に痛いが、今は心が弱ってるのか躊躇しなかった。一瞬もの凄く、数百倍の激痛に襲われたけど、しばらくするとスウうっと遠のき、思わずため息が漏れた。心底ホッとする。
 でもなんだか最初に飲んだ時よりも効きが“薄い”ように感じた。
 

 ハナとサキュバスっ娘は森の奥に入って行った。僕の目をそりゃ気にして。まあ、覗いたりしないけどな。たぶん。
 いつの間にか仲良くなったのか、きゃぴきゃぴ声が風に乗って聞こえる。
 主にハナの偉そうな物言どゲスな「ええのんか、ええのんか」が目立ち、それに若干怖気ついたサキュバスっ娘の消え入りそうな(まちむすめ風に)「や、やめてください……」が“きゃぴきゃぴ”と言えるならなんだけど。

 水辺があるのかな? 水の匂いが僅かにする。
 うむ。シチュエーション的には百合だな。百合はいい。百合は正義だが……なるほど、百合で誤魔化して自分のゲロ顔と服を洗いに行ったな! 卑怯なりハナ、人の世話にかこつけて全てを無かった事にしようとしてもそうはさせない。紛うことなき貴様は“ゲロ姫”である……。

 と、そこまでしか言葉に出来なかった。僕の頭の横十五センチの地面に森の木々の隙間を縫い、遠距離を物ともせず炎の矢が着弾していたから。
 ビュンて音がして、ドンだった。

 そして段々威力が増してらっしゃる。それとさ、コントロールも良くなってるんだね。……今の、わざと外したんだよね?
「チッ、次は必ず頭を打つ射抜く」
「すいません忘却しました。一切記憶を失いました。ゴメンナサイ図に乗りました!」



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
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